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「聞いてよ、お姉様!国王陛下が、新しいお妃様を選ぶんですって!」
ある日、ロザリアが私の離れの部屋に飛び込んできた。いつもは私を避けているのに、こういう話題の時だけは、得意げに話したがるのよね。
「ええ、街でも噂になっているわね」
私は冷静に答えた。国王陛下が新しいお妃を選ぶなんて、私には遠い遠い、おとぎ話の世界の話だと思っていたから。
「そうよ!私、絶対にお妃様になるわ!私こそが、この国の王妃にふさわしいわ!」
ロザリアは目をキラキラさせて、まるで夢見る少女のように語った。彼女の周りには、いつもたくさんの令嬢や貴族たちが集まって、お世辞を言っている。だから、彼女がそう思い込むのも無理はないのかもしれない。
「そう……頑張ってね」
私はそれ以上何も言わなかった。私には関係ないこと。そう自分に言い聞かせていた。
それからというもの、侯爵家はロザリアの「お妃様になるための準備」で大忙しになったわ。新しいドレスが次々に仕立てられ、専属の化粧師が毎日訪れて、ロザリアをさらに美しく磨き上げていく。社交術の教師が来て、王宮での立ち居振る舞いを厳しく指導していた。
「お姉様には分からないでしょうけど、王妃になるというのは、本当に大変なことなのよ?」
ロザリアはわざとらしいほど大きな声でそう言った。私なんて、地味で社交も苦手だから、王妃の座には一生手が届かないと思っているんだろう。まあ、それはその通りなんだけどね。
私には、そんな華やかな世界は縁遠いものだと思っていた。市場へ行って、あの老人に会うことだけが、私の心の支えになっていた。彼は、お妃選びの話題になっても、いつものように穏やかに話を聞いてくれた。
「王妃というのは、国の母だ。見た目の華やかさだけでは務まらない、重責を担うことになる」
老人はそう言って、意味深な微笑みを浮かべた。その言葉が、なぜか私の心にずっと残っていたの。
ある日のこと。侯爵家に、一通の招待状が届いた。それは、王宮からのお妃選びの宴への招待状だった。
「お姉様も、来てくださいね」
ロザリアは、その招待状を私の目の前でひらひらとさせながら言った。
「私が?なぜ?」
驚いて尋ねると、ロザリアはわざとらしくため息をついた。
「侯爵家の人間が、全員出席しないわけにはいかないでしょう?それに、お姉様は……その、私をサポートする役割、ということにしてくださいな」
要するに、私はロザリアの引き立て役、ということらしい。分かっていたけれど、やっぱり少しだけ胸が痛んだ。でも、断る理由もなかった。仕方なく、私はその招待を受け入れることにした。
お妃選びの宴当日。私は、侯爵家の古い衣装の中から、一番目立たない、地味なドレスを選んだ。豪華な装飾も、華やかな色合いも、私には似合わない。控えめな色のドレスに、髪もシンプルにまとめただけ。それでも、侯爵家の使用人たちは、私を見るたびにひそひそと何かを囁いていたわ。
「クラリス様、まるでメイドさんのようね」
そんな声が聞こえてきたけれど、もう慣れたことだから、何も感じなかった。
侯爵家の馬車に乗って、王宮へ向かう。王宮の広間は、まさにきらびやかな別世界だった。色とりどりのドレスをまとった令嬢たち、高貴な貴族たち。誰もが華やかに着飾り、それぞれの思惑を秘めて、笑顔を交わしている。
私は、ロザリアの後ろを、まるで影のように歩いた。ロザリアは、自信に満ちた表情で、多くの貴族たちと挨拶を交わしている。彼女の周りには、瞬く間に人だかりができていた。
「あら、あれはクラリス様ではございませんか?」
不意に、耳に届いた声に、私はびくりと体が震えた。振り向くと、そこに立っていたのは、エルマー様とリーゼロッテ様だった。リーゼロッテ様は、私を見下すような視線で、鼻で笑った。
「まあ、ずいぶん地味な装いですね。本当に侯爵令嬢なのかしら?」
「おや、クラリス。まさか、君がこの場にいるとはな」
エルマー様は、嘲るような笑みを浮かべた。彼の隣にいるリーゼロッテ様は、真っ赤なドレスに身を包み、まるで咲き誇るバラのようだった。私とはあまりにも対照的だ。
「ええ。妹の付き添いで参りました」
私は、精一杯平静を装って答えた。エルマー様は、私を哀れむような目で見て、フンと鼻を鳴らした。
「君には、このような華やかな場所は似合わない。さっさと侯爵家の片隅でひっそりと暮らしていればいいものを」
彼の言葉は、まるで氷のように冷たかった。心がズキリと痛んだけれど、私は彼を真っ直ぐに見つめ返した。もう、あの頃の私じゃない。彼の言葉に、簡単に傷ついたりしない。
「ご心配には及びません。わたくしには、わたくしなりの生き方がありますから」
私がそう言い放つと、エルマー様は少し驚いたような顔をした。だけど、すぐに興味を失ったように、リーゼロッテ様の手を取り、人混みの中へと消えていった。
会場のざわめきが、少しずつ収まってきた。いよいよ、国王陛下のお出ましだ。私は、人混みの後ろの方で、国王陛下のお姿をぼんやりと見ていた。
「国王陛下のご入場です!」
侍従の声が広間に響き渡り、誰もがひざまずいた。私も、周りの人たちに合わせて、頭を下げた。心臓が、少しだけドキドキと高鳴る。
静まり返った広間に、国王陛下の足音が響く。そして、その足音が止まった時、侍従が国王陛下の名前を告げた。
「国王陛下、ラウル様であらせられます!」
その名を聞いた瞬間、私の頭の中に、ある人の顔が浮かんだ。まさか……そんなはずはない。でも。あの背格好、あの雰囲気。
「皆の者、面を上げよ」
国王陛下の声が、広間に響き渡った。その声は、私が何度も聞いた、あの声と全く同じだった。
私はゆっくりと顔を上げた。壇上に立っていたのは、紛れもなく、私が市場で助けた老人……そう、私の知っている、あの「おじいさん」だった。
彼は、豪華な王冠を被り、国王のローブをまとっていたけれど、その瞳は、私が知っている、優しくて、どこか茶目っ気のある、あの瞳だった。
私は、息をのんだ。彼が、国王陛下?信じられない。でも、彼の堂々とした立ち姿、そして彼から放たれる威厳は、まさに国王そのものだった。
広間中の視線が、国王陛下に集中している。ロザリアも、リーゼロッテ様も、他の令嬢たちも、皆、固唾を飲んで国王陛下の次の言葉を待っていた。
国王陛下は、広間を見渡すようにゆっくりと視線を動かした。そして、その視線が、私のところで止まったのだ。私の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
国王陛下は、私の目を真っ直ぐに見つめると、優しく、そして力強い声で宣言した。
「皆の者。この度、王の意志により、妃を……」
広間の空気が、ピリッと張り詰めた。誰もが息をひそめ、国王陛下の口から告げられる名前を待っている。
「クラリス・フォン・アーレン侯爵令嬢とする!」
その言葉が、広間に響き渡った瞬間、まるで時間が止まったかのように、全ての音が消えた。そして、次の瞬間、広間は驚きと困惑、そして興奮のざわめきに包まれた。
「え……?」
ロザリアの驚きに満ちた声が聞こえた。リーゼロッテ様の顔からは、血の気が引いていた。そして、エルマー様は、口を大きく開けたまま、私を信じられないものを見るかのように見つめていた。
まさか。私が?王妃に?信じられなかった。でも、国王陛下の視線は、ずっと私に向けられたままだった。
国王陛下は、壇上からゆっくりと降りてきた。そして、まっすぐに私の方へと歩いてくる。彼の瞳には、私が何度も見てきた、あの優しい光が宿っていた。
「クラリス」
私の目の前まで来た国王陛下は、私の名を呼んだ。そして、私に向かって、すっと右手を差し出した。
「さあ、私の妃よ。こちらへ」
彼の差し出した手は、大きくて、温かくて、とても力強かった。私は、震える手で、その手を取った。彼の温かい指が、私の指を優しく包み込む。
私は、ゆっくりと顔を上げた。目の前には、国王陛下、ラウル様が、優しい眼差しで微笑んでいた。そして、その背後には、驚きと混乱、そして嫉妬にまみれた貴族たちの顔があった。特に、エルマー様の顔は、信じられないほど引きつっていた。
私は、ラウル様の手をぎゅっと握りしめた。私の人生が、大きく動き出す瞬間だった。
ある日、ロザリアが私の離れの部屋に飛び込んできた。いつもは私を避けているのに、こういう話題の時だけは、得意げに話したがるのよね。
「ええ、街でも噂になっているわね」
私は冷静に答えた。国王陛下が新しいお妃を選ぶなんて、私には遠い遠い、おとぎ話の世界の話だと思っていたから。
「そうよ!私、絶対にお妃様になるわ!私こそが、この国の王妃にふさわしいわ!」
ロザリアは目をキラキラさせて、まるで夢見る少女のように語った。彼女の周りには、いつもたくさんの令嬢や貴族たちが集まって、お世辞を言っている。だから、彼女がそう思い込むのも無理はないのかもしれない。
「そう……頑張ってね」
私はそれ以上何も言わなかった。私には関係ないこと。そう自分に言い聞かせていた。
それからというもの、侯爵家はロザリアの「お妃様になるための準備」で大忙しになったわ。新しいドレスが次々に仕立てられ、専属の化粧師が毎日訪れて、ロザリアをさらに美しく磨き上げていく。社交術の教師が来て、王宮での立ち居振る舞いを厳しく指導していた。
「お姉様には分からないでしょうけど、王妃になるというのは、本当に大変なことなのよ?」
ロザリアはわざとらしいほど大きな声でそう言った。私なんて、地味で社交も苦手だから、王妃の座には一生手が届かないと思っているんだろう。まあ、それはその通りなんだけどね。
私には、そんな華やかな世界は縁遠いものだと思っていた。市場へ行って、あの老人に会うことだけが、私の心の支えになっていた。彼は、お妃選びの話題になっても、いつものように穏やかに話を聞いてくれた。
「王妃というのは、国の母だ。見た目の華やかさだけでは務まらない、重責を担うことになる」
老人はそう言って、意味深な微笑みを浮かべた。その言葉が、なぜか私の心にずっと残っていたの。
ある日のこと。侯爵家に、一通の招待状が届いた。それは、王宮からのお妃選びの宴への招待状だった。
「お姉様も、来てくださいね」
ロザリアは、その招待状を私の目の前でひらひらとさせながら言った。
「私が?なぜ?」
驚いて尋ねると、ロザリアはわざとらしくため息をついた。
「侯爵家の人間が、全員出席しないわけにはいかないでしょう?それに、お姉様は……その、私をサポートする役割、ということにしてくださいな」
要するに、私はロザリアの引き立て役、ということらしい。分かっていたけれど、やっぱり少しだけ胸が痛んだ。でも、断る理由もなかった。仕方なく、私はその招待を受け入れることにした。
お妃選びの宴当日。私は、侯爵家の古い衣装の中から、一番目立たない、地味なドレスを選んだ。豪華な装飾も、華やかな色合いも、私には似合わない。控えめな色のドレスに、髪もシンプルにまとめただけ。それでも、侯爵家の使用人たちは、私を見るたびにひそひそと何かを囁いていたわ。
「クラリス様、まるでメイドさんのようね」
そんな声が聞こえてきたけれど、もう慣れたことだから、何も感じなかった。
侯爵家の馬車に乗って、王宮へ向かう。王宮の広間は、まさにきらびやかな別世界だった。色とりどりのドレスをまとった令嬢たち、高貴な貴族たち。誰もが華やかに着飾り、それぞれの思惑を秘めて、笑顔を交わしている。
私は、ロザリアの後ろを、まるで影のように歩いた。ロザリアは、自信に満ちた表情で、多くの貴族たちと挨拶を交わしている。彼女の周りには、瞬く間に人だかりができていた。
「あら、あれはクラリス様ではございませんか?」
不意に、耳に届いた声に、私はびくりと体が震えた。振り向くと、そこに立っていたのは、エルマー様とリーゼロッテ様だった。リーゼロッテ様は、私を見下すような視線で、鼻で笑った。
「まあ、ずいぶん地味な装いですね。本当に侯爵令嬢なのかしら?」
「おや、クラリス。まさか、君がこの場にいるとはな」
エルマー様は、嘲るような笑みを浮かべた。彼の隣にいるリーゼロッテ様は、真っ赤なドレスに身を包み、まるで咲き誇るバラのようだった。私とはあまりにも対照的だ。
「ええ。妹の付き添いで参りました」
私は、精一杯平静を装って答えた。エルマー様は、私を哀れむような目で見て、フンと鼻を鳴らした。
「君には、このような華やかな場所は似合わない。さっさと侯爵家の片隅でひっそりと暮らしていればいいものを」
彼の言葉は、まるで氷のように冷たかった。心がズキリと痛んだけれど、私は彼を真っ直ぐに見つめ返した。もう、あの頃の私じゃない。彼の言葉に、簡単に傷ついたりしない。
「ご心配には及びません。わたくしには、わたくしなりの生き方がありますから」
私がそう言い放つと、エルマー様は少し驚いたような顔をした。だけど、すぐに興味を失ったように、リーゼロッテ様の手を取り、人混みの中へと消えていった。
会場のざわめきが、少しずつ収まってきた。いよいよ、国王陛下のお出ましだ。私は、人混みの後ろの方で、国王陛下のお姿をぼんやりと見ていた。
「国王陛下のご入場です!」
侍従の声が広間に響き渡り、誰もがひざまずいた。私も、周りの人たちに合わせて、頭を下げた。心臓が、少しだけドキドキと高鳴る。
静まり返った広間に、国王陛下の足音が響く。そして、その足音が止まった時、侍従が国王陛下の名前を告げた。
「国王陛下、ラウル様であらせられます!」
その名を聞いた瞬間、私の頭の中に、ある人の顔が浮かんだ。まさか……そんなはずはない。でも。あの背格好、あの雰囲気。
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国王陛下の声が、広間に響き渡った。その声は、私が何度も聞いた、あの声と全く同じだった。
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国王陛下は、広間を見渡すようにゆっくりと視線を動かした。そして、その視線が、私のところで止まったのだ。私の心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
国王陛下は、私の目を真っ直ぐに見つめると、優しく、そして力強い声で宣言した。
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その言葉が、広間に響き渡った瞬間、まるで時間が止まったかのように、全ての音が消えた。そして、次の瞬間、広間は驚きと困惑、そして興奮のざわめきに包まれた。
「え……?」
ロザリアの驚きに満ちた声が聞こえた。リーゼロッテ様の顔からは、血の気が引いていた。そして、エルマー様は、口を大きく開けたまま、私を信じられないものを見るかのように見つめていた。
まさか。私が?王妃に?信じられなかった。でも、国王陛下の視線は、ずっと私に向けられたままだった。
国王陛下は、壇上からゆっくりと降りてきた。そして、まっすぐに私の方へと歩いてくる。彼の瞳には、私が何度も見てきた、あの優しい光が宿っていた。
「クラリス」
私の目の前まで来た国王陛下は、私の名を呼んだ。そして、私に向かって、すっと右手を差し出した。
「さあ、私の妃よ。こちらへ」
彼の差し出した手は、大きくて、温かくて、とても力強かった。私は、震える手で、その手を取った。彼の温かい指が、私の指を優しく包み込む。
私は、ゆっくりと顔を上げた。目の前には、国王陛下、ラウル様が、優しい眼差しで微笑んでいた。そして、その背後には、驚きと混乱、そして嫉妬にまみれた貴族たちの顔があった。特に、エルマー様の顔は、信じられないほど引きつっていた。
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