「つまらない女」と言われて婚約破棄されたので、あなたを破滅させて差し上げます

有賀冬馬

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「これほど完璧な証拠が揃っているとは……。カスタン殿とリリア嬢の悪事が、ついに白日の下に晒されるのですね」

アルフレッド様は、倉庫で見つけた書類を握りしめ、静かに言った。彼の顔には、安堵と、そして、怒りが混じっていた。

「私の領民が、もうこれ以上苦しまずに済む。本当にありがとうございます、カレン様」

アルフレッド様は、私に深く頭を下げた。私は、そんな彼に、首を横に振った。

「いいえ。私も、カスタン様に復讐したいだけですから」

私はそう言ったけれど、それは嘘だった。アルフレッド様の役に立ちたい。彼の苦しみを少しでも和らげたい。いつの間にか、私の目的は、カスタン様への復讐だけではなくなっていたのだった。





不正を暴く日、私たちは周到に準備を進めた。私は、父の書斎から見つけた、カスタン様とリリア嬢の父親が交わした秘密の書類を、アルフレッド様に渡した。それらは、不正な取引を証明する、もう一つの決定的な証拠だった。

そして、運命の当日。場所は、王都の貴族たちが集まる、公式な会議の場だった。カスタン様とリリア嬢の父親も、もちろんその場にいた。彼らは、私たちが不正を暴こうとしていることを、まだ知らない。

アルフレッド様が、壇上に上がった。彼の表情は、いつになく真剣だった。

「皆様、本日は、辺境の領地で起きている、ある不正についてお話させていただきたく、この場をお借りしました」

アルフレッド様がそう言うと、カスタン様は鼻で笑った。

「辺境の田舎者が、何を言っているんだ。そんなくだらない話、聞く必要はない!」

カスタン様は、そう言ってアルフレッド様の言葉を遮ろうとした。しかし、アルフレッド様は怯まず、彼の言葉を遮った。

「これは、決してくだらない話ではありません。この不正は、侯爵家と、そして、そちらの伯爵家が関わっているのですから」

アルフレッド様は、そう言ってカスタン様とリリア嬢の父親を指差した。会場は、一瞬にして静まり返った。カスタン様とリリア嬢の父親の顔から、血の気が引いていくのが見えた。

「何を根拠に、そんなことを言うんだ!」

リリア嬢の父親が、怒鳴った。アルフレッド様は、静かに言った。

「証拠は、ここにあります」

アルフレッド様は、私が渡した書類を壇上に置き、一枚一枚、読み上げていった。不正な取引の内容、金額、そして、彼らの署名……。その言葉を聞くたびに、カスタン様とリリア嬢の父親の顔は、どんどん青ざめていった。

「嘘だ! そんなもの、偽造だ!」

カスタン様が叫んだ。しかし、アルフレッド様は、その言葉を冷たく一蹴した。

「偽造ではありません。この書類は、あなた方が密かに会合を開いていた倉庫から見つかったものですから」

その言葉に、カスタン様の顔は絶望に染まった。彼らは、私たちのことを、ただの「地味な女」と「辺境の田舎者」だと思っていたのだろう。まさか、私たちがここまでやるとは、夢にも思わなかったに違いない。

やがて、会議の議長でもある王の厳かな声が広間に響きわたり、その場に集うすべての人々の心を震わせた。下された審判は、とても厳しく、まるで逃げ場を与えないものだった。

会議の場は一斉にざわめき立った。驚きや怒り、不安が入り混じった声が、あちこちからこぼれ落ちるように広がっていく。

「まさか……そんなことが……」
「信じられない……」

誰かの小さな声が耳に届く。けれど、次に広がったのは、冷たい視線だった。人々の目が一斉にカスタン様とリリア嬢の父親へと向けられ、その瞳には、もう憐れみのかけらもなく、ただ軽蔑と怒りが宿っていた。

かつて誇り高く積み上げられてきた名声と地位は、あっけなく崩れ去ってしまったのだ。






その日の夜、私は自室で静かに過ごしていた。すると、扉を叩く音が聞こえた。アンナが扉を開けると、そこに立っていたのは、カスタン様だった。

彼の顔は、憔悴しきっていた。豪華な服は泥だらけで、髪も乱れている。舞踏会で私に見せた、あの高慢な態度は、どこにもなかった。

「カレン……頼む、助けてくれ」

カスタン様は、私の前にひざまずいた。私は、ただ、彼を見下ろした。

「なぜ、私があなたを助けなければならないのですか?」

私の言葉に、カスタン様は顔を上げた。彼の目には、涙が浮かんでいた。

「君との婚約を破棄したことを、後悔している。私は、君のことが、本当に好きだったんだ!」

その言葉を聞いて、私は思わず笑ってしまった。

「嘘つき。あなたは、私のことを『つまらない女』だと笑ったでしょう?」

私の言葉に、カスタン様は顔を歪ませた。

「あの時は……そう言うしかなかったんだ。でも、君が、こんなにも賢く、強い女性だとは知らなかった。私には、君が必要なんだ!」

カスタン様は、私の手を掴もうとした。しかし、私はその手を、冷たく振り払った。

「もう遅いのです。あなたは、私を裏切った。そして、多くの人々を苦しめた。そんなあなたを、私はもう信じることができません」

私の言葉に、カスタン様は絶望に打ちひしがれたように、その場に崩れ落ちた。私は、彼の後ろ姿を、ただ静かに見つめていた。私の心の中は、何の感情もなかった。ただ、すべてが終わったという、静かな安堵があっただけだった。

「お嬢様、アルフレッド様がお見えです」

アンナの声に、私は振り返った。そこには、穏やかな笑顔のアルフレッド様が立っていた。

「おめでとうございます。これで、すべてが終わりましたね」

アルフレッド様は、私にそう言った。私は、小さく頷いた。

「ありがとうございます。すべて、あなたのおかげです」

私がそう言うと、アルフレッド様は、私の手を優しく取った。

「いいえ。すべて、貴女の勇気と知恵のおかげです。貴女は、この世で一番、輝いている女性です」

彼の言葉は、私の心を温かく満たした。私は、彼の手を、そっと握り返した。

「貴女を、私のお嫁さんに迎えたい。私の領地で、一緒に新しい人生を歩んでほしい」

アルフレッド様は、じっと私の目を見つめて、真剣なまなざしで静かに言った。

「君を、ずっと大事にしたいんだ」

その言葉が耳に落ちた瞬間、胸の中で何かがふるえるのを感じた。嬉しさで言葉が出そうになったけれど、喉がつまってしまって何も言えなかった。ただ、震える手をそっと差し出すと、彼は温かな手で私の小さな手をそっと包み込んでくれた。

「怖くないよ。僕がそばにいる」

アルフレッド様の声は優しくて、安心するような温度があった。手のひらのぬくもりがじんわりと伝わって、私の心はふわっとほどけるように温かくなった。

「……ありがとう」

私の声は小さく震えたけれど、心からの気持ちだった。アルフレッド様はその声に微笑んで、もっとしっかりと私の手を握り返した。彼の視線はやさしくて、でも真剣で、私に向けられていることがはっきりわかった。

私は、自分がもうただの地味な伯爵令嬢ではないことを実感した。長い間、私は遠くから誰かを眺めるだけだった。でも今は違う。自分の足で立って、自分の気持ちを伝えることができる。自分の力で、自分の人生をつかみとったのだ。

「君と一緒に歩きたい」

アルフレッド様が小さな声で言う。私は目を閉じて、その言葉を心に刻んだ。胸がいっぱいで、涙がぽろりとこぼれそうになったけれど、すぐに笑みがこぼれた。

アルフレッド様の腕にそっと体を寄せると、世界がゆっくりと優しく包まれるような気がした。風の音や遠くで聞こえる人々の声が、まるで遠い国の物語みたいに感じられる。今この瞬間だけが、はっきりと光って見えた。

私は静かに微笑んで、アルフレッド様の胸に顔をうずめた。心の中で何度も「ありがとう」と唱えながら、これから先もずっと、この人と一緒に生きていきたいと思った。

私の人生は、この日から、本当の意味で始まるのだ。

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