地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

有賀冬馬

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ある日の午後、村に一台の馬車がやってきた。立派な紋章が描かれた、見慣れない大きな馬車だった。村の人たちがざわめく中、その馬車から降りてきたのは、王都の宮廷に仕える高官らしき人物だった。

その人物は、まっすぐに私とおばあ様の家へと向かってきた。私は、何が起こるのか分からず、ただ呆然と立ち尽くしていた。

「レネ・ベルモント様でいらっしゃいますか?」

高官は、私を見てそう尋ねた。

「はい、私がレネ・ベルモントですが……」

「王家からの伝令でございます。国王陛下より、レネ様を王都へお呼び出しです」

「えっ……?」

私は、自分の耳を疑った。国王陛下が、私を? いったい、どうして?

「ユリアン・フォン・シュナイダー聖騎士団長が、陛下に進言されたのです。レネ様の高潔な人柄と、辺境でのご功績を高く評価され、そして……」

高官は、そこで一度言葉を区切った。そして、私に深々と頭を下げた。

「ユリアン様は、レネ様を、聖騎士団長の正妃として、陛下に推薦されました」

私の頭は、完全に混乱した。正妃? 私が? まさか、そんな……。

おばあ様は、私の手をぎゅっと握りしめた。その温かさが、私を現実に引き戻した。

「レネ、これは……」

「おばあ様……」

信じられない。あのユリアンさんが、私を、正妃に? 王家の、つまり、一番高貴な場所へ?

高官は、私に一通の書状を差し出した。それは、王家の紋章が入った、正式な招集状だった。書状には、丁寧な言葉で、私が王都に戻り、妃としての教育を受けるよう記されていた。

その日の夜、私は一睡もできなかった。興奮と、不安と、そして何よりも、ユリアンさんへの感謝の気持ちでいっぱいだった。彼は、私を忘れていなかった。それどころか、私をこんなにも大切な場所に導いてくれた。

翌日、私は王都へ戻る準備を始めた。おばあ様は、私にたくさんの優しい言葉をかけてくれた。

「レネ、お前はきっと、素晴らしい妃になるよ」

「私に、できるでしょうか……」

「できるさ。お前は、強い子だよ。それに、ユリアンさんがそばにいる」

おばあ様の言葉に、私は勇気をもらった。そうだ。ユリアンさんがいてくれる。彼が、私を選んでくれたんだ。

王都に戻ると、私の生活は一変した。豪華な宮殿の一室が私に与えられ、毎日、聖騎士団長の正妃としての教育が始まった。

今まで着たことのないような、きらびやかなドレスを身につけ、専門の先生から貴族のマナーや歴史、政治のことまで、あらゆることを学んだ。最初は戸惑うことばかりだったけれど、私は必死で食らいついた。ユリアンさんのためにも、そして、私の推薦を認めてくれた陛下の期待にも応えたいと思ったから。

鏡に映る自分を見るたびに、驚いた。地味で無口だったあの頃の私とは、まるで別人のようだった。髪は美しく結い上げられ、顔には薄く化粧が施されている。そして、何よりも、私の瞳には、以前にはなかった光が宿っていた。

「レネ様、素晴らしいです。もう、どこに出られても恥ずかしくありません」

侍女の一人が、微笑んでそう言ってくれた。私は、静かに頷いた。

そして、ついにその日が来た。

謁見の間。そこには、国王陛下を始め、たくさんの貴族たちが集まっていた。その中には、もちろんカイル様の姿もあった。

私は、緊張で胸が張り裂けそうだった。でも、背筋を伸ばし、顔を上げて、一歩一歩、ゆっくりと謁見の間に足を踏み入れた。

私の隣には、ユリアンさんが立っている。いつものように、まっすぐな瞳で私を見守ってくれている。彼の存在が、私に大きな安心感を与えてくれた。

貴族たちの視線が、一斉に私に注がれる。ざわめきが聞こえる。私を見る彼らの目には、驚きと、そして好奇心が入り混じっていた。

そして、私はカイル様の姿を捉えた。彼は、公爵令嬢の隣に立っていた。私と目が合った瞬間、カイル様の顔から、血の気が引いていくのが分かった。彼の瞳は大きく見開かれ、驚愕に染まっている。

「……嘘、だろ」

カイル様の震える声が、耳に届いた。

「地味な君が、国中の騎士の頂点の妻? 嘘だろ……」

彼は、信じられない、という表情で私を見つめている。彼の隣にいた公爵令嬢も、驚きのあまり、口を半開きにしていた。

彼らの驚愕と混乱が、私には手に取るように分かった。かつて私を蔑んだ彼らが、今、私にひざまずく日が来るなんて。
私は、静かに、そしてゆっくりと、カイル様に向かって微笑んでみせた。
それは、決して恨みや憎しみのこもった笑みではなかった。ただ、もう彼には何の感情も抱いていない、という、穏やかな、けれど確固たる意思のこもった微笑みだった。
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