地味な私では退屈だったのでしょう? 最強聖騎士団長の溺愛妃になったので、元婚約者はどうぞお好きに

reva

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カイル様の顔は、まるで幽霊でも見たかのように青ざめていた。彼の隣にいた公爵令嬢も、顔を真っ赤にして、私から目を逸らしている。謁見の間は、彼らの驚きと、私への好奇心でざわめいていた。

私は、ユリアンさんの隣に立っていた。彼の温かい手が、そっと私の手を包み込む。その感触が、私に確かな自信を与えてくれた。もう、私は一人じゃない。そして、あの頃の、地味で無口で、誰にも必要とされない私じゃない。

カイル様が、震える声で私に話しかけてきた。

「レネ……本当に、君なのか? まさか、こんな……」

彼の声には、後悔と、そして信じられないという感情が入り混じっていた。私は、静かに彼を見つめた。

「はい、カイル様。私です」

私の声は、以前のように震えることもなく、はっきりと響いた。カイル様は、私の変化にさらに動揺しているようだった。

「君が……ユリアン聖騎士団長の正妃に……? そんな、ありえない……」

彼は、まるで悪夢を見ているかのように、何度も首を振った。その姿は、かつて私を蔑んだ高慢なカイル様とは、まるで別人だった。

「カイル様、何か私に御用でしょうか?」

私は、感情を込めずにそう尋ねた。もう、彼に対して怒りも悲しみも感じない。ただ、目の前にいる一人の貴族として、冷静に対応するだけだった。

「いや、その……レネ、君は、あの頃の僕を、恨んでいるだろう?」

カイル様は、縋るような目で私を見た。彼の瞳には、焦りが浮かんでいた。

「恨む、ですか? いいえ、カイル様。私は、もう何も恨んでいません」

私の言葉に、カイル様はさらに驚いたようだった。そして、隣にいた公爵令嬢が、小さく咳払いをした。

「カイル様、そろそろ、陛下にご挨拶を……」

公爵令嬢が、カイル様の腕を引いた。彼女の顔には、苛立ちがはっきりと見て取れた。きっと、カイル様と彼女の関係も、あまりうまくいっていないのだろう。

カイル様は、まだ何か言いたそうにしていたけれど、公爵令嬢に引っ張られるようにして、その場を去っていった。彼の背中は、以前のような自信に満ちたものではなく、どこか寂しげに見えた。

私は、カイル様の姿が見えなくなるまで、ただ静かに見送った。私の心には、何の感情も湧かなかった。憎しみも、悲しみも、そして未練も。ただ、過去の出来事が、遠い記憶のように感じられただけだった。

「素晴らしい対応でしたね、レネさん」

ユリアンさんが、優しく私の頭を撫でてくれた。私は、彼の顔を見上げて、にっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます、ユリアンさん」

彼がいてくれる。それだけで、私はどんなことでも乗り越えられる気がした。

その日以来、私は正式にユリアンさんの正妃として、王宮での生活を始めた。毎日が忙しかったけれど、ユリアンさんがいつもそばにいてくれた。

彼は、私が困っていると、すぐに気づいて助けてくれた。私が疲れていると、「少し休憩しましょう」と、温かいお茶を淹れてくれた。どんなに小さなことでも、真剣に私の話に耳を傾けてくれた。

ある日、ユリアンさんが私に尋ねた。

「レネさん、本当にカイル様を恨んでいないのですか?」

私は、少し考えてから答えた。

「はい。あの頃は、とても辛かったです。でも、あの経験があったからこそ、ユリアンさんと出会うことができました。だから、今は、感謝しています」

ユリアンさんは、私の言葉に、優しく微笑んだ。

「レネさんは、本当に強い人ですね」

「いいえ。ユリアンさんがいてくれたからです。ユリアンさんが、私を救ってくれました」

私は、ユリアンさんの手をぎゅっと握った。彼の温かさが、私の心にじんわりと広がる。

私たちの結婚式は、盛大に執り行われた。王都中の人々が、私たちを祝福してくれた。私は、純白のウェディングドレスを身につけ、ユリアンさんの隣に立っていた。彼の瞳は、私だけを映している。その優しい眼差しに、私は心から幸せを感じた。

カイル様は、結婚式には姿を現さなかった。
後になって耳にした話によると、公爵令嬢との関係は思うように進まず、最終的には婚約も解消されてしまったらしい。

その一連の出来事は、カイル様の評判に深く致命的な傷を刻みつけた。かつては聡明で華やかな存在として社交界の中心にいたカイル様も、今ではその面影すら見ることができなかった。

人々は、彼に対してかつてのような敬意を抱くことなくなってしまった。むしろ失望と嘲笑をもってカイル様を見つめていた。

もう、カイル様の言葉に耳を傾ける者も、そっと手を差し伸べる者もいないみたいだった。
栄光に包まれていた日々は遠い幻となり、今や彼の名は、失敗と失墜の象徴として語られるようになってしまった。

かつて親しく言葉を交わしていた友人や、肩を並べて歩んできた同盟者たちも、いつの間にか彼のもとを去り、その背中に静かに扉を閉じた。まるで嵐の後の荒れ果てた荒野のように、彼の周りには孤独と静寂だけが残された。





そして、数年の歳月が流れた。

今、私はユリアンさんと共に、この国の未来を担う一員となっていた。あの日々の努力と決意、数々の試練を乗り越えてきた時間が、すべてこの場所へと私を導いてくれた。

ユリアンさんの隣に立ち、民の声に耳を傾けながら、私は日々、聖騎士団長の妃としての責務と誇りを胸に抱いている。
かつては夢のように思えた光景が、今や現実となり、私は国のため、人々のために尽力する日々を送っている。
ユリアンさんの温かな眼差しと支えに励まされながら、私はこの国の未来に希望の光を灯していく。

毎日、たくさんの仕事があった。国民の声に耳を傾け、困っている人々を助け、国の未来のために尽力する。
最初は不安でいっぱいだったけれど、ユリアンさんがいつも私を支えてくれた。彼は、私の意見を尊重し、私が間違っている時には、優しく導いてくれた。

「レネさん、今日の会議も素晴らしかったです」

ある日、ユリアンさんが私にそう言ってくれた。

「ユリアンさんがいてくれたからです」

私は、彼の胸にそっと顔をうずめた。彼の温かい腕が、私を優しく抱きしめる。

「レネさん、愛しています」

「私も、愛しています、ユリアンさん」

私たちの間には、言葉以上の深い絆があった。

私は、時々、かつての自分を思い出すことがある。侯爵邸の片隅で、一人で本を読み、刺繍をしていた地味な少女。カイル様に蔑まれて、深く傷つき、絶望していたあの頃の私。

あの頃の私には、今の私が想像できただろうか。

きや、きっと、想像できなかっただろう。

でも、私は今、確かにこの場所にいる。過去の迷いや痛みを乗り越えて、ようやくたどり着いたこの場所で、私は最高の伴侶と共に日々を過ごしている。
そして傍らには、心から愛し、信頼できる人々がいてくれる。

彼らの存在は、私にとってかけがえのない宝物であり、その優しさや笑顔に何度も救われてきた。
朝陽に包まれる静かなひととき、何気ない会話に交じる笑い声、手を取り合って歩く未来への一歩一歩――そのすべてが、私に深い安らぎと満足を与えてくれる。私は今、本当に幸せだと、胸を張って言える。

カイル様への恨みは、もうどこにもない。むしろ、彼が私を突き放してくれたからこそ、私は本当の幸せを見つけることができたのだから。

私は、窓の外に広がる王都の景色に目をやった。高い塔の先端が朝陽を浴びて金色に輝き、石畳の街路には人々の活気と希望が満ちていた。
その眩い光景は、まるで私の未来そのものを象徴しているかのようだった。
どこまでも続くこの煌めく街並みが、私に語りかけてくる。「恐れなくていい、進みなさい」と。心の中には温かな期待が芽生え、私はそっと息を吸い込んだ。
この場所から始まる新たな日々に、私は胸を高鳴らせながら微笑んだ。

「レネさん、そろそろお休みの時間ですよ」

ユリアンさんの優しい声が、私を呼ぶ。

「はい」

私は微笑んで、ユリアンさんの手を取った。

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