【本編完結】偽物の番

麻路なぎ

文字の大きさ
25 / 103

25 その理由

しおりを挟む
 駅ビルの一画にある公立図書館の出張所は、もちろんのことながら静まり返っている。
 俺も本屋でバイトするくらいなので本は好きだが、この図書館に来たのは初めてだった。
 行くなら、大学のそばにある本館の方に行くから、ここに近づく理由はなかった。
 瀬名さんは楽しそうに図書館の中を歩いてく。
 図書館、というか、小学校の図書室位の広さなので、さほど広くはない。
 それでも一般図書やライトノベル、専門書も置いてある。
 そこで時間を潰した後、俺は瀬名さんと共に目的のお店に向かった。
 駅の東口から歩いて五分ほどの、商店街の一画にそのお店はあった。
 イタリアンレストラン、ラルベロ。
 外観は、見るからにお洒落な感じ。
 ビルの一階に作られたその店の中に入ると、全席個室と言う、俺の入ったことのない形態をしているお店だった。
 イタリアンレストランなのに個室の店なんてあるんだな。
 通された部屋は、畳敷きに掘りごたつみたいになっていて、くつろげる空間になっている。

「結城、アレルギーないって言ってたし、ピザとか好きだって言ってたからさー」

 席に案内されるなり、瀬名さんは座りながら言った。
 あの好きなものがあるかとかアレルギーどうのっていうメッセージ、ちゃんと意味があったのかよ。
 なんだろう、そう思うとなにかこう、むず痒く感じる。

「ここ、パスタもピザも量が多いけど、結城なら大丈夫だよね!」

 と、満面の笑顔で言われ、俺は苦笑いしつつ頷く。
 この辺りのイタリアンレストランは、安くて量が多いのが特徴だ。
 一人前が二人前近くあるのが普通だった。なので成人男性でも、一人前が結構きつかったりする。
 ランチセットでピザとサラダ、ドリンクのセットがあったので、俺たちはそれを注文することにした。
 マルゲリータピザに、生ハムのピザをそれぞれ頼み一息ついたとき、瀬名さんが言った。

「僕、本が大好きなんだよねー」

「あー、だからさっきも図書館行ったんですか?」

「そうそう。ちょっとでも時間があったら本を見ていたいし、本屋で働くのも夢だったんだよねー」

 楽しそうに言い、瀬名さんはグラスに入ったコップに口をつける。
 まあ、本屋で働くくらいだし、本が好きなのはわかる。

「僕、本屋になるのが夢なんだよね」

 ……え?
 意外な言葉に、俺は目を瞬かせた。
 あれ?
 瀬名さん、医学部じゃなかったっけ?
 俺の表情に気が付いたのか、瀬名さんは声を上げて笑い、言った。

「あはは、わけわかんない、って顔してるね、結城」

「えぇ……だって、医学部の二年、ですよね? 瀬名さん」

「うん、そうだよ。昨日も解剖実習してきたよ」

 解剖実習、の意味にはすぐに気が付き、俺は口を閉ざす。
 それってあれだよな? ご遺体の解剖……あ、俺、無理。そう言うの無理。
 俺は思わず手で口を押えてしまう。

「結城の反応、面白いね。そういうの、想像しちゃだめだよ。まあ、医者を目指してるのは親の意向、ってやつ? 好きなことするために必要な試練なんだよ」

「……試練で医学部に入って医者目指すって……」

 そこまで言って、思い出す。
 この人、アルファだった。
 アルファは総じて頭がいいんだ。
 何が抜き出ているかはもちろん個々で違うらしいけれど。
 千早は運動も勉強も出来たなあ……

「まあ、僕には大した試練じゃないよ。本屋をやる夢の為に手段は選んでいられないからね」

 そう語る瀬名さんが、なんだか眩しく見える。
 夢か。
 俺、夢とかないからな……
 宮田の、普通の学生生活を送りたい、と言う夢や、千早の運命の番を手に入れたい、と言う夢。
 皆何かしらの夢を持つものなのかな。
 俺は、どうしたいだろう?
 考えても何にも出てこない。

「夢があるって、いいですね」

「あれ、その言い方だと、結城に夢ないの?」

 問われて俺は、答えに窮する。
 俺の表情から何かを悟ったのか、瀬名さんは手をひらひらと振り、

「ごめんごめん、悪気はないから。夢ないとか別に珍しくはないし」

 と言ってくれた。

「まあ、そうなんですけど……」

 俺、どうしたいんだろう、て、思わず考えてしまう。
 
「そんなに悩ませる気はなかったんだけど。それよりさ、結城、僕に何か聞きたいんじゃないの?」

 と言いながら、彼はテーブルの上で腕を組む。
 まあ、確かに聞きたいことはある。
 
「まあそうですけど……なんでわかるんですか?」

「だって、何にも知らないって、顔に書いてあるから」

 楽しそうに笑いながら言われると、何かこう、もやもやとするんだけど。
 どうも調子が狂うな、この人と話していると。
 なんだろう、俺、瀬名さんの手のひらの上で転がされているような?
 そんなことを言っているうちに、サラダが運ばれてくる。
 キャベツにレタス、トマトに胡瓜などに、オレンジ色のドレッシングがかかっている。
 それを食べつつ、瀬名さんは言った。

「気になるんでしょ? 僕が言った、君の匂いの話」

「えぇ、まあ。それ、友達にも言われて」

「友達って誰? 君にマーキングしてる人?」

 急にテンション高めに言われて、俺は面食らう。
 何なんだ、この人本当に。
 って言うか、マーキングって何?

「その、マーキングって何なんですか?」

 俺が言うと、瀬名さんは箸をおき、頬杖をついて俺を見つめる。
 笑みを浮かべて。

「本当に何にも知らないんだね。ほら、君のそのうなじの傷だよ」

 言いながら、瀬名さんは俺を指差す。
 言われて俺も箸をおいて、右手で首の後ろに触れた。
 傷? そんなものあるのか?
 そしてそこで初めて気が付く。
 確かに何かの痕があると。
 そしてそれが千早が噛んだ痕であると、すぐに気が付いた。

「え? こ、これ?」

 戸惑い言うと、瀬名さんは俺を指差しながら、その指をくるくると回す。

「それ、アルファがオメガにつける所有物の証だよ。それつけられると、オメガはそのアルファの番になり、他のアルファは近づけなくなる。だから、マーキングって言ったんだよ」

 俺、知らないうちにそんなことされてた?
 え、知らなかったし。
 動揺していると、瀬名さんはさらに畳み掛けてくる。

「でも、変だよね。君はオメガじゃない。そういう匂いはしないしね。だから僕は不思議なんだ。なんで君にマーキングするアルファが存在するのか? 君にいったい何があるのかって思ったらさ、いてもたってもいられなくなって」

 あぁ、この人は気が付いていたのか。
 俺が、千早(アルファ)に囲われていることに。
 やばい、心臓がぎゅうっと締め付けられているような感じがする。
 
「アルファに執着される君に、僕は興味津々なんだよね」

 にっこりと笑う瀬名さんの笑顔が、今の俺にはとても怖いものに思えた。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

どっちも好き♡じゃダメですか?

藤宮りつか
BL
 俺のファーストキスを奪った相手は父さんの再婚相手の息子だった――。  中学生活も終わりに近づいたある日。学校帰りにファーストキスを自分と同じ男に奪われてしまった七緒深雪は、その相手が父、七緒稔の再婚相手の息子、夏川雪音だったと知って愕然とする。  更に、二度目の再会で雪音からセカンドキスまで奪われてしまった深雪は深く落ち込んでしまう。  そんな時、小学校からの幼馴染みである戸塚頼斗から「好きだ」と告白までされてしまい、深雪はもうどうしていいのやら……。  父親の再婚が決まり、血の繋がらない弟になった雪音と、信頼できる幼馴染みの頼斗の二人から同時に言い寄られる生活が始まった深雪。二人の男の間で揺れる深雪は、果たしてどちらを選ぶのか――。  血の繋がらない弟と幼馴染みに翻弄される深雪のトライアングルラブストーリー。

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

【完結】いばらの向こうに君がいる

古井重箱
BL
【あらすじ】ヤリチンかつチャラ男のアルファ、内藤は、上司から見合いを勧められる。お相手の悠理は超美人だけれども毒舌だった。やがて内藤は悠理の心の傷を知り、彼を幸せにしてあげたいと思うようになる── 【注記】ヤリチンのチャラ男アルファ×結婚するまではバージンでいたい毒舌美人オメガ。攻視点と受視点が交互に出てきます。アルファポリス、ムーンライトノベルズ、pixiv、自サイトに掲載中。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

変異型Ωは鉄壁の貞操

田中 乃那加
BL
 変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。  男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。  もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。  奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。  だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。  ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。  それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。    当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。  抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?                

ノエルの結婚

仁茂田もに
BL
オメガのノエルは顔も知らないアルファと結婚することになった。 お相手のヴィンセントは旦那さまの部下で、階級は中尉。東方司令部に勤めているらしい。 生まれ育った帝都を離れ、ノエルはヴィンセントとふたり東部の街で新婚生活を送ることになる。 無表情だが穏やかで優しい帝国軍人(アルファ)×明るいがトラウマ持ちのオメガ 過去につらい経験をしたオメガのノエルが、ヴィンセントと結婚して幸せになる話です。 J.GARDEN58にて本編+書き下ろしで頒布する予定です。 詳しくは後日、活動報告またはXにてご告知します。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

幼馴染は僕を選ばない。

佳乃
BL
ずっと続くと思っていた〈腐れ縁〉は〈腐った縁〉だった。 僕は好きだったのに、ずっと一緒にいられると思っていたのに。 僕がいた場所は僕じゃ無い誰かの場所となり、繋がっていると思っていた縁は腐り果てて切れてしまった。 好きだった。 好きだった。 好きだった。 離れることで断ち切った縁。 気付いた時に断ち切られていた縁。 辛いのは、苦しいのは彼なのか、僕なのか…。

処理中です...