【本編完結】偽物の番

麻路なぎ

文字の大きさ
26 / 103

26かき乱す

 俺はただ、ひきつった笑いを浮かべることしかできなかった。
 そうしている間に、ピザが運ばれてくる。
 ピザ一枚が三十センチ近くはあろう大きさで、とても一人前には見えない。
 二枚の取り皿に、ピザカッター。
 トマトソースの匂いに空腹が刺激されるが、俺は今それどころじゃなかった。
 瀬名さんは笑っている。
 いつもと同じ、爽やかな笑みで。
 それが本当に恐ろしい。
 この人は、何を考えているんだろう。
 首の噛み痕に気が付いて、俺をこんなところに誘って。

「結城、そんなに怖い顔しなくても大丈夫だよ。別に、襲おうとか思ってないから」

 言いながら、瀬名さんはピザカッターを手に取る。
 俺は小さく首を振り、

「そこまで思ってないですけど、何考えてるのかわかんなくて怖いです」

 そう答えて、俺は瀬名さんがピザをカットするのを見つめた。
 瀬名さんは、厚みのあるピザ耳に悪戦苦闘しながら、八等分に切っていく。
 
「僕は面白そうだなー、と思って近づいただけだよ。他に理由なんてないし。普通、アルファってそこまで一般人(ベータ)に執着しないものだしね。まあ、僕はオメガにも興味ないけど」

 あ、この人変な人だと思ったけど、想像よりも変な人かも。
 オメガに興味がない?
 そんなアルファ、いるのか? アルファって何が何でもオメガを求めるものだと、ネットには書いてあったけど。
 ネットで調べた情報との差に、俺は戸惑いを覚える。
 まあ、千早がすでに、常識外の行動を取っているけれど。

「だって、僕は本があればいいから。運命の番とか、僕は信じてないしねー。僕は面白いと思ったものにしか興味を持てないんだよ」

「そ、そ、そうなんですか……?」

 そこまで本が好きなのか、この人。
 家の中すごそうだな。

「だから、君のお相手がオメガじゃなくって君を選んだのが本当に不思議で仕方なくって。いったい君に何があるのか知りたくて今日、誘ったんだよねー」

「いや、俺には何もないですから」

 ピザが切られていくのを見つめながら、俺は首をまた横に振る。

「そうかなあ。まあ、アルファってさ、人より執着心強いし、一度手に入れたら絶対に離そうとしないものだけど。だから結城にはそうさせる何かがあるのかなーって思ったんだけど。あ」

 ピザをカットし終え、ピザカッターをペーパーの上に置き、瀬名さんは俺の方を見る。
 なんだろう、何か悪企みしているような表情に見えるんですが?
 彼は身を乗り出して言った。

「じゃあさ、一度寝てみる?」

「何言ってるんですか、あんた!」

 個室であるのをいいことに、言いたい放題だな、この人。
 俺は思わず身を引き、声を上げた。
 
「んなことするわけないじゃないですか、俺は男で、ベータだってば!」

アルファにとって、男とか女とか関係ないよー。挿れる穴があればいいもの」

 言いながら、瀬名さんは戻って行き、水のグラスを手に取った。

「何言ってるんですか、真昼間から」

 この人、まじで変だ。
 そう思いつつ、俺はフォークと手を使って、マルゲリータピザを皿に取る。

「えー? いいじゃない、別に。減るもんじゃないし」

「減りますって! そう言うのは恋人とか番とかとやってください」

「だから僕にはそう言う相手いないってば。生きている人間に、さほど興味ないもの」

 そう言われ、最初に話した、解剖実習の話を思い出してしまう。
 もちろん俺は、遺体なんて親戚のものしか見たことないし、手術も解剖もドラマでしか知らない。
 でも想像してしまって、あらゆるところが痛くなるし気持ち悪くなってくる。

「もちろん、ヤッたことはあるけど、そこまでじゃなかったなあ。だから、君に興味……」

「もたないでくださいやめてください。俺はそういうのいらないです」

 きっぱりとお断りを入れ、俺はピザにかぶりつく。
 うん、美味しい。
 一口食べると空腹が蘇り、俺はいっきにピザを一切れ食べ終える。
 
「そうかー。残念だなあ。でもさあ、結城」

「何ですか」

 顔を上げると、瀬名さんはマルゲリータピザを皿に取っていた。
 
「なんでそんな、幸せそうじゃないの?」

「……え?」

 想像とは違うことを言われ、俺は変な声が出る。
 幸せ?
 
「ほら恋人のいる人って、もっと幸せなオーラを出してるものだけど、結城からはそういう感じしないからさ。何かあるのかな、と思って」

「え、あ、えーと」

 何を言えばいいのかわからず、俺は視線を泳がせてしまう。
 動揺が顔にも声にも表れているだろう。
 瀬名さんは、マルゲリータピザを食べきると、生ハムピザに手を伸ばす。

「ねえ、結城は、その人といて、楽しいの?」

 無邪気に笑い言われた言葉が、俺の心をかき乱した。
感想 34

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

当たり前の幸せ

ヒイロ
BL
結婚4年目で別れを決意する。長い間愛があると思っていた結婚だったが嫌われてるとは気付かずいたから。すれ違いからのハッピーエンド。オメガバース。よくある話。 初投稿なので色々矛盾などご容赦を。 ゆっくり更新します。 すみません名前変えました。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

普通のβだった俺は

りん
BL
普通の大学生として過ごす白瀬凪が、αの先輩に絡まれる話 凪は普通の大学生だ。βで、容姿も中身も平均値ぐらいだと認識している。ある日、大学でもよく噂されている先輩に声をかけられる。先輩の独特の雰囲気と空気に、次第に巻き込まれていく凪。 ※オメガバ系で結構ご都合な設定ありかもです!地雷だったらごめんなさい!!

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。