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★番外編01 運命の番 side 千早
運命の番01 side 千早
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四月。
大学の門には沢山の学生と、その親たちが集まり桜の前で記念撮影をしている。
風が吹くたびに桜が舞い、ひらひらと地面に落ちていく。
大学の入学式。
新しい一年が始まる日。
俺は、ひとり桜の木の下に立っていた。
「千早」
名を呼ばれ振り返れば、黒髪一重、着慣れないスーツ姿の男が走ってくる。
結城琳太郎。
俺とは高校からの友人。
彼は、俺の所まで来ると腕に絡みついてきて言った。
「なあ、写真撮ろうぜ写真」
「写真て?」
「ふたりでだよ、ほら!」
琳太郎は腕に絡みついたまま、左手にスマホを持ち腕を伸す。
琳太郎が、やたら顔を近づけてくるものだからくすぐったく思いながら、スマホのカメラを見つめる。
その画面に写った自分と琳太郎の顔。
琳太郎は満面の笑みだが自分はどうだろう?
「撮るぜ?」
声とともに、シャッター音が響く。
その時、匂いがした。
――この匂い……
とっさに振り返るが、どこからしたのかはっきりしない。
人の数が多すぎるからだろうか?
けれど、確かに匂いがした。
あの匂いは――獲物(オメガ)の匂い。
見回すが、人が多くすでにどこかに行ってしまったかも知れない。
ここにいるのか?
新入生か? それとも……在学生か。
いくら視線を巡らせてもそれの姿は見えないし、もうすでに匂いも感じない。
「千早、どうしたんだよ?」
名前を呼ばれ、ハッとする。
琳太郎が、スマホを握りしめて俺を見ている。
「いいや、なんでもない」
「ならいーけど。なあ、写真、送っとくから。あとさ、この後メシ行かね?」
「え? あぁ、そうだな」
頷き俺はもう一度、人の波を見つめる。
匂いの主はいったいどこに行ったのか?
残り香すら感じないことにいら立ちを覚える。
俺は唇を噛み、拳を握りしめた。
入学式以降、その匂いを感じることはなかった。
気のせいではないはずなのに。
大学でも、カフェテラスでも、その匂いを見つけることはなかった。
違う学部とか、違う学年?
学部や学年が違うとさすがにわからなくてもしかたないかもしれない。
学部学年関係なく人が集まる食堂でも、その匂いを感じることはなかった。
タイミングのせいか、それとも、あれは大学の人間ではなかったからなのか。
それさえもわからず時間だけが過ぎていた。
桜の時期は終わり、藤の花が咲き始めた頃。
朝、商店街を歩きながら大学へと向かう。
その途中、美容室の前で佇む琳太郎の姿を認めた。
美容室の屋根にからみつく藤に見とれているのか、じっと動かない。
その背中に歩み寄り、背中をぽん、と叩く。
「おはよう、琳太郎」
そう声をかけると、びく、と身体を震わせ、琳太郎は振り返った。
「千早、おはよ」
そう言って、彼は手を振る。
「何見てるの? あれ、藤だよね」
言いながら俺は、琳太郎が見ていた店へと視線を向ける。
満開の藤の花は、店先で屋根のように枝を拡げ花を咲かせている。
「なんか、お洒落だな、と思ってさ。藤の花の屋根なんて」
「あぁ、雨みたいだな」
「だろ?」
「それで見とれていたのか」
そして俺は、琳太郎に微笑みかける。
面白いやつだ。
俺は余り花を気にしたことはないが、琳太郎は目ざとく花を見つける。
その感覚が面白い。
見た目は花など気にもしなさそうなのに。
癖の少ない黒い髪、一重の瞳はちょっと目つきが悪いようにも見える。
「千早のその笑顔って、卑怯くせえよな」
突然何を言いだすのか。
琳太郎はなぜか頬を紅く染め、俺から視線を反らしている。
そんなことをされたら、からかいたくなってしまう。
俺は琳太郎に近づき、その首筋を撫でて耳元で囁く。
「そんなに魅力的?」
すると琳太郎は慌てた様子で俺から離れ、顔を真っ赤にして首を振る。
「な、何ふざけてんだよ、お前!」
往来で騒がしいやつだ。
琳太郎の様子を笑って見ながら、俺は言葉を続けた。
「ほら最近、琳太郎と話していなかったような気がするからちょっと悪戯したくなって」
そもそも琳太郎と俺は学部が違う。
なので顔を合わせることはほぼない。
唯一顔を合わせそうな食堂やカフェテリアなどでも一切会っていない。
まあ、学生数を考えればそれは不自然なことではないが。
「そういうのは恋人相手だけにしろよ」
「俺に恋人なんていないの知ってて言ってるよね」
言いながら、俺は入学式の日に感じた匂いを思い出していた。
あの匂い。
いったい誰だったのか、いまだにわからない。
それでも心を捉えて離さない、あの匂い。
「運命の人だっけ? お前、見た目にそぐわずドリーミーだよな」
そう言って、琳太郎は笑う。
俺としては夢を見ているつもりはないけれど。
アルファなら誰もが耳にするおとぎ話にも近いもの。
運命の番。
魂がひかれあうという相手が、どこかにいるという。
生まれたときから決められた相手。
そんなのいるわけがないと思いつつ、俺は心のどこかでそれを求めていた。
「俺たちにとっては普通の事だよ。俺たちは、本能で探してるんだ。運命の番(つがい)ってやつを。まあ、俺も信じてるわけじゃないけど、本当にそう言う相手が現れたらどれだけ感情を動かされるのか、気になるんだよね」
言いながら、俺はこの間の匂いに想いを馳せる。
「って……お前まさか……」
驚きを含んだ声が聞こえる。
琳太郎は、何も知らない。
同級生のほとんどが知っていた俺のこと。
その時、知らない声がかかる。
「結城、おはよう。何騒いでるの、朝から」
少し高い少年の声。
癖のある茶髪に、二重の大きな瞳。
少し幼い雰囲気の少年。
俺は目を見開き、彼を見る。
匂いがする。
オメガの匂いだ。
俺は、そいつから目を離せないでいた。
その少年は、琳太郎と仲良さげに話をしている。
こいつだ。
本能が、そう告げている。
こいつを捕まえなくては。
そう思うのに、身体が動かない。
その少年は、俺に方を見ると、大きく目を見開きそして、
「僕、先に行ってるから!」
慌てたようにその場から走り去ってしまう。
俺はその背中から目を離せないでいた。
「琳太郎」
呆然と俺は友人の名を呼ぶ。
「お前、どうしたんだ?」
不思議そうな、琳太郎の声。
「今の、誰だ?」
俺は、彼が去って行った方向から目を離さず尋ねる。
「え? 今のって宮田の事? あいつは同じゼミの宮田藍だけど」
琳太郎が言った名前を、俺は頭の中で何度も繰り返す。
「宮田、藍……」
呟きそして、俺は確信する。
あれはオメガだ。
匂いがそう告げている。
そして本能が訴える。
あれは俺の――番だ。
大学の門には沢山の学生と、その親たちが集まり桜の前で記念撮影をしている。
風が吹くたびに桜が舞い、ひらひらと地面に落ちていく。
大学の入学式。
新しい一年が始まる日。
俺は、ひとり桜の木の下に立っていた。
「千早」
名を呼ばれ振り返れば、黒髪一重、着慣れないスーツ姿の男が走ってくる。
結城琳太郎。
俺とは高校からの友人。
彼は、俺の所まで来ると腕に絡みついてきて言った。
「なあ、写真撮ろうぜ写真」
「写真て?」
「ふたりでだよ、ほら!」
琳太郎は腕に絡みついたまま、左手にスマホを持ち腕を伸す。
琳太郎が、やたら顔を近づけてくるものだからくすぐったく思いながら、スマホのカメラを見つめる。
その画面に写った自分と琳太郎の顔。
琳太郎は満面の笑みだが自分はどうだろう?
「撮るぜ?」
声とともに、シャッター音が響く。
その時、匂いがした。
――この匂い……
とっさに振り返るが、どこからしたのかはっきりしない。
人の数が多すぎるからだろうか?
けれど、確かに匂いがした。
あの匂いは――獲物(オメガ)の匂い。
見回すが、人が多くすでにどこかに行ってしまったかも知れない。
ここにいるのか?
新入生か? それとも……在学生か。
いくら視線を巡らせてもそれの姿は見えないし、もうすでに匂いも感じない。
「千早、どうしたんだよ?」
名前を呼ばれ、ハッとする。
琳太郎が、スマホを握りしめて俺を見ている。
「いいや、なんでもない」
「ならいーけど。なあ、写真、送っとくから。あとさ、この後メシ行かね?」
「え? あぁ、そうだな」
頷き俺はもう一度、人の波を見つめる。
匂いの主はいったいどこに行ったのか?
残り香すら感じないことにいら立ちを覚える。
俺は唇を噛み、拳を握りしめた。
入学式以降、その匂いを感じることはなかった。
気のせいではないはずなのに。
大学でも、カフェテラスでも、その匂いを見つけることはなかった。
違う学部とか、違う学年?
学部や学年が違うとさすがにわからなくてもしかたないかもしれない。
学部学年関係なく人が集まる食堂でも、その匂いを感じることはなかった。
タイミングのせいか、それとも、あれは大学の人間ではなかったからなのか。
それさえもわからず時間だけが過ぎていた。
桜の時期は終わり、藤の花が咲き始めた頃。
朝、商店街を歩きながら大学へと向かう。
その途中、美容室の前で佇む琳太郎の姿を認めた。
美容室の屋根にからみつく藤に見とれているのか、じっと動かない。
その背中に歩み寄り、背中をぽん、と叩く。
「おはよう、琳太郎」
そう声をかけると、びく、と身体を震わせ、琳太郎は振り返った。
「千早、おはよ」
そう言って、彼は手を振る。
「何見てるの? あれ、藤だよね」
言いながら俺は、琳太郎が見ていた店へと視線を向ける。
満開の藤の花は、店先で屋根のように枝を拡げ花を咲かせている。
「なんか、お洒落だな、と思ってさ。藤の花の屋根なんて」
「あぁ、雨みたいだな」
「だろ?」
「それで見とれていたのか」
そして俺は、琳太郎に微笑みかける。
面白いやつだ。
俺は余り花を気にしたことはないが、琳太郎は目ざとく花を見つける。
その感覚が面白い。
見た目は花など気にもしなさそうなのに。
癖の少ない黒い髪、一重の瞳はちょっと目つきが悪いようにも見える。
「千早のその笑顔って、卑怯くせえよな」
突然何を言いだすのか。
琳太郎はなぜか頬を紅く染め、俺から視線を反らしている。
そんなことをされたら、からかいたくなってしまう。
俺は琳太郎に近づき、その首筋を撫でて耳元で囁く。
「そんなに魅力的?」
すると琳太郎は慌てた様子で俺から離れ、顔を真っ赤にして首を振る。
「な、何ふざけてんだよ、お前!」
往来で騒がしいやつだ。
琳太郎の様子を笑って見ながら、俺は言葉を続けた。
「ほら最近、琳太郎と話していなかったような気がするからちょっと悪戯したくなって」
そもそも琳太郎と俺は学部が違う。
なので顔を合わせることはほぼない。
唯一顔を合わせそうな食堂やカフェテリアなどでも一切会っていない。
まあ、学生数を考えればそれは不自然なことではないが。
「そういうのは恋人相手だけにしろよ」
「俺に恋人なんていないの知ってて言ってるよね」
言いながら、俺は入学式の日に感じた匂いを思い出していた。
あの匂い。
いったい誰だったのか、いまだにわからない。
それでも心を捉えて離さない、あの匂い。
「運命の人だっけ? お前、見た目にそぐわずドリーミーだよな」
そう言って、琳太郎は笑う。
俺としては夢を見ているつもりはないけれど。
アルファなら誰もが耳にするおとぎ話にも近いもの。
運命の番。
魂がひかれあうという相手が、どこかにいるという。
生まれたときから決められた相手。
そんなのいるわけがないと思いつつ、俺は心のどこかでそれを求めていた。
「俺たちにとっては普通の事だよ。俺たちは、本能で探してるんだ。運命の番(つがい)ってやつを。まあ、俺も信じてるわけじゃないけど、本当にそう言う相手が現れたらどれだけ感情を動かされるのか、気になるんだよね」
言いながら、俺はこの間の匂いに想いを馳せる。
「って……お前まさか……」
驚きを含んだ声が聞こえる。
琳太郎は、何も知らない。
同級生のほとんどが知っていた俺のこと。
その時、知らない声がかかる。
「結城、おはよう。何騒いでるの、朝から」
少し高い少年の声。
癖のある茶髪に、二重の大きな瞳。
少し幼い雰囲気の少年。
俺は目を見開き、彼を見る。
匂いがする。
オメガの匂いだ。
俺は、そいつから目を離せないでいた。
その少年は、琳太郎と仲良さげに話をしている。
こいつだ。
本能が、そう告げている。
こいつを捕まえなくては。
そう思うのに、身体が動かない。
その少年は、俺に方を見ると、大きく目を見開きそして、
「僕、先に行ってるから!」
慌てたようにその場から走り去ってしまう。
俺はその背中から目を離せないでいた。
「琳太郎」
呆然と俺は友人の名を呼ぶ。
「お前、どうしたんだ?」
不思議そうな、琳太郎の声。
「今の、誰だ?」
俺は、彼が去って行った方向から目を離さず尋ねる。
「え? 今のって宮田の事? あいつは同じゼミの宮田藍だけど」
琳太郎が言った名前を、俺は頭の中で何度も繰り返す。
「宮田、藍……」
呟きそして、俺は確信する。
あれはオメガだ。
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あれは俺の――番だ。
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