【本編完結】偽物の番

麻路なぎ

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★番外編01 運命の番 side 千早

運命の番15

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 六月十八日土曜日。
 日に日に暑さが増している。
 課題をやりながら、俺の気持ちは別のところにいっていた。
 あの男には気をつけろと、本能が訴える。
 瀬名悠人。
 あれは、何を考えている?
 琳太郎に興味以上の感情があるのは確かだろう。でなくては、俺を挑発するような事はしてこないだろうし。
 あいつは危険だと言うのに、琳太郎には警戒する様子がない。
 むしろ懐いているような雰囲気すらあり、その事が俺にはとても不快だった。
 閉じ込めたい。
 けれど理性はそれを許さない。
 琳太郎はオメガじゃない。
 囲われるのが当たり前なオメガと違い、ベータである琳太郎は、その事に耐えられないだろう。
 その事実が、俺を思いとどまらせる。
 でも俺は、琳太郎を囲い込みたくてたまらない。
 本能は確かに琳太郎を番であると認識しているのに、本当にそれでいいのかと、冷静な自分が問いかける。
 ――ベータを番にするとか、狂っている。
 ベータだとか、オメガだとか。
 そんなことはどうだっていい。
 俺が欲しいのは――ただ唯一の存在。
 時おり琳太郎が見せる苦しげな顔に俺は罪悪感を抱くことがある。
 夜、うなされて不安げな顔で呟くことだは、否定と肯定の言葉。
 苦しいと言いながら、好きだと繰り返す。
 何が琳太郎を苦しめる?
 苦しめたかった訳じゃない。
 なのに俺は。

「これは俺の罰か」

 無理やり琳太郎を抱き、その首に噛み付いて、番にしようとしている俺の罪。
 そして、琳太郎を苦しめている罰。
 こんな歪んだ関係は、長続きしないことくらいわかるのに。
 もう後戻りはできない。
 俺は、何ができる?
 その時、スマホが鳴る。
 今日は土曜日。
 琳太郎が来る日だ。
 時刻は十五時半前。連絡が来るにしては早すぎる。
 何かあったのか。
 頭をよぎるあの男の影が俺を不機嫌にさせる。

『今、家にいる?』

 それだけ書かれたメッセージに、こちらの様子を伺うような印象を覚える。琳太郎がこんなことを言ってくるのは初めてだからだ。

『家で課題やってた。お前、バイトじゃないのか?』

 バイトに行ってないのか。それとも何か別の理由があるのか。

『出てきたけど体調悪くなっちゃって』

 まさかまた、あの男が関わっているんだろうか。
 そう思うと、苛立ちが大きくなっていく。
 瀬名悠人。
 あいつは厄介だ。

『今どこだ、迎えに行く』

 そう返し、俺は準備を始める。
 いつもの東口のコンビニ前で待つと来たので、それだけ確認して俺は部屋を出た。
 外は暑い。この暑さの中、体調が悪いと言われると不安が大きくなっていく。
 琳太郎。
 やはり手元に置いておくべきだと思う。なのに俺は、それを実行できないでいる。
 いっそのこと、そんなこともわからなくなるくらい壊れてしまえば楽だろうに。そこまでは至らない。
 大股で歩き、俺はコンビニ前を目指す。土曜日ということもあり人が多い。
 駅は、沢山の人を飲み込みそして、それ以上の人数を吐き出している。
 人の波の中に、琳太郎の姿を見つけた。
 壁にもたれかかり、ぼんやりとこちらを見ている。
 その姿を確認し、俺は足を早めた。
 俺に気が付いた琳太郎は、青白い顔でこちらを見ている。
 俺は彼に近づくと、腕を伸ばしそして、その身体を抱き寄せた。
 バイトの開始時間からはだいぶ経っている。
 そして、確かに感じるあいつの匂い。それは俺を不快にさせるものだった。
 やはりあいつか。何をした、何をされた?

「……何があった?」

 思わず低い声で言ってしまう。
 バイトを辞めさせられないのが辛い。瀬名悠人。本当にあいつはなぜ琳太郎に関わる?
 調べた限りだと、あいつはセフレが何人かいるはずだ。
 男女問わず、しかも一夜限りの相手も珍しくないとあった。
 そんなやつがなぜ、琳太郎に手を出すのか理解できない。

「と、とりあえず離せよ、恥ずかしいから」

 そう言いながら、琳太郎が俺の胸を押す。
 この身体を離すのは嫌だが、仕方ない。
 俺は琳太郎から腕を離し、顔を見た。
 琳太郎は真っ白な顔で俺を見て言った。

「過呼吸っていうの? それ起こして……それで、あの、瀬名さんがちょうどそばにいたから、休ませてもらってた」

 瀬名悠人。
 やはりそうか。あの男……一体何をした、何を言った?

「……一緒に、いたのか」

 なるべく冷静にと思うが、出た声はかなり冷たい。
 琳太郎は一瞬びくり、と身体を震わせたあと言った。

「そりゃ、バイト一緒だし。あの人、医学部の学生だし」
「何もされなかったか?」

 すると琳太郎は口を閉ざしてしまう。
 何もされてないは、ないんだろう。
 そう思うと胸が痛む。あの男、何を考えてる?
 なぜわざわざ、俺が噛み付いてマーキングまでしている相手に手を出すんだ。

「顔色悪いな。帰ろう」

 琳太郎が帰るべき場所。
 それは俺の家だ。他のどこでもない。
 琳太郎は俯いたあと、苦しげに呟く。

「とりあえず、俺、休みたい」
 
「琳太郎」

 俺は名前を呼び、その背中に手を回して身体を引き寄せる。
 すると琳太郎は抵抗せず、俺にもたれかかってくる。
 琳太郎を苦しめているものはなんだろうか。
 俺なのか。それとも、瀬名悠人の存在か。
 もしくは……
 その両方か。
 苦しめたいわけではなかったはずなのに。
 どこで間違えた?
 間違えたのは最初から、だろう。
 あの日、発情した宮田を逃したあの日から全て始まったんだから。
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