「婚約破棄だ」と叫ぶ殿下、国の実務は私ですが大丈夫ですか?〜私は冷徹宰相補佐と幸せになります〜

万里戸千波

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1.断罪の幕開け

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 ​王立学園の卒業記念パーティー。その華やかな会場は、一瞬にして静寂に包まれた。
 シャンデリアの光がきらめくダンスホールの中心で、この国の第一王子であるジェラルドが、私のことを指差して声を張り上げたからだ。

​「リリエン・フォン・ウィンズロー! 貴様のような性根の腐った女とは、今この時をもって婚約を破棄する!」

 ​音楽が止まり、着飾った令嬢や令息たちがざわめきながら左右に分かれる。ぽっかりと空いた空間の中心に、私は一人立っていた。
 手にした扇をゆっくりと閉じ、私は冷ややかな視線を王子に向ける。

​「……婚約破棄、でございますか? ジェラルド殿下」
「そうだ! とぼけるな! 貴様が我が愛しのミアに対して行ってきた数々の悪逆非道な振る舞い、もはや看過できん!」

 ​ジェラルドの腕には、ピンク色のふわふわとした髪をした小柄な少女、サガン男爵令嬢のミレイアがしがみついていた。彼女は怯えたように震え、潤んだ瞳で周囲に助けを求めている。見事なほど典型的な“守ってあげたくなる”風情だ。

​「悪逆非道、とは具体的にどのようなことでしょうか」
「まだ白を切る気か。ミアの教科書を破り捨て、階段から突き落とし、あろうことか私室に呼び出して“身分を弁えなさい”と罵倒したことだ!」

 ジェラルドの声が広間に響き渡ると、​周囲から「まぁ、なんて恐ろしい」「やはりウィンズロー公爵令嬢が」という囁きが細波のように広がった。
 顔には出さないものの内心、大きなため息をつく。

(ああ、やはりこうなりましたか。予想通りすぎて欠伸が出そう)

​ 私は幼い頃から、ウィンズロー公爵家の長女として王妃教育を叩き込まれてきた。
 対してジェラルドは、世継ぎだ、男児だと甘やかされて育った典型的な愚王候補。成績は万年最下位、公務はサボり魔、そして最近はこの男爵令嬢に夢中で、学園にもまともに来ていなかった。

​「殿下。そのような事実はありません。証拠はおありですか?」
「証拠だと!? このミアの涙が何よりの証拠だ!」

​ ジェラルドが叫ぶと、ミアが握った拳を目に当てた。

「リリエン様、怖いですぅ……」

 嘘泣きだ。

​「涙は証拠になりません。それに殿下、私がいつそのような悪行を行ったと仰るのですか?」

 冷静に淡々と言葉を紡ぐ。

「先週の火曜日の放課後と、金曜日の昼休みだ!」
「火曜日の放課後と、金曜日の昼休み、ですね」

​ 私は扇の先で自身の唇をトントンと軽く叩き、怜悧な笑みを浮かべた。

​「その時間は、王宮の執務室におりました。殿下が放り出した治水工事の予算案と隣国との貿易協定の見直しを代行しておりましたので」

 “放り出した”を強調して言うと、ジェラルドの顔がぎくりと強ばった。
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