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変わりたい
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彩世は、目をキョロキョロさせてどもってしまった那月をじっと見つめる。その視線があまりにも突き刺さり、那月はぎゅっと紙袋を握りしめた。
「あー…もしかして、それ返しにきた?」
紙袋の中が見えたのか、彩世が気付いたようにそう問いかけた。その声色は特別優しい訳でもなく、冷たい訳でもない。
「は、は、い…あ、え、これ」
「じゃあ貰うわ。わざわざどうも」
「えっ…」
那月の腕から簡単に紙袋を抜き取って、彩世は背中を向けた。これでは何も伝えられてない。本当にただセーターを返しただけになってしまう。
目を潤ませながら後ろを向くと、明衣が拳を握りながら「がんばれ!」と口パクをしていた。
一一一そうだ、昨日の男子じゃないんだ、同じ男子だけど違う。今目の前にいるのは彩世先輩だ。
一一一言う、言うんだ。頑張るって決めた。頑張れる、僕は、やっぱり変われる。いや変わりたい…!
「せ、せ、先輩!!!」
彩世の背中に、裏返りそうな大きな声で投げかけた。那月にとってはその一言を言うにもやっとで、ぜえぜえと息が切れる。
彩世は一瞬ビクッと立ち止まって、また後ろを振り向いた。「なに?」と言いたげな表情を浮かべて、1歩那月の方へと戻る。
「すぅーーー、はぁーーー、あ、ありがとう、ございました!!!た、助けて、くれて……昨日、!」
「え?」
「あり…!あ、ありがとうございました!!」
両手に爪が食い込むほどぎゅっと握りしめながら、那月は声を振り絞った。冷や汗が顔と背中に滲んでいる。それでも、拙くてもやっとの思いで顔を上げ彩世の顔を見ながら、ありがとうと言えたのだ。
それを聞いた彩世はきょとんとした顔で、「あー」と頭をかく。
「別に、俺はたまたま委員会の準備で行っただけだから」
そう言って、彩世は今度こそ教室へと入って行った。扉が閉まってから、那月は全身の力が抜けへなへなとその場に倒れ込んだ。
「那月ー!頑張ったね!!すごいすごい!言えたじゃん!」
「あ、言え、たのかな。言えた?僕」
「うん!!あんなにしっかり口聞けたの初めて見たよ!頑張った!」
「あ、りがとう…明衣…」
やはり那月の体は冷や汗もすごいし、手も足も震えている。それでも、いつぶりだろう。こんな風に男の人と言葉をハッキリ交わすことができたのは。
確かに昔は話せていたが、男の人に恐怖心を持つようになってからお店の店員さんに注文をするくらいがギリギリになっていた。会話らしい会話はずっとできなかった。しかも顔を見て、相手に気持ちを伝えるなんてことは。
一一一できた、できたんだ。少しでも1歩踏み出せたのかな。先輩は気持ち悪く思ったかもしれないし、ウザかったかもしれないけど、感謝の気持ちは伝わってるといいな…。
「まああの人、予想よりちょっとぶっきらぼうだったけどね!とりあえず良かった!よし、汗も拭かないとだし、ここにいると目立つからクラスの階に戻ろ!あたしが支えてあげるからもたれて」
「ごめん…、ありがとう」
明衣に支えられながら那月はゆっくり歩き出し、3年生の階を後にした。
「あれ彩世~?どこ行くの?」
「ああ、ちょっと」
そして2人が3年生の階から去ってすぐ。3組の教室の扉が開いた。中から出てきたのは片手に水のペットボトルを持った彩世だ。
廊下を見てから、キョロキョロと辺りを見回す。
「……あれ、いない」
ぽつりと呟きふーっとため息をついた彩世は、床を見つめてからまた教室へと戻った。
「あー…もしかして、それ返しにきた?」
紙袋の中が見えたのか、彩世が気付いたようにそう問いかけた。その声色は特別優しい訳でもなく、冷たい訳でもない。
「は、は、い…あ、え、これ」
「じゃあ貰うわ。わざわざどうも」
「えっ…」
那月の腕から簡単に紙袋を抜き取って、彩世は背中を向けた。これでは何も伝えられてない。本当にただセーターを返しただけになってしまう。
目を潤ませながら後ろを向くと、明衣が拳を握りながら「がんばれ!」と口パクをしていた。
一一一そうだ、昨日の男子じゃないんだ、同じ男子だけど違う。今目の前にいるのは彩世先輩だ。
一一一言う、言うんだ。頑張るって決めた。頑張れる、僕は、やっぱり変われる。いや変わりたい…!
「せ、せ、先輩!!!」
彩世の背中に、裏返りそうな大きな声で投げかけた。那月にとってはその一言を言うにもやっとで、ぜえぜえと息が切れる。
彩世は一瞬ビクッと立ち止まって、また後ろを振り向いた。「なに?」と言いたげな表情を浮かべて、1歩那月の方へと戻る。
「すぅーーー、はぁーーー、あ、ありがとう、ございました!!!た、助けて、くれて……昨日、!」
「え?」
「あり…!あ、ありがとうございました!!」
両手に爪が食い込むほどぎゅっと握りしめながら、那月は声を振り絞った。冷や汗が顔と背中に滲んでいる。それでも、拙くてもやっとの思いで顔を上げ彩世の顔を見ながら、ありがとうと言えたのだ。
それを聞いた彩世はきょとんとした顔で、「あー」と頭をかく。
「別に、俺はたまたま委員会の準備で行っただけだから」
そう言って、彩世は今度こそ教室へと入って行った。扉が閉まってから、那月は全身の力が抜けへなへなとその場に倒れ込んだ。
「那月ー!頑張ったね!!すごいすごい!言えたじゃん!」
「あ、言え、たのかな。言えた?僕」
「うん!!あんなにしっかり口聞けたの初めて見たよ!頑張った!」
「あ、りがとう…明衣…」
やはり那月の体は冷や汗もすごいし、手も足も震えている。それでも、いつぶりだろう。こんな風に男の人と言葉をハッキリ交わすことができたのは。
確かに昔は話せていたが、男の人に恐怖心を持つようになってからお店の店員さんに注文をするくらいがギリギリになっていた。会話らしい会話はずっとできなかった。しかも顔を見て、相手に気持ちを伝えるなんてことは。
一一一できた、できたんだ。少しでも1歩踏み出せたのかな。先輩は気持ち悪く思ったかもしれないし、ウザかったかもしれないけど、感謝の気持ちは伝わってるといいな…。
「まああの人、予想よりちょっとぶっきらぼうだったけどね!とりあえず良かった!よし、汗も拭かないとだし、ここにいると目立つからクラスの階に戻ろ!あたしが支えてあげるからもたれて」
「ごめん…、ありがとう」
明衣に支えられながら那月はゆっくり歩き出し、3年生の階を後にした。
「あれ彩世~?どこ行くの?」
「ああ、ちょっと」
そして2人が3年生の階から去ってすぐ。3組の教室の扉が開いた。中から出てきたのは片手に水のペットボトルを持った彩世だ。
廊下を見てから、キョロキョロと辺りを見回す。
「……あれ、いない」
ぽつりと呟きふーっとため息をついた彩世は、床を見つめてからまた教室へと戻った。
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