早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。

文字の大きさ
13 / 94
2

もう1歩

しおりを挟む
次の日の朝は珍しく、いつもより少し寒かった。もう4月末だと言うのに、と朝起きた瞬間たくさんの人が思っただろう。那月は普段、体温は高い方だが今日は手が冷たかった。この季節外れの寒さのせいか、それとも緊張のせいか。

「行ってきます!」

身支度を終えて家を出た那月の手には、先輩のセーターが入った紙袋がある。カサカサと音を立てながら歩くたびに、昨日のことは夢じゃないのかと何回も思っていた。でもこのセーターが現実だと思い知らせてくるようだ。

そういえば高校に入学して間もないし、3年生の階なんて行ったことがない那月は、滅茶苦茶に緊張している。

ーーー大丈夫、大丈夫。頑張るんだ。怖くない怖くない、怖くない。

自分に暗示をかけるように何度も頭の中で唱えた。会った時のイメトレも。まずは、助けてくれてありがとうございましたを絶対に言いたい。

「た、た、たす…たすけ、たすけてくれ…た、た、」

那月は歩きながらブツブツと伝えたい言葉を繰り返した。駅に着いてから電車に乗ると、朝はだいぶ混んでいて人が箱の中に詰められていくような感覚だ。この誰彼構わず至近距離になってしまう満員電車が那月は苦手だ。

いつも出来るだけ男の人がいない場所に逃げるが、もし近くに来たら、イヤフォンをして下を向いて目を閉じる。これで何とか気を紛らわせてきた。そして今日は押しのけられていく中、セーターを守るように胸の前で紙袋を抱き抱えた。

「うぅ…っ」

一一一あれ?でも、なんだろう。さっきまで緊張してたのに、電車乗っても今日はいつもより冷や汗かかない。息も苦しくない。

一一一いつももっと苦しいのに…なんでだろう。

不思議に思いながらも、今日も何とか電車の恐怖からは免れた。


「よし、那月!ここだ!」

学校へ着いてから後から来た明衣と合流し、3年生のクラスがある4階へやって来た那月。当たり前に、歩いてくる人達はみんな先輩で、まだホームルームまで時間があるから人は少ない。

「昨日調べてみたら、その彩世先輩は3組だった!この辺で待ち伏せして、来たら捕まえよう」
「明衣、どうやって調べたの!?」
「ふふーん。まあ私はその道のプロですので。人伝いに聞いたらすぐ分かったよ」
「さすが…顔広いね」

明衣と那月は3組の目の前の廊下で、彩世先輩を待ち構えた。通っていく3年生は朝から1年生が来ていることが不思議なのか、2人をチラチラと気にしている。

「…う、き、緊張してきた」
「大丈夫!何かあっても、あたしがいるでしょ!那月ならできる!」
「う、うん…!」

3年生の階に来てから、10分ほど経った頃。廊下の向こうから、1人背の高い男の人が歩いてきた。その人はシャツにしっかりネクタイをして、携帯を見ながら歩いてくる。

「那月、あれ!」
「あ、そ、そうだ。あの人だ」

その人はまさしく彩世先輩だ。何度も見かけて、昨日助けてもらって顔を見間違えるわけない。確信した那月は、震える足を踏み出した。

一一一先輩が教室に入る前に、声をかけなきゃ。早く、動け足!動け口!!

「あっ、あ、あ……」

しかし、そこから中々動けない那月に彩世先輩は気付かず、どんどん教室の方へ歩いていく。紙袋を持つ手をぎゅっと握りしめ、那月はもう1歩だけ何とか前に踏み出した。

「あ……あのぉ!!!」

力を振り絞って、何とか那月の口が開く。大きめの声だったおかげで、彩世先輩は携帯を見ていた顔を上げ、2人がいる方に視線を移した。

「え?」
「あ、あ…あのあのあのあの」

一一一先輩が、こっち見た。気付いた。どうしよう、どうしよう。落ち着いて話さないと…!

「ん?俺?あ…ていうか、君」
「え、あ、」
「昨日の1年生?やっぱそうだ、その感じ。何してんの?いま呼んだ?」

彩世先輩は、明らかに動揺している那月のそばに近寄り見下ろした。那月が見下ろされるということは、背は180センチ以上はありそうだ。

一一一背が、背が大きい。大きい男の人だ、体も大きい。ど、どうしよう。怖くなってきてしまった。怖がらないって決めたのに…!

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ヒートより厄介な恋をα後輩に教え込まれる

雪兎
BL
大学三年のΩ・篠宮湊は、何事も理屈で考えるタイプ。 ヒート管理も完璧で、恋愛とは距離を置いてきた。 「フェロモンに振り回されるのは非合理的」 そう思っていたのに――。 新学期、同じゼミに入ってきた後輩は、やたら距離の近いα・高瀬蒼。 人懐っこくて優秀、なのに湊にだけ妙に構ってくる。 「先輩って、恋したことないでしょ」 「……必要ないからな」 「じゃあ俺が教えますよ。ヒートより面倒なやつ」 余裕のあるα後輩と、恋に不慣れなΩ先輩。 からかわれているはずなのに、気づけば湊の心は少しずつ乱されていく。 これは、理屈ではどうにもならない “ヒートより厄介な恋”を教え込まれる物語。

処理中です...