異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第55話 始動する魔素供給装置。そして揺れるエルフの少女

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――エルフとドワーフの会議から、およそ二か月。

空は青く澄み渡り、陽光がエルシアの森とドルムの里の境にある大きな中央広場をまばゆく照らしていた。

その中心には、堂々たる姿の魔機が二機、地を割るように併設されている。

それぞれから伸びた太いダクトは地中深くへと潜り込んでいた。

その魔機の上部には大きな開口部があり、まるで、上空にある森の精霊の結界に向けて物申すかのようであった。

周囲にはセイラスタン、ルーイン、グラント、ドルマ、ジルクら主要人物が顔を揃え、エルフとドワーフの要人たちが静かに事の成り行きを見守っていた。

――だが、そこにリーファの姿はなかった。

「ドルマさん、そっちはどうですか!」

一機の魔機の傍らでジルクが声を張る。

ダクトの設置部にいたドルマが、大きく頷いて返した。

「おぅ、完璧だ!」

確認を終えたジルクが、体の向きを変えて、次の報告に移る。

「一機目、準備完了です!」

その声に応じたのはグラントであった。

「うむ……いよいよじゃな」

グラントは、目を細め、噛みしめるようにその言葉を口にすると、隣のセイラスタンに顔を向けた。

「いつでもいいぞ」

セイラスタンが静かに眼を開き、うなずいた。

次の瞬間、その合図を受けたルーインが、鋭い声で全体に告げた。

「よし、魔素供給装置――始動開始!」

その声に、空気がピンと張りつめた。

ジルクはゴクリと唾を飲み込み、大きな魔素供給装置の前へと立つ。

そして、バルナックからもらった高起魔力装置に念じるかのように手をかざした次の瞬間――

「点火!」

スイッチらしき装置を押すと、

――グィー――ン。

低くうねるような音とともに、装置が起動。

ほどなくして、ダクトに設けられた魔素反応灯が、ぼんやりと淡く光り始めた。

地下から魔素が吸い上げられ、装置へと送り込まれているのが目に見えて分かる仕組みであった。

やがて、魔機の上部の開口部に設置されている魔素反応灯も静かに光を帯び始めた。

その様子を見て、

「よし、どうやらうまくいったようじゃな」

と、グラントが安堵の声を発した。

「そうか」

セイラスタンも小さく応じた。

次の瞬間、その声を確認したルーインが全体に響き渡る声で叫んだ。

「皆の者、よくやった! 一機目は成功だ! このまましばらく運転を続け、安定を確認したら二機目を起動する! だから少し休憩だ!」

ジルクはふうっと息を吐いて額の汗をぬぐう中、その周りでは、静かな歓声と安堵の息が広がった。

しばらくして、ドルマがグラントのところへやってきて声をかけた。

「うまくいったな」

「あぁ、もう一機もきっと問題ないだろう」

グラントはまだ起動していない魔機の方を向いて呟く。

少しの沈黙ののち――

「あいつは、とうとう来なかったな……」

ドルマがぼそりと言った。

グラントは髭をなでながら静かに応えた。

「あぁ、そうだな。見ることができなかったんじゃろ。気持ちはわかるがな……」

「精霊の結界に唯一触れることが許される者――”精霊の守り人”か……。ミオルネさんがいなくなって以来、結界へは誰も触れてこなかったからな」

と、ドルマが魔素供給装置の上空を見上げた。

「じゃが、あいつも馬鹿じゃない。しきたりと現実のはざまでもがいているのではないかのぉ」

グラントも同じように空を見上げていた。

空は、依然、雲一つなく青く澄み渡っていた。

そこへ、静寂を割るような声が飛び込んできた。

「あの堅物が、そんなことを思っているわけがないだろ!」

声の主は、いつの間にかグラントとドルマの背後にいたルーインだった。

「そもそも、こんな大事なときに、あいつはどこで何をしている? “精霊の守り人”の家系だっていうのに、自覚が足りなすぎる!」

と、やや語気を荒げて言い放った。

グラントは、肩をすくめ、やれやれといった表情を浮かべてルーインを見た。

「ルーイン……お前は、リーファに対していつも厳しすぎるぞ。幼馴染なんだろう? 少しは気にかけてやれ」

しかし、ルーインはその言葉にあからさまに眉をひそめ、吐き捨てるように言った。

「ふん……幼馴染? 笑わせるな。私はあいつを一度だって、そんな風に思ったことはない。変なことを言わないでくれ」

その瞳には、怒りと、どこか拭いきれない苛立ちが揺れていた。

ドルマが、珍しく口をはさんだ。

「お前さん……リーファに恨みでもあるのか?」

その言葉に、ルーインの顔が一瞬だけ引きつるも、次の瞬間、

「ふっ。馬鹿な。私があんなやつに恨みなどを抱く道理がない」

と言って鼻で笑って見せた。

「……そんなことより、二機目の起動の時はリーファを連れてきてくれ」

そう言うと、二人に背を向けその場を離れていった。

風が、ルーインとグラント、ドルマの間を静かに通り抜けていく。

グラントはふっと小さく笑いながらつぶやいた。

「……あの坊主も、大概、堅物じゃのぉ」

ドルマも頷くと、少しの間をおいてぼそっと言った。

「で……リーファはどうする?」

ドルマの問いに、グラントの脳裏にミルファの顔が浮かんだ。

「そうじゃな……ミルファから面倒を頼まれたからのぉ。ちょっと見てくるか……」

そう言うと、グラントは右手をひらりと上げ、ドルマを背にして歩き出した。

その後ろ姿にドルマが笑みを浮かべてささやいた。

「あんたは、もう……リーファの保護者だな」


――エルシアの森にある広場


足を組み、両腕を枕にして、リーファはいつものように草の上に寝そべっていた。

「仕方ないわよね……。私は、ミルファお姉ちゃんみたいに強くないし……」

自分の無力さを前に、まるであきらめる理由を探すかのように、ぽつりとつぶやいた。

そのまなざしは、どこまでも広く、青く澄み渡る空に向けられていた。

そして今度は、胸元のペンダントをそっと持ち上げ、顔の前に掲げると、それに語りかけるように続けた。

「……確かに。母さんがいたらともかく、しきたりだけじゃ、この森は守れないもんね……」

かつて”精霊の守り人”と証だった古びたペンダント――

今はただの母の形見にしか過ぎないそれが、目の前で静かにくるくると回り続けていた。

「私も、外の世界へ行ったら、お姉ちゃんのようになれるのかしら……行ってみたいなぁ……外の世界」

とつぶやいたそのとき――

頭上から図太い声が響き、同時に年取ったドワーフの顔がひょいと覗き込んできた。

「やはり、ここにおったな」

先ほどまで中央広場にいたグラントであった。

「と、とつぜん話しかけてこないでよっ! び、びっくりしたじゃない!」

リーファは飛び起きて、グラントの方へ体を向けた。

「なんじゃ、いつものことじゃないか」

とグラントは意に介さない態度である。

「だ、だから、いつも突然覗き込まないでって言ってるじゃない!」

と、リーファが顔を赤らめてプンプン怒っている。

「どうだ。母親と姉との思い出の場所で、少しは気がまぎれたか?」

グラントが見透かしたかのように問いかける。

「あ、あんたには……関係ないでしょ」

と言って、腕を組み、リーファがそっぽを向く。

そんなリーファにお構いなく、グラントが切り出した。

「そんなことより、なぜ、魔素供給装置の起動に顔を出さない」

リーファは、しばらく黙っていたが、目を伏せて言った。

「言わなくてもわかってるでしょ。私は、反対だったでしょ……」

「だったら妨害でもなんですればよかったのではないか?」

あまりにも自然な口調のグラントに向かって、

「そ、そんなこと……できるわけないじゃない!」

と、リーファが突っかかるように言った。

それに対してグラントが、さも当たり前のような感じでさらった言った。

「そうか?お前の姉だったらやっていたぞ」

その言葉に、リーファは力なく肩を落とし、うつむきながら呟く。

「お姉ちゃんと私は違うわよ……」

しばらくリーファを見つめていたグラントだが、空を仰ぎながら言った。

「……そうじゃの。その通りじゃ」

「……」

そして、リーファに向き直るとグラントが続けた。

「そもそも……自分でもしきたりだけではダメだとおもっているんじゃないか?」

自分を見透かされたような思いがけない言葉に、すこし驚いた顔でグラントを見返すリーファ。

「お前の母さん、ミオルネさんは確かにすごい人だった」

「……」

「しかし、そもそも、お前とミルファやミオルネさんとは違う。いい加減、身内の姿を追うことはやめて、もっと自由に考えたらどうだ」

「無理よ。私にはあの人たちのような力がないわ。せめて、その背中を追いかけて必死に頑張るしかないの……」

「そうかのぉ。わしにはお前さんはもっと違うもの持っているように思うのじゃが」

「あなたにはわからないわ。お姉ちゃんが私に何を期待していったのか」

「ミルファとは戦友じゃ。それに、付き合いはお前より100年は長い。それなりにあやつのことはわかっているつもりじゃがな」

リーファは黙っていた。

「それに……ミルファが言っておったぞ。お前はミルファより……」

と、グラントが言いかけた時――

ドッコ―ン!

中央広場の方から大きな爆音が起こった。

「なんなの!?」

「まさか、魔素供給装置に何か起こったか?」

ほどなくして、中央広場へ続く通路からジルクが何か叫んでやってくる。

「グラントさーん! そこにいたんですか! 大変です!」

「どうした!」

「ま、魔獣が結界の外に現れました!」

「「魔獣!?」」

ミルファとグラントの二人が同時に叫んだ――。
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