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第四章 森の精霊
第56話 資格なき光の射手、リーファ
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「どこに現れたの!?」
リーファがジルクの方へ向き返り、大声で聞き返す。
「中央広場の目の前です!」
ジルクが中央広場を指さして答えた。
「なんで、こんな時に魔獣が現れるんじゃ!?」
グラントが思わず声を上げる。
「とにかく、いかなくちゃ」
と言って、走り出すリーファ。
「わしは年寄なんじゃがな」
とつぶやくもグラントも走り出す。
中央広場――
ガシーン、ガシーン、ガシーン。
数十メートルはありそうな巨大な魔獣が結界をたたき、大きな衝突音が中央広場で何度も響き渡る。
その様子を見ながら怯えるエルフとドワーフたち。
「皆の者、落ち着け! 結界がある!」
族長のセイラスタンが叫ぶが、その顔は驚きを隠せずにいた。
「ぶ、武器だ! あ、新しい魔機を全部持ってこい!」
ルーインが震えて、声が裏返りながらも、若いエルフたちに指示を出した。
エルフたちは、頷き武器庫の方へ走り出す。
この間も、結界を叩く重低音が響き渡っていた――
「ぞ、族長!結界、ま、まずくないですか!?」
ルーインが、情けない声を発しながら後ずさりをしていた。
セイラスタンは、じっと魔獣を見上げながらポケットのあたりを強く握りしめていたが、その手は震えていた。
その時――
「ルーイン!どうなっている?」
とリーファの声が森の方から聞こえてきた。
「あ、あいつめ!」
ルーインが、震えながらいら立ちの声を上げた。
そして、セイラスタンは、リーファの声がする方を見ると、握りしめていた手を解いた。
ほどなく、森の入り口からリーファの姿が現れたかと思うと、その次の瞬間にはセイラスタンの横に立ち、魔獣を見上げていた。
「こ、こんな時にどこをほっつき歩いてた!」
ルーインが、顔を真っ赤にしてリーファに怒鳴る。
「そんなことより、これ、もつの……?」
呟くようにリーファが言う。
「お、おまえ……」
とルーインが爆発しそうになると、セイラスタンが
「わからん……」
と、ルーインを遮るように言った。
そのためルーインは、口を開けたままプルプル震えていたが何も言えなくなってしまった。
「なんとかしないと……」
リーファがつぶやくと、ルーインが威張ったような態度で返した。
「だ、大丈夫だ。なにせ、新しい魔機を今取りに行っている。それさえあれば……」
「その武器は頼りになるの?」
リーファが魔獣を見上げたまま、ルーインに問いかけた。
「ば、馬鹿な。お前なんかよりずっと頼りになるっ!」
再び顔を真っ赤にしてリーファへ向かってルーインが叫んだ。
すると、ルーインの方を振り向きもせずリーファは笑みを浮かべて、
「なら、私も負けられないな」
とつぶやくやいなや、一足飛びに魔獣の方へ飛び出していったのだった。
ルーインがあっけにとられた顔のまま魔獣の方へ顔を向ける。
その先には、すでに空中へ飛び立ったリーファが無数の矢を魔獣へ向けて放っている光景があった。
「あ、あのバカ。無茶をしやがって!」
ルーインが吐き捨てるように言った。
そこへ――
「おーい」
とジルクが駆けよって来た。
ジルクがセイラスタンとルーインのいるところまで走ってくると、
「どうですか?」
と魔獣を見ながら問う。
セイラスタンは無言のままであった。
その様子を見たルーインが慌ててジルクに叫ぶ。
「ま、魔機があるから大丈夫だ!」
そこへようやくグラントが姿を現し、セイラスタンの横へ走って来た。
そして、グラントは膝に手を当て中腰のまま吐き捨てるように言った。
「まずいな。魔素供給が間に合ってなさそうだ」
その言葉に、セイラスタンとルーインが驚いた顔でグラントの方を向く。
「どうしてわかる!?」
ルーインがイラついた顔つきで問い返す。
「みろ! 魔素反応灯が赤い。あれは、供給中の魔素の密度が薄くなっていることを示しているのじゃ」
グラントは肩で息をしながら答えた。
ルーインは思わず、魔素反応灯の方へ顔を向けたが、その顔は青ざめていた。
「ここは、リーファに任せるしかないな……」
グラントがリーファの姿を見ながら言った。
そんな状況の中、リーファは依然、無数の矢を魔獣へ放っていたが、魔獣は咆哮を上げ続け、致命傷を受けていない様であった。
それを見ていたグラントが
「リーファのやつ。なぜ、エクストラスキルを放たんのじゃ」
と言うと、ハッと自ら気づいた。
「魔素が足りないのか?」
「なんだと?」
ルーインが驚きの表情でグラントを見る。
「まずいな。どうするか……」
グラントが腕を組み考え込むと、ジルクが言った。
「魔素供給装置からリーファさんへ魔素を流すことってできないですかね?」
「リーファに結界内に戻って、魔素を供給することはできるが、いまの状態では供給している間に結界が破られるかもしれんな」
グラントが顔をしかめて答えた。
「そ、それはダメだ。ここを魔獣に破られてしまったら被害が甚大だ」
ルーインが力なく言った。
「では、こういうのはどうでしょう」
とジルクが切り出す。
「魔素を一点集中して、そのあたりにリーファさんから直接吸い上げてもらうというのは」
「うーむ、できなくもないか」
グラントが唸りながら答えた。
「やるしかないですよ。このままだとリーファさんがまずいです」
「しかし、魔素供給装置からの出力にも限度がある。ある程度、時間をかけてリーファへの供給をする必要があるぞ」
とグラントが言ったそのときだった。
「ルーインさん、魔機を持ってきました!」
先ほど、武器庫へ魔機を取りに行っていた若者たちが戻って来た。
「おぉ、待っていたぞ!」
とルーインの声が明るくなった。
そして、続けてルーインが命じた。
「この魔機があれば魔獣など敵ではない!お前たち、結界の外へ行って、魔獣を討伐してこい!」
しかし、若者たちは魔獣を見上げると、そのあまりの恐ろしさに身じろぎをし始めた。
「ど、どうした!?お前たち。早く、リーファに加勢しろ!」
とルーインが命じると、若者たちは魔機を置いて森奥へ逃げて行ってしまった。
「お、臆病者!エルフ族の誇りをわすれたのか!」
逃げ去った方向に体を向けルーインが叫ぶが、誰も戻ってくるものがいなかった。
ルーインは膝から崩れ落ち、四つん這いとなって震えた。
そんな様子にジルクが言った。
「仕方ないですよ。あの魔獣を見れば、誰もが逃げたくなります」
するとジルクが魔機の方へ歩みだす。
「これらの魔機は、バルナックさんが作ったんですよね」
そして、魔機を手に取ると、
「僕が結界の外へ出て、リーファさんに作戦を伝えると同時に、この魔機を使って時間を稼ぎます」
その様子を力なく見上げるルーイン。
その後ろからグラントが言った。
「危険だぞ。他の方法を考えた方が……」
「そんな時間はありません。もし誰もあの魔獣を止めることができなければ、どのみち全員やられてしまうんです」
ジルクがまっすぐグラントを見て言った。
「……わかった。わしはドルマのところへ行って、魔素供給装置の調整をしてくる。だが、くれぐれも無理をせんように」
グラントも、ジルクの気構えに押され作戦の実行を決断する。
「では、行ってきます」
と言うと、ジルクは魔機を担ぎ、リーファと魔獣が戦っている方へ駆け出していった。
「おーい、ドルマ!急いで魔素集中の調整をするぞぉ!」
と言って、グラントもドルマの方へ走っていった。
残されたセイラスタンとルーインは、だたただその場に立ち尽くすだけであった。
―――
「まずいわ。足止めで精いっぱい。魔素がもっとあれば……」
連続して弓矢を打ち続けているリーファ。呼吸も乱れ始め、焦りが見え始めていた。
「どうする?いまやれるとしたら、結界から魔素を分けてもらうか……」
こう思いつくも――
「ダメッ。それができるのは精霊の守り人だけ。私にはその資格がないわ」
リーファは、自ら自分の考えを否定した。
その時、
「リーファさ~ん!」
ジルクが結界から出てきて叫んでいた。
「な、なにをしてるの!危ないから結界内へ戻って!」
リーファが驚いてジルクへ顔を向ける。
「僕が時間を稼ぎます!だからリーファさんは、魔素供給装置で魔素の濃度が濃くなっているあたりまで行って、そこから魔素を吸収してください!」
と、ジルクが魔素供給装置から魔素が集まっている場所を指さした。
その指の先にある場所を見るリーファ。
「でも、あなたは大丈夫なの?」
「大丈夫です。僕は、この新しい魔機で戦います!」
「わ、わかったわ。ちょっとの間、お願い!」
そういうと、リーファは魔素が集中しているあたりに飛んで行った。
ジルクは、魔機を構え、魔獣へその銃口を向ける。
次の瞬間、魔機から強烈な弓矢の形をした光の矢が放たれた。
その矢は、宙を裂き、一直線に魔獣の脇あたりに突き刺さると、大きな爆音とともにはじけた。
魔獣は、大きな悲鳴を上げるとともに腕を振り回す。
だが、明らかにダメージを受けた様子ではあったが、致命傷にはなりえていなかった。
腕を振り回すたびに、その風圧を受けてよろけるジルク。
そのため、次の焦点を定められないでいた。
リーファは、魔素の密度が濃い場所から徐々に魔素を吸収し始めていた。
「お願い。早く魔素を……」
祈るようにつぶやくリーファ。
ジルクは、風圧に耐えながらも銃口を魔獣に定め、次の弓矢の光を放った。
しかし、今度は、魔獣の頭の横をそれてその後ろで爆発を起こしただけであった。
「なにやっているの。あの子は!」
リーファは気が気ではない様子で、今にも、その場を離れてジルクを助けに行きそうな勢いであった。
ジルクは、苦笑しながら、
「次は外さない」
と銃口を再び魔獣へ向ける。
しかし、先ほど放った弓矢の光でジルクの位置を認識した魔獣が、今度はジルクの方へ向かってきていた。
リーファが叫ぶ。
「ジルク!逃げなさい!」
しかしジルクは逃げない。
「ここで逃げたら、チャンスを失ってしまう。やるしかない」
ジルクは、ひるむことなく魔機を構えてぎりぎりまで魔獣を引き付けるつもりだった。
「魔素がまだ足りない!でもあの子を助けなくちゃ!どうすれば……」
焦るリーファ。
ジルクに歩み寄る魔獣。
それを狙うジルク。
次の瞬間――
カチッ
ジルクが魔機の引き金を引いた音だった。
しかし、弓矢の光が放たれない。
「なんだと?」
ジルクが驚く。
その刹那、魔獣が腕を高く振り上げ、ジルクを狙う。
「くそっ」
魔機を投げ捨て、逃げようとするジルク。
しかし、慌てて足をもつれさせ、木の根に足を取られて倒れこんでしまったのだ。
「くっ!」
ジルクは必死に立ち上がろうとするが――
「間に合わない……」
リーファが魔素供給装置を見て呟いたかと思うと――
結界面全体からオーラのようなものが沸き立ちはじめた。
それは、魔素密度の濃い地点からではなく、むしろ結界そのものから溢れ出すようであった。
そして、そのオーラらしきものが、一直線にリーファへと注がれていった。
一方魔獣は――
獲物を追い詰めたかのようにジルクの前に立ち止まると、片腕を天高く振り上げ、その状態で制止をした。
まるで追い詰めた獲物をもてあそび、その最期の瞬間を決めかねているかのようだった。
そしていよいよ、その腕を振り下ろさんばかりに咆哮をあげた時――
魔獣の後ろが強烈な光に覆われ、ジルクには魔獣のシルエットしか見えなくなった。
「えっ」
思わずジルクが驚く。
すると、先ほどの魔獣の咆哮が悲痛な叫びに変わったかと思うと、そのまま魔獣があおむけに倒れたのだった。
あっけにとられたジルクが魔獣の倒れた先を見ると、そこには、矢を放った後のような姿勢のリーファが空中に浮かんでいたのだった――
その胸にぶら下がるペンダントが、ただただ揺れ動いていた。
リーファがジルクの方へ向き返り、大声で聞き返す。
「中央広場の目の前です!」
ジルクが中央広場を指さして答えた。
「なんで、こんな時に魔獣が現れるんじゃ!?」
グラントが思わず声を上げる。
「とにかく、いかなくちゃ」
と言って、走り出すリーファ。
「わしは年寄なんじゃがな」
とつぶやくもグラントも走り出す。
中央広場――
ガシーン、ガシーン、ガシーン。
数十メートルはありそうな巨大な魔獣が結界をたたき、大きな衝突音が中央広場で何度も響き渡る。
その様子を見ながら怯えるエルフとドワーフたち。
「皆の者、落ち着け! 結界がある!」
族長のセイラスタンが叫ぶが、その顔は驚きを隠せずにいた。
「ぶ、武器だ! あ、新しい魔機を全部持ってこい!」
ルーインが震えて、声が裏返りながらも、若いエルフたちに指示を出した。
エルフたちは、頷き武器庫の方へ走り出す。
この間も、結界を叩く重低音が響き渡っていた――
「ぞ、族長!結界、ま、まずくないですか!?」
ルーインが、情けない声を発しながら後ずさりをしていた。
セイラスタンは、じっと魔獣を見上げながらポケットのあたりを強く握りしめていたが、その手は震えていた。
その時――
「ルーイン!どうなっている?」
とリーファの声が森の方から聞こえてきた。
「あ、あいつめ!」
ルーインが、震えながらいら立ちの声を上げた。
そして、セイラスタンは、リーファの声がする方を見ると、握りしめていた手を解いた。
ほどなく、森の入り口からリーファの姿が現れたかと思うと、その次の瞬間にはセイラスタンの横に立ち、魔獣を見上げていた。
「こ、こんな時にどこをほっつき歩いてた!」
ルーインが、顔を真っ赤にしてリーファに怒鳴る。
「そんなことより、これ、もつの……?」
呟くようにリーファが言う。
「お、おまえ……」
とルーインが爆発しそうになると、セイラスタンが
「わからん……」
と、ルーインを遮るように言った。
そのためルーインは、口を開けたままプルプル震えていたが何も言えなくなってしまった。
「なんとかしないと……」
リーファがつぶやくと、ルーインが威張ったような態度で返した。
「だ、大丈夫だ。なにせ、新しい魔機を今取りに行っている。それさえあれば……」
「その武器は頼りになるの?」
リーファが魔獣を見上げたまま、ルーインに問いかけた。
「ば、馬鹿な。お前なんかよりずっと頼りになるっ!」
再び顔を真っ赤にしてリーファへ向かってルーインが叫んだ。
すると、ルーインの方を振り向きもせずリーファは笑みを浮かべて、
「なら、私も負けられないな」
とつぶやくやいなや、一足飛びに魔獣の方へ飛び出していったのだった。
ルーインがあっけにとられた顔のまま魔獣の方へ顔を向ける。
その先には、すでに空中へ飛び立ったリーファが無数の矢を魔獣へ向けて放っている光景があった。
「あ、あのバカ。無茶をしやがって!」
ルーインが吐き捨てるように言った。
そこへ――
「おーい」
とジルクが駆けよって来た。
ジルクがセイラスタンとルーインのいるところまで走ってくると、
「どうですか?」
と魔獣を見ながら問う。
セイラスタンは無言のままであった。
その様子を見たルーインが慌ててジルクに叫ぶ。
「ま、魔機があるから大丈夫だ!」
そこへようやくグラントが姿を現し、セイラスタンの横へ走って来た。
そして、グラントは膝に手を当て中腰のまま吐き捨てるように言った。
「まずいな。魔素供給が間に合ってなさそうだ」
その言葉に、セイラスタンとルーインが驚いた顔でグラントの方を向く。
「どうしてわかる!?」
ルーインがイラついた顔つきで問い返す。
「みろ! 魔素反応灯が赤い。あれは、供給中の魔素の密度が薄くなっていることを示しているのじゃ」
グラントは肩で息をしながら答えた。
ルーインは思わず、魔素反応灯の方へ顔を向けたが、その顔は青ざめていた。
「ここは、リーファに任せるしかないな……」
グラントがリーファの姿を見ながら言った。
そんな状況の中、リーファは依然、無数の矢を魔獣へ放っていたが、魔獣は咆哮を上げ続け、致命傷を受けていない様であった。
それを見ていたグラントが
「リーファのやつ。なぜ、エクストラスキルを放たんのじゃ」
と言うと、ハッと自ら気づいた。
「魔素が足りないのか?」
「なんだと?」
ルーインが驚きの表情でグラントを見る。
「まずいな。どうするか……」
グラントが腕を組み考え込むと、ジルクが言った。
「魔素供給装置からリーファさんへ魔素を流すことってできないですかね?」
「リーファに結界内に戻って、魔素を供給することはできるが、いまの状態では供給している間に結界が破られるかもしれんな」
グラントが顔をしかめて答えた。
「そ、それはダメだ。ここを魔獣に破られてしまったら被害が甚大だ」
ルーインが力なく言った。
「では、こういうのはどうでしょう」
とジルクが切り出す。
「魔素を一点集中して、そのあたりにリーファさんから直接吸い上げてもらうというのは」
「うーむ、できなくもないか」
グラントが唸りながら答えた。
「やるしかないですよ。このままだとリーファさんがまずいです」
「しかし、魔素供給装置からの出力にも限度がある。ある程度、時間をかけてリーファへの供給をする必要があるぞ」
とグラントが言ったそのときだった。
「ルーインさん、魔機を持ってきました!」
先ほど、武器庫へ魔機を取りに行っていた若者たちが戻って来た。
「おぉ、待っていたぞ!」
とルーインの声が明るくなった。
そして、続けてルーインが命じた。
「この魔機があれば魔獣など敵ではない!お前たち、結界の外へ行って、魔獣を討伐してこい!」
しかし、若者たちは魔獣を見上げると、そのあまりの恐ろしさに身じろぎをし始めた。
「ど、どうした!?お前たち。早く、リーファに加勢しろ!」
とルーインが命じると、若者たちは魔機を置いて森奥へ逃げて行ってしまった。
「お、臆病者!エルフ族の誇りをわすれたのか!」
逃げ去った方向に体を向けルーインが叫ぶが、誰も戻ってくるものがいなかった。
ルーインは膝から崩れ落ち、四つん這いとなって震えた。
そんな様子にジルクが言った。
「仕方ないですよ。あの魔獣を見れば、誰もが逃げたくなります」
するとジルクが魔機の方へ歩みだす。
「これらの魔機は、バルナックさんが作ったんですよね」
そして、魔機を手に取ると、
「僕が結界の外へ出て、リーファさんに作戦を伝えると同時に、この魔機を使って時間を稼ぎます」
その様子を力なく見上げるルーイン。
その後ろからグラントが言った。
「危険だぞ。他の方法を考えた方が……」
「そんな時間はありません。もし誰もあの魔獣を止めることができなければ、どのみち全員やられてしまうんです」
ジルクがまっすぐグラントを見て言った。
「……わかった。わしはドルマのところへ行って、魔素供給装置の調整をしてくる。だが、くれぐれも無理をせんように」
グラントも、ジルクの気構えに押され作戦の実行を決断する。
「では、行ってきます」
と言うと、ジルクは魔機を担ぎ、リーファと魔獣が戦っている方へ駆け出していった。
「おーい、ドルマ!急いで魔素集中の調整をするぞぉ!」
と言って、グラントもドルマの方へ走っていった。
残されたセイラスタンとルーインは、だたただその場に立ち尽くすだけであった。
―――
「まずいわ。足止めで精いっぱい。魔素がもっとあれば……」
連続して弓矢を打ち続けているリーファ。呼吸も乱れ始め、焦りが見え始めていた。
「どうする?いまやれるとしたら、結界から魔素を分けてもらうか……」
こう思いつくも――
「ダメッ。それができるのは精霊の守り人だけ。私にはその資格がないわ」
リーファは、自ら自分の考えを否定した。
その時、
「リーファさ~ん!」
ジルクが結界から出てきて叫んでいた。
「な、なにをしてるの!危ないから結界内へ戻って!」
リーファが驚いてジルクへ顔を向ける。
「僕が時間を稼ぎます!だからリーファさんは、魔素供給装置で魔素の濃度が濃くなっているあたりまで行って、そこから魔素を吸収してください!」
と、ジルクが魔素供給装置から魔素が集まっている場所を指さした。
その指の先にある場所を見るリーファ。
「でも、あなたは大丈夫なの?」
「大丈夫です。僕は、この新しい魔機で戦います!」
「わ、わかったわ。ちょっとの間、お願い!」
そういうと、リーファは魔素が集中しているあたりに飛んで行った。
ジルクは、魔機を構え、魔獣へその銃口を向ける。
次の瞬間、魔機から強烈な弓矢の形をした光の矢が放たれた。
その矢は、宙を裂き、一直線に魔獣の脇あたりに突き刺さると、大きな爆音とともにはじけた。
魔獣は、大きな悲鳴を上げるとともに腕を振り回す。
だが、明らかにダメージを受けた様子ではあったが、致命傷にはなりえていなかった。
腕を振り回すたびに、その風圧を受けてよろけるジルク。
そのため、次の焦点を定められないでいた。
リーファは、魔素の密度が濃い場所から徐々に魔素を吸収し始めていた。
「お願い。早く魔素を……」
祈るようにつぶやくリーファ。
ジルクは、風圧に耐えながらも銃口を魔獣に定め、次の弓矢の光を放った。
しかし、今度は、魔獣の頭の横をそれてその後ろで爆発を起こしただけであった。
「なにやっているの。あの子は!」
リーファは気が気ではない様子で、今にも、その場を離れてジルクを助けに行きそうな勢いであった。
ジルクは、苦笑しながら、
「次は外さない」
と銃口を再び魔獣へ向ける。
しかし、先ほど放った弓矢の光でジルクの位置を認識した魔獣が、今度はジルクの方へ向かってきていた。
リーファが叫ぶ。
「ジルク!逃げなさい!」
しかしジルクは逃げない。
「ここで逃げたら、チャンスを失ってしまう。やるしかない」
ジルクは、ひるむことなく魔機を構えてぎりぎりまで魔獣を引き付けるつもりだった。
「魔素がまだ足りない!でもあの子を助けなくちゃ!どうすれば……」
焦るリーファ。
ジルクに歩み寄る魔獣。
それを狙うジルク。
次の瞬間――
カチッ
ジルクが魔機の引き金を引いた音だった。
しかし、弓矢の光が放たれない。
「なんだと?」
ジルクが驚く。
その刹那、魔獣が腕を高く振り上げ、ジルクを狙う。
「くそっ」
魔機を投げ捨て、逃げようとするジルク。
しかし、慌てて足をもつれさせ、木の根に足を取られて倒れこんでしまったのだ。
「くっ!」
ジルクは必死に立ち上がろうとするが――
「間に合わない……」
リーファが魔素供給装置を見て呟いたかと思うと――
結界面全体からオーラのようなものが沸き立ちはじめた。
それは、魔素密度の濃い地点からではなく、むしろ結界そのものから溢れ出すようであった。
そして、そのオーラらしきものが、一直線にリーファへと注がれていった。
一方魔獣は――
獲物を追い詰めたかのようにジルクの前に立ち止まると、片腕を天高く振り上げ、その状態で制止をした。
まるで追い詰めた獲物をもてあそび、その最期の瞬間を決めかねているかのようだった。
そしていよいよ、その腕を振り下ろさんばかりに咆哮をあげた時――
魔獣の後ろが強烈な光に覆われ、ジルクには魔獣のシルエットしか見えなくなった。
「えっ」
思わずジルクが驚く。
すると、先ほどの魔獣の咆哮が悲痛な叫びに変わったかと思うと、そのまま魔獣があおむけに倒れたのだった。
あっけにとられたジルクが魔獣の倒れた先を見ると、そこには、矢を放った後のような姿勢のリーファが空中に浮かんでいたのだった――
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