異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第73話 黒き策謀と動き出す七つの大罪――強欲

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魔獣召喚装置の部屋へ繋がる一本の廊下をアルデオリス侯爵が一人歩いていた。

すると、前方から焦げ臭い匂いと、兵士たちが慌ただしく行き交っている姿が目につく。

その様子がおかしいことに気づいたアルデオリスは、落ち着いた口調で兵士達に声をかけた。

「何事だ……」

兵士の一人がアルデオリスに気づく。

「こ、これはアルデオリス様……」

と一瞬戸惑うも、続けてアルデオリスに告げた。

「魔獣召喚装置が大爆発をしてしまいました。今、その対応を行なっている所です」

「何?」

一瞬、考える素振りのアルデオリス。

しかしすぐに兵士に確認をする。

「この件、陛下には報告したのか?」

兵士は、背を正すとアルデオリスに答えた。

「はい。先ほど、別のものが陛下の元へ参りました」

「そうか、わかった。行っていいぞ」

「はっ」

と言って兵士が立ち去っていく。

その後ろ姿を見ながら、アルデオリスが一人ほくそ笑んだ。

そして、マントを翻し、後ろへ振り返ると今来た廊下を戻って行った。



玉座の間――



「説明しろ!!」

激高し玉座から立っているアークリオスの階下に、リーダー格の白衣を着た科学者が青ざめた顔で縮こまっていた。

「は、はい……へ、陛下のご要望通り、早急に魔獣召喚装置を修理して、新たな魔獣を召喚しましたところ……ば、爆発してしまい……そのぉ……」

「そんなことは、わかっている!これからどうするつもりかと聞いている!」

アークリオスは、今にも階段を踏み降りて白衣の科学者の胸倉を掴みそうな勢いで怒鳴りつけた。

「ご、ご安心ください。爆発したのはごく一部です。か、可能な限り修理を……する所存で……す……」

蚊の鳴くような声で返答するその科学者。

「えーい、お前では話にならん!そうだ、アルデオリスを呼べ!」

と言い放ったその時――

玉座の間の重厚な扉が、ギィーッと低く音を立ててゆっくりと開いた。

「呼ばずとも、すでに参上しております」

穏やかな声。

アークリオスがその声の主に目を向ける。

そこに立っていたのは、黒い外套をまとったアルデオリスであった。

「おぉ、アルデオリス侯爵……今まさに貴殿を呼ぼうとしていたところだ」

と、冷静を装ってアークリオスが答えた。

アルデオリスは、王座へと続く階段の下までゆっくり歩み、膝をつき手を胸に添えると頭を垂れる。

「陛下、先ほど兵士から魔獣召喚装置が大爆発を起こしたと聞き、急いで参りました」

(こ、こやつのこうした先回りをしてくるところが鼻につくのだ……)

アークリオスはやや顔が引きつっている。

「そ、そうであったか。であれば話は早い」

と言って玉座に腰を下ろすと、

「で、これからどうすればよいか、貴殿の意見を伺いたいのだが」

と、アークリオスは、アルデオリスを見下しながら言った。

アルデオリスは、頭を伏したまま答える。

「恐れながら……いま、魔族界への魔獣召喚をこのままやめてしまうことが最もよくありません」

そして、アルデオリスが顔を上げると話をつづけた。

「しかし、大破した魔獣召喚装置を我が国の科学者どもでは直すことはできないでしょう」

アークリオスは、アルデオリスの横で棒立ちの白衣の科学者をギロリとみると、その科学者が震えあがる。

「そこで、現実的に考えると、ラグナメアから他の召喚装置を再び貸してもらうように依頼するのがよろしいかと存じます」

プライドだけは高いアークリオス。

玉座から立つと、今度はアルデオリスを睨めつけて怒鳴った。

「貴様!この我に、異世界の下郎どもへ頭を垂れろと申すかぁっ!」

怒りを隠しきれず、握った拳がブルブル震えていた。

それに対し、落ち着き払った一声が玉座の間の空気を支配した。

「そうではありません」

声を荒げていた王の背筋が、無意識にこわばる。

「今回お借りした装置は欠陥であったのではないか?というあくまで先方に落ち度があるという姿勢で話を進めてください」

「なんじゃと?」

アークリオスの拳から力が抜ける。

「はい。貴国の技術にしては、どうもおかしい。ひょっとすると、我が国を試しておられるのか。古びた装置を渡して、我らの反応を見ておられるのでは?
であれば、そろそろ本物の魔獣召喚装置を貸してはもらえぬか?と、微笑みながら言えばよいのです」

アークリオスが玉座に座ると、自分の衣服に施されている宝石類がジャラッと鳴った。

「な、なるほど……だがオルギーが怒りはせんか?」

アークリオスが尋ねると、アルデオリスの口元がわずかに緩む。

まるで、その言葉を待っていたかのようだった。

「オルギー将軍は懐のでかい方です。間違いなく、こちらの申し出には寛容な態度で応じられるでしょう。ただ……」

「ただ……?」

アークリオスが聞き返すと、アルデオリスはさらに続けた。

「オルギー将軍は、一度考えさせてくれと言ってくるでしょう」

そう言うと、アルデオリスが立ち上がる。

「将軍たるもの、他国の王とはいえ、二つ返事で了承を得ることは考えづらいからです」

「……」

アークリオスが黙っている。

「しかし、将軍は必ず新しい魔獣装置を我が国に与えるでしょう」

アルデオリスの顔には自信の色がうかがわれた。

「なぜだ?」

その自信に、思わず問いを立てるアークリオス。

「彼の自負心がそうさせます。自らの技術が欠陥などと疑われたままでは、オルギー将軍の名に傷がつく。それに、我が国には魔素の原石が無尽蔵にある」

と言って、アルデオリスはアークリオスに目配せをすると、隣に立つ白衣の科学者に目をやった。

「……それを利用して、より強力な魔獣を召喚させ、自らの手を汚さずに魔族界を滅ぼさせることができるからです」

アークリオスは一瞬、目をぱちくりさせると、

「確かにそうであるな。我もそのように考えておったところだ!」

と高らかに声を上げ、アルデオリスの隣で呆然と立っている白衣の科学者を一瞥するとにやりと笑った。

「確かに、我が国には、大量の魔素の原石がある。それが我が国の強みよ!はっはっはっ」

高笑いが玉座の間に響く。

そこへ、

「もう一つ。申し上げたいことがございます」

と、再びアルデオリスが膝をついた。

笑い声がピタッと止め、キョトンとした顔でアルデオリスを見下ろすアークリオス。

「な……んだ?」

「現在、魔族界に解き放たれている魔獣たちの件です」

アークリオスの顔が真顔に変わる。

「そろそろ奴らに対する措置を施しておく必要があるかと……」

「なるほど。確かに貴殿の言う通りだ……で、何か考えがあるのか?」

アルデオリスの顔を伺うようにアークリオスが言った。

「可能であれば、強欲のプレオナ様か色欲のラグニア様に偵察に行っていただけたらと……」

と、窓辺の椅子に座っているラグニアの方へ顔を向けるアルデオリス。

すると――

「私はいやよ。あんな虫がいっぱいいそうなところなんて」

ラグニアが声を発した。

それを聞いたアークリオスが少し怒った口調でアルデオリスに言った。

「そ、そうじゃとも。ラグニア殿をいかせるわけにはいかんぞ」

アルデオリスを睨み、

(このうつけが!ラグニアが行ってしまったら我が寂しいではないか!)

と、内心、身勝手な考えを浮かべるアークリオス。

「それに、二人ともいなくなってしまったらここの守りはどうするのだ!」

アークリオスは、必死にラグニアが行くことを拒んでいるように、適当な理由をぶつけてきた。

「それは、心配に及びません」

冷静に返してきたアルデオリスに、ビクッとするアークリオス。

「魔獣は北上してきているはずです。ですので、この地よりそれほど遠くない場所のため、もし他国が我が国へ攻め入るようなことがあっても、七つの大罪のお二人であれば瞬時に我が国へ戻ってこられるかと」

まともな回答にアークリオスの顔が引きつる。

「俺は別に行ってやっても構わないぞ」

と、柱の陰にひっそりとしていたプレオナが話に入って来た。

「ただし、移動は俺の足だ。身体がなまってる。道中、少しばかり“遊んで”いく」

ニヤリとプレオナが笑った。

「そ、そうか……ならばプレオナ殿にお願いするとしよう」

アルデオリスがラグニアに何かを言いそうな気がしてならないアークリオスは、この話を早く終わらせようとしていた。

アルデオリスもニヤリとほくそ笑むと、立ち上がってプレオナの方を向く。

「それは、ありがたいことです。歩いて行かれることはまったく問題ございません。要は、魔獣がこちらに来ることを防げればよいのですから。むしろ、歩いて行っていただいた方が、その間に魔獣が北上してきて、我が国に近いところで討伐できるかもしれません。我が国に近いところであれば、有事の際、プレオナ様には、迅速に戻ってきていただけるでしょうし、願ったりです」

「ふっ。どうだか……」

プレオナは、アルデオリスが何かを企んでいそうな気配は感じ取っているようであった。

そして、後ろへ振り向き、右手を振りながら

「まぁ、いいだろう。俺も退屈だったからな」

と言って、玉座の間を一人出て行った。

それを見送ると、アルデオリスも

「では、私もいろいろと準備をしておきましょう」

と言って、アークリオスに一礼して、マントを翻し、扉を出て行った。

「では、我もオルギーに魔話機で話をつけるとしよう。魔話機を持ってまいれ!」

部下に指示を出すとアークリオスが、再びいやらしい目つきでラグニアをなめるように見つめだす。

その様子を一瞥して軽くため息をつくと、ラグニアも席を立ち、アルデオリスの出て行った扉から姿を消したのだった。

キョトンとした顔でラグニアを目で追うアークリオス。

しばし、玉座の間は静寂に包まれた。

それはまるで、策士にのせられたとも知らぬ愚王と、絶望に沈む白衣の科学者を軽蔑するかのように――。
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