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第三章 咆哮の誇り ※序盤、シリアス、途中、切ない系、終盤、怒涛のカタルシス
第28話 獣族の祭典――ガルテラ村の武闘大会
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ミィナが扉を開き、陶器の薬瓶を抱きながら部屋に入った。
そこには、ルガルが譫言を言いながら眠っている。
その横の椅子には、ゼルミスが静かに座っていた。
「おぉ、聖水か。そこへ置いておいてくれ」
ゼルミスが薬瓶に気づき、やさしく告げる。
ミィナが瓶をそっと棚に置いたそのときだった。
「セシアーっ!」
うなされていたルガルが、突然叫びながらガバッと起き上がる。
「ああ……っ」
ミィナが思わず一歩引くと、ルガルはようやく周囲に気づいた。
「起きたか」
ゼルミスの声が、静かに空気を満たす。
ルガルは返答せず、ただ目を伏せた。
「相当、うなされておったのだがな」
「……恥ずかしいところをお見せした……」
「わしはゼルミス。こっちの子は、わしの孫娘のミィナじゃ。お主が寝ている間、いろいろ世話をさせておった」
「……ありがとう。助かった」
それはどこか上の空な、形式的な感謝だった。
ゼルミスはその反応を気にせず、ゆるやかに話を継ぐ。
「いろいろ大変なことがあったようだが――村で何が起こったか、もう少し詳しく聞かせてもらえんかのぉ」
ルガルはしばし目を閉じ、やがてゆっくりと開いた。
「……あれは、半月ほど前だった。私たちの村は、様々な獣種が共に暮らす村だった。それなりに――いや、十分に仲良く、共に生活を営んでいた」
少しずつ、その声に熱が戻ってくる。
「その日も、村の皆が集まって、年に一度の武道大会を開いていたんだ。老いも若きも参加できる、笑いと誇りに満ちたそんな日だった……」
その声は、遠い日々をたぐり寄せるように低く、深く響いていた。
だがその奥底には、言葉にはならぬ痛みと、拭いきれぬ後悔の澱が垣間見えた。
そして、ゼルミスとミィナは、静かに聞いていた。
“牙咆のルダル”――かつて誇りをその名に宿していた男が、敗北と喪失を背負い、今はただひとりの逃亡者として語る――。
***
――半月前のガルテラ村
「今年もルガルが優勝候補か。毎年変わり映えなくてつまらねぇなぁ」
「いやいや、今年はグレオニウスも出場するらしいぞ」
「マジかよ!? だったら見ごたえがあるな」
「なにせ、あの“牙咆のルダル”と“烈煌のグレオニウス”だぞ。ゼルヴァス10傑の二人だ」
「早く行って席取らなきゃ!」
――選手控室の一角
ルダルと、獅子種のグレオニウスが、互いに笑顔を交わしていた。
「久しぶりにお前と対戦できそうで、うれしいぞ、グレオニウス」
「ああ。俺もだ。……とはいえ、昔ほど魔素は残っていない。お互い、全盛期の実力を出すのは難しいかもな」
「確かにな。……でも、とにかく今を楽しもう」
「アタシも混ぜてくれよ」
朗らかな声が割り込む。セシアが笑顔で近づいてきた。
「おぉ、エントリーしてたのか」
と、グレオニウスが言う。
「当然でしょ? アタシだって、戦士のつもりだよ」
「そうだったな……。お前たちの結婚式、楽しみにしてるぞ。だから今日の試合ではくれぐれもケガすんなよ? 松葉杖の花嫁なんて見たくないからな。はっはっはっ」
「言ってくれるね。お前こそ、ケガで欠席とか勘弁だからね」
そのとき、外から大歓声が響いた。
「第一試合が始まったようだな。そろそろ行くか」
三人は互いに視線を交わし、それぞれの戦いへと歩き出した――
***
――歓声が渦巻く中央闘技場
準決勝――。
観客の期待を一身に集めるのは、二つの影。
一方はチーター種の俊足戦士、セシア。
もう一方は、獅子種の猛者、グレオニウス。
「これも面白いぞ!セシアとグレオニウスの真剣勝負なんて滅多に見られんぞ!」
「準決勝!セシア 対 グレオニウス!牙咆のルダルと決勝で戦うのは、果たしてどちらか!?」
審判の高らかな声と同時に、開始の合図が響く。
疾風のごとく飛び出したのは、セシアだった。
鋭く地を蹴り、流線型に地を滑る。
(初手は見切られる。だが、それでいい。これは誘いだ――)
一撃、二撃、三撃。高速の爪打ちがグレオニウスを襲う。
しかし、
「……速いが、軽い」
グレオニウスは一歩も動かず、腕を交差させて受けきる。
そのたび、石床に音が響き、風圧が舞う。
そして、グレオニウスが足を一歩踏み出す。
その瞬間――
「!?」
セシアの姿が、視界から消えた。
「空中……ッ!?」
頭上から、落下と共に放たれる踵落とし。
グレオニウスは咄嗟に腕を上げて受け止めたが――
「クッ……!」
地面にひびが走る。
観客から歓声が沸き起こった。
「やるな、セシア!」
「グレオニウスが後退したぞ!?」
着地したセシアの呼吸は乱れていない。
「まだまだいくよ!」
低く構え、跳ねるように右へ。今度はフェイントからのフック。
それを待ち受けるように、グレオニウスが大きく右腕を振る。
“斬獅”――
魔素をまとった爪が空を裂き、圧がセシアを弾く。
だが、
「……見えてたよ、そのくらい!」
セシアはバックステップで受け流し、すぐさま反撃へ。
(力じゃ敵わない。でも、速度と機転なら――)
三連撃のあとに、左へ跳び、視界の外からの突撃。
しかし、グレオニウスの反応は速かった。
「読みやすいぞ!」
体をひねり、肘で迎撃。
セシアの腹にヒット――
「くっ……!」
数メートル飛ばされ、地面に転がるセシア。
場内に、どよめきと悲鳴が混じる。
「セシア、大丈夫かッ!?」
「まだいける! 立て、セシア!」
立ち上がるセシアの目は、爛々と輝いていた。
「なるほどね……さすがはグレオニウス。本気でいかなきゃ、やっぱ勝てないか」
両足に魔素を集中。地面を押し砕き、跳ねる。
「――“迅爪!”」
五連撃が雷のように降り注ぐ。
一撃でも受ければ決定打になる、殺到の技。
グレオニウスはそれらすべてを、足運びと最小限の動作で回避。
「見事だ、セシア――」
そして次の瞬間、彼の目に一瞬の隙が映る。
「ここだッ!――“爆獅”!」
咆哮と共に放たれた一撃が、セシアの攻撃動作の合間を貫いた。
「ぐっ――!」
体が空中に吹き飛び、地面に転がる。
セシアが動けない。
審判の声が響く寸前、グレオニウスが一歩踏み出し、静かに手を差し出した。
「強くなったな。俺もやっとだったぞ」
セシアは苦笑しながら、その手を取る。
「嘘をつけ……まだ余裕があるように見えたぞ。アタシの完敗だよ」
立ち上がった彼女は、笑顔のままグレオニウスの腕を高らかに掲げる。
場内が爆発するような歓声に包まれた――
そこには、ルガルが譫言を言いながら眠っている。
その横の椅子には、ゼルミスが静かに座っていた。
「おぉ、聖水か。そこへ置いておいてくれ」
ゼルミスが薬瓶に気づき、やさしく告げる。
ミィナが瓶をそっと棚に置いたそのときだった。
「セシアーっ!」
うなされていたルガルが、突然叫びながらガバッと起き上がる。
「ああ……っ」
ミィナが思わず一歩引くと、ルガルはようやく周囲に気づいた。
「起きたか」
ゼルミスの声が、静かに空気を満たす。
ルガルは返答せず、ただ目を伏せた。
「相当、うなされておったのだがな」
「……恥ずかしいところをお見せした……」
「わしはゼルミス。こっちの子は、わしの孫娘のミィナじゃ。お主が寝ている間、いろいろ世話をさせておった」
「……ありがとう。助かった」
それはどこか上の空な、形式的な感謝だった。
ゼルミスはその反応を気にせず、ゆるやかに話を継ぐ。
「いろいろ大変なことがあったようだが――村で何が起こったか、もう少し詳しく聞かせてもらえんかのぉ」
ルガルはしばし目を閉じ、やがてゆっくりと開いた。
「……あれは、半月ほど前だった。私たちの村は、様々な獣種が共に暮らす村だった。それなりに――いや、十分に仲良く、共に生活を営んでいた」
少しずつ、その声に熱が戻ってくる。
「その日も、村の皆が集まって、年に一度の武道大会を開いていたんだ。老いも若きも参加できる、笑いと誇りに満ちたそんな日だった……」
その声は、遠い日々をたぐり寄せるように低く、深く響いていた。
だがその奥底には、言葉にはならぬ痛みと、拭いきれぬ後悔の澱が垣間見えた。
そして、ゼルミスとミィナは、静かに聞いていた。
“牙咆のルダル”――かつて誇りをその名に宿していた男が、敗北と喪失を背負い、今はただひとりの逃亡者として語る――。
***
――半月前のガルテラ村
「今年もルガルが優勝候補か。毎年変わり映えなくてつまらねぇなぁ」
「いやいや、今年はグレオニウスも出場するらしいぞ」
「マジかよ!? だったら見ごたえがあるな」
「なにせ、あの“牙咆のルダル”と“烈煌のグレオニウス”だぞ。ゼルヴァス10傑の二人だ」
「早く行って席取らなきゃ!」
――選手控室の一角
ルダルと、獅子種のグレオニウスが、互いに笑顔を交わしていた。
「久しぶりにお前と対戦できそうで、うれしいぞ、グレオニウス」
「ああ。俺もだ。……とはいえ、昔ほど魔素は残っていない。お互い、全盛期の実力を出すのは難しいかもな」
「確かにな。……でも、とにかく今を楽しもう」
「アタシも混ぜてくれよ」
朗らかな声が割り込む。セシアが笑顔で近づいてきた。
「おぉ、エントリーしてたのか」
と、グレオニウスが言う。
「当然でしょ? アタシだって、戦士のつもりだよ」
「そうだったな……。お前たちの結婚式、楽しみにしてるぞ。だから今日の試合ではくれぐれもケガすんなよ? 松葉杖の花嫁なんて見たくないからな。はっはっはっ」
「言ってくれるね。お前こそ、ケガで欠席とか勘弁だからね」
そのとき、外から大歓声が響いた。
「第一試合が始まったようだな。そろそろ行くか」
三人は互いに視線を交わし、それぞれの戦いへと歩き出した――
***
――歓声が渦巻く中央闘技場
準決勝――。
観客の期待を一身に集めるのは、二つの影。
一方はチーター種の俊足戦士、セシア。
もう一方は、獅子種の猛者、グレオニウス。
「これも面白いぞ!セシアとグレオニウスの真剣勝負なんて滅多に見られんぞ!」
「準決勝!セシア 対 グレオニウス!牙咆のルダルと決勝で戦うのは、果たしてどちらか!?」
審判の高らかな声と同時に、開始の合図が響く。
疾風のごとく飛び出したのは、セシアだった。
鋭く地を蹴り、流線型に地を滑る。
(初手は見切られる。だが、それでいい。これは誘いだ――)
一撃、二撃、三撃。高速の爪打ちがグレオニウスを襲う。
しかし、
「……速いが、軽い」
グレオニウスは一歩も動かず、腕を交差させて受けきる。
そのたび、石床に音が響き、風圧が舞う。
そして、グレオニウスが足を一歩踏み出す。
その瞬間――
「!?」
セシアの姿が、視界から消えた。
「空中……ッ!?」
頭上から、落下と共に放たれる踵落とし。
グレオニウスは咄嗟に腕を上げて受け止めたが――
「クッ……!」
地面にひびが走る。
観客から歓声が沸き起こった。
「やるな、セシア!」
「グレオニウスが後退したぞ!?」
着地したセシアの呼吸は乱れていない。
「まだまだいくよ!」
低く構え、跳ねるように右へ。今度はフェイントからのフック。
それを待ち受けるように、グレオニウスが大きく右腕を振る。
“斬獅”――
魔素をまとった爪が空を裂き、圧がセシアを弾く。
だが、
「……見えてたよ、そのくらい!」
セシアはバックステップで受け流し、すぐさま反撃へ。
(力じゃ敵わない。でも、速度と機転なら――)
三連撃のあとに、左へ跳び、視界の外からの突撃。
しかし、グレオニウスの反応は速かった。
「読みやすいぞ!」
体をひねり、肘で迎撃。
セシアの腹にヒット――
「くっ……!」
数メートル飛ばされ、地面に転がるセシア。
場内に、どよめきと悲鳴が混じる。
「セシア、大丈夫かッ!?」
「まだいける! 立て、セシア!」
立ち上がるセシアの目は、爛々と輝いていた。
「なるほどね……さすがはグレオニウス。本気でいかなきゃ、やっぱ勝てないか」
両足に魔素を集中。地面を押し砕き、跳ねる。
「――“迅爪!”」
五連撃が雷のように降り注ぐ。
一撃でも受ければ決定打になる、殺到の技。
グレオニウスはそれらすべてを、足運びと最小限の動作で回避。
「見事だ、セシア――」
そして次の瞬間、彼の目に一瞬の隙が映る。
「ここだッ!――“爆獅”!」
咆哮と共に放たれた一撃が、セシアの攻撃動作の合間を貫いた。
「ぐっ――!」
体が空中に吹き飛び、地面に転がる。
セシアが動けない。
審判の声が響く寸前、グレオニウスが一歩踏み出し、静かに手を差し出した。
「強くなったな。俺もやっとだったぞ」
セシアは苦笑しながら、その手を取る。
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