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第四章 森の精霊
第53話 神災を止める者たち――それは俺たちだ!
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――エリシアの森とドルムの里へ向かう道中
スライムに変身中のルノアが宙を舞いながら叫んでいた。
「こいつら、数多すぎじゃね?次から次へと出てきやがって!」
「全くだぜ。キリがねえなぁ。スキルも何も取れやしねぇのに」
ゴブリン姿のエメルダが、両腕を振りまわしながら応じた。
そんな中、ルダルは、アマトに降りかかる巨大な虫たちを薙ぎ払いながら、
「文句を言うな。これも訓練の一環だ」
とルノアとエメルダに檄を飛ばしていた。
一方、ミィナは――
「む、むし、嫌い……」
アマトの服をつかんで震えていた。
そしてアマトはというと――ルノアとエメルダへの魔素供給を行っていた。
『ところでアマトよ、お前も身体強化と魔素の扱いの訓練をした方がいいのではないか?』
『そうよ。アマトちゃんだけ何もしないなんてずる~い』
『何もしてないわけじゃないだろ。ちゃんと二人に魔素を制御しながら供給してるぞ』
『しかし、今後のことを考えると、魔素供給だけではだめだ。それを呼吸しているような感じで行っておいて、自身も敵を相手にするようにしておく必要がある』
『アマトちゃん、働かざる者食うべからずよ!』
(お前こそ、しょっちゅうここへ来て、本当にカオスで働いているのか?)
と、いつものようにティアマトに突っ込むアマトであった。
(まぁ、仕方ねぇか)
「お前たち!ちょっと俺も動いてみるぞ」
というと、アマトが前へ歩き出した。
その様子を見たルノアとエメルダが突如慌て始めた。
「ア、アマト様!今回は、な、なにをするんですか?」
ルノアが、向かってくる大量の虫たちをたたきながら顔をアマトの方へ向けて言った。
一方、エメルダは、アマトの方に顔を向けることはせず、冷や汗をだらだら流し始め、
「あのー、アマト様。先日の件、まさか……忘れちまったということは……」
と、弱々しい声で言った。
「なにって、体を動かすだけだ。問題あるか?」
アマトは意に介さない様子である。
その返答に、ルノア、エメルダが絶句していた。
(俺たちこの間、アマト様のせいで死にかけたんですけどぉ!)
言うに言えない思いをルノアが心の中で叫ぶ。
(アマト様、あれはウロボロスの呪いどころじゃなかったっすよ……)
エメルダも心の中で全力で突っ込んでいた。
――数日前のアマトたち
あたりには数十体の獰猛で巨大な野生の獣たちがアマトたちの周りに群がっていた。
ルダルは、アマトに飛び掛かって来る獣たちを倒していた。
ミィナは、いつものようにアマトのわきに控えている。
そして、ルノアとエメルダがそれぞれ獣たちを倒しているが、一体倒すのにも時間がかかっていた。
『アマトよ。ここは大森林の中だから、多少、攻撃系のノーマルスキルを使ってみても大丈夫かもしれないぞ。ちょっと、使ってみて威力を確認してみてはどうだ?』
精神空間で大の字に寝ているゼルヴァスが言った。
『なにそれ?面白そう!』
ノー天気なティアマトは興味津々である。
『そうか。確かに、ちょっと試しておく必要はあるかもな』
アマトも納得すると、
「お前たち!」
と言って前に歩き出した。
「なんですか?」
ルノアがきょとんとして聞き返した。
「ちょっと俺もノーマルスキル使ってみるから気を付けていてくれ!」
そう言うと、アマトが両腕を数十体の獣たちに向けて、そっと呟いた。
「……”短剣”」
その刹那――
無数の短剣が、まるで剣山が炸裂するかのように、前方の巨大な獣たち、そして、ルノアとエメルダの方へ飛んでいった。
「ちょっ!?」
「なっ!?」
ルノアとエメルダはとっさに魔素を使って防御態勢をとった。
しかし、二人とも、完全に回避することはできず、かろうじて急所を守るのに精いっぱいであった。
そして、二人の身体は短剣に切り裂かれ、無数の傷を負ってその場に倒れた。
「しまった!?」
アマトが愕然とすると
「まぁ、大変!」
と言って、ミィナがスライムに変身すると、ルノアとエメルダの方へ駆け寄っていった。
一方、アマトの精神空間では――
『……ん。ノーマルスキルでこのありさまか‥‥。やはりお前は、めったなことでスキルを使うべきではないな。俺様が忠告した通りだ。ということで、アマトよ。今回はお前の責任だ』
『私も……使っちゃダメだって……本当は思ってたのよねぇ……』
務めて冷静さを保とうとするゼルヴァスとティアマトではあったが、責任回避をとろうとして明らかに慌てる様子であった。
そして現実空間では、”短剣”の一撃で獣も樹木も消え去った前方一帯に、ミィナの「軽癒」の声が響いていた――。
―― 回想終わり
「心配するな。いざとなれば、私が全力でミィナ”だけ”は守る。ミィナさえ無事なら“軽癒”でお前たちもすぐに治る。……最悪、死ぬことはないだろう」
とルダルが淡々と言った。
(どういうことぉぉぉぉ――っ!?)
(それって回復前提で死ねって言ってますよねぇぇぇ!?)
二人とも心の中で悲痛な叫びを発し、エメルダに至っては冷や汗を垂らして膝を震わせていた。
すると、アマトが口を開いた。
「安心しろ。今回はスキルを使うことはしない……」
その言葉に、二人は一瞬だけ、安堵の色を浮かべた。
しかし、アマトが付け加えた。
「身体を使って……虫どもを全部せん滅するだけだ」
さらに続ける――
「ただ……その間、魔素供給が途切れるから自分たちで何とかしてくれ」
一瞬、顔が引きつるルノアとエメルダ――
(本当にスキル、使わないですよね……?)
「わ、わかりました……」
(あぁ、死ぬ。絶対、死ぬ……)
「そ、それぐらいならぁ……が、がんばります……」
二人とも、覚悟を決めたのか、あきらめの境地なのか――心の叫びとは裏腹に、口だけは従順だった。
そんなことを思っているとはつゆ知らず、
アマトは、徐々に魔素のオーラを身にまとい始めた。
その様子を見ていたミィナが――
「アマト様のオーラ……虹色できれい……」
と、一人、呟いた。
その発言に、ルダルが驚いた顔をしてミィナを見ていたことを、当の本人は気づきもしなかった――。
アマトが膨大なオーラを纏い終えたころ、それにつられるように無数の虫たちが一斉にアマト目掛けて飛んできた。
アマトも虫たちに向かって駆け出していき、オーラを纏った手と足で虫たちをなぎ倒していく。
そして、アマトが思い切り地面を踏み込むと、その衝撃であたりの樹木が揺れた。
次の瞬間、アマトは空中へと駆け上がっていった。
虫たちも一斉にアマトを追いか、宙に舞い上がっていく。
その様は、天に向かった竜巻のようであった。
「すげぇ……これでスキルなしかよ」
ルノアは、どこか羨望のまなざしでアマトを見つめていた。
しかし、アマトのすごさはここからであった――。
アマトを追いかけ回していた虫たちだったが、みるみるその距離をあけられ、アマトに追い付けなくなっていた。
アマトは、虫たちがはるか後方に一直線上にいることを確認すると、空中で身体をひねり、今度は虫たち目掛けて突進した。
「なっ……みえねぇ!?」
エメルダが驚きのあまり、声を発して、目をこすって瞬いた。
次の瞬間、爆音とともに、アマトの軌道上と思われる空中の虫の群れの中から一筋の閃光――。
アマトが一瞬で虫たちをせん滅した瞬間であった――。
「……なんか、もう、アマト様一人でいいんじゃね……?」
虫たちの残骸が降り注ぐ中、ルノアが呆然とした様子でぼそりと呟いた。
「あぁ、俺たち、これから戦う必要ないかもな……」
何もかも目標を失ってしまったものにしか出せない寂しげな口調でエメルダが答えた。
そして、アマトの戦っている姿を地上の密林の奥からじっと見ていたものたちがいた。
後方に控えていた地上を這う巨大な多足類の虫たちである。
空を見上げ、ギィギィと音を立ててアマトを威嚇していた。
それに気づいたアマトが、その虫たちの真ん中に降り立つと、虫たちが上半身を持ち上げて今にも飛び掛かるかのような姿勢をとった。
一瞬の静寂――。
その静寂を破ったのはアマトの目の前の一匹の巨大な虫であった。
ギィィィ―――ッ!
という音と共にアマトに襲い掛かる。
しかし、アマトはその攻撃を難なくかわすと、
次の瞬間――
ズッシーン!
という音と共に地響きが起こった。
その巨大な虫が倒れ、その後ろに、アマトがいつのまにか立っていた。
アマトは、一瞬のうちに虫のわきを駆け抜け、それと同時に虫に一撃をくらわしていたのであった。
最初の虫が倒れた音を合図に、次々とアマトに虫が襲い掛かる。
アマトは、反射的に横へ飛び、その先にある大きな木を踏み台にして再び元の位置にいる虫を目掛けて飛んだ。
バリバリ、バーンッ!
その勢いのあまり大樹が音を立てて倒れていった。
飛んだ先の虫はというと、アマトの強烈な一撃で――
ドシーンッ!
こちらも音を立てて倒れていく。
そして、土埃が舞い上がって視界を塞いだ。
アマトはこの戦いを繰り返していったため、バリバリ、バーンッ!、ドシーンッ!という爆音が繰り返され、そのたびに土埃が視界を遮っていった。
どれくらいの爆音が繰り返され、土埃が舞ったであろうか――
突如、あたりは静まり返って、先ほどまで、無数の虫が発するギィギィといった音は、今は一つも聞こえてこない。
ルノアたちから見えるものと言えば、土埃と近くの地面には虫たちの残骸だけである。
しばらくすると、土埃も晴れてきて、明るくなり、うっすら全体を見渡せることができるようになった。
ルノア、エメルダそしてミィナは、目を凝らして、アマトの行方を追った。
すると、前方の中央付近に人影らしきものが立っているのが確認できた。
アマトである。
その姿をとらえた三人は喜び笑顔になった。
そして、
「アマトさ……」
と、ルノアがアマトを大声で呼ぼうとしたその時だった。
強い風が吹き、あたりの土埃を吹き飛ばすと、そこは先ほどまでの密林は見る影もなく、無数の虫の亡骸が地面にごろごろと転がる、だだっ広い平地が開けていた。
ルノアもエメルダも言葉を失い、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
ミィナも両手で口をふさぎ、驚くばかりであった。
アマトは、視界に生きている虫がいないことを確認すると、一呼吸した。
そこへ、精神空間のゼルヴァスが、
『……は、はじめから俺様はわかっていたがな。やはりお前は……しばらく魔素供給係だけやっておけ……』
と、驚きと共にあきれ返るように言った。
『や、やっぱりね。私も、実はそう思っていたのよ。アマトちゃんは魔素供給だけで充分仕事ができるって……』
ティアマトもゼルヴァスに呼応するように言った。
「なぜだ?」
アマトが聞き返す。
その問いに、たまらずゼルヴァスが怒鳴り返す。
『お、お前、この状況をわかってないのか!? お前が暴れると、間違いなく町一つが吹き飛ぶぞ!』
『そ、そうよ!戦ったら周りが迷惑よ! ていうか……アマトちゃんは神災級よ!』
とティアマトも声を張り上げた。
「……確かに、ちょっと暴れすぎたか」
アマトも頭を掻きながらため息をついた。
「あぁ、わかった。やはり魔素のコントロールをできるようになるまでは魔素供給だけだな」
と言って、ミィナたちのいる方角へ振り向き歩き出した。
アマトの様子を遠くから見ていたルノアとエメルダ――。
「は、ははは……やっぱり俺たち、必要じゃね?」
ルノアが笑いながら言った。
「た、確かに……。もしここが町だったら、間違いなく消し飛んでたぞ……!」
エメルダも、戸惑いながらも笑って答える。
「つまりさ……俺たちが戦いで前に出ることで、町を、いや世界を守ってるってことにならねぇ?」
「お、おう。俺たち、間接的に世界救うヒーローになるな」
「おーし、じゃあ明日からも張り切って訓練するか!」
「おう。負けないぜ!」
二人の乾いた笑いがこだましたが、その顔にはどこか決意めいた色が浮かんでいた。
それを聞いて、ミィナもルダルもつられて笑い出す。
こうして、“ちょっと本気を出した”アマトによって、密林は更地となり、虫は全滅し、仲間たちはまた一つ、確信したのだった。
――アマト様が本気で行動すると、いろいろ滅びる。
そして、自分たちが戦う理由はただひとつ。
『世界を守るため、アマト様には本気を出させないこと』であった――
スライムに変身中のルノアが宙を舞いながら叫んでいた。
「こいつら、数多すぎじゃね?次から次へと出てきやがって!」
「全くだぜ。キリがねえなぁ。スキルも何も取れやしねぇのに」
ゴブリン姿のエメルダが、両腕を振りまわしながら応じた。
そんな中、ルダルは、アマトに降りかかる巨大な虫たちを薙ぎ払いながら、
「文句を言うな。これも訓練の一環だ」
とルノアとエメルダに檄を飛ばしていた。
一方、ミィナは――
「む、むし、嫌い……」
アマトの服をつかんで震えていた。
そしてアマトはというと――ルノアとエメルダへの魔素供給を行っていた。
『ところでアマトよ、お前も身体強化と魔素の扱いの訓練をした方がいいのではないか?』
『そうよ。アマトちゃんだけ何もしないなんてずる~い』
『何もしてないわけじゃないだろ。ちゃんと二人に魔素を制御しながら供給してるぞ』
『しかし、今後のことを考えると、魔素供給だけではだめだ。それを呼吸しているような感じで行っておいて、自身も敵を相手にするようにしておく必要がある』
『アマトちゃん、働かざる者食うべからずよ!』
(お前こそ、しょっちゅうここへ来て、本当にカオスで働いているのか?)
と、いつものようにティアマトに突っ込むアマトであった。
(まぁ、仕方ねぇか)
「お前たち!ちょっと俺も動いてみるぞ」
というと、アマトが前へ歩き出した。
その様子を見たルノアとエメルダが突如慌て始めた。
「ア、アマト様!今回は、な、なにをするんですか?」
ルノアが、向かってくる大量の虫たちをたたきながら顔をアマトの方へ向けて言った。
一方、エメルダは、アマトの方に顔を向けることはせず、冷や汗をだらだら流し始め、
「あのー、アマト様。先日の件、まさか……忘れちまったということは……」
と、弱々しい声で言った。
「なにって、体を動かすだけだ。問題あるか?」
アマトは意に介さない様子である。
その返答に、ルノア、エメルダが絶句していた。
(俺たちこの間、アマト様のせいで死にかけたんですけどぉ!)
言うに言えない思いをルノアが心の中で叫ぶ。
(アマト様、あれはウロボロスの呪いどころじゃなかったっすよ……)
エメルダも心の中で全力で突っ込んでいた。
――数日前のアマトたち
あたりには数十体の獰猛で巨大な野生の獣たちがアマトたちの周りに群がっていた。
ルダルは、アマトに飛び掛かって来る獣たちを倒していた。
ミィナは、いつものようにアマトのわきに控えている。
そして、ルノアとエメルダがそれぞれ獣たちを倒しているが、一体倒すのにも時間がかかっていた。
『アマトよ。ここは大森林の中だから、多少、攻撃系のノーマルスキルを使ってみても大丈夫かもしれないぞ。ちょっと、使ってみて威力を確認してみてはどうだ?』
精神空間で大の字に寝ているゼルヴァスが言った。
『なにそれ?面白そう!』
ノー天気なティアマトは興味津々である。
『そうか。確かに、ちょっと試しておく必要はあるかもな』
アマトも納得すると、
「お前たち!」
と言って前に歩き出した。
「なんですか?」
ルノアがきょとんとして聞き返した。
「ちょっと俺もノーマルスキル使ってみるから気を付けていてくれ!」
そう言うと、アマトが両腕を数十体の獣たちに向けて、そっと呟いた。
「……”短剣”」
その刹那――
無数の短剣が、まるで剣山が炸裂するかのように、前方の巨大な獣たち、そして、ルノアとエメルダの方へ飛んでいった。
「ちょっ!?」
「なっ!?」
ルノアとエメルダはとっさに魔素を使って防御態勢をとった。
しかし、二人とも、完全に回避することはできず、かろうじて急所を守るのに精いっぱいであった。
そして、二人の身体は短剣に切り裂かれ、無数の傷を負ってその場に倒れた。
「しまった!?」
アマトが愕然とすると
「まぁ、大変!」
と言って、ミィナがスライムに変身すると、ルノアとエメルダの方へ駆け寄っていった。
一方、アマトの精神空間では――
『……ん。ノーマルスキルでこのありさまか‥‥。やはりお前は、めったなことでスキルを使うべきではないな。俺様が忠告した通りだ。ということで、アマトよ。今回はお前の責任だ』
『私も……使っちゃダメだって……本当は思ってたのよねぇ……』
務めて冷静さを保とうとするゼルヴァスとティアマトではあったが、責任回避をとろうとして明らかに慌てる様子であった。
そして現実空間では、”短剣”の一撃で獣も樹木も消え去った前方一帯に、ミィナの「軽癒」の声が響いていた――。
―― 回想終わり
「心配するな。いざとなれば、私が全力でミィナ”だけ”は守る。ミィナさえ無事なら“軽癒”でお前たちもすぐに治る。……最悪、死ぬことはないだろう」
とルダルが淡々と言った。
(どういうことぉぉぉぉ――っ!?)
(それって回復前提で死ねって言ってますよねぇぇぇ!?)
二人とも心の中で悲痛な叫びを発し、エメルダに至っては冷や汗を垂らして膝を震わせていた。
すると、アマトが口を開いた。
「安心しろ。今回はスキルを使うことはしない……」
その言葉に、二人は一瞬だけ、安堵の色を浮かべた。
しかし、アマトが付け加えた。
「身体を使って……虫どもを全部せん滅するだけだ」
さらに続ける――
「ただ……その間、魔素供給が途切れるから自分たちで何とかしてくれ」
一瞬、顔が引きつるルノアとエメルダ――
(本当にスキル、使わないですよね……?)
「わ、わかりました……」
(あぁ、死ぬ。絶対、死ぬ……)
「そ、それぐらいならぁ……が、がんばります……」
二人とも、覚悟を決めたのか、あきらめの境地なのか――心の叫びとは裏腹に、口だけは従順だった。
そんなことを思っているとはつゆ知らず、
アマトは、徐々に魔素のオーラを身にまとい始めた。
その様子を見ていたミィナが――
「アマト様のオーラ……虹色できれい……」
と、一人、呟いた。
その発言に、ルダルが驚いた顔をしてミィナを見ていたことを、当の本人は気づきもしなかった――。
アマトが膨大なオーラを纏い終えたころ、それにつられるように無数の虫たちが一斉にアマト目掛けて飛んできた。
アマトも虫たちに向かって駆け出していき、オーラを纏った手と足で虫たちをなぎ倒していく。
そして、アマトが思い切り地面を踏み込むと、その衝撃であたりの樹木が揺れた。
次の瞬間、アマトは空中へと駆け上がっていった。
虫たちも一斉にアマトを追いか、宙に舞い上がっていく。
その様は、天に向かった竜巻のようであった。
「すげぇ……これでスキルなしかよ」
ルノアは、どこか羨望のまなざしでアマトを見つめていた。
しかし、アマトのすごさはここからであった――。
アマトを追いかけ回していた虫たちだったが、みるみるその距離をあけられ、アマトに追い付けなくなっていた。
アマトは、虫たちがはるか後方に一直線上にいることを確認すると、空中で身体をひねり、今度は虫たち目掛けて突進した。
「なっ……みえねぇ!?」
エメルダが驚きのあまり、声を発して、目をこすって瞬いた。
次の瞬間、爆音とともに、アマトの軌道上と思われる空中の虫の群れの中から一筋の閃光――。
アマトが一瞬で虫たちをせん滅した瞬間であった――。
「……なんか、もう、アマト様一人でいいんじゃね……?」
虫たちの残骸が降り注ぐ中、ルノアが呆然とした様子でぼそりと呟いた。
「あぁ、俺たち、これから戦う必要ないかもな……」
何もかも目標を失ってしまったものにしか出せない寂しげな口調でエメルダが答えた。
そして、アマトの戦っている姿を地上の密林の奥からじっと見ていたものたちがいた。
後方に控えていた地上を這う巨大な多足類の虫たちである。
空を見上げ、ギィギィと音を立ててアマトを威嚇していた。
それに気づいたアマトが、その虫たちの真ん中に降り立つと、虫たちが上半身を持ち上げて今にも飛び掛かるかのような姿勢をとった。
一瞬の静寂――。
その静寂を破ったのはアマトの目の前の一匹の巨大な虫であった。
ギィィィ―――ッ!
という音と共にアマトに襲い掛かる。
しかし、アマトはその攻撃を難なくかわすと、
次の瞬間――
ズッシーン!
という音と共に地響きが起こった。
その巨大な虫が倒れ、その後ろに、アマトがいつのまにか立っていた。
アマトは、一瞬のうちに虫のわきを駆け抜け、それと同時に虫に一撃をくらわしていたのであった。
最初の虫が倒れた音を合図に、次々とアマトに虫が襲い掛かる。
アマトは、反射的に横へ飛び、その先にある大きな木を踏み台にして再び元の位置にいる虫を目掛けて飛んだ。
バリバリ、バーンッ!
その勢いのあまり大樹が音を立てて倒れていった。
飛んだ先の虫はというと、アマトの強烈な一撃で――
ドシーンッ!
こちらも音を立てて倒れていく。
そして、土埃が舞い上がって視界を塞いだ。
アマトはこの戦いを繰り返していったため、バリバリ、バーンッ!、ドシーンッ!という爆音が繰り返され、そのたびに土埃が視界を遮っていった。
どれくらいの爆音が繰り返され、土埃が舞ったであろうか――
突如、あたりは静まり返って、先ほどまで、無数の虫が発するギィギィといった音は、今は一つも聞こえてこない。
ルノアたちから見えるものと言えば、土埃と近くの地面には虫たちの残骸だけである。
しばらくすると、土埃も晴れてきて、明るくなり、うっすら全体を見渡せることができるようになった。
ルノア、エメルダそしてミィナは、目を凝らして、アマトの行方を追った。
すると、前方の中央付近に人影らしきものが立っているのが確認できた。
アマトである。
その姿をとらえた三人は喜び笑顔になった。
そして、
「アマトさ……」
と、ルノアがアマトを大声で呼ぼうとしたその時だった。
強い風が吹き、あたりの土埃を吹き飛ばすと、そこは先ほどまでの密林は見る影もなく、無数の虫の亡骸が地面にごろごろと転がる、だだっ広い平地が開けていた。
ルノアもエメルダも言葉を失い、ただただ呆然と立ち尽くしていた。
ミィナも両手で口をふさぎ、驚くばかりであった。
アマトは、視界に生きている虫がいないことを確認すると、一呼吸した。
そこへ、精神空間のゼルヴァスが、
『……は、はじめから俺様はわかっていたがな。やはりお前は……しばらく魔素供給係だけやっておけ……』
と、驚きと共にあきれ返るように言った。
『や、やっぱりね。私も、実はそう思っていたのよ。アマトちゃんは魔素供給だけで充分仕事ができるって……』
ティアマトもゼルヴァスに呼応するように言った。
「なぜだ?」
アマトが聞き返す。
その問いに、たまらずゼルヴァスが怒鳴り返す。
『お、お前、この状況をわかってないのか!? お前が暴れると、間違いなく町一つが吹き飛ぶぞ!』
『そ、そうよ!戦ったら周りが迷惑よ! ていうか……アマトちゃんは神災級よ!』
とティアマトも声を張り上げた。
「……確かに、ちょっと暴れすぎたか」
アマトも頭を掻きながらため息をついた。
「あぁ、わかった。やはり魔素のコントロールをできるようになるまでは魔素供給だけだな」
と言って、ミィナたちのいる方角へ振り向き歩き出した。
アマトの様子を遠くから見ていたルノアとエメルダ――。
「は、ははは……やっぱり俺たち、必要じゃね?」
ルノアが笑いながら言った。
「た、確かに……。もしここが町だったら、間違いなく消し飛んでたぞ……!」
エメルダも、戸惑いながらも笑って答える。
「つまりさ……俺たちが戦いで前に出ることで、町を、いや世界を守ってるってことにならねぇ?」
「お、おう。俺たち、間接的に世界救うヒーローになるな」
「おーし、じゃあ明日からも張り切って訓練するか!」
「おう。負けないぜ!」
二人の乾いた笑いがこだましたが、その顔にはどこか決意めいた色が浮かんでいた。
それを聞いて、ミィナもルダルもつられて笑い出す。
こうして、“ちょっと本気を出した”アマトによって、密林は更地となり、虫は全滅し、仲間たちはまた一つ、確信したのだった。
――アマト様が本気で行動すると、いろいろ滅びる。
そして、自分たちが戦う理由はただひとつ。
『世界を守るため、アマト様には本気を出させないこと』であった――
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異世界へ転生した俺が最強のコピペ野郎になる件
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高校生の桜木 悠人は、不慮の事故で命を落とすが、神のミスにより異世界『テラ・ルクス』で第二の生を得る。彼に与えられたスキルは、他者の能力を模倣する『コピーキャット』。
最初は最弱だった悠人だが、光・闇・炎・氷の属性と、防御・知識・物理の能力を次々とコピーし、誰も成し得なかった多重複合スキルを使いこなす究極のチートへと進化する!
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【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
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28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
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この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
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カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
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