異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第52話 認められなかった傑作――二人の老人技術者と若き天才

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――ドルムの里の大作業場

金属を叩く音が鳴り止んだその片隅で、数人のドワーフたちがある装置を前にして円を描くように集まっていた。

「いよいよ、この装置の開発も最終段階じゃな」

グラントが髭をなでながら、感慨深げに目を細める。

「この時のために、地中をどこまでも掘り進めてきた。その苦労が、ようやく報われるのじゃ」

隣のドワーフが微笑みつつ頷いた。

「まぁ、地中深くに眠る魔素を引っ張ってくるからなぁ。地下水脈にぶち当たったときにはどうなることかと思ったが……」

そう口にしたのは、ドワーフ族の中堅、ドルマだった。

「ああ、そんなこともあったな。今ではいい思い出じゃ」

グラントも懐かしげにほほ笑んだ。

そこへドルマが少し声を低くして切り出した。

「だが……魔素供給の起動はどうする? 問題はそこだ」

「うむ。あの魔素供給装置を動かすには、初動に強力な起魔力が必要になる。並の起魔力では話にならん」

再びグラントが髭に手をやり、真剣な面持ちで言う。

ドルマも目の前の装置を見つめながら呟いた。

「もともと、ミルファ頼みだったからなぁ。そのミルファも今はいない」

そのとき、若手のジルクが身を乗り出した。

「それなら、バルナックさんの高起魔力装置を借りては? あの魔機はすごいですよ。原理はよくわかりませんが、我々には到底出せない、数万ボルトの起魔力が得られるんです」

声には興奮がにじんでいた。

だが、グラントは渋い顔をする。

「うーん……どうも、あの装置は好きになれん。いや、嫉妬してるわけじゃないぞ。ただ、なんというか……原理が……」

ジルクがすかさず割って入る。

「でも今は、好き嫌いで判断してる場合じゃないと思います。ゼルヴァス様の結界が消えた今、残されているのは精霊の結界だけ……」

グラントは言葉に詰まり、顔をしかめた。

「その結界も今は瀕死の状態……精霊の結界を蘇らせること、それが重要なんじゃないでしょうか!」

ジルクの言葉に、グラントは腕を組み、目を閉じてしばらく黙り込んだ。

その静寂を破ったのはドルマだった。

「そのとおりだ。私情を挟んで結界が消滅するようなことになれば、元もこうもない」

ジルクと他のドワーフたちが固唾を呑み、グラントの顔を見守る。

やがて、グラントがゆっくりと目を開いた。

「……確かに、ジルクの言うとおりじゃ。好き嫌いで拒絶するのは、独りよがりでしかない。わしも腹を括る時が来たようじゃな。バルナックの起魔力装置を使おう」

その言葉に、ジルクの顔がぱっと明るくなった。

だがグラントは、どこか居心地悪そうにもじもじと呟く。

「……とはいえ、わしからバルナックに頼むのは、どうにも苦手でのぉ……」

「でしたら、僕が行ってきます!」

ジルクが迷いなく声を上げる。

「そうか。すまんが、助かる」

グラントはばつの悪そうな笑みを浮かべた。

「では、さっそく今から向かいます!」

ジルクは勢いよくそう言い残すと、そのまま作業場を飛び出していった。


――バルナックの作業場


「バルナック!いるか?」

ルーインが小さな作業場の扉の前から叫んだ。

すると――

「そんな大きな声を出さなくとも聞こえてるぞ」

中から、しゃがれた声が返ってきた。

ルーインは、作業場のドアを開けて中へ入ってあたりを見回すと、奥の小部屋で机の前に座り、なにやら作業をしている老人がいた。

ドワーフ族のバルナックである。

「よろこべ! 新魔武器の量産の許可が下りたぞ」

ルーインがバルナックの方へ勇み足で歩み寄りながら言った。

「そうか。それは良かったな。じゃが、わしはそれどころではない」

バルナックは、まったく興味がなさそうな態度で、目の前の魔機をいじっていた。

その容貌は、ドワーフには珍しくやせ細っており、顔のしわも多くあるが、鋭い眼光がみなぎった目つきである。

「もっと喜べ。お前が開発した魔武器が認められたんだぞ!」

と、ルーインはバルナックのそっけない態度に不満があるような口調だ。

「あれは……」

バルナックは、その手を止めることなく、面倒くさそうに言葉を返してきた。

「ある装置を作る過程でできてきた副産物だ。それほど、思い入れのあるもんではない」

「そういうな。あの魔武器が量産されれば森も里も力を回復できる。異世界人どもも恐れるに足らん!」

ルーインは、両手のこぶしを握り締め、笑みを浮かべながら言った。

その様子を横目で見ながらバルナックが言った。

「ふん。どいつもこいつも、一番重要なところを認めん」

「重要なところ?」

ルーインがきょとんとした顔でバルナックをみた。

バルナックがルーインの顔をようやく見上げると、右手奥の方にあった小さな装置らしきものを取って、ルーインに見せながら言った。

「これだ。わしの大傑作。高起魔力装置だ。だが誰もそれを認めん。特にグラントのやつは……」

少しいらだった口調でバルナックが言った。

「……どうしてだ?」

とルーインが問いかけた。

「高起魔力を出力するのに必要な魔素体が気に食わんのだ」

「……魔素体?それはなん……」

とルーインが疑問を投げかけたとき――

「バルナックさん!ちょっといいですか?」

と、先ほどルーインが開けっ放しにしてきた扉の方から声がした。

バルナックとルーインがその主に顔を向けた。

その先に立つのは、少し緊張した面持ちのジルクであった。

「あの……ちょっと、お願いがあるんですが」

「……今日は来客が多いな。なんだ?」

バルナックが不満げに答えた。

「高起魔力装置を使わせていただきたいのですが……」

「なに!?」

ジルクの意外な依頼にバルナックが驚いた。

「魔素供給装置にどうしても必要でして……」

ジルクが理由を口にすると、

「魔素供給装置!?グラントはどうした?やつが高起魔力装置を許すはずがない!」

とバルナックは、大きな声で怒鳴った。

それに対し、ジルクは怖気ながら言った。

「グ、グラントさんには……許可を……もらいました」

「なんだと?!」

さらに意外な答えに再びバルナックの声が上がった。

バルナックは信じられない、といった面持ちであった。

そこへ、

「僕が、説得したんです。バルナックさんの魔機はすごいって。高起魔力さえあれば精霊の結界をよみがえらせることができるって」

と、ジルクがやや興奮気味に、口早で話した。

その顔は優れた魔機への敬意であふれていた。

「……」

言葉を失うバルナック――。

「ですから、お願いです。高起魔力装置を貸してください」

とジルクが頭を下げた。

しばらくその様子を見ていたバルナックが尋ねた。

「……お前、名前は何だったか?」

「ジルクです!」

少し笑顔を見せながらジルクが答えた。

「そうだ。ジルクだったな……。わしの高起魔力装置が必要って言ってきた奴は初めてだ」

「そうなんですか?あんなすごいのに」

ジルクが不思議がっていった。

その様子を見てバルナックが慌てていった。

「あ、あんな装置、いくらでもくれてやる。そのあたりに落ちているから勝手に持っていけ!」

「いいんですか!ありがとうございます」

とジルクは、バルナックが指さしたあたりをかき分けるように探した。

それは、まるで宝探しを楽しんでいる少年のようであった。

その様子をバルナックが食い入るように見ていた。

しばらくすると――

「あっ、あった。これかな?」

ジルクが取り出したそれは、先ほどバルナックが傑作と言っていたそれと同じものであった。

「そ、そうじゃ、それだ。さっさと持っていけ!」

再び、バルナックは慌てて応えた。

「でも、これ使い方がわからないです。教えていただかないと……」

「ふん、わしはいま非常に忙しい。自分でなんとかしろ!」

ジルクは、しばらく手に持っている装置を凝視していたが、

「……この構造、以前に似た魔機を見たことがありますね……接点構造が同じだ」

としばらく黙り込む。

「なるほど……うん、なんとなくわかってきました!」

ジルクが明るい声で言った。

「わ、わかったのか?」

バルナックは驚きのあまり声が上ずっていた。

「はい」

ジルクの目は、自信に満ちて輝いていた。

バルナックは、言葉を失いただただ黙っていた。

「とにかく、これで何とかなりそうです。これから作業場へ戻ってテストしてみます。ありがとうございました!」

とお辞儀をしてジルクは、さっき入って来た扉を走って出ていった。

「あの若造……わしの高起魔力装置を褒めていきやがった」

鋭くみなぎっていたバルナックの眼光が、今は柔らかい光を帯びていた――

その傍らで、会話に全く入れなかったルーインがポカンとして立っていた。

「……なんじゃ、お前、まだいたのか?」

ずっと黙っていたルーインにようやく気づいたバルナックがぼそりと呟いた。

「いたさ!私はずっとここにいたぞ!……というか、量産の準備をするぞ!」

「うるさい。今はいいところなんじゃ。あとで量産のことを考えてやるから、今日は帰れ!」

「帰らん!」

バルナックの作業場に、しばらくの間、賑やかな怒鳴り声が響き渡っていた――
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