59 / 60
エルザールの街
しおりを挟むエルザールの主要街であるストラルブルグ。或いはブランが呼ぶには、ストラルブース。其処の街に部隊を率いて、入場することを事前に告知していたおかげなのか、街に入るとライヒ人の熱烈な歓迎を受けるようになっていた。
《英雄グラウスだ、ライヒ人の英雄が来たぞ!》
《英雄に万歳!エルザール公国に万歳!》
《ライヒ諸国民の神聖グロウス帝国に万歳!》
《グロウス帝国の皇帝陛下に万歳、シュヴァーベルク、ヴァロイセンに万歳!》
歓呼の声で迎えてくれるのは悪い空気はしない。俺たちがファンサービスのために軽く手を振ってやれば、ライヒ人の婦女子たちはキャーと喜び、子供たちも同じように跳ねて喜んでいる。
一方で、周りを見渡してみればケッと言わんばかりに不貞腐れた目で俺たちを見ている連中もいる…あれがブランアリア人なんだろう。少なくとも、俺たちが見張っている間に軍が進駐していることがなくなるんだから、其処は感謝してほしいのものなんだけど…まぁ、無理なんだろうなぁ。
ここら辺から徐々に民族主義が勃興している頃だからな。ブランタリア人から見れば、ライヒ人が仕切る国なんて不服で仕方ないだろう。とはいえ、今のこの時世に対して暴動に対する対処なんて倫理観は宇宙のかなたに吹っ飛ばしている。容赦なく銃弾が叩き込まれることになるのは確実だ。
だからこそ、彼らはこうして陰に潜んで軽口を叩き、俺たちに対する憎悪をひっそりと口で流すことしかできていないのだろう。
これが占領された街のリアルかぁと思いながら、俺は馬に乗りながら凱旋を終え、エルザール公国とブランタリア王国との国境警備を開始するのだった。
———
——
―
ブランタリア革命軍はストラルブルグの街に向けて行進を開始していた。
祖国の領域を奪われたことに対する怒りを秘めた彼らは愛国歌を歌いながら行進し、マスケット銃をバラバラに抱えながら行軍していった。
「…貴様、ライヒ人か?!ライヒ人だな!?」
連中にとってライヒ人はもはや侵略者であり、憎悪するべき敵である。ライヒ人を見つけると躊躇なく殴殺し、銃剣で突き殺した。更に、それだけじゃなく強姦やかばったブランタリア人も殺していってしまった。
見境ない憎悪で目の前と倫理が消え失せているのだ。当たり前のような話である。
内戦とは狂気であり、ナチのように国家が平穏な時でも民衆が狂うことは十二分にあり得るのに、内戦という中で擦り切れた心が平常であり得るだろうか?否、それはあり得ない。
SSの民族浄化、ウスタシャの民族浄化、鉄衛団の虐殺。戦争の中で狂い果てた狂人たちがタケノコのように生えてきたように、狂気の場所で狂気はあっさりと解き放たれ、理性なんてモノは遥か彼方に吹き飛んでしまう。
同族殺しを嫌う本能を持つ人間のタガは存外緩いものなのだ。
誰かが囁けば、そのタガはあっさりと打ち砕かれ、人殺しへと容易にジョブチェンジを迎える。そして人殺しが誕生するのだ。それらは文化大革命時の紅衛兵が痛いほどに示しているだろう。
学生たちは毛沢東という戦略家としては名高くも、実際の為政者としては話にならないモノであり、それでも建国者の言葉に狂った阿呆たちは貴重な文化財を破壊し、自らを実際の現場で教導していた教員たちをリンチにし、遥か空に鮮血の赤旗を掲げたのだ。まさにそれは狂気であり、戦時状態ではない平時の状態でそんな狂騒が起きるのであれば、現在の戦時という状況で狂騒に陥らないと誰が断言することが出来ようか?
「ライヒ人を滅ぼせ!ブラン帝国の栄光を取り戻せ!」
かつての地球で例えるのであればフランク帝国を建国した偉大なる帝国の時代を持ち出し、彼らは叫ぶ。ライヒ人は偉大なるブラン人に屈服するべきなのだ。そうでなければいけない、何故なら神聖グロウス帝国は遅れた劣等国家であり、それに付き従うライヒ人も愚かだ。
そうでなければいけない。何故なら、それは歴史的必然性が示すブラン人の栄光ある物語であるのだから。欧州の中枢を統べたブラン人は、全ての欧州亜大陸の民を教導する歴史的必然性と使命を持っているのだと彼らは無邪気に信じているのだ。
そのために、今の内戦でハゲタカのようにブラン人の土地を食い散らかさんとする愚行は、我らの鉄血で正されるのだと驕り高ぶっていた。
しかし、イデオロギーに狂い、未成熟なナショナリズムに狂い、その身を狂気と死神の待っている断頭台に歩を進めている彼らは気づくことが、どうしてもできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――
銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」
世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。
魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。
彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。
一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。
構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。
彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。
「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」
暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。
管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。
これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。
※アルファポリスで先行で公開されます。
Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜
橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
チートツール×フールライフ!~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~
黒片大豆
ファンタジー
「お前、追放な。田舎に帰ってゆっくりしてろ」
女神の信託を受け、勇者のひとりとして迎えられた『アイサック=ベルキッド』。
この日、勇者リーダーにより追放が宣告され、そのゴシップニュースは箝口令解除を待って、世界中にバラまかれることとなった。
『勇者道化師ベルキッド、追放される』
『サック』は田舎への帰り道、野党に襲われる少女『二オーレ』を助け、お礼に施しを受ける。しかしその家族には大きな秘密があり、サックの今後の運命を左右することとなった。二オーレとの出会いにより、新たに『女神への復讐』の選択肢が生まれたサックは、女神へのコンタクト方法を探る旅に目的を変更し、その道中、ゴシップ記事を飛ばした記者や、暗殺者の少女、元勇者の同僚との出会いを重ね、魔王との決戦時に女神が現れることを知る。そして一度は追放された身でありながら、彼は元仲間たちの元へむかう。本気で女神を一発ぶん殴る──ただそれだけのために。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
35年ローンと共に異世界転生! スキル『マイホーム』で快適5LDK引きこもり生活 ~数学教師、合気道と三節根で異世界を論破する~
月神世一
ファンタジー
紹介文
「結婚しよう。白い壁の素敵なお家が欲しいな♡」
そう言われて35年ローンで新築一戸建て(5LDK)を買った直後、俺、加藤真守(25歳)は婚約者に捨てられた。
失意の中、猫を助けてトラックに轢かれ、気づけばジャージ姿の女神ルチアナに異世界へと放り出されていた。
「あげるのは『言語理解』と『マイホーム』でーす」
手に入れたのは、ローン残高ごと召喚できる最強の現代住宅。
電気・ガス・水道完備。お風呂は全自動、リビングは床暖房。
さらには貯めたポイントで、地球の「赤マル」から「最新家電」までお取り寄せ!?
森で拾った純情な狩人の美少女に胃袋を掴まれ、
罠にかかったポンコツ天使(自称聖騎士)が居候し、
競馬好きの魔族公爵がビールを飲みにやってくる。
これは、借金まみれの数学教師が、三節根と計算能力を武器に、快適なマイホームを守り抜く物語。
……頼むから、家の壁で爪を研ぐのはやめてくれ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる