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エルザール・ロートリンゲン
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エルザール・ロートリンゲン。
其処はライヒ文明とブラン文明の交差点にして、何百年と係争地にもなっている修羅の大地と言っても差し支えなかった。何しろ、其処にはたっぷりの石炭と鉄が眠っているのだから…狙わない理由が存在しないと言っても問題がなかった。
元を支配していたのはライヒ人の神聖なるグロウス帝国であったのだが、中央集権化を進めることができていたブランタリア王国と異なり、神聖グロウス帝国は諸邦が分裂状態にあり、それを束ねるライヒ皇帝の指導力も貧弱であり、トドメに内部で抗争が日常的になっている国家であった。
それ故に団結して抵抗することは非常に難しく、その土地は侵食され続けるばかりであったのだ。
そのエルザール・ロートリンゲンを取り戻す機会が来た!
ライヒ人は、ライヒ人の土地を取り戻すべく、ライヒ人の救援要請に応えて進駐を行い、ライヒ帝国の諸邦であるエルザール・ロートリンゲン公国を復活させる…という、200年後の関東軍の満州帝国建国のようなシナリオを描き、エルザール・ロートリンゲンに進駐を開始した。
かつての公爵である家…はなくなってしまったため、致し方なく臨時で神聖グロウス皇帝の弟君が支配することを暫定的に設定し、其処を守るべく兵を動員するように領主たちに檄を飛ばしたのである。
神聖帝国はバラバラでありながらも、だからこそハナが効いた。奪えるもの、奪われたものを再び取り戻すべきという大義に応え、バラバラではあるが確かに兵を送り、或いは物資輸送に協力したのである。
そして、その中でも大量の兵を送り付けてきたのは主に2ヶ国。
神聖なるライヒ人の帝国を差配するシュヴァーベルク大公率いる、バジャール人8000と、南ライヒのシュヴァーベルク人6000の二個師団で構成された10000と4000の兵と、その大公に相対するだけの軍事力を誇る帝国の異端、超軍国主義者の申し子にして啓蒙専制君主としての立場を明確に示すヴァロイセン王国の5000の兵団であった。
「……久しいな、グラウス子爵。まさか貴様と戦列を並べることになるとは考えていなかったぞ」
「シュヴァルトニッツ攻防戦以来のことでしょうか。お久しぶりにございます、ルーン侯爵閣下」
俺が恭しく礼をすると、壮年の威厳ある戦士にしか見えない彼は苦々しそうに俺を見る。七年戦争当時に、俺と彼は敵として銃剣を突き刺し合った関係にあるのだ。
俺の増強中隊…名目上は大隊は、シュヴァルトニッツ攻防戦において機動作戦を展開し、少数で半ば特攻に近しい自爆攻撃を敢行することで敵の前線を乱したことがある。それがシュヴァルトニッツ攻防戦の勝敗の決着をつけたと言っても過言ではなかったのだ。
奇襲を仕掛けた師団の指揮官として指揮を取っており、結果的に全軍に痛い打撃を与えることになってしまった彼が俺のことを苦々しく思っているのも至極当然の話だろう。
「北ライヒ人の英雄を寄越すとは、貴国も神聖なるライヒ民族の帝国に対する献身を示しているということかね?」
「はい、ライヒ人のために参りました。
ヴァロイセン王国はシュヴァーベルク大公陛下と同じく、ライヒ民族の守護者という大義の下にエルザールとロートリンゲンのライヒ人を救済せよという大命を受け、この地に赴いた所存です」
互いに政治的な毒をまき散らし、ニコニコと表面上は互いに笑みを浮かべ、仲良さそうに見えながら、実際は今にも手を握りつぶさんばかりの力を込めながら握手を交わす。
チラリと副官として同行しているフリードリヒ…流石に他の貴族出身の高級将校たちがいる中で庶民でシオン人の彼女を出すわけにはいかないのだ…にも握手を求めながら、彼は苦々しい笑みを浮かべながら皮肉を叩き込んだ。
「なるほどなるほど。帝国に対する献身を示していること、それは大変結構なことだ。エルザールの民も子爵の到着を心待ちにしているとのことらしいぞ?」
「おお!それはそれは…何ともむずがゆいことです。されど、一点訂正を。我らは同胞のために立ち上がったのであり、そこに斯くも畏き皇帝陛下による勅命は一切合切関係ありません。
しかし、ライヒ民族のために共に轡を並べ、背中を預け合う者同士です。今は過去を忘れ、共にブランタリアの蛮族に対処しようではありませんか」
ねちっこくマウントを取ってくる言葉を厳正に訂正し、互いに笑みを浮かべる。
まさに呉越同舟。仮想敵である欧州の大国を弱体化させるためという共通の目的のために共に戦列を組んでいるだけであり、実際は互いに銃剣を突きつけている仲なのだ。仲良しこよしできる方がおかしいのは確かにおかしい。おかしいのだけど…理想論を唱えるのなら、同じ民族同士仲良くできればなぁ…と少しばかり思いながら、俺たち旅団はエルザールの街へと歩を進める。
そして、その街に向かう付近で聞きたくないことを聞くことになるのだが、それはまたちょっと後の話。
其処はライヒ文明とブラン文明の交差点にして、何百年と係争地にもなっている修羅の大地と言っても差し支えなかった。何しろ、其処にはたっぷりの石炭と鉄が眠っているのだから…狙わない理由が存在しないと言っても問題がなかった。
元を支配していたのはライヒ人の神聖なるグロウス帝国であったのだが、中央集権化を進めることができていたブランタリア王国と異なり、神聖グロウス帝国は諸邦が分裂状態にあり、それを束ねるライヒ皇帝の指導力も貧弱であり、トドメに内部で抗争が日常的になっている国家であった。
それ故に団結して抵抗することは非常に難しく、その土地は侵食され続けるばかりであったのだ。
そのエルザール・ロートリンゲンを取り戻す機会が来た!
ライヒ人は、ライヒ人の土地を取り戻すべく、ライヒ人の救援要請に応えて進駐を行い、ライヒ帝国の諸邦であるエルザール・ロートリンゲン公国を復活させる…という、200年後の関東軍の満州帝国建国のようなシナリオを描き、エルザール・ロートリンゲンに進駐を開始した。
かつての公爵である家…はなくなってしまったため、致し方なく臨時で神聖グロウス皇帝の弟君が支配することを暫定的に設定し、其処を守るべく兵を動員するように領主たちに檄を飛ばしたのである。
神聖帝国はバラバラでありながらも、だからこそハナが効いた。奪えるもの、奪われたものを再び取り戻すべきという大義に応え、バラバラではあるが確かに兵を送り、或いは物資輸送に協力したのである。
そして、その中でも大量の兵を送り付けてきたのは主に2ヶ国。
神聖なるライヒ人の帝国を差配するシュヴァーベルク大公率いる、バジャール人8000と、南ライヒのシュヴァーベルク人6000の二個師団で構成された10000と4000の兵と、その大公に相対するだけの軍事力を誇る帝国の異端、超軍国主義者の申し子にして啓蒙専制君主としての立場を明確に示すヴァロイセン王国の5000の兵団であった。
「……久しいな、グラウス子爵。まさか貴様と戦列を並べることになるとは考えていなかったぞ」
「シュヴァルトニッツ攻防戦以来のことでしょうか。お久しぶりにございます、ルーン侯爵閣下」
俺が恭しく礼をすると、壮年の威厳ある戦士にしか見えない彼は苦々しそうに俺を見る。七年戦争当時に、俺と彼は敵として銃剣を突き刺し合った関係にあるのだ。
俺の増強中隊…名目上は大隊は、シュヴァルトニッツ攻防戦において機動作戦を展開し、少数で半ば特攻に近しい自爆攻撃を敢行することで敵の前線を乱したことがある。それがシュヴァルトニッツ攻防戦の勝敗の決着をつけたと言っても過言ではなかったのだ。
奇襲を仕掛けた師団の指揮官として指揮を取っており、結果的に全軍に痛い打撃を与えることになってしまった彼が俺のことを苦々しく思っているのも至極当然の話だろう。
「北ライヒ人の英雄を寄越すとは、貴国も神聖なるライヒ民族の帝国に対する献身を示しているということかね?」
「はい、ライヒ人のために参りました。
ヴァロイセン王国はシュヴァーベルク大公陛下と同じく、ライヒ民族の守護者という大義の下にエルザールとロートリンゲンのライヒ人を救済せよという大命を受け、この地に赴いた所存です」
互いに政治的な毒をまき散らし、ニコニコと表面上は互いに笑みを浮かべ、仲良さそうに見えながら、実際は今にも手を握りつぶさんばかりの力を込めながら握手を交わす。
チラリと副官として同行しているフリードリヒ…流石に他の貴族出身の高級将校たちがいる中で庶民でシオン人の彼女を出すわけにはいかないのだ…にも握手を求めながら、彼は苦々しい笑みを浮かべながら皮肉を叩き込んだ。
「なるほどなるほど。帝国に対する献身を示していること、それは大変結構なことだ。エルザールの民も子爵の到着を心待ちにしているとのことらしいぞ?」
「おお!それはそれは…何ともむずがゆいことです。されど、一点訂正を。我らは同胞のために立ち上がったのであり、そこに斯くも畏き皇帝陛下による勅命は一切合切関係ありません。
しかし、ライヒ民族のために共に轡を並べ、背中を預け合う者同士です。今は過去を忘れ、共にブランタリアの蛮族に対処しようではありませんか」
ねちっこくマウントを取ってくる言葉を厳正に訂正し、互いに笑みを浮かべる。
まさに呉越同舟。仮想敵である欧州の大国を弱体化させるためという共通の目的のために共に戦列を組んでいるだけであり、実際は互いに銃剣を突きつけている仲なのだ。仲良しこよしできる方がおかしいのは確かにおかしい。おかしいのだけど…理想論を唱えるのなら、同じ民族同士仲良くできればなぁ…と少しばかり思いながら、俺たち旅団はエルザールの街へと歩を進める。
そして、その街に向かう付近で聞きたくないことを聞くことになるのだが、それはまたちょっと後の話。
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