近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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ナポレオン

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「おし、お前たち、良く頑張ってくれた!我ら革命軍の勝利である!」
《オオオオーーー!》

 各地で勝利の咆哮が轟く。ブランタリア王国領でも南部に属するブルタニエの居城に立てこもっていた絶対王政派を打ち倒し、革命軍はまた国内を赤白青で染め上げることができたのだから。
 各地でオルレニア王家の旗である白い旗は踏みつけられ、代わりに三色旗が誇り高く翻っている。

「ナポレオン閣下、いつ見ても惚れ惚れする采配でございます!」
「いや、全ての働きは将兵が成してくれるものだ。私の貢献は小さなもので、全ては君たち国民軍によって成された、偉大なる戦果で間違いないよ。私はそれを少しばかり手助けしたに過ぎない」

 彼はそういうと、少しばかり辺りを見渡す。陥落した城の周りでは革命軍が闊歩していて、そこには三色旗が昼がっている場所もあれば、深紅の旗が掲げられているところもある。
 内戦らしく、様々な政治勢力が呉越同舟と革命軍と名乗っているだけで、実情は非常にグダグダなモノであり、そしてそれでも呉越同舟を成立させるだけの理由が…王族と特権階級という恨みが団結させてしまっていた。

 各地では暴君を畑の畝にまき散らしてやれ!という叫びが木霊し、農村は人が足りず食料も足りず。ラ・マルセイエーズが高らかに歌われ、一方でフランス帝政の国歌である門出の歌も歌われ続けていた。
 まさしく国内は制御不能なカオスに陥っていることが容易に理解できてしまう有様なのは、この多重権力状態に近しい状態、それそのもの、今の状況から察することができるだろう。

「素早く内戦を終結させないといけない。革命軍の自由と平等の理念に置いて…革命軍の諸君、流れる時は平等だ!最小限の兵を配置後、速やかに王国領に対して攻勢を仕掛けなければ…!」

 彼は紛れもない戦術的天才であり、兵の運用と機動性において天性の才能を誇っていると言っても過言ではなかった。農民兵を正規兵相手に通用させるだけでプロの所業である。
 魔法使いだけというわけでもなく、それ故に未来の知識を使った疑似的背水の陣を使えるわけでもなく、沼地に即座に移動手段を用意できるわけでもなく。
 それで敵軍相手に勝利できるのはマジでグラウスよりも遥かに頭が回ると言えるだろう。

 そして、速やかに進撃を続けたいのはまさしく祖国の為であり、無用な犠牲を減らしたいというモノであった。ナポレオンは確かに愛国的な軍人であり、同時に国を巻き込んで破滅できるだけのカリスマを持っていたことは間違いないだろう。
 

「進むぞ、祖国の同胞よ!」
 高らかに歓声を上げて、兵を率いるナポレオンたちはある程度地形を無視できるグラウスの魔法使い旅団並みの進撃速度を以て南部の拠点を堕とし続ける。
 最近、ブランタリア王国内で暗いニュースしかない中で、ライヒ人にグラウスあり、ブランアリアにはナポレオンありと語られるようになるのだった。

 そして、ブランタリア革命政府は混沌を極めていた。立憲君主主義者から革命主義者、共和主義者にアナーキストまで立ち上がっていて収拾がつかないのである。
 だからこそ、愛国を掲げる革命軍を調子に乗らせるべく、立憲君主主義者たちは何とか革命軍を扇動する。
 立憲君主主義者たちも含めた有象無象を団結させるためには敵を作らなければならない。そう現実主義的な言葉を吐き出し、今政府を掌握している立憲主義者たちの扇動によって立ち上がった民衆たちが暴動を開始。それを大義にブランタリア革命軍は民兵を招集し、ライヒ人の専横を許してはならないと演説するのだった。

———
——


 神聖グロウス帝国 バルデン・ヴァイラー大公国
 
 俺は二週間かけて速やかにヴァロイセン王国東部から神聖グロウス帝国の最西端に最も近いバルデン大公国領に到着することができていた。
 それは、地形を無視して行軍を実現できる魔法使いたちと、速やかに行軍を実現できる騎兵だけで構成されていることがその理由になるだろう。
 更に、事前に大公国領の各地に触れが出回っていたおかげで食料の調達も極めて容易だったことも理由になっていただろう…更に、神聖グロウス帝国の諸邦の協力もあり、食料の運搬も行われていたことも理由になるだろう。

「皆、強行軍の演習で疲れただろう。このバルデンヴァイラーで自由に過ごすと良い」
「「ハッ!!」」

 前のメーヴェルラントへの遠征に比べると兵士の顔つきになってきた彼らは自由にして良いという言葉に頷き、酒場や娼館、更に商店に見回りに行き、金を堕とすために走り始める。

 彼らも本能的に理解しているのだろう、これから先のライヒ民族とブランアリア民族が共に居住しているエルザールとロートリンゲン大公国に向かうことになる。其処は確かにブランタリア人も済むが、民族的にはライヒ人の方が多い場所であり、歴史的に見れば神聖グロウス帝国から簒奪した領土であり、実際に神聖帝国の諸邦に組み込むということは、帝国も本気でブランタリアと衝突する覚悟を固めていることに違いない。
 暴動の鎮圧なども任務であるが、恐らくは数十年後には再びブランタリア王国軍、或いは共和国、或いは帝国軍は越境を開始するだろう。火種を自ら作っていく姿勢にはゲンナリしてしまうが、火事場泥棒をするのは至極当然、否定することができないのである。

「…………うげぇ」
「閣下、如何なさいましたか?」
 パタパタと飛んでくる白い鳩を見て、俺は危険信号を存分に掻き立てられてしまった。本能的に、もっとヤバいことが起きそうな気がする。
 暴動程度で済んでくれたら俺としても万々歳であるのだが…

「ああ、やっぱりだよ。エルザールの土でブランタリア人が暴走してるらしい。足をなるべく速めてくれると有難いってさ」

 それで本当に終わってくれると嬉しいのだが…台頭する左翼たちが唱え始めた自国主義ナショナリストを標榜する彼らが暴動を見過ごすかどうか。
 内戦は殆ど終わりかけと表現して差し支えなく、珍しく殆どの大国は兵を動かすことはなかった。
 しかし、俺の予想が正しいのなら王族たちは首を切られ、その骸を晒すことになるだろう。

 嫌な予感を存分に掻き立てる悪寒が背筋を伝う中、俺はどうするべきか頭を悩ませ続けるのだった。

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