近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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ターネンベルクの戦い2

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 ターネンベルクの戦いは、今のところはおおむねポラーブ優位に進んでいた。
 いくら敵が射程2倍の銃を持ってこようが、3倍の敵の前にどうしようもないだろう。200挺の銃では殺せる的にも限りがあるのだ。

「いいか、落ち着けよ…」
 言ってる側からポロリと弾込めし、火薬をギュッと固めるための棒を落とすバカがいたが、それに対して叱責せず、柔らかく速やかに装填するようにと圧をかける。
 
 実戦知らずの緊張、震え、その他諸々がこのザマである。もし、1000名全てにミニエーライフルが配備され、彼らが一般的なヴァロイセン王国軍人の練度を保てていたのであれば、我らはすでにこの時点で敵軍に軍事学的な全滅を、つまりは900近い死者を出させることだって可能なはずだった。
 しかし、実際には200程度しか殺せていない。
 これが変えようがない事実ではあるが…一方的に敵を撃ち殺せている環境によって、俺たちは一人の使者も出ていない。もし敵軍が大砲を持っていれば、俺はハナから勝つことを諦めていたが。幸いにもそれはないようだ。

「敵の進軍経路を土壁である程度指定して、そこに銃撃を叩き込む…凄いね、魔法使いって」
「だろ?全員が戦闘できる工兵なんだ、魔法使いは地味に工兵として優秀なんだぜ?」

 一個人のできる魔法は大したことがない。1立法メートルくらいの土壁を作ったり、兵士3人分の飲み水を作ったり、料理に必要な煮炊きをするための火種を作ったりすることができる程度だ。
 ファンタジーにあるあるの魔法使いたちなら、彼ら彼女らが差別される前に彼ら彼女らが支配する帝国が欧州を支配していたことだろう。

 そりゃ、古代には天変地異を起こせる魔法とかがあったって言うけど、まぁ神話的な創作劇なんだろうと、俺は解釈している。

 しかし、いくら日常生活に役立つ程度の魔法しかないとはいえ、1000人が魔法使いなら話は変わってくる。
 それはもう、大規模な土木工事集団として活動できるくらいだ。
 だからこそ到着して数日で簡単な塹壕網と鉄条網の代わりになる土壁を張り巡らせ、こうして簡易な要塞を作り上げることに成功したのだ。

「なぁ、グラウス、ホントに勝てるのか…?」
「分からん。もう時の運だよ」

 指揮官のフリードリヒだけに苦しみと困惑を共有しながら、俺は不安そうに俺を見てくる下士官たちを前に、あえて気取って胸を張りながら、

「ったく…お前ら演習終わったミッチリ訓練をし直してやるからな!」

 そう活を入れ、俺もミニエーを装填し直し、再び発砲する。そして、バタバタと倒れるポラーブ兵たちを指さし、

「いいか、連中は何百人も死んでる、それも俺たちが誰一人も死んでない中で、だ!これが意味することは何か?即ち、それは俺たち残り800人が銃撃を加える距離まで戦火が近寄れば、敵軍はあっという間に壊滅するということだ!」

 意味がありそうで意味がない言葉を羅列し、そして意気軒高とした様子を一切隠そうとせずに、兵士たちの士気をあげ、誤魔化すために俺はいつも通りの笑みを浮かべる。まあ、これくらいの死地なら七年戦争の時に何十回、下手すりゃ百は経験しているから当然だ。

 弾を込め、発射しながら、塹壕を歩き回って兵士を鼓舞する。
 これくらいの簡単な工夫で、兵士たちが戦えるのなら、俺はそうする。何故なら、俺は負けて、死にたくないから。俺はどこまで行っても、二万人を超える師団などを統率する才能はない。精々5000が限界だ。

「厳しい訓練を重ねたお前たちなら、ポラーブ兵5人分の戦力がある!つまり、俺たち旅団は五千の一人の軍団になるだろう!」
「故郷に戻ったら自慢になれるぞ、英雄の下で戦うことができたと!」

 そんな意味のない小さく、空虚な言葉を羅列しながら塹壕を小走りで動き回り、各部隊に活を入れていく。

 そんなことをやっている中にも、ポラーブの歩兵たちはノシノシと歩みを進めてきている。
 奴らが俺たちの喉元に刃を突き立てるには、まずは軽く傾斜させた坂を全力疾走で10mくらい走り、さらにそこに備え付けられた50㎝くらいの土壁を乗り越え、そこまでやってようやく俺たちの脳天に銃剣を突き刺すことが叶うわけだが…

 それをやっている間に、俺たちは余分に一発はマスケットライフルを叩き込める。さらに、皮肉にも狭い塹壕の中ではマスケットライフルもミニエー銃も等しく意味はなく、そうなると俺たちは近接戦闘に挑むことになる。
 ポラーブの歩兵たちも、近接武器を振り回す経験はないだろう…

「とつげきぃぃいい!!」

「きたぞ、きたぞぉ!」
 相手が突撃し始めた瞬間、マスケット銃から一斉に銃声が咆哮する。周りが見えなくなるくらいの、煙幕かと錯覚するくらいの煙が銃身から吹き上がり、戦列歩兵たちは慌ててマスケット銃の再装填を始める。
 一方の敵は、傾斜と土壁で歩きながら遮られ、大勢が死ぬくらいなら一気に突撃して多くを殺すことを決意したようで、一斉に咆哮しながら走り続ける。

(最悪だよ、なんで覚悟ガンギマリの死兵どもと初戦で戦わなきゃいけねぇんだよ!?)

 その後も、連携して同時に数発発射され、バタバタと倒れる音が聞こえたが…もうすぐ近くだ。連中は土壁を乗り越えてくるだろう。


「総員、銃剣を取り外せ!発砲を継続しながら各自近接戦闘に備えよ!」
「「「んなっ!?」」」

 塹壕内と言っても、互いにすれ違えるくらいの横幅はあるわけで。しかし、そうなると槍のように長い銃は戦闘に不適格だ。ナイフの方がよっぽど扱いやすい。
 困惑しながら、或いは決意を決めたヤケクソの表情で、彼らは銃剣を取り外し、それを手に添える。
 俺とフリードリヒは将校用とされている、本来は見栄えのためだけのサーベルを抜刀し、近接戦闘に備えた。

「迎え撃て———!!」
「「「うぉおおおお!!!」」」
 塹壕内で魔法使い兵たちが一斉に叫び、塹壕周辺をフリードリヒ貴下の騎兵たちが走り回り始める。突撃槍を構え、敵兵を突き殺すために。

「進め、進めー!ポラーブの、スラヴァ民族の誇りを見せろ——!!連中にターネンベルクを思い出させてやれッ!」
「「「ポラーブに栄光あれ、スラヴァ民族に栄光あれ———!」」」

 ポラーブ人たちの騎兵も走り回り始め、土壁を乗り越えたポラーブ人たちは俺たちが構える塹壕内に直行して乗り込んできた。

 塹壕の中で、本来は二世紀は早い泥まみれになる狂気の殴り合いが始まった。
 ポラーブ兵は槍のようになっているマスケット銃で殴り込みをかけ、俺たちは敵の喉元に潜り込んで、無我夢中で敵の喉元に手に構えた銃剣を突き刺すのだ。

「フリードリヒ!」
「グラウス!」
 互いに背中を預けながら、あの時の地獄を耐えきった同胞の力を信頼し、サーベルで塹壕内に飛び込んできたポラーブ兵を切り殺す。後ろを気にせず、バッサバッサと切り殺す。それくらいしかできることがない。

 ここまできたら、細かい指示も士気を高める言葉も意味はない。
 集団戦は個人戦に移り変わる。


 ———しかし、ここで俺が塹壕戦を選んだ第二の理由が飛び出してきた。
 敵は数を頼りに殴り込んできたのは良いのだが、ただでさえ長い銃槍を構えながら塹壕内に飛び込んだせいで機敏に動けず、少数で手に銃剣構えて突っこんでくるウチの魔法使いたちに対応ができていない。

 そのまま、斬り続けてどれくらいがたった?
 向かってくるポラーブ兵を切り殺し、倒れた奴からマスケット銃を奪い、俺を突き殺そうと突進してきた騎兵には、竜騎兵が使うピストルをブチ込んだ。
 サーベルはすでに刃こぼれが生じており、俺の将校服は鮮血と泥に塗れた。周りにはポラーブ人がゴロゴロ転がり、それよりも少ないが、確かにウチの軍服を身に着けた兵士たちが倒れている。
 英雄的な戦いは全くできず、もう本能に任せて切って奪って切って殺してトランス状態でそのままだ。
 
 塹壕周囲は死体と血と泥で埋め尽くされ、静寂を各地が支配している。
 ポラーブの兵たちはすでに撤退を開始しており、辺りは鉄と煙と血の匂いで満たされていた。

「フリードリヒッ!」
「俺は無事さ、グラウス!」

 幸いにも、俺は殆ど無傷で…細かい切り傷は擦り傷は山のようにあるが…俺たちの区画は比較的マシだったようだ。

「ユンガー旅団長!?」
「レヴィーネ中隊長、お前も無事だったか!?」
 幸いにも、結構な数の中隊長が報告のために戻ってきた。損害状況を報告し、頭の中で算盤を弾けば、残っているのは800名程度…まぁ、大体いつも通りの損失だ。
 …それでも、中隊長たちも死んだのか、見知らぬ顔の奴らが報告をしてくる。どうやら意識不明、重体、即死その他諸々の理由で前に酒盛りをしていた中隊長の3人が死んでしまったようだ。

「——速やかに治療を行うよう。それと、敵が再度逆襲してくるかもしれん。歩哨を立たせるのを忘れないように」
「ハッ…倒れた同胞について、ですが」
「今は戦争だ。弔いたい気持ちは分かる。俺だってそうしたい…だが、諦めろ。今は生きている者たちを見取り、これ以上犠牲者が出ないように尽くせ」

 目の前で死んでいく者たちを見せつけられる中隊長、小隊長たちには悪いが、慣れてもらうしかない。
 俺だって、七年戦争で同じように同郷の仲間を何十回と見送った。国家の英雄だと気休めの励ましをかけ、お前はきっと天国に行けると。
  
 俺の言葉に、悔しそうな表情で命令を受領した彼らは一斉に走りだし、俺の出した命令を伝えに行く。
 
 決戦は一度終わった。しかし、戦はたった一回では終わらない。


 双方、死傷者を整理し、再びぶつかるための準備を開始する。
 戦争は、どこまで行ってもシステマチックで、人の心が存在しない。


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