近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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アルーマの戦い

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  さて、祝賀会が終わってしばらくして。世界情勢は流動的に動き回っていた。
 アルトリア帝国はステープの遊牧民たちの大地、その入り口に足を踏み入れていたのである。
 シャーの王国を征服した精鋭のムハンマド常勝軍。マスケット銃と擲弾を装備した軽装歩兵であり、貿易国家としての富にモノを言わせた高練度を誇る部隊だ。この世界のムハンマド教国の中ではまさに桁外れの練度を持つ部隊だと言えるだろう。

「擲弾、放て!」

 導線に火がつけられて、手榴弾のように擲弾が投げ込まれ、爆発する音が轟く。
 擲弾の使い方は多岐にわたる。例えば、今のように……


 ヒヒーーン!?

 爆音にそもそも慣れていない、元来臆病な性質の馬から騎兵を落とすときのために。
 擲弾と言っても、本当に手榴弾のように小さい。この兵器は音響兵器であり、騎兵殺しのために開発させたモノ…ヴェルーシが繰り出してくるであろうコサークとステープでやり合い、ポラーブ騎兵の伝統を一部継承したヴァロイセン騎兵、そして最も近しい仮想敵のバジャール騎兵と対抗するための兵器であった。

「構え、ってー!!」
 
 勿論、敵がゲリラ戦を仕掛けてくるのは厄介であるが。馬から叩き落としてしまえば問題はない。そして、ムハンマド常勝軍には無制限に物資が流れてくる。
 遊牧民は農耕民と違って絶対数が少ないのだ。ハナから一気に全土占領なんて考えるのは阿呆のすることである。連中は走り回る場所を変えるだけで転戦し続け、その間にこちらは枯れ果てるだろう。
 ヴェルーシの連中が使っているマスケット銃を装備している騎兵がチラホラ見えることも、持久戦で対抗するべきだという結論に至っていた。

 勿論、ヴェルーシも食料も武器は送り込んでくれるだろう。しかし、連中は果たして何年もそれに付き合ってくれるだろうか?むしろ、全土征服されるよりも…と考えるだろう。

「よし、追い払ったな。砦の建設を開始する!」

 戦い方は簡単だ。街を作りながら進撃し、騎兵の生存範囲を徐々に徐々に圧迫している。戦争のために道を作るローマのように、我らは入植街を作るのだ。
 遊牧民は農耕民族から略奪することで生計を立てているわけだが、何十年も続けてきた貿易によって連中は貨幣経済になれて、贅沢に慣れてしまっていた。
 ならば、時間をかければ必ず征服は可能である!

 同時に《アルトリア化》を進めていく必要がある。そのために、本来なら流民として都市に逃げ込んでいた者たちを大規模に動員して、彼らに入植都市を作らせる。
 娯楽が少ないからこそ性交渉が盛んであり、人口増加率も現代国家から見れば憤死する程に高い時代だからこそ取れる選択肢だ。
 彼らはアルトリア語を話し、アルトリアの行政についてぼんやりと理解している。そして、ある程度集団生活を営める存在だ。
 それでいい。大胆な同化政策は帝国の特権だ。騎馬民族を追い出し、農耕民族を居住させ、軍隊を駐留させ、そしてジワリジワリと首を絞めていく。支援先のヴェルーシも、連中が使えない駒だと理解したら、容赦なく斬り捨てるだろう。

 新しく即位する予定の女帝は合理主義者であると聞いている。
 むしろ、ステープの半分を相互分割する密約でも結び、領域を確定させてしまおうか。そうなれば、砦の建設数は少なくなり、経済的な負担は小さくなる。

 潤沢な資金は確かにある。スウェーズ運河を建設しながら戦争を継続できるだけの豊満な財政は確かに存在するが、それが無駄な浪費を決定するということではない。
  
 ジワジワと前線を押し上げ、戦いながら植民都市を建設していく様相は、まさに古代の大帝国アウグスト帝国が全盛期の時代の戦い方であった。
 圧倒的な経済力を有し、100回負けても1回勝つだけで戦略的な大勝利を掴むというやり方。確かにムハンマド常勝軍を失うのは軍事的に痛手だが、アルトリア帝国では各地で精鋭兵を生み出すための訓練が行われており、戦略的には回復可能な戦力なのだ。
 一方、遊牧民は男性すべてが戦闘員と言っても差し支えない極めて強力な軍隊であったが、厳しい生活を強いられる過程で人口は少なく、大規模な敗北は自らの氏族を絶滅させるに等しい打撃を受けることになる。

 敵と比べれば、有り余る人的資源と経済力で敵を追い詰め、破滅させていく。短期的な戦術的勝利ではなく、長期的な戦略的視座に基づいた戦争。それが狡猾な金勘定が得意なムハンマド教らしい戦い方であった。

 ステープに存在するハンや氏族は次々に追い詰められていき、弱小氏族たちは立て続いてアルトリア帝国への恭順を誓うことになる。
 ……そして、翌年には支援に見切りをつけたヴェルーシ帝国がステープの大地に進出を開始。ヴェルーシ帝国の自治国である《カザック・ハン公国》を設立し、現地に勢力を確立。
 仲良く二つに分割され、アルトリア帝国は更に勢力を強めることになるのだが…それはまた別の話である。


———
——


「何、ポラーブ国内でかつてのポルスカ王の僭称者を担いだ蜂起軍が?」
 一方、ヴァロイセン王国では帰ってきたグラウスは不穏な報告を聞く。妙な話だ、ポラーブ立憲王国は確かに反ヴァロイセン的な空気は見えるが、一方で新聞や掲示板を使って、各地に《ウチの庇護下が一番マシ》であるという情報を広めていたはずなのだが。 

 例えば、神聖グロウス帝国のシュヴァーベルク大公国の支配下にあるガルツィア・ロドメーアは、ポラーブ人は抑圧されていると。ポラーブ語の使用は大々的に禁止されている同化政策が行われていると。

 一方のヴェルーシ帝国は、兵の粗暴さから占領統治は悲惨であり、同時に同化政策によって多くのポラーブ人がポラーブ語を使えないまま、公職の大半をルーシ人に握られている状況だと宣伝しているハズだ。

 確かにポラーブ人の不満はあるが、それでもヴァロイセンの支配下に入ったことで、安価に食料が流通するようになり、ウチが生産している工業製品だって入り込むようになった。
 国家工場も再建され、大砲の再生産だって始まっている。ヴァロイセン軍に納入される大砲の生産はポラーブ人が従事しているし、河川を使った物流網の再建だって。

 だからこそ、徐々に「ウチらはマシで良かった~!」という空気がポラーブ立憲王国の市民感覚であると、東部方面軍作戦司令部からの情報だったのだが…?

「いえ、元軍属を部隊長とし、農民たちがヴェルーシやロドメーアから逃げてきた者たちのようです」
「あ~……ヤケッパチになっちゃった、かぁ」
 ヴェルーシ帝国も、シュヴァーベルクの弾圧も時代相応であるのだが、それを受け入れられない者たちは多いだろう。生活苦になれば、カルト的な思想にハマった連中が武器を取って武装蜂起してもなんら不思議はない。
 何せ、今は武器の押収が進んでいないはずだ。一応はかつての合同共和国の行政をそっくりそのまま掌握しているハズのウチでも遅れているのだから、行政をスクラップビルドしている他の二ヶ国は言わずもがな。
 そうして飯は無くても武器がある連中が武装蜂起の選択肢を取るのは当然だろう。

 そして、そういった連中が、仮にも生活に余裕があるウチにやってきて、活動を継続するのは…まぁ、理解できる。

「そして現地のポラーブ人を唆して物資を調達、3000程度の兵力を未だに保持しているようです。しかし、大半が農民兵と言った様相であり、指揮官たちの指揮力はともかくとして、練度は我が旅団よりも劣悪です。我が旅団の新兵たちに《人を撃つ》ということになれさせる良い機会であると愚考します」

「ふむ、随分と俺の思考を読めるようになってきたじゃないか、レヴィーネ。ならば鎮圧に向かうとしよう。東部方面軍に対しては…」
「ハッ、閣下が休養中の間にすでに書類を作成、フリードリヒ、ピウスツキ両大隊長の承認を得て、東部方面軍に送付しております」
「パーフェクトだ。流石は俺の秘書である」

 俺はゆっくりと書類を読み終わり、ペンを取ると承認のサインを書き上げる。

「メーヴェルラントとは違うが、今度こそ実弾演習を行う良い機会である。全部隊に通達せよ、1ヶ月後に武装蜂起している僭称者の群れを鎮圧する」
「ハッ、速やかに各地に伝達いたします!」


 今度こそ、実弾演習という軽い訓練になれば良いのだが…そう思いながら、俺はそれらに必要な物資の計算、東部方面軍への根回し、その他補充品の要請などの書類仕事に埋没されるのだった。

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