近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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ヴィストク蜂起

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 ポラーブ立憲王国ヴィストク地方。

 現代ポーランド国境最東部の地域に《合同共和国復古戦線》と自ら呼称している武装勢力が存在していた。そもそも、ポラーブ人にとって、今の祖国は立憲王国なんてマガイモノでは決してなく、最盛期の、全ての大国に勝利可能だった偉大なる合同共和国であったのだ。
 …なお、その理想像がすでに内政破綻の上にハゲタカに食い散らかされた故の残骸から生まれ出た郷愁的な思い出であり、合同共和国の時代は多くの者達が「もう終わりだよこの祖国」と思っていたのは、彼らにとっては無視するべき出来事である。
 
 ポラーブ立憲王国は国辱という言葉で済んだが、ガルツィア・ロドメーアや東ポラーブの民にとってはそうではない。自らの言語活動、出版活動は著しく制限され、同化政策の大義名分の名の下に一方的に弾圧される地獄であったのだから。

 そうして、東部ポラーブのルーシ人の弾圧から逃れようとする農民と、かつての栄光という虚像に縋りつく軍人たちによって、彼ら曰くレーベルクや、バルスト等、ポラーブ人居住地域で同時多発的に武装組織がタケノコの如く乱立し始めたのだ。

 武装解除が満足に行われていない中、旧合同共和国の武器庫、駐屯地、あるところから武器を掻き集め、兵隊は生活苦の農民たちを駆り集め、ポラーブ人の抵抗としてその意思を示さんと活動を開始しているのだ。
 彼らの行動を嘲笑う者たちも多いだろうが、当人たちにとっては誇りは命よりも上のものであり、子々孫々に誇りのために死ぬと語り継がれるのは、今の恥辱よりからの栄光よりも今の名誉を求める死を求めてしまうのだ。

 それはそうだろう。
 経済苦境に陥ると治安が悪化するように、敗戦するとかつての残骸を徹底的に弾圧するように、人の心とは往々にして命を投げ捨てることを是にするのだから。

 そうして、ヴェルーシで立ち上がった彼らは…ヴェルーシ帝国軍に情け容赦なく叩き潰された。
 当たり前だ、正規軍でさえ帝国軍に叶わなかったのに、どうして非正規戦で勝てようか?食い詰めた農民たちを吸収して見かけ上の兵士たちは増えても、兵力は擦り減っていく一方だった。

 だから・・・ポラーブ立憲王国に逃げるのだ。
 あそこは王こそはライヒ人だが、曲がりなりにもポラーブ人が支配し、自治する国家である。最低限の慈悲はもらえるだろう、そこを突いて一地方を占拠し、地方軍閥を形成、そこから抵抗を繰り広げようと妄想することくらい、当たり前の発想だった。

 しかし、具体的にどうするべきか?という目標はとんと浮かんでこなかった。とりあえず、ポラーブ立憲王国のヴィストクを占領し、そこを基盤に軍閥化しようと考えても、何十年もかけて祖国を奪還しよう、ライヒの王を追い出そうというビジョンがあっても、いざその座に就いた時に具体的に何をするべきか?というのは一切考えられなかった。
 ある意味で現実逃避であり、誇りや退廃した現実を受け入れられないがための逃避的な行動であり…それ故に、容易く討伐されることになる。


「…ほぉ、成程ね」
 俺の知識によって、一切暴力を伴わない拷問何日もロッカーに押し込めて寝させない措置によって、敵軍の位置と場所、結成経緯から詳しく聞き出すことに成功した俺たちは、進軍を継続していた。
 ちなみにそれらの拷問の手段は、日本やソ連の共産党などで愛用されていた科学的拷問…つまりは暴力を一切振るわずに、自白を強要するやり口だ。この場合だと証言性には若干かけるが、それでも肉体言語で聞き出すよりもよっぽど早くて効率的だ。本当ならロッカーについでに電球を24時間オールウェイズで照射し続け、寝成さないようにする必要もあるのだが…まぁ心が折れて自白するだけの時間が長くなるだけだ、何の問題もない。

 それに、法倫理が追い付いていないこの時代なら、これは拷問にカウントされない。ちょっと自白まで長くかかっただけのただの聞き取り尋問だ。鞭も棒も振るわれずに、飯も水も出してくれるなんて、なんてお優しいんだろう!
 実際、概要だけを聞いた貴族たちはそう思うくらいだ。尤も、自分が同じ順番に回ったらあっという間にそれを撤回することになるだろうが。

「ヴィストクを占領して、軍閥化する…閣下、これに一体何の意味があるのでしょうか?」
「ない。現実を受け入れられない馬鹿が最後の夢を見るために周りを巻き込んで壮大にバカやるだけの話。盗賊がちょっと強くなって、ついでにいらねー思想を持っただけだ」

 これらの武装蜂起に何の意味があるのか。歴史書を何度もさかのぼって調べてみたが、俺にはその意味が最後までとんと理解できなかった。言い方は悪いが、特攻みたいに少ない資源で敵に戦果を与えられる《可能性がある》なら、実施する意味が…俺は全く受け入れられないが、まぁ辛うじて理解はできる…1%くらいしか理解できないけど。

 しかし、こういった祖国の奪還を目論んで大規模蜂起した成功例があまりにも少ない。都市を開放して有名になる前のジャンヌダルクか、チトーか、ケマル。俺の頭の中にある武装蜂起の成功例はこれくらいだ。
 ワルシャワ蜂起とか、カデットの11月蜂起とか、成功例がまるで少ないのだ。後は戦後共産党の赤色テロルとかか?
 俺はこれらのその武装蜂起の必要性をとんと理解できなかった。

「これが立憲王国ウチの庭でやらかしてくれただけまだマシだ。あくまでも自治する民族はポラーブ人だしな。これがヴェルーシやシュヴァーベルクでやってみろ。自治権の縮小、最悪は大規模な弾圧待ったなしだぞ?」
「え、えっと?」

 ちょっと俺の言っていることが未来的すぎたかもしれない。確かに~人っていう人種意識はあるけど、まだうすぼんやりとした適当なモンだったな。
 実際、ナポレオンがやってくる前のチェコ人の大半が、チェコ・ナショナリズムを持っていなかった。何ならぼんやりとドイツ人だと諦めていた者の方が多かったのではなかろうか。実際、チェコ語とドイツ語には長い時間同じ国の領域で生活してきた名残で、スラブ系の中では最もゲルマン的な発音、単語が数多い。

「要するに逆効果ってことだ。絶対に失敗する投資話に乗って大損する感じだぞ?勝ち目のない商談を受けるバカはいない」
「ああ、成程…納得しました」
 だからこそ、実家で金貸しをやってる彼女でもわかりやすそうな…といっても、過去のユダヤ人へのエスニックジョークをパクったモノだが…それで例えてやれば、彼女は納得した。
 つまりは、成功しない賭けに挑んで余計に肩身を狭くすることをやらかしているのだと。

 ヴィトスクの砦で籠っている連中を眺めながら、俺はどーしたもんかねぇと悩んでいた。

「…にしても。どうやって連中を釣りだそうかね?」
 要塞に籠っている師団に掛け合って、一応要塞砲を牽引してもらって。砲撃訓練もかねて連中の射程外からズッコンバッコン要塞砲を使って要塞の城壁を崩しているのだが…一向に出てくる気配がない。
 この時代の大砲はちょーっと威力が高いだけの鉄球を投射する半質量兵器(ガチ)だから、城壁を崩すことはできてもその先が無理なんだよなあ。

 連中、無駄に装備が充実している。武器の押収が本当に進んでいなかったのか、連中野戦砲を要塞砲に転用してんだよな。だから、本当ならもっと接近して野戦砲も使って要塞の片面を木端微塵に破壊して、歩兵を流し込みたいんだが、それもできねぇ。

「近づいて野戦砲で砲撃…すると、兵の犠牲が増えちゃいますよねぇ」
「ヒトは資本だぞ?それにウチの魔法旅団は補充が効かないんだ」
 そもそも魔法使いの母数が少ないんだ。だからこそ本当なら犠牲を出す戦いはしたくないわけで。
 
「どーしたもんかねぇ」
 最悪、金にモノを言わせた戦術を取るしかないかー。できればしたくないんだけどなーと思いながら、砲兵隊や、ヴィトスク付近の要塞に詰めている部隊に《お願い》するための書類を作り始めるのだった。
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