近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

文字の大きさ
39 / 60

砲撃演習

しおりを挟む
「砲兵よ、祖国が呼んでいる。砲兵よ、国王陛下が呼んでいる!幾重の砲を並べ、母のために祖国のために撃てよ、撃てっ!」

 これを歴史マニアが知っていれば、どうしてこの時代に、コレがライヒドイツ語で歌われているんだとなる曲…作曲者は当然旅団長グラウス…遥か未来の歌を口ずさみながら、砲兵たちは要塞に向かって砲を放つ。
 要塞砲という、数キロ先からも砲撃することができる『この時代にしては優秀な砲』は、敵の1㎞を撃てればマシな野戦砲よりも遥かに、遥かに遠くから敵の要塞の壁を穿ち、崩すことができていた。

「射角の調整を行え、再び撃つぞッ!外れることを悔やむなよ…気兼ねなく撃て、弾代は旅団長閣下がいくらでも出してくれるとのことだ!」
ヤ、ヴォールイエス、サー!」

 あくまでも、この時代としてはという枕詞が必要になるが。それでも集められた砲兵たちは忠実に職務を遂行し、東部方面軍から引っこ抜いてきた要塞砲を用いて敵のこもっている要塞を撃ちまくっていた。

「しかし、これでは本当に砲撃演習だな」
 ヴィストク蜂起を、東部方面軍の中で担当している第三師団に変わりて鎮圧すると旅団長閣下が仰ったときは、東部方面軍が解決するべき《些事》に対して、何を言うと思ったのだが…言われてみれば、本当に砲撃演習に近しいものであった。
(……それに、予算の貰い方がお上手だ)

 ただ、新兵の演習のために演習が必要なのでたくさんお金をください!と言われるよりも、賊徒を鎮圧するためのお金をください!といえば、司令部も愛国心旺盛だと判断して、良い顔をして金を出すだろう。
 もし、砲弾代よりも高くついたとしても、ある程度予算は出されるのだから、演習よりも相対的にお得になると言われれば、旅団長閣下の節約術と言えるものには驚くしかなかった。

(…ハハ、第八師団長に散々に中隊予算をカットされてきた上、物資も散々にパクられてきたからな。こういった予算の引き出し方については一家言あるのさ)
 確かにそうかもしれないが…それでも、今はそんなに節約しなくても潤沢な予算が割り当てられているというのに。
 第八師団の《猟犬》と呼ばれた男。
 ポラーブとの国境警備で、侵入してきた敵軍を撃ち滅ぼすことに全力を尽くしてきた、祖国と郷土を愛する、勇敢な人だと思っていたのだが…実態は第八師団長から予算をやりくりするために、猟犬として任務を全うし、あらゆる方法で予算をせしめる方法ためだとは思ってもなかった。

「さて、これだけ潤沢な環境で好きなだけ砲を並べて撃てるんだ。お前たち、分かっているな!」
「ハッ!これほどの厚遇をしてくださる旅団長に尽くし、百発百中の覚悟で臨んでいく覚悟であります!」

(……しかし、旅団長閣下もおっかない人だ)


「1昼夜砲撃を加える!?」
「その通りだ。」
 旅団長が攻略法として持ち出してきたのは、つまり敵を玉砕させるように持ち込む戦術であった。兵士というのはとにかくストレスがたまる。籠城戦なら猶更だ。
 いつ攻撃されるか、いつ砲に当たって死ぬかも分からない中、ずっと敵襲に備えて構え続けなければいけないのだ。その恐怖はいかほどのモノだろうか。

 それを、休む暇なく。必要とあれば1昼夜に及び、それでもだめだったら2日の昼夜を続け、1週間籠るようであれば1週間砲撃を続けてしまえば良いのだ。
 砲撃演習にもなって、丁度良い…とのことだが。

(どれだけ金がかかる戦をしようというんだ、旅団長は!?)
「経験を積んだ将官の命は砲弾代では測れないよ。何、蜂起軍は命を代償に我々に砲の撃ち方狙い方を実戦でご教授してくださるそうじゃないか。全力で応えなければ、ね」

 自分の浅はかな思考を見透かされたことにゾッとしながらも、砲兵隊長は新しく夜勤の砲兵を呼び出し、夕食の準備に励むのだった。

 ドォン!ドォン!ドォン!ドォン!

 砲兵陣地から数百メートル離れた本陣でも轟く砲声を前に、俺はのんびりと書類整理、そして寝る前の飲酒を嗜んでいた。

「ね、眠れません!」
「何、軽く酒でも嗜めば良いだろう。日勤の兵士諸君にもスピリタスを配給していることだ。レヴィーネも飲めばよかろうに」
「私はアレが苦手でして…しかし、夜間で砲を撃っても当たるはずがありません!」
「そりゃそうだ。アレはスト…敵に精神的な消耗を強いるためだから当然だろう」

 ストレスなんて便利な言葉が開発されていないからこそ、俺は面倒なことに精神的消耗という言葉を使わないといけない。それに対し若干の不満を覚えながら、レヴィーネに解説する。

「俺たちでも眠れない!となるんだ。となれば、直に砲撃を受けている敵はどうなる?」
「……鬼ですか?」

 つまりは、意図的に敵にストレスをため込ませ、暴発させるか精神的に使い物にならなくさせるか。そのまま軍隊としての統率を失って同士討ちを始めて壊乱するか、んまぁこんな感じの選択肢が残るだけだろう。
 戦争とは、徹底した下準備に行われる。無限に動員することが可能で、敗北した時にも勝利した時にも使える便利な精神論は後押しになるだろうが、100%の勝利を約束するモノではない。

「失敬な。200年後なら1昼夜の砲撃、1回の戦闘で何万発の砲撃が行われるようなコトが当たり前の光景になるだろうよ」
 第1次世界大戦、第2次世界大戦。第1次世界大戦では、シュリーフェンプランの3週間で150万発の砲弾が使用されたという。その他の作戦でも、1回の作戦ごとに数万発の支援砲撃は至極当たり前のことであった。
 次の第2次世界大戦の北方軍集団を潰そうとするソヴィエト軍は、エストニア攻略戦で1回の攻勢ごとに数千発の砲弾を放つのは当たり前だった。数万人如きが死傷する程度の、つまりソ連軍にとって《比較的重要な第二戦線》においてそれだけの砲弾が降り注ぐ。
 ちなみにこれが末期のゼーロウ高地の戦いになると、ゼーロウを攻略せんとするソ連軍は初日の初撃、20分で4万の火砲と123の砲弾を投射している。末期戦で何もかもが足りないドイツ軍としては、イカれてるなんてモンじゃおさまらないだろう。

 ホント、大砲の進化ってすげぇ怖い。この榴弾砲が炸裂砲弾に進化することで、ワンチャン吹き飛ばせる程度の砲弾が、確実に数人の命を奪う魔弾へと進化せしめたのだから。
 それに比べれば、この程度はハラスメント以外の何物でもないのだから、彼等はマシだと思う。ウン。
 
「もしくは耳栓でもしていればどうだ?ビオーネ連合で取り寄せているらしい、ブラジリアのゴム栓というものは便利らしいぞ?」
 まぁ、そんなモノを買う金なんてウチの旅団にはないから、俺は耳に柔らかい、耳を傷つけない程度の詰め物をして耳栓代わりにしているわけだが。

「そんなもの、取り寄せているわけないじゃないですか…っていうか、子爵閣下はどこからそういった情報を手に入れてきているんです?」
 弱った様子のレヴィーネに、俺はこっちにこいとクイクイと誘う。

「なら、話し相手になろうじゃないか。気が紛れることをすれば、少しは眠れるようになるだろう?」
「……ハッ、閣下の御寛容に感謝しますだから、勘違いしちゃうじゃないですか
 砲声が轟く中、互いに酒を嗜みながら。レヴィーネが眠るようになるまで、俺は彼女の話し相手を続けるのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極限効率の掃除屋 ――レベル15、物理だけで理を解体する――

銀雪 華音
ファンタジー
「レベル15か? ゴミだな」 世界は男を笑い、男は世界を「解体」した。 魔力も才能も持たず、万年レベル15で停滞する掃除屋、トワ。 彼が十年の歳月を費やして辿り着いたのは、魔法という神秘を物理現象へと引きずり下ろす、狂気的なまでの**『極限効率』**だった。 一万回の反復が生み出す、予備動作ゼロの打撃。 構造の隙間を分子レベルで突く、不可視の解体。 彼にとって、レベル100超えの魔物も、神の加護を受けた聖騎士も、ただの「非効率な肉の塊」に過ぎない。 「レベルは恩恵じゃない……。人類を飼い慣らすための『制限(リミッター)』だ」 暴かれる世界の嘘。動き出すシステムの簒奪者。 管理者が定めた数値(レベル)という鎖を、たった一振りのナイフで叩き切る。 これは、最弱の掃除屋が「論理」という名の剣で、世界の理(バグ)を修正する物語。気になる方は読んでみてください。 ※アルファポリスで先行で公開されます。

Shining Rhapsody 〜神に転生した料理人〜

橘 霞月
ファンタジー
異世界へと転生した有名料理人は、この世界では最強でした。しかし自分の事を理解していない為、自重無しの生活はトラブルだらけ。しかも、いつの間にかハーレムを築いてます。平穏無事に、夢を叶える事は出来るのか!?

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

処理中です...