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「異世界での暮らし」
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最初はどうなるか不安だったけど、異世界の暮らしは快適だったりする。
「んー、今日もいい天気だー」
朝食を終え、部屋のバルコニーで景色を眺めながら背伸びをする。
雲一つない穏やかな空、広大な地平線、街を囲む塀や赤茶の屋根で統一されている街並みが小さく見える。
オレがいるところはバルコニーだけど、この国の王様が住んでるお城の中のバルコニー。
視線を遠くから近くに移すと、手の行き届いたシンメトリーな庭が広がってるし、後ろを振り返ればディ〇ニーランドにあるお城とかハリー〇ッターとかで出てくる塔のある建物が・・・。
遠くで見るばかりだったけど、住んでみるとけっこう圧巻だ。
美少年の第二王子、ルノーから聞いたけど、この国はアリッシュというらしい。
アリッシュに召喚されてから一週間経つけど、とにかくルノーが自信を持っていうだけあって快適だ。
今となってはオレの部屋になってるけど、もともとは妹の桃花のために用意されていただけあって入った時は家具が全部かわいいピンク。服は聖女らしい白一色のドレスやワンピースばっかりだった。(ドレスもワンピも何が違うんだ?)
それを大慌てで家具を全部水色に。服は男物を揃えてくれた。壁の模様替えもなにもかも換えるなんて大変すぎるとびびったけど、魔法でちゃちゃっと済ませたから拍子抜けした。
そうだよな。魔法陣とか召喚があるんだから魔法のある世界だよな。(慣れねー)
服装はわりと種類があって、ルノーみたいに体型を隠す服だけじゃなく、オレが着ていた服とそんなに変わらない地味で上下がわかれてる服を用意してもらった。
ちなみに今着ているのは、襟無しの水色のシャツに、紺色のズボン。何種類か見たけど、襟無しのシャツは流行りなのか、伝統なのか、頑なに同じ形だ。生地はまぁ・・・肌触りがいい布って感じ。
気候は一年間通して温暖で過ごしやすいと言ってたからこの格好で一生問題なさそうだ。
友達に借りて読んだ漫画とかだと異世界の飯はまずいとかあるけど、まったく問題ない。むしろ、めちゃめちゃうまい。
お米は出てきたことないけど、パンに似たようなものとかスープとか見た目は地球にある食べ物と変わりはない。どちらかというと洋食系だな。海外に旅行しに来たと思えば全然いける。
シャワーも風呂もあるし、声をかければ使用人(メイド)が世話をやいてくれるし、今更だけど言葉の壁もないし、文字も読める。
まったくもって不自由がない。
だからつい、口から出てしまう。
「あー今日も暇だー」
いやいや、異世界で不自由がない暮らしをさせてもらってることに本当に感謝なんだけど、とにかく一日中暇だ。
異世界は電気も飯もまずくて、地球から来た人間が知識をフル活用して~大活躍するとかいうお決まりの異世界設定はない。
まぁ、オレが教えることなんてなんもないんだけど。料理はレンジがなきゃできないに近いし、できてもおにぎりとかお味噌汁とかくらいだ。それも、ダシからなんて無理だから市販のダシの素とか・・・て、
「暇だけど、地球に帰れるまでこの暮らしでいられるなら我慢、我慢」
魔法があるんだから魔物とかいるかもしれないし、そんなところで命からがら逃げるなんてごめんだ。
ルノーの言葉に甘えて三ヶ月間、まったり暮らそう。
今思えば、高3で受験勉強の毎日を送って、大学に合格したらキャンパスライフが始まってバイトして、休む暇もなく生きていきたんだ。
大学の友達作りも大変だし、気が抜けない日々・・・。
これはちょっとした、いや、夏休みよりも長い休暇を。しかも、海外旅行気分の休みをまったり満喫。
「いいね!」
ウェーイ! なんて陽キャっぽく言いながらヨーロッパの田舎街みたいな景色に親指を立ててみたり。
電池が切れたみたいにすぐダラッと太い手すりに身体を預ける。
「にしても、すでに1週間でこれはなー。城内めぐりは一番最初にルノーに案内してもらったし、王様と王妃様にも内密に会わせてもらったし、その時におっさんたちの無礼な振る舞いについてめちゃくちゃ謝ってくれたし」
内密というのは、聖女様が来るはずなのにその兄が来たというのは例外の例外らしい。歴史上ないってこと。そんなことが外に広まったら・・・いろいろまずいらしい。(どこの世界も世知辛い)
「ま、王様も王妃様もイケメンで美人で優しかったからよしとしよう」
スクッとまっすぐ立ち、腰に手を当てる。
「やべー、暇すぎて独り言が増えるぅー」
ここはひとまずバルコニーから見える庭へ散歩に行こうと部屋を出る。
掃除がいきとどいたぺかぺかな廊下。床も天井も壁も白で統一されてて眩しい。
老朽しないよう新築の状態を維持する魔法がかけられているとか。(ルノーから聞いた)
「にしてもこの廊下、歩いても同じ景色だから迷うんだよなー」
暇すぎると庭へ散歩に行くのが日課になりかけてる。昨日も2回行った。だけど、庭へ出るドアへのルートは未だにあいまいだ。
おとといはたどり着けず迷子になったあげく、怪しげな地下へ続くドアを発見してしまった。
「えーと・・・まっすぐ行って突き当りを右に~・・・だよな?」
すでに記憶が怪しい。
とにかく昨日の自分の記憶を頼りに右に曲がる。しばらく歩いてると複数の話し声が聞こえてきた。
「まだあのドラ息子様は帰ってきてないのか?」
「まだらしいっすよ~」
ドラ息子?
話し声にぴくりとオレの耳が反応する。
ドラ息子ってなんだっけ? 知ってるんだけど意味忘れた~。
スマホスマホと、いつもズボンの尻ポケットに入れているスマホを取り出そうとするけど・・・ない!!
ちなみに、尻ポケットもない。
異世界に来て初めてスマホを持っていないことに気づき、不便さを痛感する。
「マジかー。よく1週間平気だったな、オレ。いやいや異世界にスマホって。ていうか、スマホなくても平気だったのがすごい。でも、ないのを実感すると急にスマホの存在がじわじわ」
やべ。また独り言が・・・。しかもめっちゃペラペラと。
地球にいる時は独り言なんて「あ」とか「やべ」とかうっかりの時に出るだけだったのに。
もしかしてオレ、さみしんぼ? 人としゃべりたい?
新たな自分に気づいて地味にショックをうけてる間も聞こえてきたふたりの男の会話が続く。どうやらこの先にいるみたいで広間があるっぽい。声が反響して聞こえる。(道間違えたー)
「王様はどうされるおつもりなのか。俺は断然第二王子のルノー様派だな!」
「おれもっす。あの美しすぎる美貌は落ちない者はいないっす。聖女様もルノー様がいいに決まってます」
「あの外見は末恐ろしいよなー。しかも、優秀で真面目でいらっしゃる」
「おれら下っ端にも優しいっす!」
「身分関係なく対等に扱ってくださる! なんて慈悲深い方だ。学びを受けながらも王様の仕事までお手伝いされていると聞く」
「王様もルノー様を気に入ってるのになんで次期国王じゃないんですかねー。やっぱり後生まれのさがってやつっすかね。」
「それもあるが、ルノー様の母親が第一夫人じゃないからだろ。この国は一夫多妻が認められてるが、後継ぎとなると正室が強いんだよ」
「あーなるほどっす。そう言われると第一王子とルノー様、顔似てませんもんね!」
「性格もだろ! 第一王子はルノー様とはてんで真逆だ! 学びは途中で逃げ出すわ、王様の仕事はあっちのけでダンジョン荒らしをしてるらしいじゃないか! 1度城を出たら数ヵ月帰ってこないっていう話だ。それでこの国の次期国王の継承者っていうんだからアリッシュも先行きが不安だなぁ、おい」
「聖女様の召喚される日もすっぽかしたって話っすよ」
「ひでー話だ。にしても、本当に聖女様はこの城にいらっしゃるのかねー。姿を1度も見てねーや」
「おれもっす!」
「はーあ、いくらこの城で働いてるからってそうそう聖女様を拝めるわけもないかっ!」
がははははと中年くらいの男の笑い声が高々と響きわたる。
サーと身体の血が引いていくのがわかる。
「聞いちゃいけないものを聞いてしまった気がする」
まさかルノーにそんな事情があったとは。いやいや、オレはなんにも聞いてない・・・てことにする。
三ヶ月間しかいないんだから、この国のことに首なんか突っ込んでもいいことないし、オレができることなんてなーんもない。
「・・・」
待った、うちの妹が聖女様として召喚される!!
「聖女様も絶対ルノー様がいいと思うんすよねー」
「やたら推すなー、おい」
「だって聖女様、時期国王と結婚するんすよね?」
「みてーだな」
ん?!!!
「第一王子のうわさって悪いのばかりじゃないっすか。小言を言った使用人をその場で燃やしたとか。貴族様もルノー様に肩入れしてるって聞いたことあるっす。聖女様・・・かわいそうだなぁて」
「城内でもルノー様派と第一王子派で派閥ができてるって話だ。こりゃぁ王を継ぐ儀式の時になんか起こらないといいがなぁ」
「なんかってなんすか?」
「・・・物騒な話、暗殺とか城内戦争とかな!」
「ひぃぃー。そんなことあったらおれ、こんなところさっさと出ます!」
「俺もだ、巻き込まれはごめんだな!でもまぁ、聖女様がいらっしゃるんだ。聖女様がなんとかしてくださるさ、きっと」
「なんとかってなんすか?」
「・・・そんなの、わかるわけないだろ。なんとかはなんとかだ」
「えー、なんすかそれぇ!」
最後はグダグダの会話で終了したみたいだ。場所を変えたのか声が聞こえない。
また聞いちゃいけないものをたくさん聞いた気がする・・・。
結婚ってなんだ?! 使用人燃やすってなんだ?!(怖っ)
ルノーからそんな話、全然聞いてない!!
ドラ息子な第一王子って誰だよ! 聖女として召喚される桃花がそいつと結婚?! はぁ?!
「庭に行くのはなしだ。今すぐメイドさんに頼んでルノーを呼んでもらおう!」
クルッときびすを返して元来た道を引き返そうと一歩踏み出したところで聞き覚えのある声に呼び止められる。
「ダイヤ様、ここにいらしてたんですね。探しました」
「ルノー!」
マジ偶然だ。ちょうどいいところにルノーと遭遇した。ルノーもオレを探してたみたいだし、ちょうどいい。
ルノーは初めて会った時と同じ格好をいつもしている。着替えてないとか風呂入ってないとかじゃないと思う。会うといつも花の香りがするし。絶対、同じ服を何着も持っているに違いない。
マッシュルームヘアを揺らしながらやってきたルノーは、分厚い前髪から覗くつぶらな瞳を真っすぐオレに向けて来た。これをドキッとしない奴はいないと思う。(さっきの下っ端も言ってた)
「ダイヤ様、今すぐお部屋へお戻りください」
「ルノー、ちょうどよかった。聞きたいことがあったんだ」
「聞きたい、ことですか?」
きょとんとするルノーにオレは強く頷く。
「第一王子って誰? 聖女が第一王子と結婚するってマジなわけ? オレ、そんな話一言も聞いてないんだけど」
「言いました」
ルノーは瞬きもせずきっぱりと答える。
「え。え?! マジ?!」
「はい。こちらに来られて二日目に聖女様に関することはすべてお伝えしたはずです」
「・・・」
マジか。そういえば長い話を聞かされたような。どうせ、三ヶ月で元の場所に帰れるからって適当に聞いてたかも。
「マジかー」
はぁーとため息が出る。
「第一王子は僕の腹違いの兄上です」
へー。と生返事をしたけど、ルノーの今の一言で内心動揺する。
今、腹違いって言った!
腹違いって母親は違うって意味だよな。
「その兄上が、ダイヤ様にお会いしたいと今向かっております。そうです、急いでお部屋へ」
「オレに会いたい? 兄上が? 今?!」
「きっともうお城についてるはずです。申し訳ありませんがこれ以上時間がありませんので、手荒な真似をさせていただきます」
「手荒?」
この一週間、ルノーには毎日のように会っているけど余裕がない表情は初めて見る。
手荒な真似ってなんだ? まさかオレを担いで部屋に戻るとか? いや、服の裾から見える手は白くて細い。箸を持っただけでも折れそうだ。
なんて考えていたら、一瞬で景色がオレの部屋に変わった。
「は?!」
何が起きたのか。びっくりしすぎて瞬きを何度もする。
「兄上が来ます! 心の準備を!」
普段は小鳥のような声を出すルノーが警戒しろとばかりに強めにオレに言う。サラサラなマッシュルームヘアを乱して。
『第一王子のうわさって悪いのばかりじゃないっすか。小言を言った使用人をその場で燃やしたとか』
『王様の仕事はあっちのけでダンジョン荒らしをしてるらしいじゃないか! 1度城を出たら数ヵ月帰ってこないっていう話だ』
さっきの下っ端の男ふたりの会話が頭の中で再生される。
オレは今からその悪いうわさばっかりのドラ息子の第一王子に会うんだ。
ごくり、と喉が鳴って、心臓の音がいつもよりはっきり聞こえる。
大学の入試試験以来の緊張だ。恐怖も混じってる気がする。だって、足が震える。
逃げ出せるなら逃げたい。
なんでオレに会いたいのかわからん。
あれか? 聖女の兄だから? まさか、地下室で責められたおっさんたちみたいに責められるとか? 聖女じゃなくて兄のオレが来たことを次は第一王子に。
いや、自分の結婚相手の召喚を邪魔されたんだ。もしかして、怒ってるのかも。ルノーだってなんかいつもと態度違うし。きっとものすごく怖い人なんだ。
すぐキレるとか? 使用人の小言で燃やすくらいなんだからオレも燃やされるとか?!
いつ開くのか、ドアをじっと見つめながら足の震えが増していく。
マジかよー。暇なまま三ヶ月待てばいいだけだたと思ってたのに、まさかの命の危険が。
つーか、そんな奴がオレの妹の桃花が聖女ってだけで結婚とかわけわかんねー。
しっかりしろ、オレ。どうせ燃やされるんなら、こっちだって第一王子が桃花の相手にふさわしいか見極めてやる。
ガチャッとドアノブが回ってドアが開いた。
来た!
「んー、今日もいい天気だー」
朝食を終え、部屋のバルコニーで景色を眺めながら背伸びをする。
雲一つない穏やかな空、広大な地平線、街を囲む塀や赤茶の屋根で統一されている街並みが小さく見える。
オレがいるところはバルコニーだけど、この国の王様が住んでるお城の中のバルコニー。
視線を遠くから近くに移すと、手の行き届いたシンメトリーな庭が広がってるし、後ろを振り返ればディ〇ニーランドにあるお城とかハリー〇ッターとかで出てくる塔のある建物が・・・。
遠くで見るばかりだったけど、住んでみるとけっこう圧巻だ。
美少年の第二王子、ルノーから聞いたけど、この国はアリッシュというらしい。
アリッシュに召喚されてから一週間経つけど、とにかくルノーが自信を持っていうだけあって快適だ。
今となってはオレの部屋になってるけど、もともとは妹の桃花のために用意されていただけあって入った時は家具が全部かわいいピンク。服は聖女らしい白一色のドレスやワンピースばっかりだった。(ドレスもワンピも何が違うんだ?)
それを大慌てで家具を全部水色に。服は男物を揃えてくれた。壁の模様替えもなにもかも換えるなんて大変すぎるとびびったけど、魔法でちゃちゃっと済ませたから拍子抜けした。
そうだよな。魔法陣とか召喚があるんだから魔法のある世界だよな。(慣れねー)
服装はわりと種類があって、ルノーみたいに体型を隠す服だけじゃなく、オレが着ていた服とそんなに変わらない地味で上下がわかれてる服を用意してもらった。
ちなみに今着ているのは、襟無しの水色のシャツに、紺色のズボン。何種類か見たけど、襟無しのシャツは流行りなのか、伝統なのか、頑なに同じ形だ。生地はまぁ・・・肌触りがいい布って感じ。
気候は一年間通して温暖で過ごしやすいと言ってたからこの格好で一生問題なさそうだ。
友達に借りて読んだ漫画とかだと異世界の飯はまずいとかあるけど、まったく問題ない。むしろ、めちゃめちゃうまい。
お米は出てきたことないけど、パンに似たようなものとかスープとか見た目は地球にある食べ物と変わりはない。どちらかというと洋食系だな。海外に旅行しに来たと思えば全然いける。
シャワーも風呂もあるし、声をかければ使用人(メイド)が世話をやいてくれるし、今更だけど言葉の壁もないし、文字も読める。
まったくもって不自由がない。
だからつい、口から出てしまう。
「あー今日も暇だー」
いやいや、異世界で不自由がない暮らしをさせてもらってることに本当に感謝なんだけど、とにかく一日中暇だ。
異世界は電気も飯もまずくて、地球から来た人間が知識をフル活用して~大活躍するとかいうお決まりの異世界設定はない。
まぁ、オレが教えることなんてなんもないんだけど。料理はレンジがなきゃできないに近いし、できてもおにぎりとかお味噌汁とかくらいだ。それも、ダシからなんて無理だから市販のダシの素とか・・・て、
「暇だけど、地球に帰れるまでこの暮らしでいられるなら我慢、我慢」
魔法があるんだから魔物とかいるかもしれないし、そんなところで命からがら逃げるなんてごめんだ。
ルノーの言葉に甘えて三ヶ月間、まったり暮らそう。
今思えば、高3で受験勉強の毎日を送って、大学に合格したらキャンパスライフが始まってバイトして、休む暇もなく生きていきたんだ。
大学の友達作りも大変だし、気が抜けない日々・・・。
これはちょっとした、いや、夏休みよりも長い休暇を。しかも、海外旅行気分の休みをまったり満喫。
「いいね!」
ウェーイ! なんて陽キャっぽく言いながらヨーロッパの田舎街みたいな景色に親指を立ててみたり。
電池が切れたみたいにすぐダラッと太い手すりに身体を預ける。
「にしても、すでに1週間でこれはなー。城内めぐりは一番最初にルノーに案内してもらったし、王様と王妃様にも内密に会わせてもらったし、その時におっさんたちの無礼な振る舞いについてめちゃくちゃ謝ってくれたし」
内密というのは、聖女様が来るはずなのにその兄が来たというのは例外の例外らしい。歴史上ないってこと。そんなことが外に広まったら・・・いろいろまずいらしい。(どこの世界も世知辛い)
「ま、王様も王妃様もイケメンで美人で優しかったからよしとしよう」
スクッとまっすぐ立ち、腰に手を当てる。
「やべー、暇すぎて独り言が増えるぅー」
ここはひとまずバルコニーから見える庭へ散歩に行こうと部屋を出る。
掃除がいきとどいたぺかぺかな廊下。床も天井も壁も白で統一されてて眩しい。
老朽しないよう新築の状態を維持する魔法がかけられているとか。(ルノーから聞いた)
「にしてもこの廊下、歩いても同じ景色だから迷うんだよなー」
暇すぎると庭へ散歩に行くのが日課になりかけてる。昨日も2回行った。だけど、庭へ出るドアへのルートは未だにあいまいだ。
おとといはたどり着けず迷子になったあげく、怪しげな地下へ続くドアを発見してしまった。
「えーと・・・まっすぐ行って突き当りを右に~・・・だよな?」
すでに記憶が怪しい。
とにかく昨日の自分の記憶を頼りに右に曲がる。しばらく歩いてると複数の話し声が聞こえてきた。
「まだあのドラ息子様は帰ってきてないのか?」
「まだらしいっすよ~」
ドラ息子?
話し声にぴくりとオレの耳が反応する。
ドラ息子ってなんだっけ? 知ってるんだけど意味忘れた~。
スマホスマホと、いつもズボンの尻ポケットに入れているスマホを取り出そうとするけど・・・ない!!
ちなみに、尻ポケットもない。
異世界に来て初めてスマホを持っていないことに気づき、不便さを痛感する。
「マジかー。よく1週間平気だったな、オレ。いやいや異世界にスマホって。ていうか、スマホなくても平気だったのがすごい。でも、ないのを実感すると急にスマホの存在がじわじわ」
やべ。また独り言が・・・。しかもめっちゃペラペラと。
地球にいる時は独り言なんて「あ」とか「やべ」とかうっかりの時に出るだけだったのに。
もしかしてオレ、さみしんぼ? 人としゃべりたい?
新たな自分に気づいて地味にショックをうけてる間も聞こえてきたふたりの男の会話が続く。どうやらこの先にいるみたいで広間があるっぽい。声が反響して聞こえる。(道間違えたー)
「王様はどうされるおつもりなのか。俺は断然第二王子のルノー様派だな!」
「おれもっす。あの美しすぎる美貌は落ちない者はいないっす。聖女様もルノー様がいいに決まってます」
「あの外見は末恐ろしいよなー。しかも、優秀で真面目でいらっしゃる」
「おれら下っ端にも優しいっす!」
「身分関係なく対等に扱ってくださる! なんて慈悲深い方だ。学びを受けながらも王様の仕事までお手伝いされていると聞く」
「王様もルノー様を気に入ってるのになんで次期国王じゃないんですかねー。やっぱり後生まれのさがってやつっすかね。」
「それもあるが、ルノー様の母親が第一夫人じゃないからだろ。この国は一夫多妻が認められてるが、後継ぎとなると正室が強いんだよ」
「あーなるほどっす。そう言われると第一王子とルノー様、顔似てませんもんね!」
「性格もだろ! 第一王子はルノー様とはてんで真逆だ! 学びは途中で逃げ出すわ、王様の仕事はあっちのけでダンジョン荒らしをしてるらしいじゃないか! 1度城を出たら数ヵ月帰ってこないっていう話だ。それでこの国の次期国王の継承者っていうんだからアリッシュも先行きが不安だなぁ、おい」
「聖女様の召喚される日もすっぽかしたって話っすよ」
「ひでー話だ。にしても、本当に聖女様はこの城にいらっしゃるのかねー。姿を1度も見てねーや」
「おれもっす!」
「はーあ、いくらこの城で働いてるからってそうそう聖女様を拝めるわけもないかっ!」
がははははと中年くらいの男の笑い声が高々と響きわたる。
サーと身体の血が引いていくのがわかる。
「聞いちゃいけないものを聞いてしまった気がする」
まさかルノーにそんな事情があったとは。いやいや、オレはなんにも聞いてない・・・てことにする。
三ヶ月間しかいないんだから、この国のことに首なんか突っ込んでもいいことないし、オレができることなんてなーんもない。
「・・・」
待った、うちの妹が聖女様として召喚される!!
「聖女様も絶対ルノー様がいいと思うんすよねー」
「やたら推すなー、おい」
「だって聖女様、時期国王と結婚するんすよね?」
「みてーだな」
ん?!!!
「第一王子のうわさって悪いのばかりじゃないっすか。小言を言った使用人をその場で燃やしたとか。貴族様もルノー様に肩入れしてるって聞いたことあるっす。聖女様・・・かわいそうだなぁて」
「城内でもルノー様派と第一王子派で派閥ができてるって話だ。こりゃぁ王を継ぐ儀式の時になんか起こらないといいがなぁ」
「なんかってなんすか?」
「・・・物騒な話、暗殺とか城内戦争とかな!」
「ひぃぃー。そんなことあったらおれ、こんなところさっさと出ます!」
「俺もだ、巻き込まれはごめんだな!でもまぁ、聖女様がいらっしゃるんだ。聖女様がなんとかしてくださるさ、きっと」
「なんとかってなんすか?」
「・・・そんなの、わかるわけないだろ。なんとかはなんとかだ」
「えー、なんすかそれぇ!」
最後はグダグダの会話で終了したみたいだ。場所を変えたのか声が聞こえない。
また聞いちゃいけないものをたくさん聞いた気がする・・・。
結婚ってなんだ?! 使用人燃やすってなんだ?!(怖っ)
ルノーからそんな話、全然聞いてない!!
ドラ息子な第一王子って誰だよ! 聖女として召喚される桃花がそいつと結婚?! はぁ?!
「庭に行くのはなしだ。今すぐメイドさんに頼んでルノーを呼んでもらおう!」
クルッときびすを返して元来た道を引き返そうと一歩踏み出したところで聞き覚えのある声に呼び止められる。
「ダイヤ様、ここにいらしてたんですね。探しました」
「ルノー!」
マジ偶然だ。ちょうどいいところにルノーと遭遇した。ルノーもオレを探してたみたいだし、ちょうどいい。
ルノーは初めて会った時と同じ格好をいつもしている。着替えてないとか風呂入ってないとかじゃないと思う。会うといつも花の香りがするし。絶対、同じ服を何着も持っているに違いない。
マッシュルームヘアを揺らしながらやってきたルノーは、分厚い前髪から覗くつぶらな瞳を真っすぐオレに向けて来た。これをドキッとしない奴はいないと思う。(さっきの下っ端も言ってた)
「ダイヤ様、今すぐお部屋へお戻りください」
「ルノー、ちょうどよかった。聞きたいことがあったんだ」
「聞きたい、ことですか?」
きょとんとするルノーにオレは強く頷く。
「第一王子って誰? 聖女が第一王子と結婚するってマジなわけ? オレ、そんな話一言も聞いてないんだけど」
「言いました」
ルノーは瞬きもせずきっぱりと答える。
「え。え?! マジ?!」
「はい。こちらに来られて二日目に聖女様に関することはすべてお伝えしたはずです」
「・・・」
マジか。そういえば長い話を聞かされたような。どうせ、三ヶ月で元の場所に帰れるからって適当に聞いてたかも。
「マジかー」
はぁーとため息が出る。
「第一王子は僕の腹違いの兄上です」
へー。と生返事をしたけど、ルノーの今の一言で内心動揺する。
今、腹違いって言った!
腹違いって母親は違うって意味だよな。
「その兄上が、ダイヤ様にお会いしたいと今向かっております。そうです、急いでお部屋へ」
「オレに会いたい? 兄上が? 今?!」
「きっともうお城についてるはずです。申し訳ありませんがこれ以上時間がありませんので、手荒な真似をさせていただきます」
「手荒?」
この一週間、ルノーには毎日のように会っているけど余裕がない表情は初めて見る。
手荒な真似ってなんだ? まさかオレを担いで部屋に戻るとか? いや、服の裾から見える手は白くて細い。箸を持っただけでも折れそうだ。
なんて考えていたら、一瞬で景色がオレの部屋に変わった。
「は?!」
何が起きたのか。びっくりしすぎて瞬きを何度もする。
「兄上が来ます! 心の準備を!」
普段は小鳥のような声を出すルノーが警戒しろとばかりに強めにオレに言う。サラサラなマッシュルームヘアを乱して。
『第一王子のうわさって悪いのばかりじゃないっすか。小言を言った使用人をその場で燃やしたとか』
『王様の仕事はあっちのけでダンジョン荒らしをしてるらしいじゃないか! 1度城を出たら数ヵ月帰ってこないっていう話だ』
さっきの下っ端の男ふたりの会話が頭の中で再生される。
オレは今からその悪いうわさばっかりのドラ息子の第一王子に会うんだ。
ごくり、と喉が鳴って、心臓の音がいつもよりはっきり聞こえる。
大学の入試試験以来の緊張だ。恐怖も混じってる気がする。だって、足が震える。
逃げ出せるなら逃げたい。
なんでオレに会いたいのかわからん。
あれか? 聖女の兄だから? まさか、地下室で責められたおっさんたちみたいに責められるとか? 聖女じゃなくて兄のオレが来たことを次は第一王子に。
いや、自分の結婚相手の召喚を邪魔されたんだ。もしかして、怒ってるのかも。ルノーだってなんかいつもと態度違うし。きっとものすごく怖い人なんだ。
すぐキレるとか? 使用人の小言で燃やすくらいなんだからオレも燃やされるとか?!
いつ開くのか、ドアをじっと見つめながら足の震えが増していく。
マジかよー。暇なまま三ヶ月待てばいいだけだたと思ってたのに、まさかの命の危険が。
つーか、そんな奴がオレの妹の桃花が聖女ってだけで結婚とかわけわかんねー。
しっかりしろ、オレ。どうせ燃やされるんなら、こっちだって第一王子が桃花の相手にふさわしいか見極めてやる。
ガチャッとドアノブが回ってドアが開いた。
来た!
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第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
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