聖女の兄で、すみません!

たっぷりチョコ

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「召喚されました」

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 目が覚めると知らないおっさんが数人、オレを覗き込んでいた。
「うわっ!!!」
 驚いて起き上がると、魔法使いか魔導士みたいなローブを着たおっさんが眉間にしわをよせながら、
「キミ、聖女じゃないよね?」
「・・・は? 聖女?」

 今、聖女って言った?

 聖女って、ゲームとかファンタジー漫画に出てくる祈りを捧げたり、癒し系魔法を使うキャラのことだよな。
 オレが聖女? パッと自分の外見を確認するけどどう見ても男にしか見えない。
 ここにいるおっさんたちはオレが女に見えるのか? 頭大丈夫か?

 辺りを見回すと灯りはあるけど薄暗い地下室みたいな広い部屋だ。自分が座ってる床にはリビングの床と同じ魔法陣が描かれてる。
 桃花を助けようとして、オレが怪しい手首に捕まって魔法陣の中に引きずりこまれたのは覚えてるけど、そのあとは記憶がない。
 え? マジで異世界に召喚されちゃったの? オレ。
 夢とかじゃなくて?
 そう思って頬をつねるけど・・・痛い。

「マジか」

 おっさんたちのことをすっかり忘れて呆然としていると、おっさんたちはおっさんたちでオレに尻を向けてヒソヒソと会話を始めていた。
「どういうことだ?! 今宵は女神様が聖女様を召喚なさる日ではなかったのか!」
「男が召喚されるなどッ・・・前代未聞だ!!」
「まさか、女神様がお怒りなのでは」
「何を言う! 今の今までわが国は謹んで女神様に尽くしてきた! お怒りに触れるはずがないッ!」
「では、これは一体どういうことなのだ。もしや・・・女神様に限ってお間違いになられたということか?」
「口を慎め! 女神様に限ってそのようなことッッ!!」

 ヒソヒソどころか声がどんどん大きくなって言い合いになってる気がして、さすがのオレも気になってきた。
 聖女を召喚しようとしてたってことだよな。オレは桃花を助けるために代わりにこっちに来ちゃったけど、本当だったら桃花が来るはずだったわけで・・・。
 ごくり、と喉が鳴る。
 いやいや、そんなはずは。でも、考えても行きつく先は同じなわけで。えぇー・・・。
 
 ヒードアップしてきたおっさんたちの言い合いに「あの!」と大きな声で割り込むと、鬼みたいな顔をしたおっさんたちが一斉に振り返った。(こわっ)

「聖女ってまさか、うちの妹だったりします?」

 オレの一言でおっさんたちの目がカッと開き、
「妹がいるのか!」
「その娘に違いない! なぜおまえが召喚されたのだ!」
「やはり女神様がお間違いに?!」
「おい! いいかげんにその口を慎め!」
 おっさんたちがいっぺんにしゃべる。

「お、オレはただ、妹を助けようとしただけで。そしたら、魔法陣の中に入っちゃって怪しい手首に捕まれてここに来たんです」
「なんということだ!」
「嘆かわしい!」
「怪しい手首とはなんだ?」
「よくも邪魔をしてくれたな! 聖女の召喚は三ヶ月ごとにしかできないのだぞ!」
「女神様になんと報告していいやら!」
「余計なことを!!」

 おっさんたちが一斉にオレに詰め寄って嘆いたり怒鳴ったり、とにかくオレは妹を助けようとしただけなのに、めちゃくちゃ責めてくる!!!

 突然、うちの家のリビングに魔法陣で妹を召喚しようとしたのはそっちなのに。それって拉致だ。犯罪じゃん!
 オレは全然悪くない! はずなのに、よってたかっておっさんたちにオレが悪いみたいなことをさんざん言われて・・・もう、泣きそう。

「余計なことしてすみません!! 兄のオレが来て、マジすみませんでしたっ!!」
 もうこれ以上はやめろとばかりに部屋に響くくらいの大きな声で叫ぶと、さすがのおっさんたちも我に返ったのか、黙ってしーんと静かになった。

 おっさんたちがお互いの顔を見合わせ、ひとりが渋々と口を開こうとしたその時、奥のドアがガチャリと開いた。
 入って来たのは中学生くらいの女子・・・?
 クリーム色のマッシュルームヘアに、白い肌、前髪が多くて見えずらいけど二重のつぶらな瞳。服装は、白くて身体をすっぽり覆う形の襟なしのワイシャツ? みたいな服で袖もダボッとしてて手まで隠れて見えない。
 そこから覗く細い脚は白タイツみたいなピタッとしたものを履いてる。靴は白のぺったんこ靴だ。
 こっちにゆっくり歩いてくるけど、見れば見るほどめちゃくちゃかわいい。それに、なんかこの子の方が聖女っぽい!

 おっさんたちの前にピタッと止まったその子は、小さい口を開き、
「兄上が留守なので僕が様子を見に来ました」
 小鳥のようなその声にうっとり・・・したけど、今、「僕」て言った?
 え。この子、この外見で男なの?!
 美少女みたいな美男子がクリーム色の長いまつ毛を持ち上げ、おっさんたちをまっすぐ見据える。すると、態度がでかかったおっさんたちが一斉に姿勢を正し、床に膝をつく。

 ん?!

「第二王子、ルノー様。大変言いにくいことですが、聖女様は・・・」
 髭をはやしたおっさんが、膝をつきながら苦々しい顔で最後まで言い終わる前にルノーと呼ばれた美男子が右手を上げて話を終わらせた。
「事情は他の者に聞きました」
 そう言ってルノーとかいう美男子が膝まづくおっさんたちを横切りながらオレの前でピタッと止まりつぶらな瞳でじっと見つめてくる。

「え?!」

 いくら男でも可愛い子に見つめられたらどうしたらいいかわからん! ていうか、この子にもおっさんたちみたいに責められるわけ? 謝った方がいい?
 照れたらいいのか、警戒したほうがいいのか、頭が混乱する。
 
 タジタジなオレに美男子がスッと模範ともいえるようなきれいな動きで膝まづいた。(え)
「この者たちのご無礼、どうかお許しを。突然の召喚にさぞ驚かれたでしょう。こちらの都合とはいえ、心からお詫び申し上げます」
 深々と頭を下げる。

 ん?!!

 おっさんたちとは打って変わって態度が真逆すぎて余計にどうしたらいいかわからん。でも、バツの悪い顔をしているおっさんたちよりは話が通じそうで内心ホッとする。

「あ、あの・・・オレは、元の世界に帰れたりは・・・」
 こうゆう異世界ものの話はあんまり読んでこなかったからよくわからんけど、主人公とかって最終的にはどうなるんだ? 考えたくないけど、帰れないで永住パターンだったような・・・。(こわっ)
 恐る恐る聞くと、顔を上げた美男子がむちゃくちゃかわいい笑顔で微笑んだ。(え、天使降臨?)

「ご安心ください。三か月後になってしまいますが召喚前にいた場所へと必ずお返し致します」
「三か月後?」
 さっきもおっさんたちが似たようなことを言ってたような・・・。
「聖女様の召喚は月がふたつ昇り重なり合う、その瞬間のみにしかできません。月が重なる日が三か月後になるのです」
「な、なるほど」
 ん? 月がふたつ? この世界には月がふたつあるってことか。ていうか、この世界にも月があるのか。

「聖女様の兄上ということで、我が国一同、謹んであなた様のお世話をさせて頂きます!! どうぞご安心を!」
「え」
 急に瞳がキラッキラッに輝きだす、美男子。


 ここでの三ヶ月、オレは大丈夫なんだろうか。ちょっと不安だ。
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