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第14話 懇願と、刺さない優しさの残酷さ
しおりを挟むノルディア王宮・謁見の間。
高い天井の下、空気は張りつめていた。
左右に並ぶ騎士たちの鎧が、微かにきしむ。
赤い絨毯の上に、アルシェルドの使節団が列を作っている。
その先頭――金の髪、紫の礼装、王家の紋章を胸に掲げた男。
ユリウス・アルシェルド。
かつて、リディアの婚約者だった人。
今は、アルシェルドを実質的に動かす摂政。
「遠路はるばる、ノルディア王国へようこそ」
階段上から、ノルディア王レオンハルトの声が降ってくる。
その声は穏やかで、しかし芯が通っていた。
「アルシェルド王国摂政、ユリウス・アルシェルド殿下。一行の安全は、我が国が保障する」
「……感謝する」
ユリウスの返事は、かすかに掠れていた。
張り上げるでも、威圧するでもない。
彼の声としてリディアが知っているものより、ずっと小さい。
「本日は、辺境の魔物被害に関する情報交換、並びに今後の協調について話し合いを――」
儀礼的な定型句を二、三交わしたところで。
レオンハルトが言葉を切るより早く。
ユリウスの声が、それを追い越した。
「――前聖女リディアを」
その名を、彼はしっかりと口にした。
大広間の空気が、一瞬で変わる。
騎士たちの視線がわずかに揺れ、文官たちの喉が一斉に鳴る。
リディアは、胸の内側がぐっと掴まれたような感覚に襲われた。
「前聖女リディアを、我が国へ返還していただきたい」
“返還”。
その一語が胸を刺す。
――返す。
物を。
所有物を。
間違って他国に流れたものを、「元の持ち主のところへ」戻す、という響き。
(返還……)
自分が、アルシェルドの所有物であるかのような言い方。
頭では分かっている。
外交の場で使われる言葉。
人でも物でも、「元の所属へ戻す」ときに使う便利な単語。
それでも、耳に入った瞬間、どうしようもなく吐き気が込み上げた。
(わたしは、荷物じゃない)
ノルディアで、やっとそう思えるようになってきたところだった。
「ここにいていい」と言われて、やっと“自分の人生”というものを意識し始めたばかりなのに。
ユリウスは続ける。
「我が国は今、彼女の力なしでは、もはや持ちこたえられない」
その声は、虚勢でも威圧でもなかった。
本当に――縋りつくような声だった。
「辺境の防衛線は崩れ、病は広がり、民は不安に押し潰されかけている。
新たな聖女を迎えたが、その力は未だ十分ではない。
我が国をここまで持たせていたのは、他でもない、リディアの祈りだったと――今さら、痛いほど思い知らされている」
“今さら”。
その言葉が、胸の奥をざわつかせる。
今さら。
今さら。
今さら。
なら、あのとき――。
もっと早く気づいてくれていたら。
絨毯の上に、ユリウスの拳がぎゅっと握られているのが見えた。
指先が白くなるほど、強く。
「レオンハルト陛下」
ユリウスは、視線を王に戻した。
「どうか――前聖女リディアを、アルシェルドへお戻しいただきたい」
“戻す”。
やっぱりそうだ。
彼らにとって、リディアは“本来アルシェルドに属するもの”なのだ。
レオンハルトは、その言葉をじっと受け止めていた。
青い瞳に、わずかな光の揺れ。
それから、ゆっくりと視線を横に滑らせる。
――リディアに、向けて。
無言の問いかけ。
どうする? と。
(わたしに……決めさせてくれるんだ)
胸の奥で、小さく驚きが弾ける。
アルシェルドでは、一度も与えられなかった選択肢。
“どうしたい?”と問われることもなかった。
決定はいつも、上から降ってきた。
ノルディアでは、違う。
王ですら、自分の答えを聞こうとしている。
それが嬉しくて、でも怖くて、喉の奥がひゅっと細くなる。
ユリウスが、その視線の先に気づいたのか、ようやくリディアを正面から見た。
まるで、今この瞬間が、“初めてリディアを認識した”かのような顔で。
遅い。
遅すぎる。
「……リディア」
名前を呼ばれた。
懐かしい響き。
何度も聞いてきた呼び方。
幼い日の笑顔も、冷たい宣告も、全部同じ発音で。
リディアはほんの少し、顎を引いた。
「アルシェルド摂政――ユリウス殿下」
声は、自分でも驚くほど、ちゃんと出た。
「ここはノルディアです。
わたしは今、“ノルディアの客人リディア”として、ここに立っています」
それが、今の自分の立ち位置。
肩書きでもあり、盾でもあり、誇りでもある。
ユリウスの目が、かすかに揺れた。
昔のリディアなら、最初に「殿下」と呼んでいただろう。
今のリディアは、そう呼ばなかった。
呼べなかった。
「……君が、ノルディアにいると知ったとき、正直、信じられなかった」
ユリウスは、絞り出すように言った。
「君は、森で――」
そこで言葉を切る。
言えないのだろう。
“殺されかけた”と。
“自分たちがそう命じた”と。
「生きていて、よかった」
その一言は、あまりにも優しすぎて。
刺さらない優しさは、ときに一番残酷だ。
(“よかった”なんて、今さら)
胸の奥で、何かがきしんだ。
森の夜を思い出す。
泥に汚れた裾。
冷たい雨。
背後から聞こえた、剣を抜く音。
『生きて戻られても困るんでな』
兵士の、乾いた声。
あのとき、彼らは“殿下の命令で動いている”と言った。
だからリディアは、剣を向けられたとき、真っ先にユリウスの顔を思い浮かべた。
(殿下は、これを知っているのかな)
考える余裕もないまま、命からがら逃げ出した。
ノルディアに拾われなければ、あの夜で全てが終わっていた。
そんな過去の上に乗っかって、「生きていてよかった」と言われる。
その言葉は、刃の形をしていない。
どこにも尖っていない。
柔らかくて、温かくて、優しくて。
だからこそ、逃げ場がない。
責めればいい。
怒鳴ればいい。
罵ってくれたほうが、まだ楽だ。
“優しさ”という形に包装されると、拒絶することすら、罪悪のように感じてしまう。
刺さない優しさほど、人を無防備に追い詰めるものはない。
「……ユリウス殿下」
リディアは、努めて丁寧に言葉を選ぶ。
「アルシェルドは、どうして今、わたしをお探しになったのですか」
問いかける声が、微かに震えた。
ユリウスは、その震えに気づいたのか、きつく唇を噛んだ。
「国が――崩れかけている」
短く、ただそれだけを言った。
「辺境は魔物に侵食され、病が広がり、作物は枯れかけている。
神官たちは“神の怒りだ”と言うが、俺は分かっている」
視線が、リディアに釘付けになる。
「これは、“君を切り捨てた報い”だと」
堂々と、そう言った。
責任を転嫁しようとしているわけではない。
むしろ、自分の首を絞める言葉だ。
それでも、リディアの胸には、違うものが渦巻いた。
(やっぱり、“国が崩れかけてるから”なんだ)
彼の言葉の順番は、はっきりしている。
「君が傷ついたから」じゃない。
「君に酷いことをしたから」でもない。
まず、「国が崩れかけている」が来る。
その原因として、「君を切り捨てた報い」が続く。
相変わらず、“国が主語”の人だ。
「頼む」
ユリウスは、一歩、前に踏み出した。
ノルディアの騎士たちが、わずかに体勢を変える。
カイルも、腰の剣にそっと手を添えた。
レオンの指先が、階段上で軽く上がる。
「落ち着け」の合図。
騎士たちはすぐに動きを止めた。
ユリウスは、その騎士たちのざわめきにも気づかない様子で、ただリディアを見ていた。
「頼む、リディア」
その声は、王太子ではなく――ただの、一人の男の声だった。
「国を、救ってくれ」
涙が、滲んでいた。
ユリウスが、涙を見せる姿を、リディアは一度も見たことがなかった。
アルシェルドの王太子は、強くあれ、と教えられている人だった。
弱音を吐く姿を、リディアの前で見せたことはなかった。
そんな彼が、今、堂々と人前で涙を浮かべている。
「俺は――」
ユリウスは、唇を震わせる。
「俺は、あのとき、君を切り捨てた。
“聖女としての責務を果たせなかった”と、君を責めた。
国のためだと、そう信じていた」
あの夜の自分の言葉を、彼は今、繰り返している。
「でも、それが間違いだったと、今は分かっている」
床に、滴が落ちた。
涙の跡だ。
「君の祈りが、どれだけ国を支えていたか。
君がいなくなってから、それを思い知らされるなんて――最低だと分かっている」
その自己評価は、正しい。
最低だ。
「……謝りたい」
小さく、でもはっきりと、ユリウスは言った。
「あの夜のことを。
君を“無能”と呼んだことを。
森に追いやったことを。
全部、謝りたい」
「謝りたい」という言葉は、今の彼にとって、きっと最大限絞り出した誠意なのだろう。
それは分かる。
分かってしまう。
だからこそ、残酷だ。
雨の森で、倒れた夜。
誰も来なかった。
謝る人も、手を伸ばす人も、いなかった。
聖堂で一人祈り続けた日々。
誰かの命は救えても、自分の心を拾う人はいなかった。
魔力をすり減らしながら、何百回と捧げた祈り。
それを「当然」と受け取り、「もっとできるはずだ」とだけ言われ続けた時間。
“今”じゃなくて。
“あのとき”欲しかった言葉。
優しい言葉も、謝罪も、懇願も。
全部、遅れてきた荷物だ。
(どうして)
胸の奥で、何かが叫ぶ。
口から出そうになる叫びを、必死で押し込める。
押し込んでも、押し込んでも、溢れてくる。
ノルディアで過ごした穏やかな時間が、指の間から零れそうになる。
パン屋の甘い匂いも。
カイルの騒がしい声も。
レオンの穏やかな眼差しも。
今、目の前で涙を浮かべているユリウスの姿が、全部をかき乱していく。
(今さら)
優しくされるくらいなら、まだ憎まれていたほうが楽だったかもしれない。
“国の裏切り者”だと罵られたほうが、自分の中でアルシェルドをきっぱり切り離せたかもしれない。
なのに、彼は今、こんな顔で。
刺すことすらしない優しさを、こうして差し出してくる。
それが、たまらなく苦しかった。
「……リディア」
レオンの声が、すぐ隣から届く。
「言わなくていい」とも、「言え」とも言わない声音。
ただ、“君が選んでいい”という空気だけを隣に置いてくれている。
リディアは、唇を噛んだ。
足元を見ない。
逃げない。
顔を上げたまま、ユリウスを見返す。
喉が焼けるみたいに痛い。
それでも、声を出す。
「……どうして」
最初は、それだけだった。
大広間の空気が、ぴんと張りつめる。
ユリウスの目が、かすかに揺れた。
リディアは、胸の奥で渦巻く言葉を、一つずつ引きずり上げる。
「どうして、今なんですか」
それは、泣き叫びにも似た、心の声だった。
「わたしが、アルシェルドで祈り続けていたときには、
誰も、そんなふうに頼んでくれなかったのに」
兵士たちの列。
膝をつく人々。
“聖女様、助けてください”という声は、たしかにあった。
けれどそれは、彼女の“力”への懇願であって、彼女“自身”へのものではなかった。
「“国のために祈れ”って言われて。
“結果が出てない”って責められて。
“無能”って言われて。
追放されて。
……あの森で、殺されかけたときも」
息が震える。
胸が痛い。
それでも、言葉を止めたくなかった。
「誰も、“生きていてくれ”なんて言ってくれなかったのに」
その一言だけが、ずっと欲しかった。
役に立つとか、立たないとか。
国のためとか、未来のためとか。
そんな大きな言葉じゃなくて。
『生きていてほしい』と、ただそれだけ言ってくれたら――と、何度も思った。
「今、こうして“国を救ってくれ”って頼まれても」
リディアは、きつく拳を握った。
「どうして、その言葉を、“あのとき”くれなかったんですか」
それは、決して綺麗な問いではない。
感情に濁りがある。
責める色も、悲しみも、全部混ざっている。
けれど、リディアにとっては、それが紛れもない本音だった。
ユリウスの顔から、血の気が引いていく。
その様子を見ながら、リディアは自分の心のどこかがまた軋むのを感じていた。
優しさを向けられることが、こんなにも苦しいなんて――
あの頃の自分は、想像すらしていなかった。
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