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第10話 掃除婦の宣言と、ゴミ山の主
しおりを挟む城は、ずっとざわざわしていた。
廊下の隅で立ち話をする使用人たち。
小声なのにやけに耳に残る「古代兵器」「ゴミ置き場」「掃除婦」という単語。
兵士たちの巡回コースも微妙に変わっていて、裏庭に向かう足音が増えているのが分かる。
表向きは平穏。
けれど、その下で、水面ギリギリまで波が立っている。
「今日も、よく揺れてるねぇ」
ゴミ置き場の入り口で、マルタが空を見上げながらぼそりと言った。
リーナは、モップを両手で抱えたまま、同じ空を見上げる。
どこにでもある、曇りかけの空。
でも、その向こうで動いているのは、王の思惑と、軍の計算と、工房の欲望だ。
「……やっぱり、私のせいですよね」
「“せい”って言い方は、便利で嫌いだね」
マルタは、モップの先で地面の泥をつつきながら言う。
「嬢ちゃんが拾わなきゃ、ここの光はずっと誰にも見つからなかったかもしれない。 でも、“拾ったあとどうするか”決めてるのは、上の連中だよ」
そう言って、彼女はちらりとリーナの横顔を見た。
「……で、嬢ちゃんは?」
「私、ですか?」
「上の連中が勝手に騒いでる間に、あんたは何考えてる?」
問われて、リーナは言葉を詰まらせた。
軍からの誘い。
工房からの打診。
それぞれの“メリット”“デメリット”を、頭の中で何度も天秤にかけてみた。
でも、どうしても決め手が見つからない。
「ただ……怖いなって思ってます」
正直に言った。
「軍に行ったら、アークレールを“武器です”って顔して振るう自分がいそうで怖くて。 工房に戻ったら、また“数字が出ないからダメです”って言われる日々に飲まれそうで怖くて」
「ふん」
マルタは鼻を鳴らした。
「どこ行ったって怖いのは一緒さ。 戦場も研究室も、裏庭もね」
「裏庭も、ですか?」
「そりゃそうだろ」
マルタはモップを肩に担ぎ、ゴミ山を顎で示す。
「ここだって、“間違えれば死ぬ場所”だよ。 崩れた山に飲まれるかもしれないし、暴走した魔導器具に焼かれるかもしれないし。 昨日だって、飛行盤から落ちかけてたろ」
「思い出させないでください……」
耳まで熱くなった。
「でも、上の連中は、そんなこと知らないまま“駒”だ“資源”だ言ってる」
マルタの声が、少しだけ低くなる。
「で、あんたはそのど真ん中で、“何を拾って”“何を残すか”選べる立場にいる。 それって、上の連中よりよっぽど面倒で、よっぽど偉そうなことさ」
「偉そう、って……」
「褒めてるよ」
そう言って、マルタは笑った。
「上の連中は、嬢ちゃんをどっちに引っ張るかで争ってるみたいだね。 “軍の宝”だの、“工房の誇り”だの、好き勝手に看板つけたがる。 でもさ」
モップの先が、ゴミ山の土を軽く抉る。
「どこ行ったって、嬢ちゃんが掃除して拾い上げるもんは変わらないんじゃないかい?」
その言葉が、胸にすとんと落ちた。
どこ行っても――変わらない?
軍に行ったとして。
戦場の後片付けで、壊れた武器や、散らばった記録や、失われた何かを拾うのかもしれない。
工房に戻ったとして。
失敗作と呼ばれた魔導器具や、計測不能とされたデータや、切り捨てられた可能性を拾うのかもしれない。
ここにいる今も。
ゴミ扱いされたものを、ひとつひとつ拾って、本来持っていた形に戻している。
「私がやってることって……」
口の中で、言葉を転がしてみる。
「“ゴミ扱いされたものを拾い上げて、本来の形に戻す”ってこと、なんですよね」
「そうさ」
マルタはあっさり頷いた。
「工房でも、軍でも、裏庭でも。 “見たくないもの”を見て、“なかったこと”にされたものを、わざわざ掘り返してくる」
なんて面倒くさい仕事だろう。
でも、どこかで納得もしてしまう。
(そうか。だから、工房でうまくやれなかったんだ)
工房は、見たいものだけ見たがる。
測れるものだけを真実と呼びたがる。
その中で、「測れないものが視える」と言い張る自分は、あまりにも邪魔だった。
でも今、自分がここでやっているのは――
測れないまま捨てられたものに、手を伸ばすこと。
“役に立たないから”と放り込まれたものに、「本当に?」と聞いてみること。
『お前は、自分の仕事を“掃除”だと思っているのか』
アークレールの声が、意識の中で問いかけてくる。
(掃除、だよ)
即答した。
(だって、ゴミ置き場の掃除婦だもん。名前はリーナ・フィオレ。肩書きは城内掃除係。仕事はモップと雑巾と、時々古代兵器の面倒を見ること)
『かなり特殊な掃除だな』
(そうかな)
少しだけ笑う。
『……どこに居ても“拾い上げる”なら、居場所はどこでもいい、という結論もある』
(でも)
リーナは、ゴミ山の奥――まだ誰も踏み込んでいない影の濃い場所を見つめた。
高く積まれた金属片の向こう。
湿った土が、崩れかけた石壁に寄りかかっている。
その狭い隙間を抜けた先は、薄暗くて、少しだけ冷たい空気が溜まっている。
ゴミ置き場の最奥。
ここは、マルタでさえ滅多に足を踏み入れない場所だ。
要らないものの中でも、さらに奥へ押し込められた、“二重に捨てられたもの”たちの溜まり場。
「……ここで拾いたいです、私は」
自分でも驚くくらい、はっきりと言葉になった。
「軍とか、工房とかじゃなくて。 ここで、捨てられたもの全部、拾い上げたい」
マルタが、少しだけ目を細める。
「言ったねぇ、嬢ちゃん」
「言っちゃいましたね……」
恥ずかしさより、すっきりした気持ちが勝った。
誰かに“選ばれる”のを待つんじゃなくて。
誰かの都合で“配置”されるんじゃなくて。
自分で、自分の居場所を選ぶ。
その感覚が、胸の奥にじんわり広がる。
「じゃ、行ってきます」
「どこへ?」
「ゴミ山のいちばん奥」
モップをマルタに預け、リーナはいつもより慎重に足場を確認しながら、ガラクタの狭間へと潜り込んでいった。
◇
ゴミ山の最奥は、ひんやりしていた。
陽の光がほとんど届かず、隙間風だけが細く通り抜ける。
湿った土の匂いが強くて、足元はでも不思議と安定している。
長い時間をかけて、捨てられたものたちが互いに支え合って固まった結果だ。
(……ここ、静かだな)
でも、静かなだけじゃない。
耳には何も聞こえないのに、皮膚の上を何かが撫でていく。
ざわざわと。
ひそひそと。
たくさんの“微かな声”が、重なっている。
リーナは、ゆっくりと膝を折った。
目を閉じて、手を地面に当てる。
冷たい土の下で、何かがじっと息を潜めているのが分かった。
(ここにも、いる)
ひとつだけじゃない。
でも、その中にひときわ、深く、重たい波があった。
埋もれている。
押し込められている。
それでもなお、諦めきれずに微かに脈打っている。
リーナは、その方向にそっと手を伸ばした。
土を掻き分け、古布をどけ、固まった泥を崩していく。
指先が、硬いものに触れた。
「……いた」
土塊に半分埋もれた、円盤状の機構。
直径は、両手を広げたくらい。
表面にはびっしりと、細かな溝と線刻が走っている。
錆びている部分も多いが、その奥からごくかすかな光が漏れていた。
蒼でも、金でも、赤でもない。
土の色に溶けそうな、薄い緑の光。
『……防御系、または環境制御系か』
アークレールが、興味深そうに呟く。
『外部からの干渉を遮断する目的で用いられた装置に類似した構造だ』
(“守る”系か……)
胸の奥が、どくんと鳴った。
ここまで散々、攻撃にも防御にも使えるような兵器を拾ってきた。
でも今この瞬間、自分が一番欲しいものは、ただ――
「あなたが何なのか、ちゃんと知りたいな」
リーナは、円盤にそっと触れた。
冷たい。
でも、その奥はほんのり温かい。
「誰のために作られて、どうしてここまで流されてきたのか。 “もういいや”って諦めたのか、それとも、“本当はまだ動きたい”のか」
問いかけるように、布で表面を拭い始める。
古い泥が剥がれていく。
溝に詰まっていた砂が落ちる。
隠されていた紋様が、少しずつ姿を現す。
くすんだ金属の上で、細い光の線がふらりと揺れた。
その瞬間、胸の奥で何かがぴたりと噛み合った。
(あ)
リーナの魔力が、発動する。
意図してではなく、本能で。
円盤の中で眠っていた回路が、彼女の波長に触れて、微かに震えた。
『やるなら一気にやれ』
(うん)
アークレールの声が、背中を押す。
リーナは、深く息を吸い込んだ。
吐き出す息と一緒に、魔力の流れを外へ開く。
蒼い剣の波長と、自分の魔力と、埋もれていた装置の波――
三つの線が、ぐるりと輪を描いて繋がる。
円盤の表面を走る線刻が、ぱちぱちと光を灯していく。
ひとつ。
またひとつ。
星座が夜空に浮かび上がるみたいに、紋様全体が輪郭を取り戻していった。
そして――
柔らかな震えとともに、円盤がごくわずかに宙に浮いた。
「っ……!」
思わず手を離す。
土と古布がぱらぱらと落ちる中、円盤はふわりと浮かび上がり、その場でゆっくり回転し始めた。
光は強くない。
むしろ、優しい。
ゴミ山の最奥を、ほのかな淡い緑が満たしていく。
その光は、眩しくないのに、はっきりと分かる“境界”を生み出していた。
円盤から、透明な膜のようなものがじわりと広がっていく。
土壁に沿って。
積み上がった金属片の間を抜けて。
ゴミ山の輪郭に沿うように。
まるで、この場所全体を包み込むように。
『……防御結界だな』
アークレールの声が、少しだけ感心を含む。
『外部からの高エネルギー干渉を軽減し、内部のエネルギー変動を目立たなくする。 “隠すための盾”だ』
(ここを……守るための?)
『おそらくはな』
結界の膜に触れてみる。
暖かい。
春の日差しと、古い毛布の中にいるみたいな感覚。
押しても、押し返されない。
拒絶ではなく、包み込むための膜。
この膜の内側にいるものたちを、「ここにいていい」と許してくれるような。
ごく自然に、言葉がこぼれた。
「……私、決めました」
誰に向かってでもなく。
でも、はっきりと。
「私は、掃除婦のままでいい」
声が、最奥の空間に静かに響く。
「ここで、捨てられたもの全部、拾い上げる。 軍のためとか、工房のためとかじゃなくて」
指先で、円盤をそっと撫でる。
眠っていた装置が、「やっと言ったな」とでも言うように、微かに振動した。
「私の力を、“価値があるかどうか”で判断する人たちのためじゃなくて。 ここで眠ってる、あなたたちのために」
胸の奥が、じん、と熱くなる。
工房で、「計器に反応しないから価値がない」と言われ続けてきた力。
軍で、「戦力として使えるかどうか」で測られかけている力。
そのどちらの物差しからも離れて。
自分と、自分が拾い上げたものたちの間だけに通じる約束として、その力を使う。
『宣言か』
アークレールの声が、少しだけ柔らかくなった。
(宣言だよ)
『悪くないな』
剣の波長が、静かに笑う。
円盤の防御結界は、ゴミ山全体を包み込むように広がり、やがてふっと透明な状態で定着した。
外からは、何も変わっていないように見えるだろう。
ゴミは相変わらず山積み。
臭いも、汚れも、そのまま。
でも、その内側には――
薄く、確かな境界線が引かれている。
ここは、“要らないもの”の墓場ではない。
誰かにとっては不要とされた存在たちの、“一時避難所”であり、“再出発待機所”だ。
結界は、それを守るための、ささやかな城壁。
(ここは、私の居場所で)
モップと布と、古代兵器と。
捨てられたガラクタと、まだ名もない装置たちと。
それから――
(私の城)
そう言ってしまった自分に、自分で驚いた。
“掃除婦”の城。
“ゴミ山の主”の城。
なんてちぐはぐで、なんてちっぽけで、なんて誇らしい響きだろう。
◇
「……なんか、空気変わったね」
少し離れた場所で、マルタがぽつりと言った。
最奥の方から、ふわりと柔らかい風が吹いてくる。
埃っぽさはそのままなのに、肌の上を撫でる感触が違っていた。
「嬢ちゃん、やったね」
ぼろ靴のつま先で石を軽く蹴る。
石は、見えない何かにそっと受け止められたように、予想よりずっと手前で止まった。
「これが、“ゴミ山の城壁”ってやつか」
「……何かしましたか?」
ちょうどそのとき、見回りに来ていたヴァルトが、眉をひそめながらゴミ山全体を見回していた。
彼の魔力感知の網に、微妙な違和感がひっかかっているのだろう。
「外部からの魔力ノイズが、さっきまでと違う。 妙に……静かだ」
「静かなの、ダメですか?」
「いや。むしろ良い」
ヴァルトは、ゴミ山の縁から一歩中に足を踏み入れる。
結界の境界を、敏感な皮膚が感じ取ったようで、わずかに目を見張る。
「……防御結界か。 外からの感知を鈍らせ、内側の反応を目立たなくしている」
「やったのは、リーナさ」
マルタが、いつもよりちょっとだけ誇らしげに言う。
「ゴミ山の最奥で、妙な円盤拾い上げてね。 “ここを守る”って言ったら、こうなった」
「……勝手に最奥に入るなと言ったはずだが」
口ではそう言いつつも、ヴァルトの声にはわずかに安堵が混じっていた。
「これで、多少の魔力反応は表の結界に拾われにくくなる。 工房の連中も、“毎回騒ぎ立てるほどのことではない”と判断するだろう」
「つまり、“多少派手にやってもバレにくくなった”ってことですね」
「あまり前向きな解釈はするな」
「リーナが前向きにならなかったら、誰がなるさ」
マルタが笑い、ヴァルトがため息をつく。
やがて、最奥から土を払う音が近づいてきた。
「マルタさーん、結構深く埋まってたんですけど――あ」
姿を見せたリーナは、顔も髪も土まみれだった。
膝には泥、頬には黒い線。
でも、目だけはやけにすっきりしている。
「将校、来てたんですね」
「“将校”はやめろ」
「じゃあ……ヴァルトさん?」
「余計馴れ馴れしい」
とは言うものの、完全には否定していないあたりが、この人の分かりやすいところだ。
ヴァルトは、リーナをじっと見た。
「お前が、やったのか」
「はい。あの円盤、多分“守る装置”だったみたいで。 なんか、“ここを包みたいなぁ”って思ったら、こうなりました」
説明が雑すぎる。
けれど、その雑さの裏に、彼女なりの決意が透けて見えた。
「……一つ、確認していいか」
「はい?」
「お前は、軍にも工房にも行かないと言ったな」
「今は、ですけど」
「“今は”?」
「いつか、変わるかもしれないって意味です。 でも、少なくとも――」
リーナは、ゴミ山全体を見渡した。
防御結界の内側で、ガラクタたちが静かに息をしている。
「ここを捨ててまで行きたい場所、今はないです。 だから、私はここにいます。掃除婦として」
「……掃除婦、か」
ヴァルトの口元が、わずかに緩む。
「王に、“掃除婦のままにしておけ”と言われた時は、複雑な気分だったがな」
「え?」
「いずれ話す」
それ以上は語らず、ヴァルトは踵を返した。
去り際に、ぽつりと一言だけ残す。
「“ゴミ山の主”に挨拶するには、また日を改める」
「ご、ゴミ山の……え、主……?」
リーナの耳まで、瞬時に真っ赤になった。
「ちょ、ちょっと待ってください誰がそんな――」
「王も軍も工房も、今やみんなここに頭下げに来てるんだ。 城の片隅の“要らないもの置き場”だった場所の“主”は、もうあんたさ」
マルタが、楽しそうに笑う。
「嫌ですそんな呼び名!」
「“スクラップ・クイーン”よりは出世したじゃないの」
「方向性が似てるのが余計に嫌なんですけど!?」
わあわあ騒ぐリーナを見ながら、マルタはふっと目を細めた。
ゴミ山の空気が、確かに変わっている。
捨てられたものの墓場だった場所に、いつの間にか、小さな“意思”の灯がともっていた。
それは、古代兵器の暴走でも、王家の命令でもない。
一人の掃除婦の、ささやかな宣言。
――「私はここにいる」。
その声に応じるように、ゴミ山のあちこちで、小さな光がまたひとつ、またひとつと瞬いた。
捨てられたものたちの“城”に、新しい主が立った。
軍にも、工房にも、全面的には属さない。
でも、どちらの世界とも無関係ではいられない。
そんな危うくて、だからこそ自由な場所に。
リーナ・フィオレという掃除婦は、今日正式に、自分の名前を刻み込んだのだった。
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