喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト

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第3話 選べなかった魔法、選び取った生き方

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 魔力検査の日は、空が妙に澄んでいた。
 窓の外の庭は、朝露をまとった芝がきらきらしていて、薔薇の香りが風に混じる。
 その眩しさが、逆に落ち着かなかった。こういう日は、大事なものを失う気がする。

「リーナ様、髪を整えますね」

 侍女のミレイユが櫛を入れるたび、さらさらと髪が鳴った。
 鏡に映る自分の顔は幼い。頬はまだ丸く、目も大きい。
 でも目の奥だけが、たぶん同年代の女の子より少しだけ疲れて見える。
 前世が混ざっているからだ。

「緊張してます?」
「……ちょっとね」

 嘘ではない。
 “魔法適性”なんて、人生のレールを決める単語にしか聞こえない。
 前世だってそうだった。偏差値、内定、評価。
 数字やラベルひとつで人の扱いが変わる。

「でも大丈夫ですよ、リーナ様はきっと素敵な力をお持ちです」
「……そうかな」
「はい。だって、リーナ様はいつも——」
 ミレイユは言いかけて、口をつぐんだ。
 “優しいから”と言いかけたのが分かってしまって、リーナは苦笑する。

 優しさは、便利だ。
 でも、便利なものって、大体使い捨てられる。

 検査室は屋敷の奥、石造りの小さな塔の中にあった。
 扉を開けた瞬間、空気が変わる。
 冷えて、乾いて、魔力の匂いがする。薬草とは違う、金属みたいな匂い。

「リーナ。来たか」

 父――アルシェイド伯爵が、黒いマントのまま立っていた。
 威厳のある声。けれど、眼差しは柔らかい。
 その横には母。
 そして、姉のエリシアと妹のセシリアもいる。

 エリシアは薄く微笑んでいた。完璧な角度の笑み。
 セシリアは落ち着きなく、リーナの手を握ってくる。

「リーナちゃん、がんばって! 私、応援してる!」
「うん、ありがとう」

 応援が眩しい。
 応援されるって、こんなにも胸がざわつくんだ、と前世の自分に言ってやりたかった。

 検査官は、白髪の老魔導士だった。
 目が鋭くて、でも声は優しい。

「では、リーナ・アルシェイド嬢。こちらへ」
「……はい」

 中央に置かれた水晶球は、拳ほどの大きさで、表面が淡く脈打っている。
 床には円形の魔法陣。線は細く、均整が取れていて、見ているだけで頭が静かになる。

「手を置きなさい。深呼吸をして、魔力を流すように」
「深呼吸……」

 リーナは言われた通りに息を吸った。
 肺の奥に冷たい空気が満ちる。
 手のひらを水晶球に触れた瞬間、ひんやりとした感触が掌の中心から広がった。

 ――来る。

 体の内側に眠っていた熱が、目を覚ます。
 血の代わりに光が流れ始めるみたいに、胸の奥がぼうっと温かくなった。

 水晶球が、淡い色を滲ませた。
 青、白、そして——薄い灰色。

「……ふむ」

 検査官が眉を寄せる。

「どうですか?」父が尋ねる。
「魔力量は……中の上。ですが、属性の偏りは弱い。攻撃系の適性は並です」
「……並」

 その単語が、リーナの心臓をひゅっと縮めた。
 前世で何度も聞いたやつ。
 “並”。
 “平均”。
 “普通”。
 つまり、話題にならない。

 母が気遣うように言う。
「でも、魔力量があるなら……」
「もちろん、学び次第で伸びます。ただし、目立った攻撃属性——火、雷、光など——は強く出ていません」
 検査官は淡々と続けた。
「一方で、制御と構築の傾向は良い。緻密な術式に向くでしょう」

 緻密。構築。
 その言葉に、リーナの心は少しだけ引っかかった。

 けれど、その前に、姉が口を開く。
「つまり、地味ということですわね」

 笑って言った。
 悪意のない顔で。
 でもその響きは、針みたいに細く刺さる。

 セシリアが慌てる。
「お姉ちゃん! そんな言い方しなくても……!」
「だって事実でしょう? 私の時は水晶が光を放ったもの」
「それはお姉ちゃんがすごすぎるだけだよ!」

 姉は肩をすくめた。
 「期待はしないであげるのが優しさよ」とでも言いたげに。

 ――期待。

 リーナは、その言葉を心の中で噛み砕いた。
 期待されないことが楽だと思って生きてきた。前世は。
 でも、期待されないって、透明になることと同じだ。

 検査が終わり、塔の外に出ると、空気が甘かった。
 鳥が鳴き、遠くで庭師が鋏を動かす音がする。
 日常は何も変わらない顔をしているのに、リーナの胸の中だけがざわざわしていた。

「リーナ、結果は気にするな」
 父が言う。
「並と言われても、学びで変わる。重要なのは心だ」
「はい……」

 いい父だ。
 でも、優しさだけで人生は救われないことも知っている。

 母が笑う。
「攻撃魔法がすべてじゃないわ。あなたに合う道があるはずよ」
「うん」

 エリシアは、最後にリーナの肩を軽く叩いた。
「まあ、あなたはあなたなりに頑張ればいいんじゃない?」
 言外に、「私みたいにはなれないけど」と付いている。
 リーナは笑って受け流した。
 受け流すのは得意だ。得意すぎて、前世は自分を守り損ねた。

 その日の夜。
 リーナは自室の机に向かっていた。
 窓の外は暗く、屋敷の廊下を歩く足音が遠くに響く。
 蝋燭の火が揺れて、影が壁に踊った。

 机の上には、今日借りた魔法の教本。
 表紙は新しく、内容も分かりやすい。
 攻撃魔法の基礎。火球、風刃、光矢。
 どれも、読んでいるだけで胸が冷える。

 ――派手な魔法。
 ――見せ場のある魔法。
 ――拍手される魔法。

 でも、私には向かない。
 向かないだけじゃない。たぶん、ここでそれを追いかけたら、私はまた「選ばれない側」に戻る。

 リーナは教本を閉じた。
 代わりに、引き出しの奥から古い本を引っ張り出す。
 背表紙は擦れて、文字も薄い。
 屋敷の書庫で偶然見つけた本だ。分類もされず、埃を被っていた。

『戦術術式集――基礎罠術の理論』

 そのタイトルに、胸が少し高鳴る。
 ページを開くと、細かい術式がびっしり並んでいた。
 読みにくい。難しい。
 でも、なぜか、目が離せない。

「……魔法地雷」

 小さな円。起動条件。魔力波形。遅延発動。
 派手じゃない。でも、設計が全部だ。

「拘束罠……干渉陣……」

 拘束は動きを奪う。
 干渉は詠唱を乱す。
 どれも、相手の“行動”を読む必要がある。

 ――これ、私の得意分野じゃん。

 前世の真凛は、空気を読んで生き延びてきた。
 誰が今イラついているか。
 誰が誰を見下しているか。
 どこに踏んだら爆発する地雷があるか。
 それを読む力だけは、無駄に育った。

 恋愛で使えなかった能力が、ここでは武器になる。
 皮肉すぎて笑える。笑えないけど。

 リーナはペンを取って、紙に円を描いた。
 術式の線を真似る。
 細く、丁寧に。
 線が歪むと、魔力は暴発する。
 それは今日、魔力熱で身をもって知った。

「……よし」

 小さな術式を書き終えた瞬間、指先が熱くなった。
 紙の上の線が、淡く光る。
 火花のような光ではなく、月明かりみたいな静かな光。

 ――できた。

 胸が、ふわっと軽くなる。
 たった一行。たった一つの術式。
 でも、これは私が“自分で選んだ”ものだ。

 扉が軽くノックされた。
「リーナ様、まだ起きてらっしゃいますか?」
 ミレイユの声。

「起きてるよ。どうしたの?」
「お茶をお持ちしました。身体、冷えてしまいますから」
「ありがとう。入って」

 ミレイユがトレイを持って入ってきて、机の端に置く。
 カモミールの匂いが漂った。
 彼女は机の上の古い本を見て目を丸くする。

「……それ、戦術術式の本じゃないですか」
「うん。面白くて」
「面白い……? 普通のご令嬢は、攻撃魔法の本を読むのに」
「普通じゃないんだ、私」

 自嘲じゃない。
 ただの事実だ。
 ミレイユは困ったように笑う。

「リーナ様は、やっぱり不思議です。でも……」
「でも?」
「すごく、リーナ様らしいと思います」

 “らしい”。
 その言葉が、意外と嬉しかった。

「ねえ、ミレイユ。罠魔法って、どう思う?」
「……え?」
「陰湿、とか言われるでしょ。姉さまみたいに」

 ミレイユは眉を下げ、真剣に考えた。
「私は……怖いと思います」
「怖い?」
「はい。だって、見えないのに効く。派手じゃないのに、確実に相手を止める……」
 彼女は言葉を探しながら続ける。
「でも、それって……悪いことじゃないと思います。守るためにも使えるし、無駄に傷つけないで済む」

 リーナは息を吐いた。
 胸の奥に溜まっていたしこりが、少しだけ解ける。

「守るため」
「はい。リーナ様、優しいから……きっと、そういう魔法が合ってる気がします」

 優しい。
 またその言葉。
 だけど今回は、嫌じゃなかった。
 優しさを“使い捨て”にしない道があるかもしれないから。

 ミレイユが帰った後、リーナは床に膝をついた。
 絨毯を少しめくって、木の床板に指で術式を描く。
 紙の上と違って、床は硬い。線が思った通りに引けない。
 でも、それが逆に楽しい。

「……魔法地雷」

 小さな円。
 そこから枝分かれする線。
 起動条件は、軽い圧力。
 威力は弱く。足を取る程度。
 殺さない。傷つけすぎない。

 リーナは魔力を流した。
 じわ、と術式が淡く光って、そして、沈む。
 見えなくなる。
 でも、そこにある。

 立ち上がって一歩踏み出す。
 ――ぴしっ。
 足元の空気が弾けるように揺れた。
 床の上で、ほんの少しだけ足が滑る。

「おお……」

 派手じゃない。
 でも確実に効いた。
 たったこれだけで、相手の体勢は崩れる。
 戦いは、崩れた一瞬で終わることがある。

 リーナは何度も試した。
 魔力配分を変える。
 起動条件を変える。
 遅延時間を変える。
 失敗すれば術式がちりちりと燃えて消える。
 成功すれば、静かに沈む。

 夜更け。
 蝋燭が短くなり、窓の外は真っ暗。
 でもリーナの心は、不思議と明るかった。

 攻撃魔法は並以下。
 それは事実だ。

 けれど、私は「並以下」で終わりたくない。
 派手さで勝てないなら、仕組みで勝つ。
 選ばれなかったなら、自分で選ぶ。
 誰も主役にしない魔法を、私が主役にする。

 前世で、空気を読んで生き延びた女は。
 この世界で、地雷原を設計して生きる。

 リーナは最後に、床の術式を見下ろした。
 見えない罠。
 静かな力。

「……よし。私、これでいく」

 小さく呟いた声は、夜の部屋に吸い込まれていった。
 でも、その言葉は確かに、リーナ自身の耳に届いた。

 喪女だった私が、地味枠だった私が、
 選ばなかった魔法で、生き方を選び直す。

 地味で、静かで、確実な力。
 それが、私の最初の一歩だった。
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