喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト

文字の大きさ
8 / 20

第8話 魔獣発生

しおりを挟む
 昼の鐘が鳴り終わるころ、学園の空気が急に“硬く”なった。
 いつもなら廊下に漂うのは、紙の匂いと香水と、誰かの笑い声の残り香。
 でもその日、空気に混じってきたのは、鉄みたいな緊張と、焦げたような気配だった。

 最初に異変を告げたのは、校舎の中央塔に吊られた非常鐘。
 澄んだ鐘の音じゃない。
 腹の底に沈む、低くて荒い音。

 ――ゴォン、ゴォン、ゴォン。

 その音が鳴った瞬間、教室のざわめきは一拍で凍った。
 教師のチョークが黒板に当たって止まり、誰かの息を呑む音が聞こえた。

「……非常鐘?」

 ミナが小さく呟く。
 リーナは無意識に背筋を伸ばしていた。
 前世の真凛の癖。
 “何かが起きる”気配を嗅いだ瞬間、体が先に備える。

 扉が勢いよく開いて、別の教師が顔を出した。
 いつもなら淡々としているその人の表情が、今日は明らかに違う。
 頬が引きつり、目が焦点を結びきれていない。

「全員、荷物を置け! 大講堂へ集合!」
「え、何? 何が起きたの?」
「黙れ! 走れ!」

 椅子が倒れる音。
 床を蹴る足音。
 廊下へ人が溢れる。
 さっきまでの学園は、学園としての秩序を保っていた。
 でも今は違う。
 若い声が不安を孕んで震え、空気が目に見えない速度で荒れていく。

 リーナは人波に押されながらも、周囲を観察していた。
 誰が泣きそうか。誰が強がっているか。誰が興奮しているか。
 そして、誰が“指示を待っているだけ”になっているか。

 大講堂はすでに半分埋まっていた。
 壇上には魔法科教官たちが並び、そこに騎士科教官も加わっている。
 いつもは交わらない二つの制服の色が混ざっていて、その光景だけで事態の重さが分かる。

 そして、壇上の中央に立ったのは、学園長ではなく――騎士科の教官だった。
 体格が岩みたいで、声が刃物みたいに硬い男。

「静かに!」

 その一言が、講堂のざわめきを叩き潰した。
 空気がぴんと張る。
 リーナの心臓が一拍遅れて跳ねる。

 騎士科教官は名乗った。
「騎士科教官長、グレイ・ドーソンだ。今日からお前らの現場指揮を預かる」
 視線が講堂全体をなぞる。
「今ここにいるのは生徒だろうが、今日は“兵”として扱う。甘い顔はしない。生き残りたいなら、指示に従え」

 背筋が凍る。
 でも、妙に納得もする。
 これは試験じゃない。
 現場だ。

 続いて、魔法科の教官が一歩前に出た。
 いつもの白い手袋をはめた、理論担当の女性教師。
 口調は柔らかいが、目は冷静だった。

「魔法科教官、セレナ・ヴァイスです。普段は皆さんに理論を教えていますが……今日は現場での“生存”を教えます」
 彼女は一呼吸置いて、言葉を選ぶように続けた。
「王国近郊、ノルド渓谷付近で魔獣の群れが発生しました。目撃情報は朝からありましたが、先ほど討伐隊が接触し――数が予想を上回ると判断されました」

 講堂がざわつく。
 誰かが「魔獣……」と呟く。
 その単語には、教科書の中の怖さじゃなく、生臭い現実が乗っている。

 セレナ教官が手を上げると、壁に地図が投影された。
 魔法で描かれた立体地図。
 赤い点がいくつも瞬いている。

「現在位置がここ、学園から馬車で一時間半。ノルド渓谷の出口付近に村が二つあります」
 地図の上で、赤い点が村へ向かうように動く。
「魔獣は渓谷から出て、村へ向かう可能性が高い。理由は単純。人の匂いと、家畜の匂いに引かれるからです」

 リーナは地図を食い入るように見た。
 渓谷。
 出口は狭い。
 そこを塞げば、流れを止められる。
 でも数が多いなら、塞ぐだけでは押し切られる。

 ――動線。
――避難路。
――地形。

 頭の中で線が引かれていく。
 前世で培った「全体を見る癖」が、勝手に動く。
 会社のプロジェクトで、全員が自分の担当だけ見て混乱した時、真凛はいつも全体を眺めていた。
 誰が何を抱えていて、どこが詰まっていて、次に何が崩れるか。
 その癖が、ここでこんな形で役に立つなんて皮肉だ。

 グレイ教官が地図の前へ出る。
「作戦はシンプルだ。討伐隊が前線で食い止める。その間に学園生は後方支援と避難誘導」
 彼は黒板のように地図を指で叩いた。
「騎士科は“牙班”。噛みついて止める。前衛、誘導、近接制圧。魔獣に近づくのは俺の牙班だ」

 ざわめきが上がる。
 騎士科の生徒たちの顔が引き締まる。
 彼らの中には誇りがある。
 だけど誇りだけではない。恐怖も混じっている。

 セレナ教官が続く。
「魔法科は“罠班”。……いえ、誤解しないでください。ここでの“罠”は卑怯という意味ではなく、戦術という意味です」
 その言葉に、リーナは思わず目を瞬いた。
 罠班。
 その響きが、嫌じゃなかった。
 むしろ、胸の奥が少し熱くなる。
 自分の居場所が、名前として与えられた気がしたから。

 セレナ教官は淡々と説明する。
「魔法科は三班に分けます。
 一つ、盾班。結界と防壁で避難路を守る。
 二つ、矢班。遠距離魔法で牽制、数を削る。
 三つ、罠班。足止め、拘束、干渉、誘導。敵の進路を制御し、牙班が噛みやすくする」

 リーナの脳内で、情報が整理されていく。
 盾班は“守り”。
 矢班は“削り”。
 罠班は“流れ”。
 流れを握る者が、戦場を握る。

 グレイ教官が笑った。
「魔法科は洒落た名前をつけるな。……まあいい。うちの牙班と、お前らの罠班、相性は悪くない」
 その言葉に、騎士科の生徒たちから小さな笑いが漏れた。
 空気がほんの少し緩む。
 でも、緩みすぎない。
 緊張の糸はちゃんと残る。

 セレナ教官が言った。
「現場では、騎士科と魔法科は混成で動きます。各班に担当教官をつけ、指揮系統を一本化します。勝手に動かないこと。英雄ごっこはここでは禁止です」
 目が、鋭い。
「魔法は派手に見えますが、制御が乱れれば味方を焼きます。剣は頼もしく見えますが、無謀に突っ込めば死にます」

 誰かが息を呑む音がした。
 講堂の空気が、さらに沈む。
 沈むというより、地面に重く降りる。

 ――生きるか死ぬかだ。

 リーナは唾を飲み込んだ。
 喉が乾いている。
 背中に汗が出る。
 怖い。
 でも怖いだけじゃない。
 胸の奥に、薄い熱もある。
 前世にはなかった感覚。
 “自分が必要とされる場所に立つ”感覚。

 その時、視線の端にカイが見えた。
 騎士科の列の中、背筋をまっすぐにして立っている。
 表情は変わらない。
 だけど、目が少しだけ鋭くなっている。
 戦場の顔だ。

 リーナと目が合う。
 ほんの一瞬。
 カイは何も言わない。
 でも、その視線は言っている。
 ――生きて戻れ。
 ――連携する。

 それだけで、リーナの心臓の音が少し落ち着く。
 不思議だ。
 人と繋がるだけで、恐怖の形が変わる。

 地図が更新され、赤い点が増えた。
 セレナ教官が眉を寄せる。

「数が……増えていますね」
 グレイ教官が吐き捨てる。
「増えるなら、尚更だ。出口を絞る。村へ向かう道を潰す」
 彼は地図の渓谷出口を指す。
「ここで食い止める。牙班は渓谷出口で前衛。罠班は左右の斜面に罠を張って進路を制限。盾班は避難路の確保、矢班は上から削れ」

 作戦は明確だった。
 でも明確なほど、怖い。
 自分がそこへ行くのだと、現実が輪郭を持つから。

 セレナ教官が視線を講堂へ向けた。
「質問がある人」
 数人が手を上げる。
「魔獣の種類は?」
「負傷者が出た場合は?」
「撤退ラインは?」

 質問が飛び交い、教官が次々に答える。
 現場の言葉は短く、冷たい。
 余計な感情が削ぎ落とされる。
 それが逆にありがたい。
 感情に飲まれたら、体が動かなくなる。

 リーナは手を上げた。
 自分でも驚いた。
 前世なら、質問なんてしなかった。
 目立つのが怖いから。
 でも今は、目立つより、生き残る方が大事だ。

 セレナ教官が頷く。
「アルシェイド。どうぞ」
「渓谷出口を塞ぐなら、村側の避難路は一本ですか?」
「……いい視点ですね」
 セレナ教官は地図を拡大した。
「村から学園方向へ逃げる道は二本ありますが、そのうち一本は橋が狭く、魔獣が追ってきた場合に詰まります」
 リーナの脳内で、嫌な絵が浮かぶ。
 人が詰まり、転び、後ろから押される。
 そこへ魔獣。
 最悪だ。

「なら、避難は広い方へ集中させた方が……」
「そうします。盾班に橋の防護を任せ、避難誘導は広い道へ流す。……ありがとう、アルシェイド」

 胸の奥が震えた。
 ありがとう。
 教官に感謝されるほどの質問をしたことが、前世の真凛には一度もなかった。
 今の自分は、確かにここにいる。

 グレイ教官が両手を叩く。
「よし。班編成を告げる。名前を呼ばれた者は前へ」
 名前が次々呼ばれ、列が動く。
 リーナは呼ばれるのを待ちながら、掌を握り締めた。
 指先が冷たい。
 なのに、胸だけが熱い。

「リーナ・アルシェイド。罠班。混成隊、第三小隊」
 呼ばれた。
 足が勝手に前へ出る。
 そして、次に呼ばれた名前で心臓が跳ねた。

「カイ・ルヴェイン。牙班。混成隊、第三小隊」

 同じ小隊。
 偶然か、必然か。
 リーナは少しだけ息を吐いた。
 怖い。
 でも、少しだけ、心強い。

 講堂の外へ出ると、空がやけに青かった。
 その青さが、逆に残酷に見える。
 世界は何も変わらない顔をしているのに、人の命は今、動いている。

 準備のために一度寮へ戻る途中、ミナが駆け寄ってきた。
「リーナ! 同じ小隊?」
「うん。罠班」
「私、矢班になった……怖い」
 ミナの声は震えていた。
 リーナはミナの肩を軽く掴む。

「怖いの普通だよ」
「でも……」
「でも、怖いまま動くしかない。……大丈夫。矢班は距離がある。ちゃんと見て、ちゃんと狙って」
「リーナ……」
「私は罠張る。ミナは削る。役割が違うだけ。生きて帰ろう」

 言葉にした瞬間、自分が誰かを励ましていることに気づいて、リーナは少しだけ驚いた。
 前世の真凛は、励ますふりをして、自分の心だけ置き去りにしていた。
 でも今は違う。
 自分も含めて、生きるために言葉を使っている。

 装備の受け取り所では、魔力結晶、簡易の魔法札、応急薬が配られた。
 リーナは罠用の粉末と小型の刻印杭を受け取る。
 指先で触れると、冷たい石の感触。
 これが命綱になる。

 最後に、再集合地点で小隊ごとに並ぶ。
 カイがリーナの隣に立った。
 近い。
 でも今は、鼓動が恋のものではない。
 生存の鼓動だ。

「……怖いか」
 カイが小さく聞いた。
 リーナは少しだけ笑う。
「怖い。めちゃくちゃ」
「正常だ」
「そっちは?」
「怖い。だが、やる」

 それが答えだった。
 怖いまま、やる。
 それ以外の選択肢はない。

 馬車が並び、出発の号令がかかる。
 車輪が石畳を鳴らし、学園の門が後ろへ遠ざかる。
 いつもの学園が、いつもの日常が、薄い膜みたいに剥がれていく。

 リーナは膝の上の地図を握り締めた。
 渓谷。村。避難路。出口。
 線が走る。
 ここで止めなければ、血が流れる。
 自分の知らない誰かの血が。

 ――これは、試験じゃない。
 ――生きるか死ぬかだ。

 その事実が、雨の日の終わり方よりずっと重いのに、
 リーナの中には確かに、前世にはなかった“覚悟”が生まれていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます

今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。 しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。 王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。 そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。 一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。 ※「小説家になろう」「カクヨム」から転載 ※3/8~ 改稿中

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

冤罪で処刑された悪女ですが、死に戻ったらループ前の記憶を持つ王太子殿下が必死に機嫌を取ってきます。もう遅いですが?

六角
恋愛
公爵令嬢ヴィオレッタは、聖女を害したという無実の罪を着せられ、婚約者である王太子アレクサンダーによって断罪された。 「お前のような性悪女、愛したことなど一度もない!」 彼が吐き捨てた言葉と共に、ギロチンが落下し――ヴィオレッタの人生は終わったはずだった。 しかし、目を覚ますとそこは断罪される一年前。 処刑の記憶と痛みを持ったまま、時間が巻き戻っていたのだ。 (またあの苦しみを味わうの? 冗談じゃないわ。今度はさっさと婚約破棄して、王都から逃げ出そう) そう決意して登城したヴィオレッタだったが、事態は思わぬ方向へ。 なんと、再会したアレクサンダーがいきなり涙を流して抱きついてきたのだ。 「すまなかった! 俺が間違っていた、やり直させてくれ!」 どうやら彼も「ヴィオレッタを処刑した後、冤罪だったと知って絶望し、時間を巻き戻した記憶」を持っているらしい。 心を入れ替え、情熱的に愛を囁く王太子。しかし、ヴィオレッタの心は氷点下だった。 (何を必死になっているのかしら? 私の首を落としたその手で、よく触れられるわね) そんなある日、ヴィオレッタは王宮の隅で、周囲から「死神」と忌み嫌われる葬儀卿・シルヴィオ公爵と出会う。 王太子の眩しすぎる愛に疲弊していたヴィオレッタに、シルヴィオは静かに告げた。 「美しい。君の瞳は、まるで極上の遺体のようだ」 これは、かつての愛を取り戻そうと暴走する「太陽」のような王太子と、 傷ついた心を「静寂」で包み込む「夜」のような葬儀卿との間で揺れる……ことは全くなく、 全力で死神公爵との「平穏な余生(スローデス)」を目指す元悪女の、温度差MAXのラブストーリー。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...