喪女だった私が異世界転生した途端に地味枠を脱却して逆転恋愛

タマ マコト

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第9話 地雷魔法が戦場を支配する

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 渓谷に近づくほど、空気が変な匂いを帯びた。
 湿った土の匂いに混じる、獣の汗と、鉄と、焦げ。
 遠くから聞こえるのは風じゃない。咆哮だ。
 山肌が震えるみたいな低い音が、胸骨の裏を直接叩いてくる。

「……来るぞ」

 小隊の前を歩く騎士科教官が短く言った。
 グレイ教官ではなく、第三小隊担当の副官的な教官――マルコ教官。
 現場慣れした声で、余計な感情がない。
 その声が逆に怖い。怖いけど、頼もしい。

 リーナは地図をしまい、袋から刻印杭を取り出した。
 金属の棒に、細かな術式が彫られている。
 地面に打ち込むだけで罠術式の“芯”になるやつ。
 学園の設備が、命綱の形になっているのがなんだか不思議だった。

「アルシェイド、罠班は右斜面寄り。誘導路を作れ」
 マルコ教官が指示を飛ばす。
「ルヴェイン、お前は前衛二番手。アルシェイドの罠に合わせて進路を絞れ」
「了解」
「了解です」

 カイの返事は短い。
 でも、その短さが“もう分かってる”って証明みたいに聞こえる。
 リーナの胸の奥が少し落ち着いた。

 渓谷出口は、想像以上に狭かった。
 両側の岩壁が迫り、空が細く切り取られている。
 その狭さが救いにもなる。
 敵の数が多くても、一度に出てこれる数には限りがある。
 でも、狭いってことは――詰まったら逃げ道がない。

 前線にはすでに王国討伐隊が陣を張っていた。
 鎧の擦れる音。盾が鳴る音。
 隊長らしき人物がこちらへ向かって叫ぶ。

「学園生か! 来てくれたか!」
 マルコ教官が短く答える。
「第三小隊、到着。支援に入る」
「助かる! 魔獣の群れが二波来る! いや、三波かもしれん!」

 言い終わる前に、渓谷の奥から“黒い塊”が溢れた。
 最初は影みたいに見えた。
 でも影じゃない。
 牙と爪と毛皮。
 目が赤く光り、唾液が糸を引いている。

「来た……!」

 誰かの声が震える。
 リーナの指先が冷たくなる。
 胃がきゅっと縮む。
 怖い。
 でも、今さら立ち止まれない。

「矢班、撃て!」
 遠距離の魔法が一斉に放たれた。
 火球が飛び、雷が落ち、光の矢が線を描く。
 派手な爆音。熱。眩しさ。
 それなのに――

 魔獣は避けた。

 いや、避けるというより、流れる。
 群れで動き、先頭が囮になり、後ろが隙間を縫う。
 狡猾だ。
 ただの獣じゃない。
 “人間を狩る方法”を知っている動き。

「なんで避けられるの!?」
 若い魔導士の叫びが混じる。
 答えは簡単。
 魔法が派手すぎて、予兆が分かりやすいからだ。
 詠唱の間、魔力の膨張、空気の歪み。
 魔獣はそれを“危険”として認識している。

 前線の騎士たちが盾を構える。
 衝突。
 鈍い音が渓谷に響く。
 魔獣の爪が盾を削り、牙が鎧に噛みつく。
 血の匂いが一気に濃くなる。

「下がれ! 隊列を崩すな!」
 マルコ教官の声が飛ぶ。
「ルヴェイン、右から回り込む個体! 切れ!」
「了解」

 カイが走った。
 砂利を蹴り、剣が光る。
 だが、右から来たのは一体じゃなかった。
 二体、三体。
 しかも一体は囮だ。
 カイが囮に反応した瞬間、別の個体が隊列の隙間へ潜り込む。

「うわっ!」

 騎士科の生徒が倒れかける。
 魔獣の牙が、鎧の隙間を狙っている。
 その瞬間、リーナの心臓が跳ねた。

 ――今、ここで止めないと死ぬ。

 リーナは駆け出した。
 怖いとか、足が震えるとか、そういう感覚は後ろへ押し込める。
 頭の中で、地形が立体になっていく。
 岩壁、足場、動線。
 魔獣の目線。
 騎士の位置。
 全部を線にして、一本の流れにする。

「カイ! 右の足元、踏ませる!」
 叫んだ。
 声が自分のものじゃないくらい大きく響く。

 カイが一瞬だけこちらを見る。
 そして、理解した目になる。
 言葉はいらない。
 彼は剣を振る角度を変え、魔獣の進路を“少しだけ”ずらした。

 リーナは膝をつき、刻印杭を地面に打ち込む。
 カン、と金属音。
 次に粉末を撒く。
 指先で術式を引く。
 魔力を流し込む。
 地雷魔法。

 ――沈め。

 術式が一瞬だけ淡く光って、地面に溶ける。
 見えない。
 でも、そこにある。

 魔獣が踏み込んだ。

 ぴしっ。

 空気が弾けた音がした。
 魔獣の前脚がわずかに滑る。
 たったそれだけ。
 派手な爆発はない。
 でも、その“たったそれだけ”で、魔獣の体勢は崩れた。

「今!」
 リーナが叫ぶより早く、カイが動いた。
 剣が閃き、魔獣の首筋を正確に斬る。
 血が飛び、熱が頬をかすめる。
 魔獣が倒れ込む。

 けれど、群れは止まらない。
 次の個体が、その死体を踏み越えてくる。
 狡猾だ。躊躇しない。
 むしろ、死体を盾にして突っ込んでくる。

「くっ……!」

 前線が押される。
 盾が割れそうになる。
 騎士科の生徒の顔が青ざめる。
 その中で、リーナは一つの確信を掴んだ。

 ――これ、火力じゃ止まらない。
 ――流れを変えるしかない。

 リーナは走りながら、次々に杭を打ち込んだ。
 地雷。地雷。地雷。
 足止めの点を、線に変える。
 線を、面にする。
 “この場所に踏み込むと嫌なことが起きる”という領域を作る。

「ルヴェイン! こっちに誘導して! 左に逃げ道作るから!」
「了解」

 カイは剣を振るいながら、微妙に動線を調整する。
 敵を殺すだけじゃない。
 敵を“動かす”ために戦っている。
 その戦い方が、リーナの罠と噛み合う。

 リーナが拘束罠を一つ仕込む。
 起動条件は、前脚の踏み込み。
 発動は瞬間。
 魔力配分は細く、最後だけ太く。

 魔獣が踏んだ瞬間、地面から魔力の鎖が伸びる。
 足首を絡め取る。
 魔獣が咆哮し、暴れる。
 その暴れ方すら、リーナの計算の中。

「今、矢班! そこ!」
 叫ぶ。
 遠距離の魔法が飛び、拘束された魔獣の脇腹に刺さる。
 派手な爆発。
 でも今は、“当たる”。
 当たるように作った。
 これが罠の役割だ。

「当たった!」
 若い魔導士の声が上がる。
 歓声ではない。
 安堵の声。
 生き残れるかもしれないという、震え混じりの希望。

 しかし、狡猾な群れは学習する。
 踏み込みを弱める個体が出てきた。
 地雷の起動条件を避けようとする。
 なら――起動条件を変える。

 リーナは干渉陣を仕込んだ。
 地面に薄い術式を広げ、そこに魔力波形を混ぜる。
 魔獣が魔力を帯びている個体だと分かったからだ。
 群れの中には、魔力を操るような個体がいる。
 そいつが、仲間を指示している。
 目が違う。動きが違う。
 “頭”だ。

「カイ、あの目が光ってるやつ、頭っぽい!」
「見える」
「そいつの詠唱みたいな唸り、邪魔する!」
「任せた」

 任せた。
 その言葉が、短いのに重い。
 信頼って、こういう形なんだとリーナは思った。
 甘い言葉じゃなく、役割の受け渡し。

 頭の魔獣が喉を震わせた。
 低い唸り声が地面を揺らし、空気が歪む。
 魔力が膨張する。
 次の瞬間、何かの波が来る。

 ――来る前に。

 リーナは干渉陣に魔力を流し込んだ。
 相手の波形にぶつけるように、細い針を刺す。

 ぎぃん、と耳鳴り。
 魔獣の唸り声が一瞬途切れ、魔力の膨張が乱れる。
 術が暴発し、頭の魔獣自身の足元がふらついた。

「今!」
 カイが動く。
 一直線。
 無駄のない突進。
 剣が閃き、頭の魔獣の喉元に突き刺さる。

 魔獣が崩れ落ちる。
 群れの動きが、一拍遅れる。
 指揮者が落ちた瞬間の混乱。

 その一拍で、リーナは“面”を完成させた。
 地雷と拘束を連鎖させ、逃げ道を一本に絞る。
 矢班が削る。
 盾班が後方を守る。
 牙班が噛みつく。

 戦場が、静かに制御されていく。

 気づけば、さっきまで耳を裂いていた叫び声が減っていた。
 代わりに聞こえるのは、指示の声。
 足音。
 剣の音。
 魔法の発動音。
 混乱ではなく、秩序の音。

「アルシェイド、いい流れだ!」
 マルコ教官の声が飛ぶ。
「そのまま出口へ押し返せ!」
「はい!」

 リーナは汗で前髪が額に貼りつくのを感じながら、次の罠を仕込んだ。
 手が震える。
 でも、それは恐怖だけじゃない。
 疲労と、集中と、熱。
 生きてる震え。

 カイがリーナの隣に一瞬戻ってきた。
 息は乱れているのに、目は冷静だ。

「次、どこだ」
「ここ。出口の手前、狭いとこ。そこで一回止める」
「分かった」

 それだけ。
 言葉は少ない。
 でも、その少なさが、二人の距離を縮めていた。

 リーナは最後の地雷を沈めた。
 それは派手じゃない。
 でも、確実に“死なないための一歩”になる。

 魔獣が突っ込んでくる。
 踏む。
 滑る。
 崩れる。
 止まる。
 削られる。
 倒れる。

 連鎖。
 鎖みたいに絡みつく罠が、群れの勢いを奪っていく。

 ――これが、私の戦い方。

 前世では、地雷を避けて生きてきた。
 踏まないように、踏まないように。
 誰かの機嫌を読み、空気を読み、存在を薄くして。

 でも今は違う。
 私は地雷を作る。
 誰かを傷つけるためじゃない。
 守るために、止めるために、流れを変えるために。

 最後の一体が倒れたとき、渓谷に一瞬の静寂が落ちた。
 遠くで鳥が鳴いた。
 誰かが膝をついた。
 誰かが泣きそうに笑った。

 リーナは、その場に立ったまま息を吸う。
 血と汗と土と、魔力の匂い。
 胃がむかつくほど生々しい。
 でも、これが現実だ。

 カイが近づいてくる。
 剣先から血が滴っている。
 彼はそれを拭いながら、短く言った。

「助かった」
「私も。……カイが誘導してくれたから、罠が生きた」
「罠がなければ、誘導が死ぬ」

 その言葉が、胸に刺さった。
 刺さったのに痛くない。
 むしろ、じんわり温かい。

 言葉のいらない連携。
 それは戦場で生まれる、命の会話だった。

 リーナは、砂に残った自分の足跡を見下ろした。
 怖かった。
 今も怖い。
 でも、私はここに立っている。

 地雷魔法が戦場を支配したんじゃない。
 私が、私のやり方で、戦場の“流れ”を掴んだ。

 その事実が、リーナの心の奥に、確かな重さで残っていた。
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