11 / 20
第11話 魔法大会、逃げないと決めた夜
しおりを挟む
魔獣討伐の一件が「一件落着」と呼ばれるようになるまでに、二週間もかからなかった。
人の心は、驚くほど早く日常に戻る。
血と泥と咆哮の匂いは、洗濯された制服の匂いに上書きされ、折れた盾の記憶は、課題の締切に押し流される。
でも、リーナの中だけは、完全には戻らなかった。
眠りの浅い夜が続いた。
目を閉じると、渓谷の狭い空が浮かび、赤い目が闇の中で光る。
遠くで何かが鳴っただけで、肩がびくっと跳ねる。
……戦場の自分が、まだ身体のどこかに残っている。
学園の廊下は相変わらず眩しく、窓から差す光はきれいで、花壇の花はちゃんと咲く。
なのに、以前と同じように歩けない。
自分が変わったせいで、世界の方が違って見える。
「リーナさん、おはようございます!」
「……おはよう」
声をかけられる回数が、増えた。
今までは、壁際にいても誰も気づかなかったのに。
今は、壁際にいても見つかる。
それが、嬉しいというより、落ち着かない。
通りすがりに聞こえる囁き声も変わった。
「戦術魔導士って呼ばれたって」
「罠魔法で戦場を制御したらしいよ」
「でもさ、罠って地味じゃない?」
「地味だけど強いって、逆に怖い」
「ルヴェイン様とペアみたいになってたって噂もあるよね」
地味。強い。怖い。
称賛と警戒が同じ袋に入れられて、ひとつの噂になる。
前世で見た“人気者”の扱いと、妙に似ていた。
ただ、違うのは――
今回はそれが、私に向いているということだ。
リーナは廊下の角を曲がるたび、視線の角度を感じる。
好奇心。
羨望。
警戒。
嫉妬。
そして、ときどき、純粋な尊敬。
視線は、光にもなるし刃にもなる。
前世の真凛は、刃から逃げるためにずっと影に潜った。
でも今のリーナは、刃の存在を知りながら光の中に立っている。
それがどれだけ怖いことか、前世の私が一番よく知っている。
「リーナ、最近ほんと呼び止められすぎじゃない?」
昼休み、ミナがトレーを持ちながら呆れたように言った。
「なんか、ちょっとした有名人だよ」
「有名人っていうか……変な動物扱いな気がする」
「それは自虐すぎ。てか、ルヴェイン様との噂も強いよね」
「またそれ」
「だってさ、実際、仲いいじゃん」
「仲いいっていうか、訓練してるだけ」
「訓練って言い訳、もう通用しないよ」
「通用する。技術は裏切らない」
「うわ、リーナ、ルヴェイン様みたいなこと言うじゃん」
「……うつったのかも」
ミナが笑う。
リーナも小さく笑った。
こういう軽口を叩ける相手がいるのは、ありがたい。
噂の渦の中で、息ができる場所。
そして、噂のもう一つの中心――カイ・ルヴェイン。
彼は相変わらず無愛想で寡黙で、誰に対しても距離が同じだった。
変わったように見えるのは、たぶん私だけ。
私には、少しだけ近い。
それが他の人には“特別”に見えるらしい。
廊下で偶然すれ違うと、周囲の空気が変な風に揺れる。
誰かが息を呑む。
誰かが囁く。
そのたびに、リーナは胃がきゅっとなる。
カイはそういう空気に無頓着で、いつも通り短く言うだけだ。
「アルシェイド」
「……なに」
「今日、放課後」
「訓練?」
「確認。罠の起動条件、再調整したい」
「了解」
それだけの会話。
それだけなのに、周囲の人間は勝手に色をつける。
恋愛だの、特別だの、嫉妬だの。
真実より噂の方が速くて、噂の方が大きくて、噂の方が人を動かす。
前世の真凛は、その渦の外にいた。
噂される側ではなく、噂を聞く側。
だから、噂される側の息苦しさを知らなかった。
知らなかったのに、今は知ってしまった。
放課後、訓練場で罠の調整をしていると、通りすがりの生徒がわざわざ遠回りして見ていく。
その視線が背中に刺さる。
カイは気にしない。
気にしないから、余計に目立つ。
「なあ」
カイが突然言った。
「最近、周囲がうるさい」
「……気づいてたんだ」
「気づく」
「じゃあ、どう思うの」
「どうも思わない」
「……強すぎる」
「必要なら黙らせる」
「黙らせなくていい。黙らせたら私が悪者みたいになる」
「既に言われている」
「それが嫌なんだって」
「なら、結果で黙らせろ」
その言葉に、リーナは息を止めた。
結果。
前世の世界では、結果を出しても“顔”が良くなければ評価されないことがあった。
でもこの世界は違う。
少なくとも、魔法の世界は結果が結果として残る。
だからこそ、怖い。
結果を出せば、もっと見られる。
もっと比べられる。
もっと噂される。
そんなある日、学園に貼り出された一枚の告知が、空気を変えた。
『学園最大行事 魔法大会 開催』
それは祭りの文字だった。
でも、リーナにとっては宣告だった。
公開試合。
個人戦。
貴族席あり。
騎士団関係者も観覧。
学園内の名誉はここで決まる、と言われる行事。
掲示板の前は人だかりで、声が飛び交う。
「今年こそカリナ様が優勝でしょ!」
「ルヴェイン様も来るのかな、観覧」
「え、リーナ出るの?」
「出ないでしょ、罠だし」
「でも戦場で活躍したって……」
リーナの耳に、いろんな言葉が刺さる。
期待と否定が混ざって、ひとつの針になる。
その針が、前世の恐怖を引きずり出した。
見られる。
比べられる。
笑われる。
誰かの踏み台になる。
「やっぱり地味だね」って言われる。
「勘違いしてたね」って言われる。
その未来が、鮮明に見える。
リーナは掲示板の前から、ゆっくり離れた。
足が重い。
胸が苦しい。
まるで、前世の真凛が背中に貼りついているみたいだった。
夜。
寮の部屋に戻っても、告知の文字が頭の中で光っていた。
寝台に座っても落ち着かない。
窓の外は静かで、月が白くて、木の葉がさらさら鳴るだけ。
平和な夜なのに、心が嵐だ。
リーナは机に向かい、ペンを取った。
紙に、魔法大会の要項を書き写す。
書き写せば現実になる。
現実にすれば、怖さを分解できる。
前世の真凛は、怖いものを分解してやり過ごしてきた。
資料化して、タスク化して、感情を消して。
でも、今のリーナは感情を消しきれない。
消したくない。
消したら、また壁際に戻るから。
「……出たくない」
小さく呟いた声が部屋に落ちる。
その言葉は本音だった。
怖い。怖い。怖い。
逃げたい。
目立ちたくない。
比べられたくない。
でも、その次に、もっと小さな声が胸の奥から出た。
――でも、逃げたら。
逃げたら、私はまた“いないもの”に戻る。
戦場で得た評価も、誰かの言葉も、全部「一時的な勘違い」になる。
自分で自分にそう言ってしまう。
前世の真凛みたいに。
リーナは手のひらを見つめた。
罠を刻んだ指。
地雷を沈めた指。
この指は、逃げるためじゃなく、道を作るためにある。
コンコン、と扉がノックされた。
ミレイユだ。
「リーナ様、起きていらっしゃいますか?」
「起きてる。入って」
ミレイユが入ってきて、灯りを見て眉を下げた。
「遅くまで……何か悩みですか?」
「悩みっていうか……魔法大会」
「あ……」
ミレイユは小さく息を呑んだ。
「出るんですか?」
「……怖い。出たくない」
言葉にしたら、目が少し熱くなった。
「でも、出ないと……また、戻る気がする」
ミレイユは黙って、しばらくリーナを見ていた。
そして、そっと言った。
「リーナ様が壁際にいた時、私は……悔しかったです」
「え」
「だって、リーナ様は頑張っていたのに。誰も見ていなくて。見ないふりをしていて」
ミレイユは拳を握る。
「今、見てもらえるようになったのに、逃げたら……もったいないです」
「……もったいない」
「はい。怖いのは当たり前です。でも、怖いからって逃げるのは……リーナ様らしくない気がします」
リーナは笑いそうになった。
らしい。
その言葉が、最近は少しだけ好きになってきた。
「私らしいって、何」
「地味でも、静かでも、ちゃんと前に進むところです」
「……それ、褒めてる?」
「褒めてます!」
ミレイユは必死に頷く。
リーナは、その必死さに胸が温かくなる。
ミレイユが出ていった後、リーナは一人で机に向かった。
紙に書かれた要項の一番下に、小さな欄がある。
『参加希望者は、署名の上、提出すること』
署名。
名前を書く。
参加する、と自分で宣言する。
前世の真凛は、いつも署名を避けてきた。
“責任”のある場所から逃げるために。
それが賢いと思っていた。
傷つかないために。
でも今は違う。
傷つくのが怖い。
怖いけれど、傷つかない人生がどれだけ空っぽかも知ってしまった。
リーナはペン先を握り直した。
呼吸が浅い。
胸がうるさい。
――逃げない。
声に出さずに、心の中で言う。
そして、紙に名前を書く。
リーナ・アルシェイド。
インクが紙に染みて、名前が残る。
残った文字が、まるで自分の存在証明みたいに見えた。
窓の外で、月が静かに光っていた。
その光は太陽みたいに強くはない。
でも、影の中で確かに道を照らす光。
リーナは紙をそっと折り、提出用の封筒に入れた。
手が少し震えている。
怖いまま。
でも、逃げないと決めた震え。
――もう、壁際には戻らない。
その夜、リーナは初めて、怖さと一緒に眠ろうとした。
人の心は、驚くほど早く日常に戻る。
血と泥と咆哮の匂いは、洗濯された制服の匂いに上書きされ、折れた盾の記憶は、課題の締切に押し流される。
でも、リーナの中だけは、完全には戻らなかった。
眠りの浅い夜が続いた。
目を閉じると、渓谷の狭い空が浮かび、赤い目が闇の中で光る。
遠くで何かが鳴っただけで、肩がびくっと跳ねる。
……戦場の自分が、まだ身体のどこかに残っている。
学園の廊下は相変わらず眩しく、窓から差す光はきれいで、花壇の花はちゃんと咲く。
なのに、以前と同じように歩けない。
自分が変わったせいで、世界の方が違って見える。
「リーナさん、おはようございます!」
「……おはよう」
声をかけられる回数が、増えた。
今までは、壁際にいても誰も気づかなかったのに。
今は、壁際にいても見つかる。
それが、嬉しいというより、落ち着かない。
通りすがりに聞こえる囁き声も変わった。
「戦術魔導士って呼ばれたって」
「罠魔法で戦場を制御したらしいよ」
「でもさ、罠って地味じゃない?」
「地味だけど強いって、逆に怖い」
「ルヴェイン様とペアみたいになってたって噂もあるよね」
地味。強い。怖い。
称賛と警戒が同じ袋に入れられて、ひとつの噂になる。
前世で見た“人気者”の扱いと、妙に似ていた。
ただ、違うのは――
今回はそれが、私に向いているということだ。
リーナは廊下の角を曲がるたび、視線の角度を感じる。
好奇心。
羨望。
警戒。
嫉妬。
そして、ときどき、純粋な尊敬。
視線は、光にもなるし刃にもなる。
前世の真凛は、刃から逃げるためにずっと影に潜った。
でも今のリーナは、刃の存在を知りながら光の中に立っている。
それがどれだけ怖いことか、前世の私が一番よく知っている。
「リーナ、最近ほんと呼び止められすぎじゃない?」
昼休み、ミナがトレーを持ちながら呆れたように言った。
「なんか、ちょっとした有名人だよ」
「有名人っていうか……変な動物扱いな気がする」
「それは自虐すぎ。てか、ルヴェイン様との噂も強いよね」
「またそれ」
「だってさ、実際、仲いいじゃん」
「仲いいっていうか、訓練してるだけ」
「訓練って言い訳、もう通用しないよ」
「通用する。技術は裏切らない」
「うわ、リーナ、ルヴェイン様みたいなこと言うじゃん」
「……うつったのかも」
ミナが笑う。
リーナも小さく笑った。
こういう軽口を叩ける相手がいるのは、ありがたい。
噂の渦の中で、息ができる場所。
そして、噂のもう一つの中心――カイ・ルヴェイン。
彼は相変わらず無愛想で寡黙で、誰に対しても距離が同じだった。
変わったように見えるのは、たぶん私だけ。
私には、少しだけ近い。
それが他の人には“特別”に見えるらしい。
廊下で偶然すれ違うと、周囲の空気が変な風に揺れる。
誰かが息を呑む。
誰かが囁く。
そのたびに、リーナは胃がきゅっとなる。
カイはそういう空気に無頓着で、いつも通り短く言うだけだ。
「アルシェイド」
「……なに」
「今日、放課後」
「訓練?」
「確認。罠の起動条件、再調整したい」
「了解」
それだけの会話。
それだけなのに、周囲の人間は勝手に色をつける。
恋愛だの、特別だの、嫉妬だの。
真実より噂の方が速くて、噂の方が大きくて、噂の方が人を動かす。
前世の真凛は、その渦の外にいた。
噂される側ではなく、噂を聞く側。
だから、噂される側の息苦しさを知らなかった。
知らなかったのに、今は知ってしまった。
放課後、訓練場で罠の調整をしていると、通りすがりの生徒がわざわざ遠回りして見ていく。
その視線が背中に刺さる。
カイは気にしない。
気にしないから、余計に目立つ。
「なあ」
カイが突然言った。
「最近、周囲がうるさい」
「……気づいてたんだ」
「気づく」
「じゃあ、どう思うの」
「どうも思わない」
「……強すぎる」
「必要なら黙らせる」
「黙らせなくていい。黙らせたら私が悪者みたいになる」
「既に言われている」
「それが嫌なんだって」
「なら、結果で黙らせろ」
その言葉に、リーナは息を止めた。
結果。
前世の世界では、結果を出しても“顔”が良くなければ評価されないことがあった。
でもこの世界は違う。
少なくとも、魔法の世界は結果が結果として残る。
だからこそ、怖い。
結果を出せば、もっと見られる。
もっと比べられる。
もっと噂される。
そんなある日、学園に貼り出された一枚の告知が、空気を変えた。
『学園最大行事 魔法大会 開催』
それは祭りの文字だった。
でも、リーナにとっては宣告だった。
公開試合。
個人戦。
貴族席あり。
騎士団関係者も観覧。
学園内の名誉はここで決まる、と言われる行事。
掲示板の前は人だかりで、声が飛び交う。
「今年こそカリナ様が優勝でしょ!」
「ルヴェイン様も来るのかな、観覧」
「え、リーナ出るの?」
「出ないでしょ、罠だし」
「でも戦場で活躍したって……」
リーナの耳に、いろんな言葉が刺さる。
期待と否定が混ざって、ひとつの針になる。
その針が、前世の恐怖を引きずり出した。
見られる。
比べられる。
笑われる。
誰かの踏み台になる。
「やっぱり地味だね」って言われる。
「勘違いしてたね」って言われる。
その未来が、鮮明に見える。
リーナは掲示板の前から、ゆっくり離れた。
足が重い。
胸が苦しい。
まるで、前世の真凛が背中に貼りついているみたいだった。
夜。
寮の部屋に戻っても、告知の文字が頭の中で光っていた。
寝台に座っても落ち着かない。
窓の外は静かで、月が白くて、木の葉がさらさら鳴るだけ。
平和な夜なのに、心が嵐だ。
リーナは机に向かい、ペンを取った。
紙に、魔法大会の要項を書き写す。
書き写せば現実になる。
現実にすれば、怖さを分解できる。
前世の真凛は、怖いものを分解してやり過ごしてきた。
資料化して、タスク化して、感情を消して。
でも、今のリーナは感情を消しきれない。
消したくない。
消したら、また壁際に戻るから。
「……出たくない」
小さく呟いた声が部屋に落ちる。
その言葉は本音だった。
怖い。怖い。怖い。
逃げたい。
目立ちたくない。
比べられたくない。
でも、その次に、もっと小さな声が胸の奥から出た。
――でも、逃げたら。
逃げたら、私はまた“いないもの”に戻る。
戦場で得た評価も、誰かの言葉も、全部「一時的な勘違い」になる。
自分で自分にそう言ってしまう。
前世の真凛みたいに。
リーナは手のひらを見つめた。
罠を刻んだ指。
地雷を沈めた指。
この指は、逃げるためじゃなく、道を作るためにある。
コンコン、と扉がノックされた。
ミレイユだ。
「リーナ様、起きていらっしゃいますか?」
「起きてる。入って」
ミレイユが入ってきて、灯りを見て眉を下げた。
「遅くまで……何か悩みですか?」
「悩みっていうか……魔法大会」
「あ……」
ミレイユは小さく息を呑んだ。
「出るんですか?」
「……怖い。出たくない」
言葉にしたら、目が少し熱くなった。
「でも、出ないと……また、戻る気がする」
ミレイユは黙って、しばらくリーナを見ていた。
そして、そっと言った。
「リーナ様が壁際にいた時、私は……悔しかったです」
「え」
「だって、リーナ様は頑張っていたのに。誰も見ていなくて。見ないふりをしていて」
ミレイユは拳を握る。
「今、見てもらえるようになったのに、逃げたら……もったいないです」
「……もったいない」
「はい。怖いのは当たり前です。でも、怖いからって逃げるのは……リーナ様らしくない気がします」
リーナは笑いそうになった。
らしい。
その言葉が、最近は少しだけ好きになってきた。
「私らしいって、何」
「地味でも、静かでも、ちゃんと前に進むところです」
「……それ、褒めてる?」
「褒めてます!」
ミレイユは必死に頷く。
リーナは、その必死さに胸が温かくなる。
ミレイユが出ていった後、リーナは一人で机に向かった。
紙に書かれた要項の一番下に、小さな欄がある。
『参加希望者は、署名の上、提出すること』
署名。
名前を書く。
参加する、と自分で宣言する。
前世の真凛は、いつも署名を避けてきた。
“責任”のある場所から逃げるために。
それが賢いと思っていた。
傷つかないために。
でも今は違う。
傷つくのが怖い。
怖いけれど、傷つかない人生がどれだけ空っぽかも知ってしまった。
リーナはペン先を握り直した。
呼吸が浅い。
胸がうるさい。
――逃げない。
声に出さずに、心の中で言う。
そして、紙に名前を書く。
リーナ・アルシェイド。
インクが紙に染みて、名前が残る。
残った文字が、まるで自分の存在証明みたいに見えた。
窓の外で、月が静かに光っていた。
その光は太陽みたいに強くはない。
でも、影の中で確かに道を照らす光。
リーナは紙をそっと折り、提出用の封筒に入れた。
手が少し震えている。
怖いまま。
でも、逃げないと決めた震え。
――もう、壁際には戻らない。
その夜、リーナは初めて、怖さと一緒に眠ろうとした。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~
猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」
王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。
王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。
しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。
迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。
かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。
故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり──
“冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。
皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。
冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」
一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。
追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、
ようやく正当に愛され、報われる物語。
※「小説家になろう」にも投稿しています
婚約破棄されたので四大精霊と国を出ます
今川幸乃
ファンタジー
公爵令嬢である私シルア・アリュシオンはアドラント王国第一王子クリストフと政略婚約していたが、私だけが精霊と会話をすることが出来るのを、あろうことか悪魔と話しているという言いがかりをつけられて婚約破棄される。
しかもクリストフはアイリスという女にデレデレしている。
王宮を追い出された私だったが、地水火風を司る四大精霊も私についてきてくれたので、精霊の力を借りた私は強力な魔法を使えるようになった。
そして隣国マナライト王国の王子アルツリヒトの招待を受けた。
一方、精霊の加護を失った王国には次々と災厄が訪れるのだった。
※「小説家になろう」「カクヨム」から転載
※3/8~ 改稿中
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです
藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。
家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。
その“褒賞”として押しつけられたのは――
魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。
けれど私は、絶望しなかった。
むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。
そして、予想外の出来事が起きる。
――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。
「君をひとりで行かせるわけがない」
そう言って微笑む勇者レオン。
村を守るため剣を抜く騎士。
魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。
物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。
彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。
気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き――
いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。
もう、誰にも振り回されない。
ここが私の新しい居場所。
そして、隣には――かつての仲間たちがいる。
捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。
これは、そんな私の第二の人生の物語。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
冤罪で処刑された悪女ですが、死に戻ったらループ前の記憶を持つ王太子殿下が必死に機嫌を取ってきます。もう遅いですが?
六角
恋愛
公爵令嬢ヴィオレッタは、聖女を害したという無実の罪を着せられ、婚約者である王太子アレクサンダーによって断罪された。 「お前のような性悪女、愛したことなど一度もない!」 彼が吐き捨てた言葉と共に、ギロチンが落下し――ヴィオレッタの人生は終わったはずだった。
しかし、目を覚ますとそこは断罪される一年前。 処刑の記憶と痛みを持ったまま、時間が巻き戻っていたのだ。 (またあの苦しみを味わうの? 冗談じゃないわ。今度はさっさと婚約破棄して、王都から逃げ出そう)
そう決意して登城したヴィオレッタだったが、事態は思わぬ方向へ。 なんと、再会したアレクサンダーがいきなり涙を流して抱きついてきたのだ。 「すまなかった! 俺が間違っていた、やり直させてくれ!」
どうやら彼も「ヴィオレッタを処刑した後、冤罪だったと知って絶望し、時間を巻き戻した記憶」を持っているらしい。 心を入れ替え、情熱的に愛を囁く王太子。しかし、ヴィオレッタの心は氷点下だった。 (何を必死になっているのかしら? 私の首を落としたその手で、よく触れられるわね)
そんなある日、ヴィオレッタは王宮の隅で、周囲から「死神」と忌み嫌われる葬儀卿・シルヴィオ公爵と出会う。 王太子の眩しすぎる愛に疲弊していたヴィオレッタに、シルヴィオは静かに告げた。 「美しい。君の瞳は、まるで極上の遺体のようだ」
これは、かつての愛を取り戻そうと暴走する「太陽」のような王太子と、 傷ついた心を「静寂」で包み込む「夜」のような葬儀卿との間で揺れる……ことは全くなく、 全力で死神公爵との「平穏な余生(スローデス)」を目指す元悪女の、温度差MAXのラブストーリー。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました
AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」
公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。
死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった!
人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……?
「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」
こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。
一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる