62 / 104
第62話 フルールSIDE 今夜はゆっくり眠れそうですわ。
しおりを挟む「待て、俺に考えがある。だから今日はこのまま帰ろう」
「本当に大丈夫なのですわね? 甘い考えでないのですわね」
「まぁ理人様が言うなら仕方ないですわね」
私はこの瞬間…失望をしてしまいました。
『凄く甘い』そう考えてしまったのですわ。
『人を殺せるチャンス』を見送る、それに何の意味があるのでしょうか?
私の今迄の人生のなかでこんな決断は有りませんわ。
例えば、相手がグレー、限りなく白に近いグレーでも私は殺してきましたわ。
先代黒薔薇からも、その様に教育を受けて参りましたから、どうしても理人様のこの行動が理解できなくて、許せませんでしたわ。
優秀な黒騎士にも詰めの甘い者は多くいます。
ですが、この詰めの甘い者は戦闘力がいかに優秀でも『簡単に死んでしまいました』わ。
偶にゴブリンが可哀想だからって見逃す駆け出しの女冒険者が居ますが、それじゃ次に自分が負けた時に見逃してくれるのか? そんな事はありませんわ。
確実に手足を折られて苗床一直線なのですわ。
人も全く同じなのですわ。
『死にたくない』『助かりたい』その一心から涙ぐみ慈悲を乞い、靴まで舐める者も多くいます。
ですが、そんな存在の多くも、自分が有利になった途端に反旗を翻すのですわ。
『敵を殺せるチャンスを捨ててはならない』これは、私の生き方なのですわ。
理人様の事は凄く愛していますわ。
その反面あの時の判断は『自分の生き方』を否定されたみたいで凄く悲しくなりましたわ。
私は理人様が好きなのですわ。
苦しい位にお慕いしているのですわ。
絶対に、死ぬ所を見たくありませんわ。
ですが、この様な甘さを持つ理人様はこの先きっと長く生きられない様な気がしますわ。
悲しくて仕方がありませんでしたわ。
自分と同じような生き方をしようと『光り輝く存在』そんな理人様が…死んでしまう。
そんなビジョンが頭の中をぐるぐる回ります。
考えた末、私は少し距離を置く事にしましたわ。
愛してなければ…きっと理人様が亡くなっても、何とも思わない。
ですが、今の私が理人様を失ったら…多分壊れる気がしますわ。
狂ってしまいますわ…八つ当たりで無関係な人間を沢山殺しそうで怖いのですわ。
光を見てしまったからこそ『暗闇だけの世界』に戻るのが怖いのですわ。
理人様はああ言うけど、心配で眠れませんわ。
ああっ殺したいですわ。
ジャミルを殺さないと、夜が怖い。
いつかばれて襲ってくるのか心配で眠れませんわ。
自分が死ぬのなんて怖くありませんわ。
理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が…殺されてしまいますわ。
眠れない…本当に眠れませんわ。
『人を殺さず見逃す』
黒薔薇の私には怖くて仕方ないのですわ。
耐えられませんわ。
『こっそりと殺したい』
だけど、きっと理人様はその事に気がつく。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
このままでは私、壊れてしまいそうですわ。
◆◆◆
「まぁフルール、今日は俺に付き合え」
「まぁ奴隷ですから付き合いますよ」
寝不足と心配で、ついこの様な態度をとってしまいましたわ。
「ここはワイバーンの岩場ですか…まさかワイバーンを狩れる所を見せてご機嫌をとろうとでも?」
「いや違う、まぁ暫く様子を見ていろよ」
「まぁ見ろというなら見させてもらいます」
ワイバーンなんて狩っている場合じゃありませんわ。
『ジャミル』をどうにかしないといけませんのよ。
えっと…あれはジャミルですわ..
どういう事ですの。
◆◆◆
黙って様子を見ることにしましたわ。
いきなり挨拶をして会話を始めました。
何をするのですか?
「貴方はジャミル男爵様ですか?」
「そうだが、その顔は私と同じ『異世界人』だな、綺麗な女を連れているようだが…同胞からは奪わない、安心…するんだな」
「有難うございます」
「それで…その様子じゃこちらに来たばかりか? うちの屋敷にくるか?」
「それはどういう事ですか?」
「まぁ解らないかもしれんが5職以外の異世界人の中には先の異世界人に仕える存在も多い…まぁ俺に仕えるなら、金と女はやるぞ…平民で良かれば犯し放題にしても許される方法も教えてやる」
「そうですか? 有難うございます」
心臓を一突き…実に見事ですわね…私は何も心配する必要はなかったのですわ。
この瞬間、理人様が死んでしまうという不安感は消し飛びましたわ。
ああっ嬉しいのですわ…理人さまは『死にませんわ』
死んだ死体をワイバーンに放り投げる理人様…なんて素晴らしいのでしょう。
思わず見惚れてしまいますわね。
あそこで咀嚼しながらジャミルを食べているワイバーンの背景も素敵でしてよ。
「終わったな」
「これはどういう事ですの?」
理人さまが『死なない』と解かると何故こんな事をしたのか疑問が湧いてきましたわ。
「最初からこうするつもりだった…あそこで殺してしまえば二人の女性に金が払われない。生かすつもりはなかったが、時と場所が悪かった。それだけの事だ。そして今は時と場所が良い。この場所に他の人間は居ない。殺してワイバーンが食べてしまったら、もう証拠は残らない『黒薔薇』としてどうだ?」
「流石は理人様ですわ。私の予想以上ですわ。すみません私とした事が理人様のお考えに…」
「気にする必要は無い、裏仕事をしてきたフルールからしたら俺は相当甘く見えたのだろうな」
これは策略であって『甘さ』ではありませんわ。
本当に、本当に感心しましたわ。
「敵には厳しく、それ以外には優しい。それは別に問題ありませんわ」
理人さまは『理人様』
私が心配なんてしなくて良いほど素晴らしい方なのですわ。
多分私が今後、気に病む必要はありませんわね。
「それじゃ帰るか」
「ええっ」
もう心配はありませんから、今夜からはゆっくり眠れそうですわね。
32
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる