【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん

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第63話 コンビニ (第二部 完)

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俺は今回のジャミル男爵の事件で、フルールが隠している部分がある事を知っている。

それはジャミル男爵にも『良い面』がある事だ。

これは当たり前の事だ。

マンガや小説の様な完全な悪なんて実際は居ない。

実際の世界ではどんな悪人だって良い面の一つや二つはある。

逆に言えば、善人にだって悪い部分が普通に幾つもある。

そんな事は『知っている』よ。

俺の傍にいる『塔子』が正にそうじゃないか?

俺の事が好きになってからの塔子は優しいが…昔は俺に虐めをしていた相手だ。

塔子のせいで俺は自殺すら考えた事がある。

優しくて優等生に思えている綾子だって、絶対に悪い所はある筈だ。

だけど、それは当たり前の事だ。

『人間なんだから当たり前だ』

きっと俺にだって、自分が気がついて無いだけで沢山ある。

フルールは俺が躊躇しないように、俺に嫌な思いをさせないように『ジャミル男爵の良い面』は隠して報告していた。

『ジャミル男爵の良い面』を俺は屋敷に忍び込んだ時に聞いている。

フルール程の存在が『この情報を知らない』わけが無い。

これを普通の人間がどうとるか解らないが、俺はこれを『俺に対する優しさ』ととる事にした。

俺に対する罪悪感や俺に殺される人間への罪悪感を一人で抱え込もうとしているのかも知れない。

これは、結構辛いと思う。

悪役令嬢の様な黒薔薇と呼ばれた彼女が、俺の為を思ってしてくれること。

それが不覚にも可愛いと思ってしまった。

嘘偽りのない『真心』のように思えてしまった。

『そろそろ良いかも知れない』

そう俺は思った。


◆◆◆

俺はテラスちゃんに祈った。

『僕のこと呼んだ~』

テラスちゃんの声が聞こえた。

こんな簡単に話せて良いのか?多分、生涯を神に捧げている神主の爺ちゃんだって神託なんて殆ど貰って無い。

『フルールの事ですが、そろそろ仲間に加えようかと思っています』

『二人目の日本人にと言う事だよね。別に構ないよ。だけど理人あなた悪女キラーなんてスキル誰かから貰ってないよね?』

『貰っていないですが、なにかありましたか?』

塔子とフルールは兎も角、綾子は普通の女の子だ。

二人は、否定できないのが辛い。

『ただの冗談だよ。だけど、理人は凄く可笑しいんだよ!普通は人を好きになる上限が10なのに、皆10を越えて君が好きになるみたいだね』

『それはどういう事ですか?』

『全世界と君なら、迷わず君を選ぶ。君への愛が普通の愛だとしたら、他の全ての人間の命が蟻以下と考えている…そういう愛し方。これは凄いよ』

塔子やフルールならそうかも知れない。

だけど、あの優しい綾子は違うよな。

『冗談ですよね』

『そうだね、そういう事にしておこう。それでフルールだけど、日本人に今僕の権限でしたよ。だけど『今はただの日本人』だからね』

『俺と何か違うのですか?』

『当たり前じゃないか! 君は神主の家系なのよ! 先祖代々社を祀ってくれて、供物も毎日上げてくれて社の掃除をかかさず行い。祈ってくれていた一族なんだよ!我々神からしたら『一番助けなければならない存在』に決まっているじゃないか。君の神代一族とは1000年以上の付き合いがあるんだ。普通の日本人とは違うよ』

確かに言われてしまえばそうだな。

『そうですね』

『とりあえず、フルールは『日本人見習い』って感じだね。理人が一緒の時に理人が共にと望んだ時だけ日本人の生活が送れる…それだけだ、今は能力は何も使えないからね』

『そうなんですか』

『それでも特別だよ...神代一族の君の推薦だから特別だ。まぁ、詳しい話は理人がしてね』

『俺がですか?』

『普通の日本人は『神様に会えないし神託も降りない』幾ら同じ大切な子でも、そこに差はある』

『言われて見ればそうですね』

『日本人にしたんだから、日に二度のお祈り位はさせてよ』

そう言うとテラスちゃんの声は聞こえなくなった。

◆◆◆

深夜になるのを待ち俺はフルールを起こした。

あれからフルールはまた一緒に寝る様になり、今日はまた上の番だ。

「もしかしてお手洗いですの?」

「今日は違うよ…とりあえず少し散歩しないか?」

「散歩ですか?二人きりですわね、嬉しいですわ。お供しますわ」

俺はフルールを連れだした。

「急に散歩だなんてどうかしましたの?」

「フルールには俺の事について前に話したよな?」

「ええっ聞きましたわ」

「それでな、フルールを日本人、まぁ俺が信仰する神様に俺と同じにするようお願いしたら、許可がおりたんだ」

「それは、日本人に成れた…そういう事ですの? それでは私も同じ能力を得ましたの」

「そういう事ではないらしいよ、今のところは俺と一緒の時に日本の恩恵を受けられる。それだけだな。」

「言われている意味がさっぱり解りませんわ」

「それを説明しようと思って連れ出したんだ。早速買い物をしようか?」

「こんな深夜に空いているお店なんてありませんわ」

異世界は夜には殆どのお店が閉まるからな。

「この世界ならそうだな。だが、俺の世界では違うんだ」

俺はコンビニを探そうとしたら路地から光が見えた。

そこにはこうこうと光る『セブンファミリー』の看板があった。

「なんですの? この光り輝くお店は」

この世界には街灯すら無い。

そんな世界の人間がこんな物を見たら驚くのは当たり前だな。

蛍光灯が沢山光り、その中は昼間の様に明るい。

久しぶりに見たら…凄い事だ。

「コンビニという便利なお店で24時間365日ずうっとあいているんだ」

驚いているフルールの手を引っ張って中に入った。

「凄く明るいのですわ、今は夜なのにまるで昼間の様ですわね」

久々に見たから俺もそう思ったよ。

「確かに、それも凄いけど、商品を見て回ろう」

「はい、ですわ」

フルールに会って俺は初めて、はしゃぐ様な仕草を見た気がする。

こういう所は案外子供っぽく齢相応の少女に見える。

これがもしかしたら『黒薔薇』ではないフルールなのかも知れない。

お店の中を小走りで走り回り商品を見て回っている。

これはテラスちゃんが特別に作った店なのだろう。

他にはお客が居ないから問題ない。

レジにいるお兄さんは変な顔をしているが文句は言わないようだ。

「これはなんですの?」

「カップ麺、お湯を入れて食べるんだ」

「これは、なんですの?」

「ショートケーキ、上に載っているのはイチゴとクリーム、甘くておいしい」

「これは、これは、なんですの?」

片端から商品を見ては、聞いて来る。

見た目からは想像がつかない物も多いからな。

フルールは片端から買い物カゴに突っ込んでいたが…

「フルール、此処で食べるだけにしとこうか? 持ち出しても他の人間が見たら違う物になるからな」

「そうなんですの?」

目が物凄く悲しそうだ。

こういうフルールも初めて見たな。

結局フルールはショートケーキとメロンパンとカップ麺とから揚げ他、お菓子を沢山買った。

俺が、カップ麺のキツネうどんと幕の内弁当とコーラとお茶を買った。

そしてイートインスペースに移動した。

「ほら、此処で食べられるよ」

「理人様の世界は本当にすごいのですわね」

うん、俺も本当にそう思う。

この世界じゃ貴族だって味わえない生活が誰もが送れる。

「そうだろう、早速食べようか?開けてあげるよ、どれから食べたい?」

「そうですわね」

メロンパンを渡してきたのであけてあげた。

フルールは直ぐにメロンパンを受け取るとぱくついた。

普通に笑っている。

こんな少女らしいフルールは初めてだ。

多分これも『黒薔薇』ではないフルールなんだろうな。

「味はどうだ」

メロンパンって俺は好みでなく美味しいと思った事が無い。

「美味しいのですわ、こんな甘い食べ物そうそう食べられませんわよ」

これで驚いていたら、横のショートケーキを食べたらどうなるんだ。

「フルールの買ったなかで、一番美味しいのはその白い奴だと思う」

そう言って開けてあげた。

「これですの?早速…???なんですのこれ? これ物凄く美味しいのですわ、生まれてから今迄ここ迄美味しい物は食べたことがありませんわ…甘くて柔らかくて、本当に蕩けますわ」

この世界にクリームは無い。

こうなるのも当然だな。

俺は幕の内弁当を堪能しながら、キツネうどんを食べてコーラを飲んだ。

久々に楽しんだ俺でもここ迄美味しく感じるんだ。初めて食べたり飲んだりしたんだ感動は桁違いだろう。

「そうだろうな」

「それで、あの、塔子も綾子ももうこれは…」

少しフルールの目が曇った。

なんだかんだ言いながらもフルールは2人の事もしっかり考えている。

「この世界の女神の恩恵を知らないとはいえ受けてしまったからな、もう『日本』の恩恵は二度と受けられない」

「ハァ~ 異世界にきた方は馬鹿ですわね。どう考えても元の世界の方が恵まれていますわ」

「そうだな」

「私なら死ぬ程抵抗しますわ」

「そうだな」

それしか言えない。

あれは巧妙な罠みたいなもんだ。

今思えば、先祖代々祈り続けてきた、その祈りが『臭い』として染み付いていて俺を『女神イシュタス』から守ってくれたんだ。

そうじゃなければ…俺も同じになっていた。

「それで私気がつきましたの…理人様、ここで暮らすのがベストですわ。ここから狩りにいけば、この素晴らしい生活を堪能しながら生きられますわ」

コンビニに住み着く…浮浪者みたいだな。

「フルール、他にも沢山良い事があるから、今日の所は帰るぞ」

「理人様もう少しだけ、もう少しだけ、よいじゃありませんの」

結局、フルールにねだられて暫く離れられなかった。

最後にアイスを買ったフルールは更に騒いでいた。

「フルールもう行こう!あとこの事は絶対に内緒だからな。それから、あとでテラス様への祈り方を教えるから朝晩祈るんだぞ」

「糞女神と違って、こんな事までしてくれる神様なら幾らでも祈りますわ…本当に素晴らしい神様ですわね」

「まぁな」

余り長く居ると、2人が目を覚ますかも知れない。

ずうっと、コンビニの方を見ているフルールの手を引きながら宿屋に戻った。

◆◆◆

これでジャミル街でやる事も終わった。

今度は何処に行こう、何をしようか…

時間は沢山あるんだ...またゆっくり考えれば良いよな。






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