63 / 104
第63話 コンビニ (第二部 完)
しおりを挟む俺は今回のジャミル男爵の事件で、フルールが隠している部分がある事を知っている。
それはジャミル男爵にも『良い面』がある事だ。
これは当たり前の事だ。
マンガや小説の様な完全な悪なんて実際は居ない。
実際の世界ではどんな悪人だって良い面の一つや二つはある。
逆に言えば、善人にだって悪い部分が普通に幾つもある。
そんな事は『知っている』よ。
俺の傍にいる『塔子』が正にそうじゃないか?
俺の事が好きになってからの塔子は優しいが…昔は俺に虐めをしていた相手だ。
塔子のせいで俺は自殺すら考えた事がある。
優しくて優等生に思えている綾子だって、絶対に悪い所はある筈だ。
だけど、それは当たり前の事だ。
『人間なんだから当たり前だ』
きっと俺にだって、自分が気がついて無いだけで沢山ある。
フルールは俺が躊躇しないように、俺に嫌な思いをさせないように『ジャミル男爵の良い面』は隠して報告していた。
『ジャミル男爵の良い面』を俺は屋敷に忍び込んだ時に聞いている。
フルール程の存在が『この情報を知らない』わけが無い。
これを普通の人間がどうとるか解らないが、俺はこれを『俺に対する優しさ』ととる事にした。
俺に対する罪悪感や俺に殺される人間への罪悪感を一人で抱え込もうとしているのかも知れない。
これは、結構辛いと思う。
悪役令嬢の様な黒薔薇と呼ばれた彼女が、俺の為を思ってしてくれること。
それが不覚にも可愛いと思ってしまった。
嘘偽りのない『真心』のように思えてしまった。
『そろそろ良いかも知れない』
そう俺は思った。
◆◆◆
俺はテラスちゃんに祈った。
『僕のこと呼んだ~』
テラスちゃんの声が聞こえた。
こんな簡単に話せて良いのか?多分、生涯を神に捧げている神主の爺ちゃんだって神託なんて殆ど貰って無い。
『フルールの事ですが、そろそろ仲間に加えようかと思っています』
『二人目の日本人にと言う事だよね。別に構ないよ。だけど理人あなた悪女キラーなんてスキル誰かから貰ってないよね?』
『貰っていないですが、なにかありましたか?』
塔子とフルールは兎も角、綾子は普通の女の子だ。
二人は、否定できないのが辛い。
『ただの冗談だよ。だけど、理人は凄く可笑しいんだよ!普通は人を好きになる上限が10なのに、皆10を越えて君が好きになるみたいだね』
『それはどういう事ですか?』
『全世界と君なら、迷わず君を選ぶ。君への愛が普通の愛だとしたら、他の全ての人間の命が蟻以下と考えている…そういう愛し方。これは凄いよ』
塔子やフルールならそうかも知れない。
だけど、あの優しい綾子は違うよな。
『冗談ですよね』
『そうだね、そういう事にしておこう。それでフルールだけど、日本人に今僕の権限でしたよ。だけど『今はただの日本人』だからね』
『俺と何か違うのですか?』
『当たり前じゃないか! 君は神主の家系なのよ! 先祖代々社を祀ってくれて、供物も毎日上げてくれて社の掃除をかかさず行い。祈ってくれていた一族なんだよ!我々神からしたら『一番助けなければならない存在』に決まっているじゃないか。君の神代一族とは1000年以上の付き合いがあるんだ。普通の日本人とは違うよ』
確かに言われてしまえばそうだな。
『そうですね』
『とりあえず、フルールは『日本人見習い』って感じだね。理人が一緒の時に理人が共にと望んだ時だけ日本人の生活が送れる…それだけだ、今は能力は何も使えないからね』
『そうなんですか』
『それでも特別だよ...神代一族の君の推薦だから特別だ。まぁ、詳しい話は理人がしてね』
『俺がですか?』
『普通の日本人は『神様に会えないし神託も降りない』幾ら同じ大切な子でも、そこに差はある』
『言われて見ればそうですね』
『日本人にしたんだから、日に二度のお祈り位はさせてよ』
そう言うとテラスちゃんの声は聞こえなくなった。
◆◆◆
深夜になるのを待ち俺はフルールを起こした。
あれからフルールはまた一緒に寝る様になり、今日はまた上の番だ。
「もしかしてお手洗いですの?」
「今日は違うよ…とりあえず少し散歩しないか?」
「散歩ですか?二人きりですわね、嬉しいですわ。お供しますわ」
俺はフルールを連れだした。
「急に散歩だなんてどうかしましたの?」
「フルールには俺の事について前に話したよな?」
「ええっ聞きましたわ」
「それでな、フルールを日本人、まぁ俺が信仰する神様に俺と同じにするようお願いしたら、許可がおりたんだ」
「それは、日本人に成れた…そういう事ですの? それでは私も同じ能力を得ましたの」
「そういう事ではないらしいよ、今のところは俺と一緒の時に日本の恩恵を受けられる。それだけだな。」
「言われている意味がさっぱり解りませんわ」
「それを説明しようと思って連れ出したんだ。早速買い物をしようか?」
「こんな深夜に空いているお店なんてありませんわ」
異世界は夜には殆どのお店が閉まるからな。
「この世界ならそうだな。だが、俺の世界では違うんだ」
俺はコンビニを探そうとしたら路地から光が見えた。
そこにはこうこうと光る『セブンファミリー』の看板があった。
「なんですの? この光り輝くお店は」
この世界には街灯すら無い。
そんな世界の人間がこんな物を見たら驚くのは当たり前だな。
蛍光灯が沢山光り、その中は昼間の様に明るい。
久しぶりに見たら…凄い事だ。
「コンビニという便利なお店で24時間365日ずうっとあいているんだ」
驚いているフルールの手を引っ張って中に入った。
「凄く明るいのですわ、今は夜なのにまるで昼間の様ですわね」
久々に見たから俺もそう思ったよ。
「確かに、それも凄いけど、商品を見て回ろう」
「はい、ですわ」
フルールに会って俺は初めて、はしゃぐ様な仕草を見た気がする。
こういう所は案外子供っぽく齢相応の少女に見える。
これがもしかしたら『黒薔薇』ではないフルールなのかも知れない。
お店の中を小走りで走り回り商品を見て回っている。
これはテラスちゃんが特別に作った店なのだろう。
他にはお客が居ないから問題ない。
レジにいるお兄さんは変な顔をしているが文句は言わないようだ。
「これはなんですの?」
「カップ麺、お湯を入れて食べるんだ」
「これは、なんですの?」
「ショートケーキ、上に載っているのはイチゴとクリーム、甘くておいしい」
「これは、これは、なんですの?」
片端から商品を見ては、聞いて来る。
見た目からは想像がつかない物も多いからな。
フルールは片端から買い物カゴに突っ込んでいたが…
「フルール、此処で食べるだけにしとこうか? 持ち出しても他の人間が見たら違う物になるからな」
「そうなんですの?」
目が物凄く悲しそうだ。
こういうフルールも初めて見たな。
結局フルールはショートケーキとメロンパンとカップ麺とから揚げ他、お菓子を沢山買った。
俺が、カップ麺のキツネうどんと幕の内弁当とコーラとお茶を買った。
そしてイートインスペースに移動した。
「ほら、此処で食べられるよ」
「理人様の世界は本当にすごいのですわね」
うん、俺も本当にそう思う。
この世界じゃ貴族だって味わえない生活が誰もが送れる。
「そうだろう、早速食べようか?開けてあげるよ、どれから食べたい?」
「そうですわね」
メロンパンを渡してきたのであけてあげた。
フルールは直ぐにメロンパンを受け取るとぱくついた。
普通に笑っている。
こんな少女らしいフルールは初めてだ。
多分これも『黒薔薇』ではないフルールなんだろうな。
「味はどうだ」
メロンパンって俺は好みでなく美味しいと思った事が無い。
「美味しいのですわ、こんな甘い食べ物そうそう食べられませんわよ」
これで驚いていたら、横のショートケーキを食べたらどうなるんだ。
「フルールの買ったなかで、一番美味しいのはその白い奴だと思う」
そう言って開けてあげた。
「これですの?早速…???なんですのこれ? これ物凄く美味しいのですわ、生まれてから今迄ここ迄美味しい物は食べたことがありませんわ…甘くて柔らかくて、本当に蕩けますわ」
この世界にクリームは無い。
こうなるのも当然だな。
俺は幕の内弁当を堪能しながら、キツネうどんを食べてコーラを飲んだ。
久々に楽しんだ俺でもここ迄美味しく感じるんだ。初めて食べたり飲んだりしたんだ感動は桁違いだろう。
「そうだろうな」
「それで、あの、塔子も綾子ももうこれは…」
少しフルールの目が曇った。
なんだかんだ言いながらもフルールは2人の事もしっかり考えている。
「この世界の女神の恩恵を知らないとはいえ受けてしまったからな、もう『日本』の恩恵は二度と受けられない」
「ハァ~ 異世界にきた方は馬鹿ですわね。どう考えても元の世界の方が恵まれていますわ」
「そうだな」
「私なら死ぬ程抵抗しますわ」
「そうだな」
それしか言えない。
あれは巧妙な罠みたいなもんだ。
今思えば、先祖代々祈り続けてきた、その祈りが『臭い』として染み付いていて俺を『女神イシュタス』から守ってくれたんだ。
そうじゃなければ…俺も同じになっていた。
「それで私気がつきましたの…理人様、ここで暮らすのがベストですわ。ここから狩りにいけば、この素晴らしい生活を堪能しながら生きられますわ」
コンビニに住み着く…浮浪者みたいだな。
「フルール、他にも沢山良い事があるから、今日の所は帰るぞ」
「理人様もう少しだけ、もう少しだけ、よいじゃありませんの」
結局、フルールにねだられて暫く離れられなかった。
最後にアイスを買ったフルールは更に騒いでいた。
「フルールもう行こう!あとこの事は絶対に内緒だからな。それから、あとでテラス様への祈り方を教えるから朝晩祈るんだぞ」
「糞女神と違って、こんな事までしてくれる神様なら幾らでも祈りますわ…本当に素晴らしい神様ですわね」
「まぁな」
余り長く居ると、2人が目を覚ますかも知れない。
ずうっと、コンビニの方を見ているフルールの手を引きながら宿屋に戻った。
◆◆◆
これでジャミル街でやる事も終わった。
今度は何処に行こう、何をしようか…
時間は沢山あるんだ...またゆっくり考えれば良いよな。
33
あなたにおすすめの小説
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ReBirth 上位世界から下位世界へ
小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは――
※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。
1~4巻発売中です。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる