天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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おでかけ

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「おはようございます、アレンシカ様。」

「おはようメイメイ。」

飛び地領、レイシーラに来てから五日経った。最初は来たばかりとあって少し馴れなかった、――特に王都より高い標高による朝晩の冷え込みへの適応――もあったがやっと落ち着いて過ごせるようになった。

「目覚めのお茶をお持ちしました。」

メイメイがそう言って準備をしている。メイメイはアレンシカに着いてもらうようライトン伯爵から命じられているメイドで、少し語尾に隣国語の訛がある彼女はこの王国との確執もしがらみもなくアレンシカとも自然に接っせられる人間をと伯爵自ら吟味して選考された隣国出身の女性だ。
彼女がお茶の用意をしている間に自分は朝の支度を軽く済ませておく。席に着く頃にはこの領の山で取れたハーブを使ったブレンド茶の爽やかな芳香が部屋に漂っていた。

「今日も美味しいです。ありがとう。」

「喜んでいただけて何よりです。」

山産のハーブには身体を温める効果があるらしく、冷えを我慢していたのをメイメイに見抜かれてから翌日以降準備してくれている。

「アレンシカ様。暫く領内周辺を調べておりましたが外出も問題ないと報告が来ております。本日のご予定はいかがでしょう。」

「丁度良かった、勉強道具が足りなくて買い足しが出来ないかなと思っていたんです。町に行ってみようかな、と。」

「ではジュスティに連絡しておきます。」

暫くは安全確認の為外出は控えたほうがいいと思い屋敷内で勉強ばかりしていた。メイメイやライトン伯爵からはせっかくの遠出なのに勉強ばかりなことを心配されてしまい、少しだけメイメイを連れて屋敷の前の庭を散策だけはしたが休憩になってないとまた心配された。そして勉強ばかりだったせいか公爵家へ出る時に咄嗟に持ち出していた勉強道具だけど、あくまで学園へ通っている時の持ち物なので中身が足りなくなってしまった。呼び寄せて買ってもいいがせっかくならもっと外に出るのもいいかもしれない。
外出すると言ってメイメイは少し安堵の表情を見せた。

「今日は少し冷えますので日中でも羽織をしていたほうがよろしいかもしれません。」

「ありがとう、そうします。」

「食事のご用意がありますがどちらで召し上がりますか?」

「今日は伯爵はいますか?」

「はい。」

「では餐堂で。」

「かしこまりました。ご案内いたします。」

アドバイスの通り上にもう一枚着てからアレンシカは朝食をいただく為に餐堂へ向かった。





「アレンシカ様、本日はよろしくお願いします。」

ジュスティも隣国出身の護衛でメイメイの弟である。隣国の首都周辺の領で自警団として働いていた彼は、あまり仰々しいと周辺の人も違和感を覚えてしまうので、威圧感を与えず護衛できる者を選んでいたところをそれならばとメイメイが連れてきた。ライトン伯爵も彼を見て任せられると思ったらしい。

「ちょっと今不安で……でもジュスティもいるから安心してお任せします。」

不安なのは自分の身に何かあるかもしれないという不安ではない。懐にあるお金である。
伯爵と共に朝食をとっている時に、今日は町に行ってみるつもりだと言ったらそれはもういたく喜ばれてしまったのだ。何せこの五日間はほぼ屋敷から出ず閉じこもってばかり。自分が動けば迷惑がかかってしまうと思うとなかなか許可を貰えても自由にすることは難しかった。そのことにとても心配していたライトン伯爵はいかに領地が素晴らしいか懇切丁寧に好奇心が刺激さるように話してくれていたのだが、どうにもきっかけも掴めずにいた。
それが今日は外に行って町に繰り出すといえばえらい喜びようで、お金を持たせてくれた。リリーベル家からアレンシカの為に必要経費として渡されているお金らしく、アレンシカが使うことはもちろん問題ないのだという。
だがそのお金が問題だった。アレンシカは公爵家の人間である。お金そのものを持って外に行くことは初めてだった。実物の金銭を持って支払うことは貴族では男爵家くらいで公爵家でその場で現金で支払う者はいない。アレンシカも例に漏れず現金を持ったことがなくお茶をする時も買い物も屋敷に来た領収書で後で人目につかない支払いか小切手による支払いだ。
でも領収書や小切手を出すことは証拠になるので万が一王子達に見つかれば手がかりになってしまう。その場でお金を払えばそれで終わり。だからその場で現金払いが出来るようにお金を持たされているのだ。

(事前に知っていれば屋敷で買い物したのにな……。)

アレンシカは玄関で出かける直前になってお金を持たされてから少し後悔している。

「もちろん私が護衛を務めるのでご安心ください。共に来るメイメイにも心得があります。」

「はい。体力、武術どちらも自信があります。必ずアレンシカ様をお守りいたします。」

「……ありがとう。どうか、よろしくお願いします……。」
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