天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

文字の大きさ
134 / 138

得体のしれぬ者

しおりを挟む
「……は?」

ユースは何を言われたか分からずポカンとした。それくらいユースにとっては青天の霹靂だった。

「……そんなことある訳がないでしょう?」

「どうしてそんなことを言える?」

「だって王家を監視など出来るはずがないでしょう。この国で最も位の高い立場でフィルニースの全てを治める立場だ。」

「それがどうしたというのだ。」

「だから王家ですよ。それが衛務院が監視出来るなんて、衛務院が王家より立場が上だとでも思っているんですか?確かに今の最高責任者は王弟である叔父様ですけどね。」

「何を言っている、衛務院が王家より上の訳がないだろう。」

「ですよね。ですから王家を監視なんて出来るはずがありません。よく考えて発言してください。」

「出来るんだがな。」

よく分かっていない叔父に向けて懇切丁寧にユースは説明したが、それでもジークドルクは全く間違えていないと言う。

「衛務院には王家を監視出来る権限が古より与えられているのだ。もし最高位たる王家が過ちをし暴走をしたら誰が止める?平民か?それこそいくらでも王家が制圧出来るだろう。けして王家が暴君にならないよう監視し、悪の道へ進みそうになれば止める。その役割を持った組織こそが貴顕秩序衛務院だ。お前は学ばなかったのか?王家は好きに出来ると本当にそう思っているのか?」

しっかりとユースを見据えて話すも、その話は通じていないようでユースには伝わらなかった。

「馬鹿馬鹿しい。全くもってあり得ない。王家が過ちを犯す訳がないでしょう。皆の模範となり道標となるのが国王であり王家です。その監視をするなんて意味のない仕事がある訳がありません。叔父様がまさか王家を操作したい反逆者たちの妄想を信じているとは。」

「この国だろうが別の国だろうが王家が過ちを犯した歴史は古より存在しているだろう。そういった組織が作られていても当然だとどうして分からない?短絡的なところも昔から治らないなユース。」

「だって王家ですよ。王家より上回る権限のある組織がどこに存在させるというのですか。」

「王家を監視し、追及し、必要なら拘束する。非常に限定的な権限じゃないか。」

「王家を捕らえるということは反逆者のすることです。」

「では国王陛下か王配陛下に聞いてみるといい。もっともこれはきちんと勉強していれば低位貴族でも知っていることだぞ。」

「軟弱で他の貴族の顔色ばかり見る軟弱者に成り下がってしまった我が父のいう言葉など、もう信じるに値しませんよ。正しい国王ならば王家へ反逆すると口にしている者はすぐに厳しく対応するはずなのに。」

ユースはやれやれと呆れている。同じ王族である叔父がそんなことを言うはずがないといくら説明をしても少しも信じようとしない。

「ああ、もしかして王族である叔父様を引き入れて夢見た他の職員からの入れ知恵でもされたんですか?同じ王族の叔父様がいればいくらでも王家に手出し出来ると。そんなことはあるはずもないのに、汚職にまみれた者は困りますね。」

「私が最高責任者にいるのは、王弟である私が最も国王からの圧力に耐えられる立場を持っているからだ。最高責任者は王家からの圧力に耐えられる人物ではならない。もちろん国王と結託する人物ではないと厳格な試験を受け証明し続けなければならないが。」

「なるほど。では衛務院が好き勝手しないようにその立場にいるという訳ですね。やはり叔父様は俺達の味方ではないですか。」

「どうしたらそうなるんだ。きちんと今の話を聞いていたか?」

「もちろん。持てないはずの権力を持っていると豪語している衛務院の責任者の立場を反逆思考を持った貴族に取られないように、叔父様が就任しているということですよね。俺は叔父様のことを誤解していたようです。転覆を計っているなどと。」

「なるほど、こんな変なものを書く訳だな。」

ジークドルクはまさかここまで話を都合よく捕らえるのかと頭を抱えた。何故ここまで自分の考えに固執するのか、今までどういった教育をすればこうなるのかと今すぐ兄に問いただしたくなった。それでも冷静さは忘れない。また逆上すれば捜査が遅れてしまう。ただでさえ王家が関わっているから慎重に進めているのだから。

「それで、フィラルはいつ解放してもらえますか?もちろん今すぐにですよね。謂れ無き罪で捕えられているのですから。」

「……手続きがある。今日という訳にはいかない。」

「そうですか、随分と面倒なんですね。王家ならすぐに解放出来るのに……。衛務院は本当に良くない組織のようです。叔父様がいなければ今頃国が混乱していたかもしれません。」

「フィラル・レヴィリアを解放したところで、お前にも話を聞かなければならないぞ。この件は長引くだろう。」

「もちろんフィラルが事実無根の罪を被せられたことはいくらでも証言しますよ。それにフィラルに濡れ衣を着せた者たちを捕らえないと。叔父様がいればすぐに解決しますよ。衛務院は愚かにもその者たちによって汚職していますがね。」

「フィラルの為なら何でもするのか。」

「ええ。衛務院は全く駄目ですがそれでも衛務院というだけで貴族への対抗力にはなるでしょう。まともな者たちだけは何とか救い出して使えるところは使わなければ。腐敗した組織をまっさらにするのはその後でも大丈夫ですよね。」

ジークドルクは話半分になっているの悟られぬようにユースの話しを聞いていた。やっと話が分かるようになり自分の話をきちんと聞いてくれるようになったとユースは嬉しく思った。
だがまさか知らないだろう。ジークドルクはわざとユースを泳がせているだけだということを。まともにもう取り合えないと分かり、やり方を変えただけで秩序衛務院の職務に取り組んでいる最中だということを。

「色々、叔父様には相談したいと思っていたんですよ。今王立学園の学園長がこちらの要望を聞かず好き勝手にして退学にすべき者をしないのです。もしかするとそこの家から賄賂でも受け取っているのかもしれません。」

「そうか。」

「それからリリーベル家もですよね。身内の問題を大事にして、弟もほとほと困っているんです。ウィンノルの婿入りの家なので自分でやると言っていますが、その前に一度調査をしたほうがいいかもしれません。」

「……検討はしておこう。」

ジークドルクはため息をつきたいのをグッと堪えてユースの話を聞き続けた。

「今ウィンノルはリリーベル家に向かっているんです。自分で解決したいだろうから今行くのは酷ですよね。それにまずはフィラルの敵を捕らえないと。」

「重大な問題だから慎重にやるべきだ。今すぐには出来ない。高い立場の者を相手にする時は丁寧さが必要だ。」

「そうですね。フィラルの為にも頑張らないと。やはり叔父様は頼りになる。体たらくな父とは全く違う。」

ユースはすっかり機嫌を取り戻して笑顔だ。ジークドルクは一人あまりの跳躍思考に混乱し続けているのに。

「でも残念です。ウィンノルにフィラルと共に帰ると約束したのに果たせないので。……叔父様の権限で何とか出来ませんか?」

「他の貴族に示しがつかない。」

「ああ、貴族を捕らえる立場として難しいですよね。……まあ間違いだということは叔父様も分かっているし、フィラルは優しいからきちんと説明すれば分かってくれますよ。」

「悪いが、他にも仕事を抱えている。お前にも色々聞きたかったが今日は無理そうだ。」

「そうですよね、早くフィラルを解放する手続きをしないと。今日はとりあえず帰りますよ。ウィンノルもどうなったか気になりますし。」

「……気をつけなさい。」

「そうですね。ウィンノルは優しいからリリーベル公爵の言う事にも真摯に耳を傾けてしまうんです。ただ息子を甘やかす為の言い訳にすぎないというのに。俺も向かわないと。」

ユースはすぐに反対に向き急いで出口に向かう。

「叔父様、まずはフィラルのことよろしくお願いします。叔父様にとっても身内になんですから。」

「ああ。」

最後にそう言ってユースは出ていく。
ジークドルクはその瞬間ドッと体中の力が抜けたのを感じた。緊張していた訳ではない。ずっと自分とは違う生き物を見ている気分だった。

「連絡をしなければ。」

ジークドルクは衛務院専用の手紙一式を出し書き始めた。このままでは駄目になってしまうことが肌身で感じる。王家を監視し誤った道に進む前に止める。それが貴顕秩序衛務院の重大な仕事だ。

「このままでは国中が混乱してしまう。」

焦燥感を抑えながらも丁寧にひとつの封書を完成させた。兄であり国王へ出さなければならない大切な手紙を。
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

処理中です...