君までの距離

高遠 加奈

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それはいつもと違う日常

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金曜日の夜、時間きっちりに仕事を終わらせて、メイクもきちんと着飾って皆が楽しそうに帰っていく。

彼氏のいないアタシでも仲のいい親友との買い物に、美味しいご飯が待っている。遥香の支度を待ちながら、自分のブログに目を通す。



あまりおおっぴらには言えないけれど、アタシの趣味は小説を書くことだったりする。

もちろん、書くのも読むのも好きでひっそりと活動している。好きなゲームのキャラクターで話を考えるのが楽しくて、それをSNSで公開している。

ブログを見にきてくれた人からのコメントは、家宝にしたいくらい嬉しいし、自分の書いたものを好きだと言ってもらえると飛び上がるほど嬉しい。

ついにまにまとコメントを見ていたら、肩に温もりを感じた。




「…なぁに?そんなデレッとした顔して。脳内カレシじゃなくてリア充したら……」

気がつくとアタシの椅子に寄り掛かるようにして、遥香が携帯を覗き込もうとしていた。

遥香は唯一、アタシが携帯小説を書いているって知ってる。

つやつやのハニーブラウンの髪を大きめに巻いた遥香は、長い足が綺麗に見えるミニスカートにレギンスを合わせ、ハイヒールをはいている。そのナイスバディと大人びた顔で、ともかくモテる。

そのDカップの胸で男は悩殺されてしまうのだけれど、男に媚びを売らないサッパリした性格で気が合う。

「いいじゃないっ。これがアタシの趣味なの」

鼻の頭にしわを寄せていーっとしかめっ面を作って見せた。

「……そお?だって実際に自分で経験したほうが…リアルよ」

ちゅっと紙パックの飲み物を吸うだけなのに、色気がある……ムダに。


「違うの!アタシの書きたいのはね、身分の違いを乗り越えた愛とか、バトルアックスで敵を薙ぎ倒す爽快感とか、格好いいワイルドな騎士なのよ!そこいらのヘタレ男子なんかダメ!」



遥香は納得していないらしく、紙パックを手で振って中身を確認している。

ぱちゃぱちゃと小さな水音がアタシの耳にも届く。



「……付き合ってみたことないのに決めつけることナイよ……?」



その言葉にアタシも不機嫌になる。



「だって、付き合ってみたいってくらい素敵な人いないんだもん」



回りにいるのは、既婚者のオヤジ。確かにいい人達ではあるけれど、恋愛対象にすらならない。



「……未也が付き合う気があるなら…いくらでも紹介するのよ?」



「うん…紹介とかもアリなんだとは思うけど、アタシ運命の人とはドラマチックな出会いをしたい」


そんなこと夢みたいだって、言われるかもしれないけれど……。一生に一度の恋だっていい。そんな恋が出来る相手に巡り会いたい。


「はいはい……未也、もう行きましょ。お店が閉まっちゃうわ……」



「ん。いつでもオッケイだよ」


そしてアタシ達は連れ立って歩き出した。遥香の隣は、ジロジロ見られるので居心地の悪い時もあるけれど、そんなマイナスを差し引いてもアタシは遥香が好きなので隣を歩いている。



美人でスタイルのいい遥香とアタシでは、同じ服でも着てみると違う。

あーもっとメリハリがあったら似合うのにと、いつも羨ましい。

それでも好みが似ているし、遥香に選んでもらえば間違いないので、買い物に付き合ってもらうことが多い。

そこでアタシ達は、お互いに似合いそうな服を見つけたり、お気に入りのショップをチェックして買物を楽しんだ。



「ゴハン、どこにしよっか。何が食べたい?」

「今日は…イタリアン」

「オッケイ。アタシもピザ食べたいし」

買物をして時間もあまりないため、行きつけのイタリアンに二人で向かうことにする。

連れだって歩き出すと、向かう先に人だかりが出来ていて、皆が何かを取り巻いていた。

「なんだろーね」

向かう店は、この道をまっすぐ行ったほうが近い。買ったばかりのショップバックを腕から下げて、遠回りする気にはならなかった。

まさか通れない、ということもないよね。ショップバックを肩まで揺すり上げて、強行突破することにする。


「ねー見える?」

「シュウが来たら、声かけるんだからね」

きゃっきゃっと華やかな集団がひしめいていて、どうやら何かの撮影が行われているらしい。

興味、ないなぁ…

もし、ここで待っていて芸能人に会えたとしても、それはただの『大勢いるファン』の一人でしかない。遥香くらいの美人なら、顔くらい覚えてくれるかもしれないけれど、きっとアタシレベルなら存在すらわからない。

ああ、でも会いたいんだろうな。好きな芸能人を見たいよね。

なんだか彼女らをけなげ に思えてきた。



その時、突然アタシの体は突き飛ばされた。人混みを回って道路に出る寸前に、車道に転がり出てしまった。

突然のことに慌てて起き上がろうとしたら、下水の蓋にヒールが挟まってしまった。

「……はぁ」

彼女達がけなげだなんて、夢だ夢。結構逞しいじゃないの。視線の先には人だかりが出来ていて、頭ひとつ抜き出た俳優さんが出番待ちをしていた。

片方だけヒールをはいたまま立ち上がって、もう片方を救出にかかる。

お気に入りの靴だから、傷なんてつけないで助けださなくちゃ。


屈み込んだアタシの前に、手が差し出された。


驚いたのは、それが綺麗な手だったからで、顔を上げてさらに驚くことになった。

そこにはとても整った顔立ちの男性がいたから。


彼は今まで見たことがないほど顔形が整っていた。眉は柳眉。伏せられたまぶたには長い睫毛があるし、くっきりと二重の筋がついている。鼻筋は通っていて、高いし、唇はぽってりと肉厚でやんちゃな印象がある。


暗くても、身につけている物が質のいいスーツだとわかった。それなのに、そのスーツを汚すことも構わずに膝を折って屈み込んでくれている。


「困ってるでしょ。取ってあげるよ」

そう言うと、アタシの向かい側に座って靴に手をかけた。

「あっ…ありがと」

がっちり挟まっていたかに見えたのに、男の人の手にかかると、すんなりと抜き取られた。

優しいとも見える靴の扱いに、見た目よりも優しい所があるのだと気がついた。



整いすぎて冷たさも感じさせる容姿だったのに、優しさを感じる仕種に、きゅうっと胸が締め付けられる。

すっと両手でアタシに靴を差し出すまで、ただぼうっと見とれていた。



「どうぞ履いたら。肩貸そうか」


「だっ大丈夫」

慌てて履こうとしたら、片足だけヒールだったのでバランスを崩してよろめく。

「ほら、肩につかまっていいから」

ぐいとつかんだ腕を肩に乗せる。

背中からはファンの子達が嬌声をあげている様子が伝わってくる。プロデューサーから指示しているような声もあがるし、遠くを走る電車の振動音もしていた。

それなのに。

まわりは音で満ちているのに、一瞬で全ては消え去った。

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