君までの距離

高遠 加奈

文字の大きさ
4 / 80

彷徨う

しおりを挟む


同じ場所、同じ時間に偶然を探しに行く。



大海の一滴を探し出すための努力を始めて一週間。時間を変えてあの場所に行くものの、掠りもしない。

あの時着ていたスーツは生地のいい仕立てのものだったから、どこかこの近くに勤めているサラリーマンだと思っていた。

仕事帰りを狙っても、ランチタイムを狙っても、あの爽やかな姿を見つけることが出来ずにいた。なんであの時、無理にでも連絡先をもらわなかったのか悔やまれる。

街路樹の柵にもたれて、携帯を操作する。今までなら、家で携帯小説を書いていた時間、今は誰とも知らない人を捜している。



あの人は、あの日たまたま居合わせただけで、今日は違う場所で仕事をして、食事をとり、眠りにつくのかもしれない。

手がかりもなく人を捜すことが、こんなに大変だったなんて…運命だって思ったのはアタシだけなのかもしれない。

それでも出会った場所を立ち去りがたく携帯からブログを見る。

自分のブログは、更新が滞っていたことからランキングが激減していた。あんまり書く気分にならなかったからだけれど、いつもよりコメントは増えていた。

『春は忙しーって言ってましたよね☆落ちついたら続きお願いします♪毎日の楽しみなんです』

『ミーヤどっか行くなよ?落ち込んでるなら話きくからさ』

『ずっと待ってるから早く帰ってきなよ?』



弱くなっていたアタシの涙腺は、たがが外れてしまった。会ったこともない人達なのに、アタシを待っていてくれる。

涙は溢れてしばらくは画面がぼやけて見れないくらいに、とまらなかった。まだ人通りのある路上で、まわりに構うことなく泣いた。通りすぎる人達は、関わりあわないように遠巻きにアタシを避けていく。中には、「なにあれ、泣いてる」とか言われた。

でもいい。こんなに回りに人がいても関わり会えるのなんて、ほんの数人でしかない。場所も時間も離れていても、ネットの住人がアタシを心配してくれた言葉は真実だ。

鼻を啜りながら、アタシは一件、一件コメントを返した。明るく冗談を混ぜて。泣いたことはほんのちょっぴりだけだと強がりを言った。とても書ききれない、ぐちゃぐちゃの気持ちだったけれど、アタシは確かに小さな携帯で繋がっていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛情に気づかない鈍感な私

はなおくら
恋愛
幼少の頃、まだ5歳にも満たない私たちは政略結婚という形で夫婦になった。初めて顔を合わせた時、嬉し恥ずかしながら笑い合い、私たちは友達になった。大きくなるにつれて、夫婦が友人同士というのにも違和感を覚えた私は、成人を迎えるその日離婚をするつもりでいた。だけど、彼は私の考えを聞いた瞬間豹変した。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

執着彼氏と別れるのはいつ?

鳴宮鶉子
恋愛
執着彼氏と別れるのはいつ?

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

2人のあなたに愛されて ~歪んだ溺愛と密かな溺愛~

けいこ
恋愛
「柚葉ちゃん。僕と付き合ってほしい。ずっと君のことが好きだったんだ」 片思いだった若きイケメン社長からの突然の告白。 嘘みたいに深い愛情を注がれ、毎日ドキドキの日々を過ごしてる。 「僕の奥さんは柚葉しかいない。どんなことがあっても、一生君を幸せにするから。嘘じゃないよ。絶対に君を離さない」 結婚も決まって幸せ過ぎる私の目の前に現れたのは、もう1人のあなた。 大好きな彼の双子の弟。 第一印象は最悪―― なのに、信じられない裏切りによって天国から地獄に突き落とされた私を、あなたは不器用に包み込んでくれる。 愛情、裏切り、偽装恋愛、同居……そして、結婚。 あんなに穏やかだったはずの日常が、突然、嵐に巻き込まれたかのように目まぐるしく動き出す――

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

愛想笑いの課長は甘い俺様

吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる 坂井 菜緒 × 愛想笑いが得意の俺様課長 堤 将暉 ********** 「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」 「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」 あることがきっかけで社畜と罵られる日々。 私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。 そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?

処理中です...