君までの距離

高遠 加奈

文字の大きさ
72 / 80

この場所で 裕也SIDE 1

しおりを挟む

仕事は忙しかった。本当、嫌になるくらい。だけどその忙しさで、他に考えなくてはいけないことを締め出せた。



ほんの少しでも気を抜くと、自分の気持ちはさ迷い出して求めだす。




逃げられないように…腰が立たなくなるくらい、抱き潰しておけばよかった。

自分しか見えなくなるくらい、惚れさせておけばよかった。

ずっと側に居させることが出来るくらい自分に力があったら良かったのに。






彼女が、何もかも捨ててもいいくらい俺に溺れたら良かった。

それが出来なかった自分の魅力は、まだまだだったと言える。

だから俺は今、自分に出来る仕事を完璧にこなすことだけを考えていた。




それでも

気を抜くと浮かぶのは彼女の仕草や声で、胸を締め付ける。

何度も再生を繰り返しているDVDみたいに、自分の片隅に居座っている。







『大好き』



胸に染み渡るその言葉を呼び起こして目を閉じた。







「祐也、そろそろスタジオに入って下さい」


マネージャーの呼びかけに、台本を持って立ち上がった。

控室からスタジオに向かうと、隣のスタジオから出て来る人が視界に入り息を飲む。

さらりとしたボブも、華奢な体も変わらない。見つめていても気がつくことなく、背中を向けて歩きだした。




「……蓮見さん」

背後についていたマネージャーを見ることなく声をかける。視線をそらしたら、また消えてしまうと痛いくらいにわかっていた。

「5分くらいなら、なんとかごまかせます」

「ありがとう」


言いながらすでに走り出していた。角を曲がっていく彼女を追いかけて床を蹴る。


手を伸ばして腕を掴み、驚いた顔のまま抱き寄せて、腕の中に捕える。

何度も思い描いていたように、彼女が腕の中にいる。それでも間違いなくここにいるのか、抱きしめていても、煙りのように逃げてしまわないかと、抱く腕にきつく力を込める。

鼻を掠める髪の香りも、抱きしめた
「祐也、そろそろスタジオに入って下さい」


マネージャーの呼びかけに、台本を持って立ち上がった。

控室からスタジオに向かうと、隣のスタジオから出て来る人が視界に入り息を飲む。

さらりとしたボブも、華奢な体も変わらない。見つめていても気がつくことなく、背中を向けて歩きだした。




「……蓮見さん」

背後についていたマネージャーを見ることなく声をかける。視線をそらしたら、また消えてしまうと痛いくらいにわかっていた。

「5分くらいなら、なんとかごまかせます」

「ありがとう」


言いながらすでに走り出していた。角を曲がっていく彼女を追いかけて床を蹴る。

も柔らかくて、あたたかくて、切ないほど苦しくなる。

こんなに求めていたのに、どうして一年も離れていられたのかわからない…



「……高遠さん」

身じろぎした彼女が自分を見上げてくる。

「やっと捕まえた」

ぷっくりした唇がほんの僅かに開くのを見て、言葉よりも早く唇を重ねた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

愛情に気づかない鈍感な私

はなおくら
恋愛
幼少の頃、まだ5歳にも満たない私たちは政略結婚という形で夫婦になった。初めて顔を合わせた時、嬉し恥ずかしながら笑い合い、私たちは友達になった。大きくなるにつれて、夫婦が友人同士というのにも違和感を覚えた私は、成人を迎えるその日離婚をするつもりでいた。だけど、彼は私の考えを聞いた瞬間豹変した。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

執着彼氏と別れるのはいつ?

鳴宮鶉子
恋愛
執着彼氏と別れるのはいつ?

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

2人のあなたに愛されて ~歪んだ溺愛と密かな溺愛~

けいこ
恋愛
「柚葉ちゃん。僕と付き合ってほしい。ずっと君のことが好きだったんだ」 片思いだった若きイケメン社長からの突然の告白。 嘘みたいに深い愛情を注がれ、毎日ドキドキの日々を過ごしてる。 「僕の奥さんは柚葉しかいない。どんなことがあっても、一生君を幸せにするから。嘘じゃないよ。絶対に君を離さない」 結婚も決まって幸せ過ぎる私の目の前に現れたのは、もう1人のあなた。 大好きな彼の双子の弟。 第一印象は最悪―― なのに、信じられない裏切りによって天国から地獄に突き落とされた私を、あなたは不器用に包み込んでくれる。 愛情、裏切り、偽装恋愛、同居……そして、結婚。 あんなに穏やかだったはずの日常が、突然、嵐に巻き込まれたかのように目まぐるしく動き出す――

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

愛想笑いの課長は甘い俺様

吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる 坂井 菜緒 × 愛想笑いが得意の俺様課長 堤 将暉 ********** 「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」 「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」 あることがきっかけで社畜と罵られる日々。 私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。 そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?

処理中です...