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この場所で 裕也SIDE 2
しおりを挟む唇を割り舌を絡めても彼女は拒みはしなかった。ただぎこちなくキスを返してくる。
想いが溢れてキスを止められない。自分だけ、どうしようもない程惚れている。
「もう……どこにも行かないで」
彼女の背中に腕をまわすと、彼女が俺の背中を落ち着かせるようにトントンと叩いた。
「どこにも行きません。ここにくるために一年かかったんだから」
そう言って彼女は腕の中で笑った。その顔は今まで何度も想い描いていたもの以上に綺麗で可愛いらしかった。
一年間、ずっと見たかった顔だった。
顔をあげた時に蓮見マネが視界に入った。左手首の時計を指している。
もうタイムリミットだ。
「まだ仕事が残っているから行くけど、待っていて」
そう告げると、頬を赤く染めた彼女が頷く。名残り惜しくても、皆を待たせる訳にはいかない。
「蓮見さん、この後の予定を彼女に伝えて、勝次さんの店で落ち合えるようにしてください。それから連絡先を聞いておいて下さい」
仕事で撮影に入る場合は携帯は、マネージャーである蓮見さんに預けてある。本来なら自分で連絡先の交換をしたいところだが、自分の我が儘で出演者やスタッフに迷惑をかける訳にはいかなかった。
「本当に時間がなくてごめん。終わったらゆっくり説明してもらうから」
最後にちくりと刺を忍ばせると彼女は肩をすくめてみせた。
「もう逃げたりしないので安心してください」
生まれたての小鹿みたいに黒目がちな目をして佇んでいるのを見ると離れるのが辛くなる。
やっとの思いで手を離して抱きしめていた腕を解く。
「もう逃がしたりしない。俺も本気出していくから」
彼女が頷いたのを見て背中を向ける。蓮見マネがすれ違いざまに小声で耳打ちしていった。
「メイクさんに直してもらう前にグロスを拭っておいて下さいよ。喰ってきた顔してる」
「舐めとけばいいよ」
拭うことで彼女とのキスをなかったことにしたくなかった。彼女から受け取ったものを手放すつもりはなかった。
舌を出してグロスを舐め取ると、蓮見マネが呆れたような顔をした。
「昼間から色気なんて出さなくていいですよ。今回の撮影には必要ないでしょう。今ので台詞飛んでないでしょうね?」
走り出した背中に小言がぶつけられたが、気にせずにその場を後にした。
胸に温かいものが生まれて、じわり全身に染み出して、からっぽだった体と心を満たしていく。
感情を出さないようにしても、唇が笑みを刻む。
もう間違えない。
早く仕事を終わらせて待っていてくれる人の元へと帰ろう。
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