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5>>そもそもスキル鑑定士が…
しおりを挟む子を捨てた罰によりリファージ男爵夫妻には罰金刑が言い渡された。
罰金は夫アランと妻ミラルダの両方に同額請求され、それを払ったリファージ男爵家の財政状態は悪化した。
スキルが悪いからと子を捨てた者がこのまま男爵家の当主でいる事はあまりにも外聞が悪いと考えた寄り親の手によりグランの父であったアランはリファージ男爵家から外される事になった。
元よりアランとミラルダはもう一緒には居られないと離婚を決めていて、醜聞塗れで独り身となるアランを当主の座に置いていても血族の汚点にしかならないと判断されたからだ。
リファージ男爵家は別の親族が継ぐ事になり、長男だけは残される事となった。しかしそれも次のリファージ男爵夫妻の間に男子が産まれるまでの“控え”でしかなく、正式な嫡男が産まれれば前当主の長男はリファージ男爵家の養子から外される事になっていた。
母ミラルダは次男を連れて実家に帰るつもりでいたが、それを次男が嫌がった。
「要らなかった子供の面倒など、もう見たくないでしょう。俺は住み込みでどこかの家の“見習い”になります。身元保証人にだけなって下さい」
そう言った次男ディランの言葉を母ミラルダは泣いて拒否したが、ミラルダの実家は母親ミラルダ本人が長男以降は産みたくて産んだ訳ではないと聞こえる発言をしてしまった事を知っていたので、ディランの希望を聞いて知り合いの貴族の邸に侍従見習いとして奉公に出した。
子供を全て失って実家の領地の別邸に一人で帰ったミラルダはディランの拒絶が理解出来なかったのか……それともしたくなかったのか、別邸に帰った次の日から自分の事を『三男をお腹の中に妊娠している男爵夫人』だと言い始めた。
「アラン様はいつ帰ってくるのかしら?」
「ドランはもう数学が出来るのよ!」
「ディランは怪我をしていないかしら?」
「早くお腹の子に会いたいわ」
と言い出しメイドたちを困らせた。
誰も「三男はお前が捨てたんだぞ」とは言える雰囲気ではなく、万が一事実を教えて更に気が狂ってしまっては大変だと、メイドたちはミラルダの妄想に付き合いながら見守る事となった。
リファージ男爵当主を追われたアランは引退していた父親の元に追いやられそこで肩身の狭い思いをしながら生きるしかなかった。自分は子供を捨てていない!息子が勝手に出て行ったんだ!と保身の為に言い続けた所為でみんなから嫌われ、いつしか酒に溺れ、体を壊した。
グランが捨てられた事でグランのスキルを鑑定した鑑定士も叱責を受ける事となった。
「何故珍しいスキルが見つかった事を報告しなかった」
「……珍しいと言っても葉っぱを1枚出せるだけのスキルだったので……」
スキル鑑定士のファーズは見た事もない上の階級の上司を目の前にただただ身を小さくして頭を下げ続けるしかなかった。
「葉っぱ1枚? 嘘を言うな。
“草を生やした”のだろう?
それも鑑定室の石の床に」
「え……?」
ファーズは自分を睨みつける上司の言いたい事が掴めずに聞き返してしまった。
「お前はおかしいと思わなかったのか。
草一本であろうと、石の床に草が生えるなど異常な事だと思わなかったのか?」
「あっ?!」
「草を片付けた者が言っていたそうだが、草を抜いた場所には小さな穴が空いていたそうだ。草にはしっかり根も付いていたそうだ。
……お前にこの意味が分かるか?」
「あ…………」
上司の言葉にファーズはやっと自分のしでかした事の重大さに気付き、血の気が失せた。
スキル鑑定士は珍しいスキルを見つけたら上に報告する事が義務付けられている。それは国の役に立つレアスキルを見つけ次第確保し、有益ならば伸ばす教育をする為だった。しかし今回ファーズは自ら勝手に判断して「このスキルは役に立たない」と切り捨てたのだ。その所為でグランは家から捨てられ、国は成長させればどんな利益を生んだかも分からないレアスキルを手に入れ損ねた事になる。
ファーズが『他に類を見ないスキル』だという事をちゃんと親に伝えておき、国に報告する事を親に伝えると共にちゃんと国に報告さえしていれば……。
ファーズはグランが捨てられたと人伝に聞いた時、可哀相な事をする親がいるもんだなぁ、と他人事の様に考えていたが、それが全部自分の責任だったのだとここにきてやっと気付き、絶望した。
「俺は……俺はなんて事を…………」
上に報告する。ただそれだけの事をせず、自己判断で自分が勝手にやってしまった事で一つの家族を崩壊させてしまった事実に直面してファーズはただただ罪悪感に苛まれて絶望するしかなかった。
「お前のスキルは罰を与えて手放すには惜しい物だ。だからこれからもスキル鑑定士は続けてもらう。ただしお前には常に誰かが見張りに付くと思え」
「……はい」
「……お前の言葉で人一人の人生が変わる事を常に忘れるな。
お前は一つの家族を壊したんだ。それを一生忘れるな」
──忘れたくても忘れられない──
ファーズはそう思ったが口に出さずに頭を下げて涙を流した。
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