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9.魔導士様のあとしまつ
しおりを挟む「これでよしと」
ゼルファスは裏の森で、暴走した荷車の処置に当たっていた。
馬の足元には、食べ残した飼葉が散らばっている。
「……やっぱり朝の餌に混じってたか。こりゃあ腹も痛くなるわな」
ゼルファスは木の枝で土を突きながら、馬の足元に落ちていた飼葉をつついた。
「すぐ助けられなくて悪かったな。でも、何事もなく復帰できるのはアイツのおかげだから許してやってくれ」
あの時、まさかリアンが飛び出していったのは、ゼルファスにとって全くの想定外だった。本当は自分が魔法で事故を防ぐつもりだった。でも。
「あーいたいた、ゼルファス。探したんだけど。勝手にいなくならないでよね?」
「それは俺のセリフだ」
ゼルファスは手にしていた木の枝先を、リアンの方に向けた。
リアンのように、子供も馬も建物も犠牲ならずに守ることは自分には出来ない。自分ならきっと、馬を強制的に弱体化させる魔法を使っていたはずだ。災厄の魔導士の頃の染みついた癖がそうさせる。
便利だが、それは力で押さえつけるやり方。あの頃と、何も変わらない。
「ほんと……お前は凄いよ」
こうしてきちんと誰も犠牲にならない方法を選んでる。
「え?」
「いや、なんでもない」
ゼルファスはリアンの頭に手を乗せると、まるでペットを撫でるみたいに、髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
「ねー、ちょっと何するの」
「ははは、ご褒美」
リアンはむっとしながらも、抵抗する素振りはなかった。
「でも、無理はしすぎるなよ? 変にずっと、助けなきゃって気持ちを抱えたままでいると疲れちゃうしな。困った時は……」
「困った時は?」
「俺を頼れ」
ゼルファスが言った。
その言葉をリアンは目を輝かせながら、無言で受け止めた。
「な、なんか返せよ。ただ滑ったみたいになるだろうが」
戸惑ったようなゼルファスの表情に、リアンは笑って小さく呟いた。
「でもゼルファス、そんなに強くないよね?」
「お前……!」
唐突に持ち出された正論に、頬を引きつらせるゼルファス。
けれど確かに、前世にて一度倒された時のことを考えたら、何も言い返すことは出来なかった。
「……覚えてろよ!」
「うん、忘れないから大丈夫」
軽口を言い合う二人。
二人の笑い声が、穏やかな風に混ざって、村の片隅へと溶けていった。
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