虐げられてきた令嬢は、冷徹魔導師に抱きしめられ世界一幸せにされています

あんちょび

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覚醒と絆

7.魔法訓練と成長

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 塔での暮らしにも慣れ、アリシアの心は少しずつ解きほぐされていった。
 だが同時に、彼女には新たな挑戦が待っていた。

 それは――本格的な魔法訓練である。

 朝、まだ霧の立ち込める中庭。
 レオンはすでに杖を手に立っていた。その姿は、相変わらず威圧感を放っている。黄金の瞳は鋭く、指先には淡い魔力が集い、空気そのものを震わせていた。

「構えろ、アリシア」
「は、はい……!」

 アリシアは両手を胸の前に差し出す。
 先日、偶然にも発現した金色の炎。それは稀少属性と呼ばれる力だと知らされた。だが、制御には程遠い。今日からは基礎を徹底的に学ぶ必要があった。

「魔法は才能だけで扱えるものではない。理論、集中、そして鍛錬だ。甘い考えは捨てろ」
「……はい」

 レオンの声は冷たく響く。
 けれどアリシアの胸は、不思議と温かい。冷徹な口調の裏に、「必ず成長できる」と信じている気配があるからだ。

 最初の課題は、炎を生み出し、大きさを保つこと。
 アリシアは息を整え、掌に意識を集中させた。
 ――燃えるもの、光、温かさ。
 金の炎が小さく揺らめき、掌に宿る。

「維持しろ」
「っ……!」

 炎はすぐに不安定になり、ちらちらと揺れては消えかける。焦りで心臓が早鐘を打ち、集中が乱れる。

「違う。焦るな。魔力は水の流れと同じだ。流れを堰き止めず、導け」
「水の……流れ……」

 彼の言葉を思い浮かべ、アリシアは深呼吸をした。
 すると炎は揺らぎを収め、安定した光を放ち始める。

「……できました!」
 顔を輝かせるアリシアを見て、レオンの瞳がわずかに細まった。
 ほんの一瞬の緩み――けれど彼女には見えなかった。

「次は二倍の大きさだ」
「え、もう……!?」
「当然だ」

 容赦のない指示に、アリシアは必死に集中を続けた。
 だが何度も失敗し、炎は弾けては消え、手のひらが熱で赤くなる。

「無理です……私には……」
 涙混じりの声が漏れた瞬間、レオンの声が鋭く響いた。
「やめるな」

 びくりと体が震えた。
 けれど彼は続けた。
「一度で諦めるのは愚かだ。失敗は成長の証だ。お前は必ずできる」

 冷たくも力強いその言葉で、アリシアの胸に熱が広がる。
 誰からも否定され続けてきた彼女にとって、失敗を肯定してくれる言葉は初めてだった。
「……はいっ!」

 歯を食いしばり、再び炎を生み出す。
 今度は心の奥から湧き出る想い――「もっと強くなりたい」という願いを込める。
 すると炎は勢いを増し、確かに二倍の大きさで輝いた。

「やった……!」
 アリシアは歓声を上げた。
 頬を紅潮させ、汗に濡れながらも、その瞳は光に満ちていた。

 レオンは静かにうなずいた。
「悪くない」
「本当ですか?」
「ああ。だが、まだ初歩だ」

◇ ◇ ◇

 訓練が終わると、アリシアはぐったりと座り込んでいた。
 体は重く、魔力の消耗で指先まで痺れている。
 そんな彼女に、レオンが水の入った杯を差し出す。

「飲め」
「あ、ありがとうございます……」
 冷たい水が喉を潤す。アリシアはほっと息をついた。

「辛いか?」
「……はい。でも、不思議と楽しいです」
「楽しい?」
「はい。だって……初めてですから。失敗しても叱られるだけじゃなく、次に繋がるって思えるの」

 その言葉に、レオンの胸が揺れた。
 自分はただ指導しているつもりだった。だが彼女は、それを「楽しさ」と感じている。
 かつての自分には決してなかった感覚だった。

 アリシアは微笑んだ。
「レオン様が見ていてくださるから……頑張れるんです」

「……そうか。」

◇ ◇ ◇

 夜。
 アリシアは贈られた魔導書を膝の上に広げ、ろうそくの灯の下で熱心に読みふけっていた。
 基礎理論の文字が難解で頭を抱えるが、それでもページをめくる手は止まらない。

 扉の陰からそれを見つめるレオンは、声をかけることなく立ち去ろうとし、最後に一度だけ振り返る。
 
 炎の光に照らされた彼女の横顔は、努力と希望に満ちている。

 ――彼女は、必ず伸びる。
 そう確信しながら、彼の胸には抑えがたい衝動が芽生えていた。
 それは師としての期待か。それとも、もっと別のものか。

 レオン自身さえ、まだ答えを出せずにいた。
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