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違っていた。傍聴者である赤の他人が聞いても思わずすくみ上る、まさしくプロの技だった。
だがそれでも橋本は微動だにしない。
「おいどうした、橋本! なんか言ったらどうだよ! おい!」
湯浅が橋本を物理的に揺さぶる。これでも橋本は何も言わなかった。
周囲の人間たちも何も言わなかった。少し離れたところから二人の言い争いを傍観しながら、「早く謝ればいいのに」と心の中で橋本に懇願するだけで、誰も自分から仲裁に入ろうとはしなかった。
そして橋本が、周囲の期待を知ってか知らずか、ついに重い口を開いて見せた。
「そんなことどうでもいいじゃないですか。もうすぐ始業時刻ですよ。無駄なことに時間使ってないで、さっさと席に戻って始業準備したらどうですか」
その場にいた全員が凍りついた。橋本が口にした言葉は、ほかの人間全員が期待していた言葉とは百八十度違う意味を含んだ言葉だった。
「誰のことでこんな時間使ってると思ってんだ!」
湯浅は橋本が宙に浮きそうな勢いで腕に力を籠め、彼への言葉をさらに荒いものにしていく。
「もとはと言えばお前が不真面目なせいでこういうことになってんだろうが! なんでそんなことも理解できないんだ!」
「僕は自分の仕事をこなしたうえで、行使していい権利を使っているだけです。それのどこに問題がありますか?」
「大ありだ! 前代未聞の連続殺人が起きてる時にそれするかって話なんだよ! そうでなくとも普通はお前みたいにポンポンポンポン有休取ったり、意地でも残業しないなんて決め込んだりしないんだよ!」
「それがそもそも古い考え方じゃないんですか? そういう時代錯誤な考え方が警察組織全体の悪化につながっていると、少しくらい考えたことないんですか?」
「仕事に一生懸命になって何が悪い! いつもお前に言ってるよな? 自分の身を削らないで犯人逮捕なんかできないって。一体何度言ったら分かるんだ! そんな覚悟もない奴が警察なんかできると思うなよ!」
「じゃあ聞きますが、僕が一度でも捜査に悪影響を及ぼすような致命的なミスをしたことがありましたか? むしろ警部補のほうが一課全体に悪影響を及ぼしていますよね? 今まで自分が教育係を担当した新人が何人部署異動申請したか、警部補は覚えているんですか?」
「そんなこと今はどうでもいいんだよ! 今はお前の話してんだよ!」
「そこが問題なんですよ。警部補は目の前のことばかりに意識が向いて、過去や今の失敗に気がついていない。はっきり言って、そういう自分勝手な人は警察には向いていないと
だがそれでも橋本は微動だにしない。
「おいどうした、橋本! なんか言ったらどうだよ! おい!」
湯浅が橋本を物理的に揺さぶる。これでも橋本は何も言わなかった。
周囲の人間たちも何も言わなかった。少し離れたところから二人の言い争いを傍観しながら、「早く謝ればいいのに」と心の中で橋本に懇願するだけで、誰も自分から仲裁に入ろうとはしなかった。
そして橋本が、周囲の期待を知ってか知らずか、ついに重い口を開いて見せた。
「そんなことどうでもいいじゃないですか。もうすぐ始業時刻ですよ。無駄なことに時間使ってないで、さっさと席に戻って始業準備したらどうですか」
その場にいた全員が凍りついた。橋本が口にした言葉は、ほかの人間全員が期待していた言葉とは百八十度違う意味を含んだ言葉だった。
「誰のことでこんな時間使ってると思ってんだ!」
湯浅は橋本が宙に浮きそうな勢いで腕に力を籠め、彼への言葉をさらに荒いものにしていく。
「もとはと言えばお前が不真面目なせいでこういうことになってんだろうが! なんでそんなことも理解できないんだ!」
「僕は自分の仕事をこなしたうえで、行使していい権利を使っているだけです。それのどこに問題がありますか?」
「大ありだ! 前代未聞の連続殺人が起きてる時にそれするかって話なんだよ! そうでなくとも普通はお前みたいにポンポンポンポン有休取ったり、意地でも残業しないなんて決め込んだりしないんだよ!」
「それがそもそも古い考え方じゃないんですか? そういう時代錯誤な考え方が警察組織全体の悪化につながっていると、少しくらい考えたことないんですか?」
「仕事に一生懸命になって何が悪い! いつもお前に言ってるよな? 自分の身を削らないで犯人逮捕なんかできないって。一体何度言ったら分かるんだ! そんな覚悟もない奴が警察なんかできると思うなよ!」
「じゃあ聞きますが、僕が一度でも捜査に悪影響を及ぼすような致命的なミスをしたことがありましたか? むしろ警部補のほうが一課全体に悪影響を及ぼしていますよね? 今まで自分が教育係を担当した新人が何人部署異動申請したか、警部補は覚えているんですか?」
「そんなこと今はどうでもいいんだよ! 今はお前の話してんだよ!」
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