和製切り裂きジャック

＃９－４

思いますけど」
「なんだと、貴様！」
　二人の近場にいた人間が、思わずその場から距離を置いた。怒りを覚えたのか知らないが、橋本まで口が悪くなってきている。
「やめよう、二人とも！」
　いい加減見かねた山下が二人の間に割って入った。
「いい加減始業時刻だから！　仕事しよう！　ね！」
　このような状況に初めて遭遇した山下は、すぐに口を突いて出た仲裁の言葉で二人を落ちつかせようとする。しかしそれは、まるで子供同士のケンカを仲直りさせる小学校教師のような、混乱と突発性が目に見えて分かるほど含まれている振る舞いだった。このような子供だましの言葉で、いい年をした大の大人二人がおとなしくなってくれるわけがなかった。
「そもそもそんな面倒な妹の世話なんかしながら警察なんかできるわけないだろ！　本当にそんなのがいるなら親か親戚にでも預けろよ！」
　湯浅は山下を払いのけ、橋本以外に矛先を向けた。
　その次の瞬間だった。
　湯浅は鼻と口から血を噴き出し、その場に仰向けに倒れた。
　一人の女性刑事の悲鳴が部屋中にこだました。
　山下は足で追撃しようとする橋本を必死に押さえようとする。
　だが橋本の若い力の前には無力だった。
　すぐにほかの男性刑事たちが橋本を押さえにかかった。
　それに対して橋本は、普段なら絶対に口にしない汚い言葉を大声で上げながら、手近にあった椅子やノートパソコンを振り回し、投げ飛ばした。
　この日、愛知県警の捜査一課は機能停止を余儀なくされた。