和製切り裂きジャック

九十九光

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#10ー1

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#10(一人称)


「信じられない! そんな理由で橋本さん怒らせたの⁉」
 三月三日の晩、私の家にはひな祭りを祝う声ではなく、私の怒りの声が響き渡っていた。
「いや……。だって本当にそんな妹さんがいるなんて思わなかったから……」
 頭に包帯を巻いて、右目の目尻のあたりを保冷材で押さえながら、パパは申し訳なさそうに力のない声で答えた。
『愛知県警本部で暴力事件 早朝の警察官同士の乱闘』
 今日の午後三時くらいに、テレビのニュース番組に、こんな信じられない速報が飛び込んできた。
 今朝七時三十分頃、三十代の刑事と五十代の警部補が捜査一課の本部で口論になり、刑事が警部補を拳で殴りつけた。その後、刑事を止めようとした他数名も軽傷を負い、刑事はその場で押さえ込まれた。愛知県警は三十代の刑事に一か月の、五十代の警部補に一週間の謹慎処分を言い渡した。これが事件の大雑把な内容だった。県警の発表によると、二人とも和製切り裂きジャック事件の担当であり、捜査上の意見の食い違いが事の発端だという。いつまで経っても犯人の足跡を見つけられないことが捜査員たちにストレスを溜め込む原因になり、今回の騒動が起きる要因になってしまった、ということらしかった。
 これをママと一緒に自宅で知った時、「まさかパパじゃないよね? 五十代の警部補って」と、私は冗談交じりに言った。ママも、「さすがにうちの人もそんなバカなことはしないわよ」と、笑いながら話していた。
 で、そのニュースが全国に伝えられてから一時間後、「今日帰り遅くなる」というパパからの電話がかかってきた。この時は、まあ自分の部署で問題が起こればそうなるよね、というくらいにしか考えていなかった。そもそも普段からサービス残業しまくっている人だし、最近は和製切り裂きジャックの一件で定時に帰るのが余計困難になっているのだから、今さら私もママも気に留めなかった。
 が、午後八時。うちのパパはさっき書いた負傷具合で帰ってきたのだ。「殴られた警部補ってお前か!」と、漫才か漫画のようなツッコミを入れる間もなく、その場でパパは怒り心頭といった様子でこう言った。
「信じられるか、橋本の奴! 耳の聞こえない妹の面倒のためなんて嘘ついて有休取って! それがばれて逆ギレして殴ってきたんだ! あいつが自分勝手な奴だってのは知ってたが、ここまでとは思わなかったよ! あのバカ、よく謹慎だけで済んだよ、まったく!」
 私もママもこれには唖然とした。
 連続殺人犯に対抗する組織として、今まさに全国から注目を集めている愛知県警が、こんなバカな男のためにあんなくだらない隠ぺい工作をして、最優先でやらなければいけな
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