和製切り裂きジャック

九十九光

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#12ー4

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っちが想像もしていなかったことを口にした。
「でも橋本さん、今旅行に行ってていないんですよね」
 は? なんでこのタイミングで旅行?
 私が頭の中で思い浮かべた疑問をパパがぶつける。それに対して氷川さんはこう答えた。
「旅行に行ってくるって言って、三日前に楓ちゃんのお葬式から帰ってきてすぐどっか行っちゃったんですよ」
「どっかって……! なんで止めなかったんですか⁉」
 氷川さんの回答にパパが怒るように声を大きくする。途端に吠え出したコロをなだめながら、氷川さんは言葉を続けた。
「そりゃまあ……。もしかしたら山奥とかで自殺するかもって考えはしましたよ。でも声かけづらいじゃないですか。ただの気晴らしか、実家に報告に行っただけかもしれませんし……。第一橋本さんとは、あんまり私的な話とかしてきませんでしたし」
 あ、やっぱ橋本さんは楓さんの前でしか笑わない人らしい。
 さらにパパは、「じゃあ、おおよその行き先とかはわかりませんか?」と質問するが、氷川さんは、「さあ?」と答えた。それはそうだろう。大方、車かビジネスホテルで寝泊まりしながら、名古屋市外、もしかしたら愛知県外に向かって進んでいるところだろう。結果的には、完全に落ち度はないという理由で自宅謹慎にしなかったのが悪い。
 その後の二人の会話も、あの兄妹の人柄を知っている身としては退屈なものだった。「楓ちゃんは明るい子で、よくアパート前の道路の掃き掃除しながら道行く人に笑顔でお辞儀してました。」と氷川さんが口にすれば、「橋本はとにかく人との会話をしない奴で、自分に関する話もまったくしなくて、仕事場でも協調性は低い奴です」とうちのパパが説明する。ここまで飽きることなく読んでくれた読者なら誰でも予想できそうな、二人の一面に関する情報交換が行われた。
 ここで提示することと言えば、氷川さんが愛知県のろうあ者の支援団体に所属しているということくらいだ。地元の不動産会社の支援を受けながら、向かいのアパートの大家をしているという。あの兄妹とはそうした関係で知り合ったのだと想像できる。
 こうして一時間くらい話し込んだところで、私たちは氷川さんの家を出ることにした。玄関に向かってパパの後ろを歩いていると、コロが私の足につぶれた鼻をこすりつけてくる。
 社会人になってから色々な用事でペットのいる家に行くと、大抵帰り際にその家の犬や猫が足にすってくるのが恒例だった。黒いスパッツやズボンを穿かない私はあまり気にならないが、そういうのを穿く人は毛がくっついたりするから大変そうだ。
 橋本さん用に買ってきたお菓子は氷川さんが引き取った。「食べきれなかったら現場の奴らにでも差し入れしてくださいよ」とパパは言った。二日後には自分も現場の人間に戻ることを覚えているのだろうか。
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