和製切り裂きジャック

九十九光

文字の大きさ
69 / 166

#12ー3

しおりを挟む
える(就活もしてない大学生が言えたものじゃないが)。
 パパはこの頼りない大家に戸惑いながら、自分は警察の人間で、橋本さんに個人的に用があると説明した。それを聞いたやる気のなさそうな大家は、「じゃあ上がってくださいよ。立ち話もなんですし」と、やる気のなさそうな声で私たちを自宅の中へ案内した。会話に一切熱は感じられないが、事は順調に進んだ。
 廊下も階段も、最近の分譲住宅である私たちの家と違って狭い和風建築で、現代の若者が暮らすには不釣り合いな感じがする物件だった。だがそれは建物の造りだけで、私たちが通された一階のリビングでは、小さめの液晶テレビにはプレステ4がつなぎっぱなしになっていた。見た目に反して渋い趣味を持っているとかもなさそうだ。窓から見える苔むしたブロック塀と、その手前に植わっている南天の木とのギャップがすごい。他に気になったものと言えば、テレビの横で写真立てに入っている、氷川さんが橋本さんと楓さんと一緒に写る、どこかの山の見晴らしのいい場所で撮影したらしい写真だった。楓さんが男二人に挟まれて、写真の右側に陣取った氷川さんに肩を回されている。橋本さんにも笑みがこぼれていて、三人の仲睦まじい光景を収めた一枚だった。橋本さんが、ちゃんと楓さん以外の人にも愛想よくできるのだと思った。
 私たちは黒い革張りに似せた化学繊維製のソファに座り、氷川さんがお茶を持ってくるのを待つ。その間に、さっきインターホン越しに聞こえてきた小型犬の声の主がこっちに走ってきた。顔のところだけが黒い乳白色の毛をしたパグだった。赤い首輪をしたそいつは私の足の間に入り込み、かまってほしいのか威嚇しているのか知らないが、こっちの顔を見て吠えている。
「あ、犬、大丈夫でしたか?」
 三人分の麦茶を持ってきた氷川さんが私たちに確認した。私たちは二人とも犬アレルギーじゃないし、犬が嫌いというベタな設定もない。コロと呼ばれた犬は、私たちの向かいに座った氷川さんの足元に行っておとなしくなった。坂上忍が説教するようなダメな飼い主ではなさそうだ。
「で、警察の人が橋本さんに用ってなんですか?」
 氷川さんはお茶の入ったコップをガラステーブルの上に置くと、さっそく疑問視して当然のことを質問した。パパは楓さんが殺される直前に起こった、橋本さんと自分の謹慎処分に関する詳細な話を説明する。氷川さんは終始、「ああ、そういうことだったのか」と言いたげにうなずいて話を聞いていた。
「それで、橋本には本当に申し訳ないと思って、あいつに謝りに来たんですよ」
 パパは困った時にしそうな顔で氷川さんに言った。氷川さんはそれに対して、「なるほど……」と言いながらうなずくだけだった。謝罪に来てテンションの低い男と、元からテンションの低い男。会話のテンポもじれったい。
 そしてパパの話が一通り終わると、今度は氷川さんが足元のコロの頭をなでながら、こ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...