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Kapitel 03
再起 01
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――長い間、気持ちのいい夢を見ていた。かなり気分のいい夢だ。
何もかも自分の好きにできる万能感。どれだけ動いても、どれだけ飛んでも、どれだけネェベルを使いまくっても、少しも疲れない。それどころか無限に力が湧いてくる。邪魔なものは何だってぶち壊せる圧倒的な力を持っていた。
――「帰ってきてよ」――
誰かに呼ばれた気がして夢から醒めた。
夢だと気づいたのはつい先ほど。夢が夢であったことを口惜しく感じながら現実に引き戻された。
天尊はベッドの上で目を覚ました。
長い夢を見ていた感覚はあるが、肉体に倦怠感は無かった。むしろ、爽快な目覚めといってよい。ノリの利いたシーツの感触、適度な室温、シミひとつない天井や壁紙、ベッド脇の窓から差しこむ陽光。天尊の経験上、明るく清潔な空間で目を覚ますのはかなりよい環境だ。
何処だ此処は、と当然の疑問が頭に浮かんだ。手足に拘束はない。ネェベルを抑制する牆壁が展開された感覚もない。つまり、自由の身だ。いつかは夢から醒めるのは当然だとしても、自由を得られる理由は分からなかった。
天尊は周囲に人の気配を察知し、上半身を起こした。
数人の女たちが部屋の隅で縮こまっていた。身形からして高貴な家に給仕する侍女だ。
「誰だ、貴様らは」
天尊から声をかけると、彼女たちは問いかけに答えることもなく一目散に部屋から出て行った。
天尊はスルリと何かが皮膚に擦れる感触がした。そして、自身の霜髪が途轍もなく伸びたことに気づいた。
「何だこの様は」
天尊の有様はちぐはぐなものだった。
皮膚は黒から生来の肌色に戻り、体表を覆っていた黒い鱗は剥げ落ちて跡形も無くなった。黒曜石の牙や爪は抜け落ちてから再生し、今となっては只人のそれと変わらない。しかし、霜髪の長さはベッドの上に広がるほど長く、その瞳には紫水晶の輝きを湛えていた。
パタパタと、部屋の外から足音が近づいてきた。
天尊は顔を上げて部屋のドアが開かれるのを待ち構えた。先ほど出て行った侍女たちが人を呼んだのだろう。話くらいはできるはずだ。
ドアを開いたのは耀龍だった。
耀龍はベッドの上の天尊を目にするなり、ドアノブを握ったまま一瞬停止した。そのあと、早足でベッドに近寄った。
「天哥々――……起きたんだ」
耀龍は眉間に皺を寄せて眉尻を下げ、何とも言えない安堵の表情を見せた。
耀龍は薄手の丈の長い衣服を身に纏っていた。それは着やすい部屋着のような恰好だったから、天尊は此処は耀龍の館だと推察した。
「ん? ああ」と天尊は何てことは無いように答えた。
「その顔、俺はだいぶ眠っていたようだな。この恰好は何だ」
天尊は自分の長い霜髪を掴んで耀龍に見せた。
耀龍には天尊の問いかけに答える余裕は無かった。天尊から顔を背けてグッと奥歯を噛んだ。喜びが込み上げてきて涙腺が弛みそうだった。
「どうした、お前」
「ちょっと待って。いま泣きそう」
耀龍は天尊に抱きついた。
天尊は怪訝そうに顔を顰めた。兄弟の情はあるが、男に抱きつかれても嬉しくはなかった。
「離れろ。シャワーを浴びたい」
「少しは喜びに浸らせてよ」
それは天尊らしい言い草だった。耀龍は兄が戻ってきたのだと実感した。フフッと笑って天尊から離れた。
天尊が散髪をしてシャワーを浴び、無精髭を剃り終わり、着替えを済ませ、身綺麗に整えた頃、部屋に麗祥が駆けつけた。
麗祥も天尊を目にして最初、耀龍と同じような反応を見せた。懐かしいような、安堵したような、気の緩んだ表情。顔面の造形も普段見せる表情も似ていないが、そういう仕草は似ているものだな、と天尊はやや感心した。
しかしながら、麗祥には耀龍とは異なり兄の矜持がある。感激しても弟の前で天尊に抱きつくようなことはしなかった。表情もすぐに平静に戻した。
天尊は姿見の前に立ち、シャツの袖口のボタンを留めながら、鏡に映る自分と対面した。紫水晶の瞳とかち合うのは自分でも違和感があった。
「お前たち、俺が正気に戻ったとよく分かったな。この目で」
天尊は姿見のほうを向いたまま弟たちに語りかけた。
「本物の《邪視》と相見えましたから」
「分かるよ。天哥々とはぜんぜん違う。アレは絶対に天哥々じゃない」
麗祥と耀龍の返答は素早かった。
それからふたりは、自分たちが知り得る情報を天尊に説明した。天尊が不当に拘禁されていたこと、自分たちが天尊の居場所に辿り着いた経緯、そして《邪視》覚醒から沈静化に至るまでの顛末。すべて天尊の身に起こったことだ。知る権利がある。しかし、或る点のみは意図的にぼやかして伝えた。
「……そういうことか」
天尊は独り言のように零した。
「あんまり驚いてないね?」
「目覚めて自分の様を見れば何となく想定はできる。この目だからな」
「《邪視》が覚醒したのはお祖父様の計略であり、そこに天哥々の意思はありません。《邪視》による被害は天哥々の故意あってのことではありません。故に天哥々には何の責も――」
「分かっている。俺は過度に自分を責めるほどお人好しじゃない」
麗祥は、鏡越しに見た天尊の表情は実に不機嫌そうだったが、自責の念が無いと知ってホッと安堵した。
「俺をいいようにしやがって、あのクソ老い耄れ」
「お祖父様にお会いになったのですか?」
「ハッ。会ったなんてモンじゃない。動物園に珍獣を見に来たツラだった。イヤ、あのジジイにとって俺はいいとこ実験動物だ。胸糞悪い」
耀龍と麗祥は顔を見合わせた。
「伺いたいのですが。天哥々は《邪視》が覚醒してる間、記憶や意識はおありでないのですね?」
「正直、記憶はほとんどない」
「ところどころは記憶がある? どこから憶えてるの? 憶えてるのって何?」
天尊は片眉を引き上げてふたりのほうを振り返った。
「何だ、その確認は。何故そんなことを訊く」
耀龍の館・客室のひとつ。
耀龍と麗祥は、特に理由を話さず天尊をそこへ案内した。天尊はやや不思議に思いながらもふたりに従った。
客室の入り口や室内には侍女が控えていた。掃除が行き届いて空気は新鮮であり、花も飾ってある。此処は客室なのだから、招かれた客人がいて使用中なのだと天尊はすぐに見当が付いた。しかし、耀龍の館の客人に自分が引き合わされる理由まではまだ察しが付かなかった。
客人は応接テーブルにいなかった。耀龍から、部屋の奥、寝室まで立ち入ることを許された。寝室には天蓋付きのベッド。香が焚かれていた。客人は女性だ。
天尊は天蓋付きのベッドに視線を伸ばした。薄いレースのカーテンの向こうに、ひとりの少女が横たわっているのが見えた。
耀龍は天尊にベッドに近づくように言った。天尊はベッドのすぐ脇に立って少女の寝顔に目を落とした。
少女のあどけない寝顔は、血の気がなく蒼白。瞼を閉じた陶器人形のようだった。
じっと見詰めている内に、面立ちに思い当たった。天尊は少女の前髪を真ん中辺りで掻き分け、顔を近づけてその造形をまじまじと覗きこんだ。
「この少女は――……アキラか」
――「ティエン。帰ってきてよ」――
夢の終わりを告げる少女の声音。
そうだ、あの声は「ティエン」と呼んだ。天尊自身がそれを許した女はひとりだけ。
あの声に呼ばれたから、万能の夢から現実に戻ってきた。あの声が聞こえたから、自分が何であるか思い出した。邪悪の顕現、大いなる力の奔流、神代の邪竜などではなく、天尊であると。
「…………。髪が伸びたな……綺麗になった」
天尊は眠っているアキラの頬を指先で撫でた。愛おしそうに目を細め、それきりしばらく黙りこんだ。少しずつさまざまな角度からアキラの寝顔を眺め、その眼差しでずっと愛を囁いているようであった。
耀龍も麗祥も天尊に話さなければいけないことがあったが、時を急かさなかった。天尊とアキラとが離れ離れになって約一年間。彼らにとってはたった一年間でも、引き離されたふたりにとっては恒久に思われたことだろう。一年間どころか、一時はもう二度と逢うことはないと悲観したふたりが、愛を取り返した。
「アキラがここにいるということは、俺の所為だろうな。また迷惑をかけたな……」
天尊はアキラの寝顔を見詰めたまま申し訳なさそうに呟いた。
その様子を見て、耀龍と麗祥は天尊に有りの儘を伝えなくてよかったと思った。
ふたりの弟たちが天尊に経緯を説明する際に意図的に伏せた或る一点、それこそがアキラのことだった。己のしがらみが為に何の力も無いアキラを巻きこみ、手にかけようとし、あまつさえ大怪我を負わせたなど、意識が無かったとはいえ、事実を知ったなら後悔と自責で冷静ではいられないだろうから。天尊といえども、知らないことの責任を負うほどお人好しではないなどとは言っていられなかったはずだ。
「随分と顔色がよくないな。アキラはいつ目覚める?」
天尊からの問いかけに、耀龍は内心ドキッとした。連れてきたからには訊かれることを覚悟していたが、やはり気まずかった。
「その、実は……アキラは……《邪視》が覚醒してからずっと、眠り続けてる」
「《邪視》が沈静化する直前に意識を失い、それきり目を覚ましません」
「ずっとだと? 期間は」
天尊が振り返りながら尋ね、耀龍と麗祥は背筋を伸ばした。
「5日間です。天哥々」
「理由は」
「そもそも人間はアスガルトの環境下では覚醒時間が短い傾向にあるんだ。仮説のひとつとして、それに加えて今回の件でケガもしたし、体力も気力も使い果たして疲労が蓄積したからじゃないかなって」
「ケガ?」
「それについては、オレが修復したから心配は要らないよ。痕も残ってない」
耀龍は自分の失言に気づいて一瞬ギクッとしたが、すぐさま取り繕った。
「ケガは治ったのに5日間も睡眠をとって疲労が回復しないだと? アキラはアスガルトに来て以来、それほど長く眠るのが常態だというのか。何時間睡眠をとって何時間覚醒していられる」
耀龍と麗祥はやや顔を伏せて天尊と目を合わせようとしなかった。
「《邪視》の件以前は、毎日数時間は覚醒しておりました。さすがにこれほど眠り続けたことはなく……」
「他に考えられる原因は」
「それは今の段階ではちょっと……」
「このままにしておいて、目覚める可能性はあるのか」
「ごめん。初めてのことだから確かなことは言えない。だけど、アスガルトにエンブラを看れる医者なんていないし、今の状態のままミズガルズに戻ったって覚醒する確証はないし、しばらくこのまま様子を見るしか……」
「つまり、お前にできることは何も無いということだな」
天尊から端的に放言され、耀龍は押し黙った。確かに事実ではあったが無情に感じられた。無能と断じられたに等しかった。
耀龍は反論しなかったが、麗祥が思わず口を開いた。
「天哥々。それはあまりな仰有りようです。龍は姑娘を館に招き、庇護下に置いてよく気を配っておりました。姑娘の現状は決して龍の所為ではありません。今もミズガルズやエンブラに詳しい知識でもって手を尽くしております」
天尊は眉間に深い皺を刻んで苦々しい表情を浮かべた。
弟たちに冷淡に接するのは八つ当たりであると自覚があった。これが職務であったなら、何を言われても単なる事実確認である、俺の期待に応えられない貴様が無能なのだ、と断じられる。しかし、自分の宿業にアキラを巻きこんだことは否定しようがなく、現状を引き起こした要因が自身にあることは明白だった。
「……そうだ。アキラがこうなったのは俺の所為だ」
耀龍と麗祥は弾かれたように顔を上げた。
「違ッ……天哥々の所為じゃない!」
「そのようなことを申し上げたいのではありません天哥々!」
弟たちは、いいえ、いいえ、ごめんなさい、と懸命に訴えた。幼子が恐ろしい父親に許してくれと乞うているようだった。
天尊は耳を傾けなかった。彼らに怒りを覚えたわけでも、謝罪をさせたいわけでもなかった。
アキラにかけられたシーツをむんずと掴んではぐり上げた。アキラの背中と両膝の裏に手を差し入れ、そっとベッドから抱え上げた。アキラの身体は血液が通っていないかのように冷たかった。まるで本当に陶器人形か、死体のように。
奥歯をギリッと噛み締めて脳裏に一瞬過った嫌な想像を振り切った。
天尊がアキラを抱えて部屋の出入り口に向かって動き出し、耀龍と麗祥は慌ててあとを追った。
「お待ちください、天哥々」
「どこ行くのッ?」
「このままにしておいても目覚める確証は無いんだろう」
「それはそうだけど、だからって診せられる医者に心当たりなんてあるの?」
「医者じゃない」
天尊は足を停めて耀龍と麗祥のほうを振り返った。
「《ウルズの泉》へ行く」
§ § §
天尊が目覚めた翌日。暉曄宮・族長の私室。
赫一瑪はドアの前に立ってノックをした。入室の許可を得るまで沈黙して待った。室内から男女の話し声が聞こえるが、急かさなかった。
ガチャリ。――ドアが開かれて室内から若い侍女が出てきた。
侍女は赫一瑪と出会すや否や、頬を赤らめた。すぐに脇に避けて「どうぞ」と深々と頭を下げた。
赫一瑪は侍女を一瞥して入室した。侍女の衣服にやや皺があることや、その首筋に点々と赤い痕があるのを見落とさなかった。朝早く男の部屋から女が羞じらいながら出て来るなど、昨夜何があったかは察しは付く。
赫暁は姿見の前に立って身支度の最中だった。こちらは流石に肝が据わっている。自室に若い娘を引き入れて夜を明かしたあと、実の息子に直視されても悪びれた素振りは一切無かった。
「お疲れがなさそうで何よりです」
「俺は無傷だったからな。久し振りの戦闘で昂ぶったくらいだ」
「そのようで」
赫暁は実の息子からの皮肉の返しをハハッと笑って受け流した。
首にタイを引っ提げてクルリと赫一瑪のほうへ身体の正面を向け、赫一瑪の頭部から足許まで目線を上下に動かした。
「お前のほうこそ充分に回復したか?」
「耀龍があの場で施した措置がよかったらしく、今は傷痕も痛みもなく」
「涼しい顔をしていたがやはり痛かったか」
「…………」
赫暁は悪戯っ子のようにクハハッと笑った。
赫一瑪は反論こそ口にしなかったが、赫暁に視線で無言の抗議を送った。
「父上は無傷でお疲れもないとのこと。一両日宮を空けられ滞った分のご公務を取り返していただかねば」
「補佐殿は手厳しい」
赫暁はハハハと笑って姿見のほうへと向き直り、首に引っ提げているタイに手をかけた。赫一瑪の迎えがもう少々遅ければ、甘い睦言を囁き合いながら可愛らしい細い指に支度を委ねられただろうに。自分で締めるタイとは、息苦しいだけで味気ない。
「まあ、そう急かすな、一瑪。俺にも考えることがある。次は念入りな細工が必要だ。細工は流々仕上げをご覧じろ、ってな」
「……次、とは」
赫暁は赫一瑪からの問いかけに答えなかった。
シュル、シュル、とタイの衣擦れの音がするなか、鏡に映る自分の像を見詰めて不敵にニヤリと口角を引き上げた。
――天を、俺の息子を、虚仮にしやがって。この俺を舐めやがって。俺の息子を幼い頃から虐げ、挙げ句の果てがこれか。己に近い血からたまたま《邪視》が出現したことがそれほど気に食わんか。たったそれだけのことが殺したいほど許せんか。
そうだ、テメエはそういう男だ。クソみてぇなプライドだ。よく分かった。もう手心は加えん。踏ん反り返っているその椅子から、必ず引きずり下ろしてやる。
§ § §
耀龍の館。
訪問した麗祥は、侍女によって耀龍の部屋のひとつに案内された。
そこは耀龍の勉強部屋のようなものだった。日中もカーテンを閉め切り、柔らかな照明が室内を照らす。部屋の四隅のひとつに書類机。反対側の壁際に向かって本棚が等間隔にズラリと並ぶ。
耀龍は書類机に就いていた。机上にいくつも書物の山を積み上げ、その間から読書に勤しむ姿が見えた。
麗祥がコツコツコツ、と靴音を鳴らして書類机に近づき、耀龍は机上に拡げた書物から目線を引き上げた。
麗祥は書類机の前で足を停め、自分を見上げる耀龍の顔を見た。顔色が悪いとまでは言わないが、睡眠不足が窺える目許をしている。
「随分と熱が入っていると侍女から聞いたぞ。天哥々のお言葉を気にしているのか」
「オレは元々勉強熱心だよ」
耀龍は麗祥からプイッと顔を背けた。
その面白く無さそうな仕草を見て、麗祥はフフッと笑みを零した。
耀龍は麗祥から笑われたのも、兄貴風を吹かせられたようで面白くなかった。書類机に頬杖を突いて書物をパタンと閉じた。
「ルフトとヴィントはどうした」と麗祥。
「ミズガルズに戻したよ。アキラがあの状態のままで、天哥々と鉢合わせたらどうなるか分かんないから」
「かなり熱心に姑娘に仕えているようだったが、よくすんなりとミズガルズへ参ったな」
「すんなりとはいかなかったけど……」
麗祥の言うとおり、ルフトとヴィントは耀龍に提案されたからではなく、受けた恩義を返す為だけでなく、アキラを脅威から命懸けで護った。アキラの昏睡状態が続く間も心から案じている様子だった。ルフトなどは、アキラの情況を毎日耀龍に詰問した。責め立てたと言ってもよい。そのようなふたりをアキラから引き離してミズガルズへ送り返すのは、縁花を矢面に立てての半ば力尽くだった。
麗祥は書類机の脇を擦り抜けて部屋の突き当たりの窓際に立った。カーテンを剥ぐって窓外を見た。天尊が耀龍の館を発って一日弱、天尊が目指した目的地の正確な場所も知らない彼は、窓外を眺めても何かを推察することはできなかった。しかし、憂慮は自ずと沸いてくる。
「天哥々は辿り着かれただろうか」
耀龍は前髪を掻き上げてフーッと溜息を吐いた。
「《ウルズの泉》か……。思いつきもしなかった」
「思い至らずとも仕方があるまい。あそこは私たちでは行けない場所だからな」
それに……、と麗祥は目線を窓外から引き戻して耀龍を振り返った。
「天哥々もあのようなものを頼るのは本意ではないはずだ」
コンコン。――ドアがノックされた音。
「耀龍様」と縁花の声。耀龍は「何ー?」と気の抜けた返事をした。
「綾武劍様のお越しです」
綾武劍――――赫=ニーズヘクルメギルの当代族長の第二子にして耀龍と麗祥の兄のひとり。
彼は暉曄宮に居を構えてはいなかった。長兄とは異なり、一族の要職ではなく遠方での任務に就いている。実の兄弟でありながら、直接顔を合わせるのは随分と久し振りだった。
縁花がドアを押し開き、軍服姿の男が室内に入ってきた。まず目に入るのは、金糸混じりの紅の髪の毛。燃える焔のように逆立っている。長身かつ逞しい体付きで胸を張り、軍人らしい威容。
カツン、カツン、と彼は悠然と軍靴の踵を鳴らして耀龍に近づいた。
麗祥は素早くスッと頭を下げた。
「これはこれは、綾哥々。出迎えにも参らず申し訳ございません」
「いや、構わんさ。私こそ前触れもなく参ってすまない。いつ遑が取れるか分からん身だ。前触れを出す時間も惜しくてな」
綾武劍は笑顔で気にするなとヒラヒラと手を振った。外見は軍人然としているが、表情は柔らかく好青年だ。弟たちもこの兄は長兄とは別格に接しやすいことを分かっている。
「今頃遅いよ、綾哥々~。大変だったんだから」
「大変で済んだか。それは重畳。《邪視》に遭遇してそれで済ませた者は、赫の歴史にもそうはいまい」
綾武劍は、あっはっはっ、と口を開けて笑った。書類机に就いている耀龍の頭に手を載せてポンポンと撫でた。
耀龍は少々ブスッとして頬杖を突いた。
「綾哥々と話してると緊張感がない」
「父様に似て大らかな方だからな」
「今回の事態、幼いお前たちを戦闘に駆り出すこととなり済まなかった」
兄からそう言われた耀龍の表情は、さらに不機嫌さが増した。
「幼いって、綾哥々の記憶のなかでオレたちいくつで止まってるの、ねえ?」
「綾哥々は遠方にいらっしゃるから情報の更新が難しいのだ」
「いやいや、お前たちがいくつになっても可愛いものだ。私は兄なのだから。父上に《大剣グラム》を届けたはよいが、すぐに役目に戻れと命じられてな。助力も叶わなかった。不甲斐ない兄を許してくれ」
「いいえ、何もお気になさらないでください。綾哥々には南の防備がございますから。どうぞお役目を第一に」
綾武劍は、窓際に立っている麗祥をチョイチョイと手招きした。麗祥が近くに寄ってくると、その頭を撫でてやろうと手を伸ばした。
麗祥はそれをスッと回避した。
…………。――無表情の麗祥と笑顔の綾武劍との間に、しばしの沈黙が流れた。
「本日の用向きは?」
麗祥は綾武劍に冷静に尋ねた。
弟から遇われた綾武劍は、残念そうにフッと笑みを零した。
「《大剣グラム》の回収……の、ついでに事の顛末を聞きたくてな。《邪視》の脅威をその目で見たお前たちの口からな」
耀龍と麗祥は、綾武劍に求められたとおり、今回の出来事について包み隠さず説明した。弟たちにとって綾武劍は、最も大らかで気安い兄だ。幼い頃からたまにしか顔を合わさなかった分、ただただ寛容かつ鷹揚な人物で、叱られたこともない。或る意味、天尊よりも恐れがなく、父や長兄よりも心を許していた。
弟たちから話を聞いた綾武劍は、肩を揺すって笑った。
「お前たちが父上や一大哥に口答えできるようになるとは……フフフ。これからは見逃さんよう、里帰りを増やさねばならんな」
イラァ💢 ――耀龍と麗祥は子ども扱いされて心外だった。
「そういうことじゃなくて。オレは父様ヒドイよねって言ってるの」
耀龍は不服そうに口を尖らせ、綾武劍は「分かった分かった」と宥めた。
「そうだな。父上のご決断、戦法は、天の恋人と親しくするお前たちには納得のいかないものだったというのは分かる。しかしな、そう父上を責めるな。今回は父上も後がなかったのだ」
「父様にそのようなことがございますか?」
麗祥は否定的に尋ねた。
綾武劍は、アハハハッ、と声を上げて笑って腕組みをした。
「父上の信頼は実に厚いな。お前たちは父上にできないことはないとでも思っているらしい。貴族の世で栄光ある時代を築き続けるとは、そう生易しいことではないぞ。地位や権力、武力を振り翳すだけでは、必ず争いが生まれる。肝要なのは、調和だ。対等な会話と取り引き、それによって築かれる信頼関係が何より重要なのだ」
それから綾武劍は、父・赫暁が《大剣グラム》を手にできたのも信頼関係の賜物だと語った。
シグルズルの一族に伝わる家宝の一――――《大剣グラム》。この世にふたつとない至宝、威力は絶大、神話級の名剣。出せと言われておいそれと門外に出すものではない。
シグルズルは、綾武劍の生母であり赫暁の妻の実家。当代の当主は、綾武劍の祖父にして赫暁の義父。《大剣グラム》を振るうのが赫暁であり、運搬に携わるのが綾武劍であり、承諾したのが当代当主であること。これこそが信頼だ。
「信頼に必要なのは約束だ」
「約束……?」と耀龍は聞き返した。
「約束を交わし、守る。そのような単純なことの繰り返しによって、信頼は築かれるのだ、弟たちよ」
そして、父と祖父は《大剣グラム》貸与について固い約束を交わした、と綾武劍は続けた。彼が約束の運び手であるが故に知っている事実だった。
――《邪視》を平伏せしめること叶わねば、必ずその手で狩れ、と。
「つまり、父上は《邪視》を封じられねば、自らの手で天を殺さねばならなかったということだ」
「シグルズルのお祖父様は、何故そのような条件を……?」
麗祥は眉根を寄せて綾武劍に尋ねた。
綾武劍は少々困ったように苦笑を漏らした。
「赫随一の武人・赫暁が、伝説の《大剣グラム》を手にしてまでも御せない邪竜――……そのような存在を、お前たちは如何する。一族を守る責務を負う長たちにとって、滅すべき脅威だとは思わんか」
耀龍と麗祥は口を噤んだ。
何も知らない頃であったなら、ただただ兄を慕う幼い弟であったなら、いいえそんなことはない、とすぐさま否定していただろう。しかし、《邪視》の圧倒的な力と、純粋な邪悪性を目にしたあとでは、否定することは難しかった。
「さて、その姑娘と天の命を天秤に掛けたなら、お前たちはどちらを選んだ?」
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
何もかも自分の好きにできる万能感。どれだけ動いても、どれだけ飛んでも、どれだけネェベルを使いまくっても、少しも疲れない。それどころか無限に力が湧いてくる。邪魔なものは何だってぶち壊せる圧倒的な力を持っていた。
――「帰ってきてよ」――
誰かに呼ばれた気がして夢から醒めた。
夢だと気づいたのはつい先ほど。夢が夢であったことを口惜しく感じながら現実に引き戻された。
天尊はベッドの上で目を覚ました。
長い夢を見ていた感覚はあるが、肉体に倦怠感は無かった。むしろ、爽快な目覚めといってよい。ノリの利いたシーツの感触、適度な室温、シミひとつない天井や壁紙、ベッド脇の窓から差しこむ陽光。天尊の経験上、明るく清潔な空間で目を覚ますのはかなりよい環境だ。
何処だ此処は、と当然の疑問が頭に浮かんだ。手足に拘束はない。ネェベルを抑制する牆壁が展開された感覚もない。つまり、自由の身だ。いつかは夢から醒めるのは当然だとしても、自由を得られる理由は分からなかった。
天尊は周囲に人の気配を察知し、上半身を起こした。
数人の女たちが部屋の隅で縮こまっていた。身形からして高貴な家に給仕する侍女だ。
「誰だ、貴様らは」
天尊から声をかけると、彼女たちは問いかけに答えることもなく一目散に部屋から出て行った。
天尊はスルリと何かが皮膚に擦れる感触がした。そして、自身の霜髪が途轍もなく伸びたことに気づいた。
「何だこの様は」
天尊の有様はちぐはぐなものだった。
皮膚は黒から生来の肌色に戻り、体表を覆っていた黒い鱗は剥げ落ちて跡形も無くなった。黒曜石の牙や爪は抜け落ちてから再生し、今となっては只人のそれと変わらない。しかし、霜髪の長さはベッドの上に広がるほど長く、その瞳には紫水晶の輝きを湛えていた。
パタパタと、部屋の外から足音が近づいてきた。
天尊は顔を上げて部屋のドアが開かれるのを待ち構えた。先ほど出て行った侍女たちが人を呼んだのだろう。話くらいはできるはずだ。
ドアを開いたのは耀龍だった。
耀龍はベッドの上の天尊を目にするなり、ドアノブを握ったまま一瞬停止した。そのあと、早足でベッドに近寄った。
「天哥々――……起きたんだ」
耀龍は眉間に皺を寄せて眉尻を下げ、何とも言えない安堵の表情を見せた。
耀龍は薄手の丈の長い衣服を身に纏っていた。それは着やすい部屋着のような恰好だったから、天尊は此処は耀龍の館だと推察した。
「ん? ああ」と天尊は何てことは無いように答えた。
「その顔、俺はだいぶ眠っていたようだな。この恰好は何だ」
天尊は自分の長い霜髪を掴んで耀龍に見せた。
耀龍には天尊の問いかけに答える余裕は無かった。天尊から顔を背けてグッと奥歯を噛んだ。喜びが込み上げてきて涙腺が弛みそうだった。
「どうした、お前」
「ちょっと待って。いま泣きそう」
耀龍は天尊に抱きついた。
天尊は怪訝そうに顔を顰めた。兄弟の情はあるが、男に抱きつかれても嬉しくはなかった。
「離れろ。シャワーを浴びたい」
「少しは喜びに浸らせてよ」
それは天尊らしい言い草だった。耀龍は兄が戻ってきたのだと実感した。フフッと笑って天尊から離れた。
天尊が散髪をしてシャワーを浴び、無精髭を剃り終わり、着替えを済ませ、身綺麗に整えた頃、部屋に麗祥が駆けつけた。
麗祥も天尊を目にして最初、耀龍と同じような反応を見せた。懐かしいような、安堵したような、気の緩んだ表情。顔面の造形も普段見せる表情も似ていないが、そういう仕草は似ているものだな、と天尊はやや感心した。
しかしながら、麗祥には耀龍とは異なり兄の矜持がある。感激しても弟の前で天尊に抱きつくようなことはしなかった。表情もすぐに平静に戻した。
天尊は姿見の前に立ち、シャツの袖口のボタンを留めながら、鏡に映る自分と対面した。紫水晶の瞳とかち合うのは自分でも違和感があった。
「お前たち、俺が正気に戻ったとよく分かったな。この目で」
天尊は姿見のほうを向いたまま弟たちに語りかけた。
「本物の《邪視》と相見えましたから」
「分かるよ。天哥々とはぜんぜん違う。アレは絶対に天哥々じゃない」
麗祥と耀龍の返答は素早かった。
それからふたりは、自分たちが知り得る情報を天尊に説明した。天尊が不当に拘禁されていたこと、自分たちが天尊の居場所に辿り着いた経緯、そして《邪視》覚醒から沈静化に至るまでの顛末。すべて天尊の身に起こったことだ。知る権利がある。しかし、或る点のみは意図的にぼやかして伝えた。
「……そういうことか」
天尊は独り言のように零した。
「あんまり驚いてないね?」
「目覚めて自分の様を見れば何となく想定はできる。この目だからな」
「《邪視》が覚醒したのはお祖父様の計略であり、そこに天哥々の意思はありません。《邪視》による被害は天哥々の故意あってのことではありません。故に天哥々には何の責も――」
「分かっている。俺は過度に自分を責めるほどお人好しじゃない」
麗祥は、鏡越しに見た天尊の表情は実に不機嫌そうだったが、自責の念が無いと知ってホッと安堵した。
「俺をいいようにしやがって、あのクソ老い耄れ」
「お祖父様にお会いになったのですか?」
「ハッ。会ったなんてモンじゃない。動物園に珍獣を見に来たツラだった。イヤ、あのジジイにとって俺はいいとこ実験動物だ。胸糞悪い」
耀龍と麗祥は顔を見合わせた。
「伺いたいのですが。天哥々は《邪視》が覚醒してる間、記憶や意識はおありでないのですね?」
「正直、記憶はほとんどない」
「ところどころは記憶がある? どこから憶えてるの? 憶えてるのって何?」
天尊は片眉を引き上げてふたりのほうを振り返った。
「何だ、その確認は。何故そんなことを訊く」
耀龍の館・客室のひとつ。
耀龍と麗祥は、特に理由を話さず天尊をそこへ案内した。天尊はやや不思議に思いながらもふたりに従った。
客室の入り口や室内には侍女が控えていた。掃除が行き届いて空気は新鮮であり、花も飾ってある。此処は客室なのだから、招かれた客人がいて使用中なのだと天尊はすぐに見当が付いた。しかし、耀龍の館の客人に自分が引き合わされる理由まではまだ察しが付かなかった。
客人は応接テーブルにいなかった。耀龍から、部屋の奥、寝室まで立ち入ることを許された。寝室には天蓋付きのベッド。香が焚かれていた。客人は女性だ。
天尊は天蓋付きのベッドに視線を伸ばした。薄いレースのカーテンの向こうに、ひとりの少女が横たわっているのが見えた。
耀龍は天尊にベッドに近づくように言った。天尊はベッドのすぐ脇に立って少女の寝顔に目を落とした。
少女のあどけない寝顔は、血の気がなく蒼白。瞼を閉じた陶器人形のようだった。
じっと見詰めている内に、面立ちに思い当たった。天尊は少女の前髪を真ん中辺りで掻き分け、顔を近づけてその造形をまじまじと覗きこんだ。
「この少女は――……アキラか」
――「ティエン。帰ってきてよ」――
夢の終わりを告げる少女の声音。
そうだ、あの声は「ティエン」と呼んだ。天尊自身がそれを許した女はひとりだけ。
あの声に呼ばれたから、万能の夢から現実に戻ってきた。あの声が聞こえたから、自分が何であるか思い出した。邪悪の顕現、大いなる力の奔流、神代の邪竜などではなく、天尊であると。
「…………。髪が伸びたな……綺麗になった」
天尊は眠っているアキラの頬を指先で撫でた。愛おしそうに目を細め、それきりしばらく黙りこんだ。少しずつさまざまな角度からアキラの寝顔を眺め、その眼差しでずっと愛を囁いているようであった。
耀龍も麗祥も天尊に話さなければいけないことがあったが、時を急かさなかった。天尊とアキラとが離れ離れになって約一年間。彼らにとってはたった一年間でも、引き離されたふたりにとっては恒久に思われたことだろう。一年間どころか、一時はもう二度と逢うことはないと悲観したふたりが、愛を取り返した。
「アキラがここにいるということは、俺の所為だろうな。また迷惑をかけたな……」
天尊はアキラの寝顔を見詰めたまま申し訳なさそうに呟いた。
その様子を見て、耀龍と麗祥は天尊に有りの儘を伝えなくてよかったと思った。
ふたりの弟たちが天尊に経緯を説明する際に意図的に伏せた或る一点、それこそがアキラのことだった。己のしがらみが為に何の力も無いアキラを巻きこみ、手にかけようとし、あまつさえ大怪我を負わせたなど、意識が無かったとはいえ、事実を知ったなら後悔と自責で冷静ではいられないだろうから。天尊といえども、知らないことの責任を負うほどお人好しではないなどとは言っていられなかったはずだ。
「随分と顔色がよくないな。アキラはいつ目覚める?」
天尊からの問いかけに、耀龍は内心ドキッとした。連れてきたからには訊かれることを覚悟していたが、やはり気まずかった。
「その、実は……アキラは……《邪視》が覚醒してからずっと、眠り続けてる」
「《邪視》が沈静化する直前に意識を失い、それきり目を覚ましません」
「ずっとだと? 期間は」
天尊が振り返りながら尋ね、耀龍と麗祥は背筋を伸ばした。
「5日間です。天哥々」
「理由は」
「そもそも人間はアスガルトの環境下では覚醒時間が短い傾向にあるんだ。仮説のひとつとして、それに加えて今回の件でケガもしたし、体力も気力も使い果たして疲労が蓄積したからじゃないかなって」
「ケガ?」
「それについては、オレが修復したから心配は要らないよ。痕も残ってない」
耀龍は自分の失言に気づいて一瞬ギクッとしたが、すぐさま取り繕った。
「ケガは治ったのに5日間も睡眠をとって疲労が回復しないだと? アキラはアスガルトに来て以来、それほど長く眠るのが常態だというのか。何時間睡眠をとって何時間覚醒していられる」
耀龍と麗祥はやや顔を伏せて天尊と目を合わせようとしなかった。
「《邪視》の件以前は、毎日数時間は覚醒しておりました。さすがにこれほど眠り続けたことはなく……」
「他に考えられる原因は」
「それは今の段階ではちょっと……」
「このままにしておいて、目覚める可能性はあるのか」
「ごめん。初めてのことだから確かなことは言えない。だけど、アスガルトにエンブラを看れる医者なんていないし、今の状態のままミズガルズに戻ったって覚醒する確証はないし、しばらくこのまま様子を見るしか……」
「つまり、お前にできることは何も無いということだな」
天尊から端的に放言され、耀龍は押し黙った。確かに事実ではあったが無情に感じられた。無能と断じられたに等しかった。
耀龍は反論しなかったが、麗祥が思わず口を開いた。
「天哥々。それはあまりな仰有りようです。龍は姑娘を館に招き、庇護下に置いてよく気を配っておりました。姑娘の現状は決して龍の所為ではありません。今もミズガルズやエンブラに詳しい知識でもって手を尽くしております」
天尊は眉間に深い皺を刻んで苦々しい表情を浮かべた。
弟たちに冷淡に接するのは八つ当たりであると自覚があった。これが職務であったなら、何を言われても単なる事実確認である、俺の期待に応えられない貴様が無能なのだ、と断じられる。しかし、自分の宿業にアキラを巻きこんだことは否定しようがなく、現状を引き起こした要因が自身にあることは明白だった。
「……そうだ。アキラがこうなったのは俺の所為だ」
耀龍と麗祥は弾かれたように顔を上げた。
「違ッ……天哥々の所為じゃない!」
「そのようなことを申し上げたいのではありません天哥々!」
弟たちは、いいえ、いいえ、ごめんなさい、と懸命に訴えた。幼子が恐ろしい父親に許してくれと乞うているようだった。
天尊は耳を傾けなかった。彼らに怒りを覚えたわけでも、謝罪をさせたいわけでもなかった。
アキラにかけられたシーツをむんずと掴んではぐり上げた。アキラの背中と両膝の裏に手を差し入れ、そっとベッドから抱え上げた。アキラの身体は血液が通っていないかのように冷たかった。まるで本当に陶器人形か、死体のように。
奥歯をギリッと噛み締めて脳裏に一瞬過った嫌な想像を振り切った。
天尊がアキラを抱えて部屋の出入り口に向かって動き出し、耀龍と麗祥は慌ててあとを追った。
「お待ちください、天哥々」
「どこ行くのッ?」
「このままにしておいても目覚める確証は無いんだろう」
「それはそうだけど、だからって診せられる医者に心当たりなんてあるの?」
「医者じゃない」
天尊は足を停めて耀龍と麗祥のほうを振り返った。
「《ウルズの泉》へ行く」
§ § §
天尊が目覚めた翌日。暉曄宮・族長の私室。
赫一瑪はドアの前に立ってノックをした。入室の許可を得るまで沈黙して待った。室内から男女の話し声が聞こえるが、急かさなかった。
ガチャリ。――ドアが開かれて室内から若い侍女が出てきた。
侍女は赫一瑪と出会すや否や、頬を赤らめた。すぐに脇に避けて「どうぞ」と深々と頭を下げた。
赫一瑪は侍女を一瞥して入室した。侍女の衣服にやや皺があることや、その首筋に点々と赤い痕があるのを見落とさなかった。朝早く男の部屋から女が羞じらいながら出て来るなど、昨夜何があったかは察しは付く。
赫暁は姿見の前に立って身支度の最中だった。こちらは流石に肝が据わっている。自室に若い娘を引き入れて夜を明かしたあと、実の息子に直視されても悪びれた素振りは一切無かった。
「お疲れがなさそうで何よりです」
「俺は無傷だったからな。久し振りの戦闘で昂ぶったくらいだ」
「そのようで」
赫暁は実の息子からの皮肉の返しをハハッと笑って受け流した。
首にタイを引っ提げてクルリと赫一瑪のほうへ身体の正面を向け、赫一瑪の頭部から足許まで目線を上下に動かした。
「お前のほうこそ充分に回復したか?」
「耀龍があの場で施した措置がよかったらしく、今は傷痕も痛みもなく」
「涼しい顔をしていたがやはり痛かったか」
「…………」
赫暁は悪戯っ子のようにクハハッと笑った。
赫一瑪は反論こそ口にしなかったが、赫暁に視線で無言の抗議を送った。
「父上は無傷でお疲れもないとのこと。一両日宮を空けられ滞った分のご公務を取り返していただかねば」
「補佐殿は手厳しい」
赫暁はハハハと笑って姿見のほうへと向き直り、首に引っ提げているタイに手をかけた。赫一瑪の迎えがもう少々遅ければ、甘い睦言を囁き合いながら可愛らしい細い指に支度を委ねられただろうに。自分で締めるタイとは、息苦しいだけで味気ない。
「まあ、そう急かすな、一瑪。俺にも考えることがある。次は念入りな細工が必要だ。細工は流々仕上げをご覧じろ、ってな」
「……次、とは」
赫暁は赫一瑪からの問いかけに答えなかった。
シュル、シュル、とタイの衣擦れの音がするなか、鏡に映る自分の像を見詰めて不敵にニヤリと口角を引き上げた。
――天を、俺の息子を、虚仮にしやがって。この俺を舐めやがって。俺の息子を幼い頃から虐げ、挙げ句の果てがこれか。己に近い血からたまたま《邪視》が出現したことがそれほど気に食わんか。たったそれだけのことが殺したいほど許せんか。
そうだ、テメエはそういう男だ。クソみてぇなプライドだ。よく分かった。もう手心は加えん。踏ん反り返っているその椅子から、必ず引きずり下ろしてやる。
§ § §
耀龍の館。
訪問した麗祥は、侍女によって耀龍の部屋のひとつに案内された。
そこは耀龍の勉強部屋のようなものだった。日中もカーテンを閉め切り、柔らかな照明が室内を照らす。部屋の四隅のひとつに書類机。反対側の壁際に向かって本棚が等間隔にズラリと並ぶ。
耀龍は書類机に就いていた。机上にいくつも書物の山を積み上げ、その間から読書に勤しむ姿が見えた。
麗祥がコツコツコツ、と靴音を鳴らして書類机に近づき、耀龍は机上に拡げた書物から目線を引き上げた。
麗祥は書類机の前で足を停め、自分を見上げる耀龍の顔を見た。顔色が悪いとまでは言わないが、睡眠不足が窺える目許をしている。
「随分と熱が入っていると侍女から聞いたぞ。天哥々のお言葉を気にしているのか」
「オレは元々勉強熱心だよ」
耀龍は麗祥からプイッと顔を背けた。
その面白く無さそうな仕草を見て、麗祥はフフッと笑みを零した。
耀龍は麗祥から笑われたのも、兄貴風を吹かせられたようで面白くなかった。書類机に頬杖を突いて書物をパタンと閉じた。
「ルフトとヴィントはどうした」と麗祥。
「ミズガルズに戻したよ。アキラがあの状態のままで、天哥々と鉢合わせたらどうなるか分かんないから」
「かなり熱心に姑娘に仕えているようだったが、よくすんなりとミズガルズへ参ったな」
「すんなりとはいかなかったけど……」
麗祥の言うとおり、ルフトとヴィントは耀龍に提案されたからではなく、受けた恩義を返す為だけでなく、アキラを脅威から命懸けで護った。アキラの昏睡状態が続く間も心から案じている様子だった。ルフトなどは、アキラの情況を毎日耀龍に詰問した。責め立てたと言ってもよい。そのようなふたりをアキラから引き離してミズガルズへ送り返すのは、縁花を矢面に立てての半ば力尽くだった。
麗祥は書類机の脇を擦り抜けて部屋の突き当たりの窓際に立った。カーテンを剥ぐって窓外を見た。天尊が耀龍の館を発って一日弱、天尊が目指した目的地の正確な場所も知らない彼は、窓外を眺めても何かを推察することはできなかった。しかし、憂慮は自ずと沸いてくる。
「天哥々は辿り着かれただろうか」
耀龍は前髪を掻き上げてフーッと溜息を吐いた。
「《ウルズの泉》か……。思いつきもしなかった」
「思い至らずとも仕方があるまい。あそこは私たちでは行けない場所だからな」
それに……、と麗祥は目線を窓外から引き戻して耀龍を振り返った。
「天哥々もあのようなものを頼るのは本意ではないはずだ」
コンコン。――ドアがノックされた音。
「耀龍様」と縁花の声。耀龍は「何ー?」と気の抜けた返事をした。
「綾武劍様のお越しです」
綾武劍――――赫=ニーズヘクルメギルの当代族長の第二子にして耀龍と麗祥の兄のひとり。
彼は暉曄宮に居を構えてはいなかった。長兄とは異なり、一族の要職ではなく遠方での任務に就いている。実の兄弟でありながら、直接顔を合わせるのは随分と久し振りだった。
縁花がドアを押し開き、軍服姿の男が室内に入ってきた。まず目に入るのは、金糸混じりの紅の髪の毛。燃える焔のように逆立っている。長身かつ逞しい体付きで胸を張り、軍人らしい威容。
カツン、カツン、と彼は悠然と軍靴の踵を鳴らして耀龍に近づいた。
麗祥は素早くスッと頭を下げた。
「これはこれは、綾哥々。出迎えにも参らず申し訳ございません」
「いや、構わんさ。私こそ前触れもなく参ってすまない。いつ遑が取れるか分からん身だ。前触れを出す時間も惜しくてな」
綾武劍は笑顔で気にするなとヒラヒラと手を振った。外見は軍人然としているが、表情は柔らかく好青年だ。弟たちもこの兄は長兄とは別格に接しやすいことを分かっている。
「今頃遅いよ、綾哥々~。大変だったんだから」
「大変で済んだか。それは重畳。《邪視》に遭遇してそれで済ませた者は、赫の歴史にもそうはいまい」
綾武劍は、あっはっはっ、と口を開けて笑った。書類机に就いている耀龍の頭に手を載せてポンポンと撫でた。
耀龍は少々ブスッとして頬杖を突いた。
「綾哥々と話してると緊張感がない」
「父様に似て大らかな方だからな」
「今回の事態、幼いお前たちを戦闘に駆り出すこととなり済まなかった」
兄からそう言われた耀龍の表情は、さらに不機嫌さが増した。
「幼いって、綾哥々の記憶のなかでオレたちいくつで止まってるの、ねえ?」
「綾哥々は遠方にいらっしゃるから情報の更新が難しいのだ」
「いやいや、お前たちがいくつになっても可愛いものだ。私は兄なのだから。父上に《大剣グラム》を届けたはよいが、すぐに役目に戻れと命じられてな。助力も叶わなかった。不甲斐ない兄を許してくれ」
「いいえ、何もお気になさらないでください。綾哥々には南の防備がございますから。どうぞお役目を第一に」
綾武劍は、窓際に立っている麗祥をチョイチョイと手招きした。麗祥が近くに寄ってくると、その頭を撫でてやろうと手を伸ばした。
麗祥はそれをスッと回避した。
…………。――無表情の麗祥と笑顔の綾武劍との間に、しばしの沈黙が流れた。
「本日の用向きは?」
麗祥は綾武劍に冷静に尋ねた。
弟から遇われた綾武劍は、残念そうにフッと笑みを零した。
「《大剣グラム》の回収……の、ついでに事の顛末を聞きたくてな。《邪視》の脅威をその目で見たお前たちの口からな」
耀龍と麗祥は、綾武劍に求められたとおり、今回の出来事について包み隠さず説明した。弟たちにとって綾武劍は、最も大らかで気安い兄だ。幼い頃からたまにしか顔を合わさなかった分、ただただ寛容かつ鷹揚な人物で、叱られたこともない。或る意味、天尊よりも恐れがなく、父や長兄よりも心を許していた。
弟たちから話を聞いた綾武劍は、肩を揺すって笑った。
「お前たちが父上や一大哥に口答えできるようになるとは……フフフ。これからは見逃さんよう、里帰りを増やさねばならんな」
イラァ💢 ――耀龍と麗祥は子ども扱いされて心外だった。
「そういうことじゃなくて。オレは父様ヒドイよねって言ってるの」
耀龍は不服そうに口を尖らせ、綾武劍は「分かった分かった」と宥めた。
「そうだな。父上のご決断、戦法は、天の恋人と親しくするお前たちには納得のいかないものだったというのは分かる。しかしな、そう父上を責めるな。今回は父上も後がなかったのだ」
「父様にそのようなことがございますか?」
麗祥は否定的に尋ねた。
綾武劍は、アハハハッ、と声を上げて笑って腕組みをした。
「父上の信頼は実に厚いな。お前たちは父上にできないことはないとでも思っているらしい。貴族の世で栄光ある時代を築き続けるとは、そう生易しいことではないぞ。地位や権力、武力を振り翳すだけでは、必ず争いが生まれる。肝要なのは、調和だ。対等な会話と取り引き、それによって築かれる信頼関係が何より重要なのだ」
それから綾武劍は、父・赫暁が《大剣グラム》を手にできたのも信頼関係の賜物だと語った。
シグルズルの一族に伝わる家宝の一――――《大剣グラム》。この世にふたつとない至宝、威力は絶大、神話級の名剣。出せと言われておいそれと門外に出すものではない。
シグルズルは、綾武劍の生母であり赫暁の妻の実家。当代の当主は、綾武劍の祖父にして赫暁の義父。《大剣グラム》を振るうのが赫暁であり、運搬に携わるのが綾武劍であり、承諾したのが当代当主であること。これこそが信頼だ。
「信頼に必要なのは約束だ」
「約束……?」と耀龍は聞き返した。
「約束を交わし、守る。そのような単純なことの繰り返しによって、信頼は築かれるのだ、弟たちよ」
そして、父と祖父は《大剣グラム》貸与について固い約束を交わした、と綾武劍は続けた。彼が約束の運び手であるが故に知っている事実だった。
――《邪視》を平伏せしめること叶わねば、必ずその手で狩れ、と。
「つまり、父上は《邪視》を封じられねば、自らの手で天を殺さねばならなかったということだ」
「シグルズルのお祖父様は、何故そのような条件を……?」
麗祥は眉根を寄せて綾武劍に尋ねた。
綾武劍は少々困ったように苦笑を漏らした。
「赫随一の武人・赫暁が、伝説の《大剣グラム》を手にしてまでも御せない邪竜――……そのような存在を、お前たちは如何する。一族を守る責務を負う長たちにとって、滅すべき脅威だとは思わんか」
耀龍と麗祥は口を噤んだ。
何も知らない頃であったなら、ただただ兄を慕う幼い弟であったなら、いいえそんなことはない、とすぐさま否定していただろう。しかし、《邪視》の圧倒的な力と、純粋な邪悪性を目にしたあとでは、否定することは難しかった。
「さて、その姑娘と天の命を天秤に掛けたなら、お前たちはどちらを選んだ?」
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
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