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#23:Here comes a little gangster
Here comes a little gangster 02 ✤
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「やっとられるかーッ! 何が悲しゅうて休みの日にガキのお守りせなあかんねん! 俺はベビーシッターかぁああ!」
突然、美作が拳を握って天井に向かって吠えた。
温厚なはずの彼が一体何事か。禮と杏はビックリして美作に目を集めた。
美作はクルッと顔の向きを渋撥のほうへ向けた。その表情は何事もなかったかのようにケロリとしていた。
「……とか言わはらへんですね、意外に」
「なに人んちで声張ってくれとんねん。ちゅうかオマエ呼んだ覚えあれへんぞ。何でおんねん」
「今更そんなこと言わはる。俺かなり前からおったでしょ~」
渋撥は先ほどは肩を震わせるほど腹に据えかねたようだったが、すでに冷静さを取り戻していた。禮の手前、仕方なく落ち着いている振りをしているのではなく、母・撥香からの唐突で理不尽な要求を受け容れた様子だ。
それは鶴榮も同様だった。
「まあ~~、たまに嵐士の面倒みたるくらいはしゃあないな、撥。ワシらふたりとも嵐士の親父さんには昔から世話になっとるでな」
「ハッカちゃんのお手伝いエライね、ハッちゃん」
「…………オウ」
禮の言い方はまるで子ども扱いだった。しかし、ニッコリと微笑まれては渋撥は甘受するしかなかった。
――本音では部屋に閉じこめるか外に捨ててきたい思うてるクセに。
鶴榮には渋撥の本心など透けて見えていた。
禮のお陰で幾分待遇がよくなっていると知らない嵐士は、禮をキッと睨みつけた。
「オイ、ヒンソー。撥兄のことハッちゃんなんか呼ぶな。何様やねん、ヒンソーのクセに」
ガスッ、と嵐士は禮の足を蹴り飛ばした。
禮はその場に蹲った。先の事件からの怪我が完治しておらず、つきーんっと鋭い痛みが走った。飛び上がりたい痛みを堪えて涙目。
ゴッスンッ、と渋撥は嵐士の頭頂に強かな拳骨を喰らわせた。嵐士の首根っこを掴んで引き上げた。宙に浮いた嵐士は頭を押さえて足をバタバタと動かした。
「俺の禮に何さらしとんじゃクソジャリ」
「ッゴメンナサイ!」
「二度と禮に貧相言うな。言うたら泣かす」
「い、言わへん! 絶対言わへんから! 撥兄ゴメンナサイ~ッ」
「ハ、ハッちゃん、もうええよ! 可哀想やからっ」
禮は慌てて渋撥を宥めた。渋撥は嵐士から手を離し、嵐士はドスンッと床に尻餅をついた。
「サスガは近江さん。子どもにも容赦ない」
「あんな子どもにまでよう恐怖心植えつけてはるで」
杏と美作は渋撥を恐ろしいと思った。嵐士は血縁とは言え、何故ああまで雑に遇われて懐いているのか不思議だ。
禮は嵐士の前にしゃがみこんでニッコリと微笑んだ。
嵐士は自身を大きく見せたいのか、床に座りこんだ体勢から急いで立ち上がって禮の前で胸を張った。
「ウチ、禮いうんよ。よろしくね」
「レイ。オマエ――」
「しれっと呼び捨てにすんな」
バチンッ、と渋撥が嵐士の後頭部を叩いた。
嵐士は頭を押さえて「う~っ」と唸る。渋撥も鶴榮も軽々しく叩くから、痛みが引く暇が無い。
禮はご機嫌伺いするように嵐士に愛想笑い。
「ハッちゃんのこと撥兄呼んでるし、ウチもお姉ちゃんとかがええなあ」
「姉ちゃん? オマエなにカップや。FカップあるかFカップ」
その質問により、室内がピタリと停止した。
子どもとはなんと無邪気で無慈悲なのだ。自身の希望のみを前面に押し出す。そこに配慮など存在しない。
「…………ナイ、ケド」
「ハッ。オマエのヒンソーな胸見て、どこをどーして姉ちゃん思え言うねん。髪も短いし女っぽいトコ一個もあれへんやん」
そうでなければ女に在らず、と言わんばかりに嵐士はふんぞり返って盛大に鼻先で嘲弄した。
渋撥はチェアから立ち上がった。再び嵐士の首根っこを捕まえて吊し上げた。
「ギャァアーッ! 忘れとったー! もう言わへんから撥兄ごめんなさいぃーッ‼」
杏と美作は、嵐士を持ち運ぶ渋撥を邪魔しなかった。
「おっぱい星人はこんなジャリのときからおっぱい星人なんやなあ」
「なんちゅう恐ろしいお子様や。ウチかてFカップになれるもんならなりたいわ」
「アンちゃんはFカップになりたいんか」
「じゅっ、純さんは何カップくらいが好みですかっ?」
「うーん。俺、アイツみたいなおっぱい星人ちゃうで。Fカップなんか贅沢は言わん。Dくらい?」
(んんんんんッ! Dも贅沢!)
さて、そろそろ外に出るか、と鶴榮が全員に促した。
「これ以上ここにいてたらほんま嵐士が無事で済まへんしな」
「ギャァアアアッ!」と嵐士の一段とボリュームの大きい悲鳴が響いた。
悲鳴のほうを振り返ると、いつの間にか渋撥がベランダに出ていた。ベランダの柵の外へと突き出した腕一本で嵐士を宙吊りにしていた。
「オマエ、チビんとき、大きくなったらヒコーキのうんてんしゅになりたい言うてたなァ。俺が今スグ空飛ばしたる」
「撥兄ごめん! 許して! ごめんてばーーッ! ほんまごめんなさいぃ‼」
「ハッちゃんやめてーっ!」
禮が大急ぎで停めに入り、あわや大惨事は免れた。
§ § §
商業エリア・駅前モニター前。
商業エリアにある一番大きな駅には巨大モニターが設置されていた。それは分かりやすい目標であり、公共交通機関を下車してすぐであることから、代表的な待ち合わせ場所のひとつだった。
近江宅を出た一行は、そこで夜子と落ち合った。
夜子は、まずは禮と杏以外に丁寧に「お久し振りです」と挨拶をした。杏とは初対面だったので紹介されるのを待った。禮は夜子を自分の親友であり鶴榮の彼女であると、杏へ紹介した。
「コ、コレ、コレが駿河さんのカノジョッ?」
杏はそれきり絶句した。否定的な意味合いは含んでいなかったが、とにかく信じがたかった。禮と渋撥が恋人同士というのも当初は納得がいかなかったが、この美少女とサングラスをかけて無精ヒゲを生やした男との取り合わせも予想外すぎる。
夜子は、初対面の杏から不躾にコレ呼ばわりされても嫌な顔はしなかった。それどころか、はじめまして、と嫋やかに微笑んだ。
打算なく自然とそのような振る舞いをやってのけ、全身から滲み出る気品。醸し出す雰囲気すら馨しい。杏は、この美少女は自分とは住む世界が異なるのだと感じた。これが石楠女学院に通うご令嬢の所作、存在感。如何に禮が気さくな存在であるか思い知った。否、禮も、この春を迎えるまでは同じ場所にいたのだ。由緒ある天壇青の衣を纏っていれば近寄りがたく、自分と友だちになるなど無かったのかもしれない。
(な、ななな、何なんこの美少女! 禮も大概な美少女やけどタイプがちゃう。正真正銘のお嬢様や~~!)
禮は半ば硬直している杏の肩に手を置いた。
「アンちゃんやよ、夜ちゃん。アンちゃんはアンズいう名前やの」
「へえ、カワイイ名前してはるねえ。ウチは夜子いいます。よろしゅうお頼申します」
「ヨロシク……」
夜子と直に言葉を交わしても杏のフリーズは解けなかった。夜子にしても禮にしてもキラキラと目映く見え、同じ空間にいるのにキレイなフィルムを見ているようだ。
「オイ、オマエ」と、美しい空間に投げこまれた乱暴な言葉。
少女たちが声のほうに目線を向けると、嵐士が夜子を見上げていた。禮は夜子に渋撥の従弟であると伝えた。
「オマエが鶴兄のオンナか?」
「へえ、そうえ」
優しく答えた夜子と嵐士の間に、鶴榮が割って入った。
「ヨルにオマエ言うな、嵐士。今度はワシから折檻喰らいたいか」
「ほな何て呼べばええねんッ」
「夜子お姉ちゃんやろが。頭パーか」
ぺちんっ、と鶴榮は嵐士の頭を叩いた。その前にしゃがみこみ、両のほっぺたを抓んで引っ張った。
「オマエは同じ頃の撥よりはちぃっとは可愛げのある顔しとる。愛想ようしとったら姉ちゃんらにモテモテや」
「べっ、別に俺はモテたいなんひゃ思わひぇんッ」
「オマエがモテたい思う頃にはもう撥とそう変わらん面構えになっとる。そうなってからじゃ手遅れや」
「誰が手遅れのツラやねん」と渋撥。
禮は渋撥の横に立ち、顔を見上げてジーッと観察した。
「あっちゃんとハッちゃんの小さい頃て似てる?」
「俺はこんなやかましなかった」
「見た目の話やろ。昔から目付きの悪いチビやとは思うとったけど、髪型同じにしたらほんま撥ソックリや」
「生まれ変わり?」と鶴榮が頭を右から叩いたかと思えば、
「セットが乱れる! 鶴兄ッ」
「俺まだ生きとるやろ」と渋撥が頭を左から叩く。
「ちょっ、ポンポン叩かんといて撥兄ッ」
小学生男児の頭部は、彼らにとっては価値が低い。口で説明するより先に手が出るくらいに気安い。それでも嵐士はこのふたりに懐いているどころか好いているのだから不思議なものだ。
禮は渋撥の顔を眺めながらニコニコと微笑んでいた。
「へぇ~。ハッちゃんちっちゃいとき、こーゆーかんじかあ。カワイイねー」
「この世で撥をカワイイ言うのは禮ちゃんかハッカさんだけやろな」
渋撥は鶴榮の軽口をハッと鼻で笑い飛ばした。
「嵐士をカワイイ言うより、禮ちゃんがちっちゃいときのほうが万倍カワイかったやろ」
「禮は初等部に上がる前は髪が長かったんどすえ。お人形はんみたいに可愛らしい女の子どした」
鶴榮からの問いに、夜子はうんうんと頷いた。
「禮にはショートのイメージしかあれへんなー」と杏。
「長いいうてもちょっとだけやよ。そのときかて夜ちゃんのほうがもっと長かったよ」
禮はみんなから視線が集まり、恥ずかしそうに両頬を押さえた。
渋撥は禮に視線を固定し、腕組みをして黙りこんだ。禮にショートヘアのイメージしか無いのは彼も同様だ。女の髪型に特段のこだわりは無いから考えたことも無かった。禮の黒髪で夜子のようなロングヘアであったなら、確かに現在とはまた異なる趣で愛らしいだろうなと、胸中でウンウンと噛み締めた。
「オマエいま、幼女バージョンの禮ちゃんを想像しとるやろ。オマエみたいなんをムッツリ言うねん」
「撥兄ムッツリなんか? ムッツリて何や。ムッツリてエロイいんか? 鶴兄」
嵐士は鶴榮の発言を聞き逃さなかった。むしろ目を爛々と輝かせ、なあなあ、としきりに話しかけた。
鶴榮と渋撥は惘れて嘆息を漏らした。
「ガキでもエロイいう単語には敏感や。やっぱ撥の遺伝子やな」
「俺のジャリみたいに言うな」
「オマエを心底リスペクトしとるのが何より最悪や」
突然、美作が拳を握って天井に向かって吠えた。
温厚なはずの彼が一体何事か。禮と杏はビックリして美作に目を集めた。
美作はクルッと顔の向きを渋撥のほうへ向けた。その表情は何事もなかったかのようにケロリとしていた。
「……とか言わはらへんですね、意外に」
「なに人んちで声張ってくれとんねん。ちゅうかオマエ呼んだ覚えあれへんぞ。何でおんねん」
「今更そんなこと言わはる。俺かなり前からおったでしょ~」
渋撥は先ほどは肩を震わせるほど腹に据えかねたようだったが、すでに冷静さを取り戻していた。禮の手前、仕方なく落ち着いている振りをしているのではなく、母・撥香からの唐突で理不尽な要求を受け容れた様子だ。
それは鶴榮も同様だった。
「まあ~~、たまに嵐士の面倒みたるくらいはしゃあないな、撥。ワシらふたりとも嵐士の親父さんには昔から世話になっとるでな」
「ハッカちゃんのお手伝いエライね、ハッちゃん」
「…………オウ」
禮の言い方はまるで子ども扱いだった。しかし、ニッコリと微笑まれては渋撥は甘受するしかなかった。
――本音では部屋に閉じこめるか外に捨ててきたい思うてるクセに。
鶴榮には渋撥の本心など透けて見えていた。
禮のお陰で幾分待遇がよくなっていると知らない嵐士は、禮をキッと睨みつけた。
「オイ、ヒンソー。撥兄のことハッちゃんなんか呼ぶな。何様やねん、ヒンソーのクセに」
ガスッ、と嵐士は禮の足を蹴り飛ばした。
禮はその場に蹲った。先の事件からの怪我が完治しておらず、つきーんっと鋭い痛みが走った。飛び上がりたい痛みを堪えて涙目。
ゴッスンッ、と渋撥は嵐士の頭頂に強かな拳骨を喰らわせた。嵐士の首根っこを掴んで引き上げた。宙に浮いた嵐士は頭を押さえて足をバタバタと動かした。
「俺の禮に何さらしとんじゃクソジャリ」
「ッゴメンナサイ!」
「二度と禮に貧相言うな。言うたら泣かす」
「い、言わへん! 絶対言わへんから! 撥兄ゴメンナサイ~ッ」
「ハ、ハッちゃん、もうええよ! 可哀想やからっ」
禮は慌てて渋撥を宥めた。渋撥は嵐士から手を離し、嵐士はドスンッと床に尻餅をついた。
「サスガは近江さん。子どもにも容赦ない」
「あんな子どもにまでよう恐怖心植えつけてはるで」
杏と美作は渋撥を恐ろしいと思った。嵐士は血縁とは言え、何故ああまで雑に遇われて懐いているのか不思議だ。
禮は嵐士の前にしゃがみこんでニッコリと微笑んだ。
嵐士は自身を大きく見せたいのか、床に座りこんだ体勢から急いで立ち上がって禮の前で胸を張った。
「ウチ、禮いうんよ。よろしくね」
「レイ。オマエ――」
「しれっと呼び捨てにすんな」
バチンッ、と渋撥が嵐士の後頭部を叩いた。
嵐士は頭を押さえて「う~っ」と唸る。渋撥も鶴榮も軽々しく叩くから、痛みが引く暇が無い。
禮はご機嫌伺いするように嵐士に愛想笑い。
「ハッちゃんのこと撥兄呼んでるし、ウチもお姉ちゃんとかがええなあ」
「姉ちゃん? オマエなにカップや。FカップあるかFカップ」
その質問により、室内がピタリと停止した。
子どもとはなんと無邪気で無慈悲なのだ。自身の希望のみを前面に押し出す。そこに配慮など存在しない。
「…………ナイ、ケド」
「ハッ。オマエのヒンソーな胸見て、どこをどーして姉ちゃん思え言うねん。髪も短いし女っぽいトコ一個もあれへんやん」
そうでなければ女に在らず、と言わんばかりに嵐士はふんぞり返って盛大に鼻先で嘲弄した。
渋撥はチェアから立ち上がった。再び嵐士の首根っこを捕まえて吊し上げた。
「ギャァアーッ! 忘れとったー! もう言わへんから撥兄ごめんなさいぃーッ‼」
杏と美作は、嵐士を持ち運ぶ渋撥を邪魔しなかった。
「おっぱい星人はこんなジャリのときからおっぱい星人なんやなあ」
「なんちゅう恐ろしいお子様や。ウチかてFカップになれるもんならなりたいわ」
「アンちゃんはFカップになりたいんか」
「じゅっ、純さんは何カップくらいが好みですかっ?」
「うーん。俺、アイツみたいなおっぱい星人ちゃうで。Fカップなんか贅沢は言わん。Dくらい?」
(んんんんんッ! Dも贅沢!)
さて、そろそろ外に出るか、と鶴榮が全員に促した。
「これ以上ここにいてたらほんま嵐士が無事で済まへんしな」
「ギャァアアアッ!」と嵐士の一段とボリュームの大きい悲鳴が響いた。
悲鳴のほうを振り返ると、いつの間にか渋撥がベランダに出ていた。ベランダの柵の外へと突き出した腕一本で嵐士を宙吊りにしていた。
「オマエ、チビんとき、大きくなったらヒコーキのうんてんしゅになりたい言うてたなァ。俺が今スグ空飛ばしたる」
「撥兄ごめん! 許して! ごめんてばーーッ! ほんまごめんなさいぃ‼」
「ハッちゃんやめてーっ!」
禮が大急ぎで停めに入り、あわや大惨事は免れた。
§ § §
商業エリア・駅前モニター前。
商業エリアにある一番大きな駅には巨大モニターが設置されていた。それは分かりやすい目標であり、公共交通機関を下車してすぐであることから、代表的な待ち合わせ場所のひとつだった。
近江宅を出た一行は、そこで夜子と落ち合った。
夜子は、まずは禮と杏以外に丁寧に「お久し振りです」と挨拶をした。杏とは初対面だったので紹介されるのを待った。禮は夜子を自分の親友であり鶴榮の彼女であると、杏へ紹介した。
「コ、コレ、コレが駿河さんのカノジョッ?」
杏はそれきり絶句した。否定的な意味合いは含んでいなかったが、とにかく信じがたかった。禮と渋撥が恋人同士というのも当初は納得がいかなかったが、この美少女とサングラスをかけて無精ヒゲを生やした男との取り合わせも予想外すぎる。
夜子は、初対面の杏から不躾にコレ呼ばわりされても嫌な顔はしなかった。それどころか、はじめまして、と嫋やかに微笑んだ。
打算なく自然とそのような振る舞いをやってのけ、全身から滲み出る気品。醸し出す雰囲気すら馨しい。杏は、この美少女は自分とは住む世界が異なるのだと感じた。これが石楠女学院に通うご令嬢の所作、存在感。如何に禮が気さくな存在であるか思い知った。否、禮も、この春を迎えるまでは同じ場所にいたのだ。由緒ある天壇青の衣を纏っていれば近寄りがたく、自分と友だちになるなど無かったのかもしれない。
(な、ななな、何なんこの美少女! 禮も大概な美少女やけどタイプがちゃう。正真正銘のお嬢様や~~!)
禮は半ば硬直している杏の肩に手を置いた。
「アンちゃんやよ、夜ちゃん。アンちゃんはアンズいう名前やの」
「へえ、カワイイ名前してはるねえ。ウチは夜子いいます。よろしゅうお頼申します」
「ヨロシク……」
夜子と直に言葉を交わしても杏のフリーズは解けなかった。夜子にしても禮にしてもキラキラと目映く見え、同じ空間にいるのにキレイなフィルムを見ているようだ。
「オイ、オマエ」と、美しい空間に投げこまれた乱暴な言葉。
少女たちが声のほうに目線を向けると、嵐士が夜子を見上げていた。禮は夜子に渋撥の従弟であると伝えた。
「オマエが鶴兄のオンナか?」
「へえ、そうえ」
優しく答えた夜子と嵐士の間に、鶴榮が割って入った。
「ヨルにオマエ言うな、嵐士。今度はワシから折檻喰らいたいか」
「ほな何て呼べばええねんッ」
「夜子お姉ちゃんやろが。頭パーか」
ぺちんっ、と鶴榮は嵐士の頭を叩いた。その前にしゃがみこみ、両のほっぺたを抓んで引っ張った。
「オマエは同じ頃の撥よりはちぃっとは可愛げのある顔しとる。愛想ようしとったら姉ちゃんらにモテモテや」
「べっ、別に俺はモテたいなんひゃ思わひぇんッ」
「オマエがモテたい思う頃にはもう撥とそう変わらん面構えになっとる。そうなってからじゃ手遅れや」
「誰が手遅れのツラやねん」と渋撥。
禮は渋撥の横に立ち、顔を見上げてジーッと観察した。
「あっちゃんとハッちゃんの小さい頃て似てる?」
「俺はこんなやかましなかった」
「見た目の話やろ。昔から目付きの悪いチビやとは思うとったけど、髪型同じにしたらほんま撥ソックリや」
「生まれ変わり?」と鶴榮が頭を右から叩いたかと思えば、
「セットが乱れる! 鶴兄ッ」
「俺まだ生きとるやろ」と渋撥が頭を左から叩く。
「ちょっ、ポンポン叩かんといて撥兄ッ」
小学生男児の頭部は、彼らにとっては価値が低い。口で説明するより先に手が出るくらいに気安い。それでも嵐士はこのふたりに懐いているどころか好いているのだから不思議なものだ。
禮は渋撥の顔を眺めながらニコニコと微笑んでいた。
「へぇ~。ハッちゃんちっちゃいとき、こーゆーかんじかあ。カワイイねー」
「この世で撥をカワイイ言うのは禮ちゃんかハッカさんだけやろな」
渋撥は鶴榮の軽口をハッと鼻で笑い飛ばした。
「嵐士をカワイイ言うより、禮ちゃんがちっちゃいときのほうが万倍カワイかったやろ」
「禮は初等部に上がる前は髪が長かったんどすえ。お人形はんみたいに可愛らしい女の子どした」
鶴榮からの問いに、夜子はうんうんと頷いた。
「禮にはショートのイメージしかあれへんなー」と杏。
「長いいうてもちょっとだけやよ。そのときかて夜ちゃんのほうがもっと長かったよ」
禮はみんなから視線が集まり、恥ずかしそうに両頬を押さえた。
渋撥は禮に視線を固定し、腕組みをして黙りこんだ。禮にショートヘアのイメージしか無いのは彼も同様だ。女の髪型に特段のこだわりは無いから考えたことも無かった。禮の黒髪で夜子のようなロングヘアであったなら、確かに現在とはまた異なる趣で愛らしいだろうなと、胸中でウンウンと噛み締めた。
「オマエいま、幼女バージョンの禮ちゃんを想像しとるやろ。オマエみたいなんをムッツリ言うねん」
「撥兄ムッツリなんか? ムッツリて何や。ムッツリてエロイいんか? 鶴兄」
嵐士は鶴榮の発言を聞き逃さなかった。むしろ目を爛々と輝かせ、なあなあ、としきりに話しかけた。
鶴榮と渋撥は惘れて嘆息を漏らした。
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